試乗インプレッション

大幅商品改良で“完熟”の領域に。マツダの新型「アテンザ」を公道で試した

価格も上昇したが、クルマ自体の価値はそれ以上に高まった

大人っぽい雰囲気に

 現行型の登場は2012年なので、タイミングとしてはいつフルモデルチェンジしてもおかしくない。現に共通性の高い「CX-5」がフルモデルチェンジし、すでに1回目の改良まで実施したのに対し、「アテンザ」はマツダが呼ぶ「大幅改良」にとどまり、もうしばらく現行型が現役を務める運びとなった。その理由はおいおい明らかになっていくことと思われるが、内容としては一般的にビッグマイナーチェンジと呼ばれるものと比べてもずっと充実していて、これまで何度か改良を重ねてきた現行アテンザの歴史の中でも圧倒的に大がかりな変更となる。

 見てのとおりフェイスリフトした外観は、従来型とは印象がずいぶん変わって大人っぽい雰囲気になった。鮮やかで深みのある新色の「ソウルレッドクリスタルメタリック」も、アテンザの造形美をさらに際立たせている。

 インテリアも同一世代でインパネを2度も作り直すとは前代未聞だが、おかげでよりフラグシップとしてふさわしい上質な空間を実現した。いささか安っぽさを感じた現行型の登場当初とは大違いだ。上質さへのこだわりは、ドア開閉音はもとより、スイッチ類の見た目や触感の統一を図るなど、人が触れるあらゆる部分において見受けられる。インテリアカラーに新たに「オリエンタルブラウン」というシックなカラーが加わったことにも注目だ。

直列4気筒DOHC 2.5リッター(SKYACTIV-G 2.5)エンジンを搭載する「25S L Package」(2WD/6速AT)の価格は354万2400円。セダンのボディサイズは4865×1840×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2830mm。ボディカラーはソウルレッドクリスタルメタリック
従来型(左)と新型(右)のアテンザ セダンを並べてみた
直列4気筒DOHC 2.2リッターディーゼル(SKYACTIV-D 2.2)エンジンを搭載する「XD L Package」(4WD/6速AT)の価格は419万400円。ワゴンのボディサイズは4805×1840×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2750mm。ボディカラーはマシーングレープレミアムメタリック
新型ではフロントバンパーやグリルを変更して立体感や広がり感を強調。ヘッドライトは精悍なデザインになった。また、17インチ、19インチホイールとも大径感と立体感を強めた新デザインに変更するとともに、セダンではトランクリッドやリアバンパー、ワゴンではリアバンパーも変更を受けている
新型で装着するブリヂストン「TURANZA(トランザ)」は開発をやり直し、サイド部は上下方向にしなやかにして滑らかな入力に、トレッド部は剛性を高めてねじれを抑えつつ連続的で滑らかな応答特性へと進化。製品名は従来の「TURANZA T001」から「TURANZA T005A」へと変更された

 機能面でもいろいろと進化している。サイズを拡大したセンターディスプレイや、ウインドシールド投影型となったヘッドアップディスプレイは、表示内容も整理されてとても見やすくなった。新たに設定された360°ビューモニターも、アテンザほどのサイズであれば、日常的にクルマを使う人ほどその恩恵にあずかれるのは言うまでもない。

 さらに、「L Package」のみに標準で付くカラーTFTを用いたマルチスピードメーターは視認性に優れ、見た目にも先進感があり好感を抱いた。独特の風合いを見せる「ウルトラスエード ヌー」や栓の木を用いた本杢パネルなどもL Packageならではの特権となる。価格は高めではあるが、やはりL Packageは魅力的だ。

インテリアでは、インパネやドアトリムなどのデザインを大幅に変更してエレガントさや質感を向上。上級グレードの「L Package」ではナッパレザーシート、東レの「ウルトラスエード ヌー」、和太鼓などに用いられる栓(せん)の木を用いた本杢パネルなど、日本の伝統美に通ずる色合いを用いた
新型では細かな改良も行なわれており、分割をなくしたフロントコンソール、Aピラートリムとインパネの隙間の減少、傷に強い材質を用いたシフトパネルまわり、コマンダー/空調/アウターミラースイッチ全周にダイヤモンドカットを施すといった変更を受けている。また、「声が透る洗練された空間」をコンセプトに、フロアパネル、フロントウィンドウ、リアホイールハウスのインナーパネルの板厚アップが行なわれるとともに、ワイパーのフラット化、Bピラーガーニッシュの段差縮小、各ピラートリム内への吸音材追加、トンネル部のパネルへの制振材追加といった多岐にわたる施策を実施

“Effortless Driving”とは?

 走りについては、労しない=快適を意味する“Effortless Driving”という、ちょっと難しい言葉をコンセプトに掲げており、実車の仕上がりもまさしくそのとおりだった。

 CX-8より導入された、人間の感覚にあったパフォーマンスフィールと上質な走りを追求したという新しい「SKYACTIV-D 2.2」は、確かに従来よりも大きく洗練度を増して、リニアなアクセルレスポンスとスムーズな吹け上がりを実現している。一見すると控えめに感じるものの、常用域での飛び出し感が抑えられて扱いやすくなり、踏み増したときの中間加速の力強さも従来を大きく上まわるものだ。尿素水等を使うことなく、よくぞここまで仕上げたものだとつくづく思う。

SKYACTIV-D 2.2エンジンでは急速多段燃焼技術が新たに導入され、従来の最高出力129kW(175PS)/4500rpm、最大トルク420Nm(42.8kgfm)/2000rpmから、最高出力140kW(190PS)/4500rpm、最大トルク450Nm(45.9kgfm)/2000rpmへと進化

 一方の「SKYACTIV-G 2.5」は、静かで振動が小さく、ガソリンらしい軽やかな吹け上がりが身上だ。新たに気筒休止機構が備わったとはいえ、意識せずに走っているといつ切り替わったのかほぼ分からない。それだけしっかり煮詰められているということだ。

 スポーツモードを選択するとダイレクト感が増し、シフトタイミングも攻めた走りに適したものとなるが、それがドライバーの意思を読み取るかのように自然で、乗りやすさが損なわれないところもなかなかのものだ。

SKYACTIV-G 2.5エンジンでは気筒休止技術を新採用。最高出力140kW(190PS)/6000rpm、最大トルク252Nm(25.7kgfm)/4000rpmを発生

洗練された上質な乗り味

 車体やシャシーについても、次世代の車両構造技術の要素を前倒しで採用するなど、「大幅改良」でここまでやるかと思わずにいられないほど手が加えられていることにも驚かされるが、その甲斐あってまさしく“Effortless Driving”と呼ぶにふさわしいドライブフィールを実現している。

 これまでやや硬さを感じた足まわりはとてもしなやかになり、さらには静粛性も高まって、快適性が大幅に向上しているのは明らか。車体剛性の向上により、路面からの入力の受け止め方も従来とはだいぶ違って、当たりがマイルドで、しっかりとした骨格を土台にサスペンションがよくストロークしながらも振動を瞬時に収束させてフラット感を保つ。これには専用にチューニングされたブリヂストン「TURANZA T005A」も少なからず効いているはず。リプレイスの際にはぜひ同じタイヤを履くことをオススメしたい。

 今回ドライブした2.2リッターのディーゼル4WD(ワゴン)と2.5リッターのガソリン2WD(セダン)では、パワートレーンの違いによる重量差はもちろん、ホイールベースの長いセダンと、荷物の積載を想定した、やや硬めのセッティングを施したワゴンというそれぞれの性格が見受けられたが、洗練された上質な乗り味が与えられている点では共通している。

 加えて印象的だったのがシートの出来のよさだ。最近のマツダ車の身上である、座った瞬間からしっくりくるドライビングポジションはもとより、体全体が包まれるようなホールド感があり、クッション性が増して乗り心地もよくなっている。前席にシートベンチレーションが付いたのも、猛暑が当たり前になった日本の夏場では非常に有益だ。

 価格がだいぶ上昇したのは事実だが、実車を確認するとそれも十分に納得できた。多岐にわたる改良の数々により、クルマ自体の価値はそれ以上に高まったと言えそうだ。後輪駆動化や直6エンジン搭載という情報もある次期型の動向も気になるところだが、このタイミングであえて「大幅改良」を実施した完熟のアテンザが、とにかく素晴らしい仕上がりだったことを念を押しておきたい。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳