インプレッション

マツダ「アテンザ」(2016年商品改良)

見た目の変化はあまりなくとも、中身は大幅進化

 マツダのフラグシップモデルである「アテンザ」が、よりその資質を高めるべく大幅な商品改良を実施したのが2014年秋。その際に「大幅改良」と表現し、以降はマイナーチェンジという概念を廃して、随時、商品改良を実施していくことを公式に発表したことを思い出す。件の商品改良では、内外装デザインや乗り心地を含む走りの味付けに大きく手が加えられており、とくにインテリアは従来型を愛用している知人が本気で悔しがるほど上質になった。

 その後の2年間で「CX-3」と「ロードスター」が登場し、マツダの新世代商品群の市場投入もひと息ついたと思いきや、各モデルで商品改良ラッシュが始まっている。当面の大きなウリとなるのは、言うまでもなく1カ月前の「アクセラ」で初めて市販車に採用したG-ベクタリング コントロール(GVC)だ。今回のアテンザにももちろん搭載されているほか、パッと見の変化はほとんどないものの、中身はいろいろ手が加えられている。

 外観で唯一といえる識別点はドアミラーのデザイン。従来はターンシグナルランプを前側のみに向けていたところ、横まで回り込ませたデザインとされた。あとは、遠目にはよく分からないが、実はルームミラー上の「i-ACTIVSENSE」のセンサー部分も厳密にいうと異なる。

8月に商品改良を行なって発売されたフラグシップセダン「アテンザ」。写真はセダンの「XD Lパッケージ」(6速AT/4WD)で、価格は400万1400円。ボディサイズは4865×1840×1450mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2830mm。ボディカラーはソウルレッドプレミアムメタリックだが、新たにリアルな金属質感を実現した新色「マシーングレープレミアムメタリック」も設定されている
今回の改良でエクステリアに大幅な変更はないが、運動性能では車両の横方向と前後方向の加速度(G)を統合的にコントロールし、ステアリング操作に応じてエンジンの駆動トルクを変化させ、タイヤの接地荷重を最適化することで自然で滑らかな車両挙動を実現する「G-ベクタリング コントロール」を搭載。また、先進安全技術の「アドバンスト・スマート・シティ・ブレーキ・サポート(アドバンストSCBS)」では、検知デバイスをこれまでの近赤外線レーザーセンサーからフォワード・センシング・カメラに変更し、検知対象を従来の車両のみから歩行者まで拡大するとともに、車両検知の作動領域は従来の約4~30km/hから約4~80km/hに拡大(歩行者検知は約10~80km/hで作動)している。足下は高輝度塗装の19インチアルミホイールにブリヂストン「TURANZA(トランザ)T001」(225/45 R19)の組み合わせ
今回の商品改良によって天井とピラー部をブラックとし、インテリアカラーはホワイトとブラックの2種類を設定。また、全周にわたって一貫した握り心地を実現するステアリングを新たに採用したほか、インパネデコレーションパネルやドアトリムスイッチ、シフトパネルに専用カラーを、さらにパワーシートスイッチとグローブボックスのノブに専用加飾を与えるなどして品質感を向上させている
NVH(騒音/振動/乗り心地)対策も実施され、すき間からの騒音の侵入を抑制するとともに、フロントドアガラスの板厚アップ、トップシーリングの吸音材面積を拡大。加えてLパッケージではフロントドアガラスに遮音ガラスを採用してロードノイズと風騒音も抑制させている

 一方、インテリアは雰囲気がけっこう変わった。ルーフライナーがブラックになり、Lパッケージのホワイトのシートは背面が黒だったところがホワイトになったほか、新たにパイピングを施すなどして、見た目の質感がグッと上がっている。

 ボディカラーでは、魂動デザインを引き立てるという「マシーングレープレミアムメタリック」が追加された。やはり独特の凄みがあり、個人的にはアクセラよりもアテンザの方がしっくりくるように思う。

こちらはステーションワゴンの「XD Lパッケージ」(6速AT/2WD)。ボディサイズは4805×1840×1480mm(全長×全幅×全高)。価格は377万4600円
ブラックインテリアもラインアップ

走り出した瞬間から分かるGVCの効果

 走りに関しては、アクセラの場合は初めての大がかりな商品改良だったのに対し、アテンザでは2014年にかなり手を入れていて、フットワークについては十分に完成の域に達しているとの判断から、今回サスペンションセッティングに変更はない。2014年の改良では、それ以前に比べてロール感や乗り心地が大幅に改善されていた。今回の走りの変化は純粋にGVCの効果によるものとなるわけだが、新旧を乗り比べると予想以上の効果に驚かされた。

 それは走り出した瞬間から明らか。切り始めに応答遅れがなく、コーナーを曲がるときの舵角が小さくなり、戻したときの揺り返しも小さい。これは交差点を普通に曲がるだけでも分かる。ステアリングフィール自体のしっとり感としっかり感が増している。アクセルを踏んだときの反応も、ステアリングを通して伝わってくるものも、車内の静粛性も、すべてがよくなっている。

 こうした変化を感じつつ、Rの小さなカーブの多い首都高速から緩やかなカーブと直線の多い横浜横須賀道路へ。ここでは直進安定性のよさに驚く。海風に煽られやすい道なのだが、風が吹いても動じなることなく車線をキープしていく、その感覚は旧型よりもだいぶ上。従来型では細かく修正舵を繰り返すところ、新型ではその必要がない。これは疲労感に大きな差となって現れるはずだ。

 また、サスペンションセッティングを本当に変えていないのかと思ってしまうほど乗り心地がよい。段差や突起を通過したときに当たりが小さく、うねった路面でもバネ上の動きが落ち着いていてフラット感がある。GVCだけで本当にこれほどまでに走りが変わるものかと思わずにいられないほどだ。

 途中、運転を交替して後席にも座ってみると、むしろ後席の方が違いは分かりやすかった。とくに違うのがコーナーを曲がるときの身体の横方向の揺すられ方。そのスピードと量が半分以下になったように感じる。これも低速でごく普通に交差点を曲がるだけでも分かる。

 全体的にアクセラよりもGVCによる改善の上がり幅が大きいように思ったら、まさしくそのとおり。開発関係者によると前軸荷重が大きく、ホイールベースの長いクルマの方がより効果が大きくなるそうだ。

エンジンフィールも上質に

「XD Lパッケージ」に搭載されるクリーンディーゼルの直列4気筒DOHC 2.2リッター「SKYACTIV-D 2.2」。最高出力は129kW(175PS)/4500rpm、最大トルクは420Nm(42.8kgm)/2000rpmを発生。同グレードの6速AT/4WD仕様のJC08モード燃費は18.2km/Lとなっている。なお、今回の商品改良で同エンジンではエンジンのトルク応答を緻密にコントロールする「DE精密過給制御」、周波数帯3.6kHz付近のノック音の原因である燃焼時のピストンとコネクティングロッドの振動を減衰させる「ナチュラル・サウンド・スムーザー」、エンジン加振力を構造系共振と逆位相にすることでノック音を低減する「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」を標準装備

 ひとあし先にアクセラにも採用された「DE精密過給制御」や、ノック音を抑える「ナチュラル・サウンド・スムーザー」「ナチュラル・サウンド・周波数コントロール」といった新技術がアテンザにも与えられたおかげで、エンジンフィールも大きく変わった。

 アクセルの踏み始めがよりリニアになり、音や振動が格段に小さくなって、より上質なフィーリングになっている。フラグシップのアテンザにはなおのこと、従来よりも新型の乗り味の方が相応しい。静粛性の向上では、フロントドアガラスの板厚をアップ(Lパッケージでは遮音ガラスを採用)したり、吸音材面積を拡大したことが効いているようだ。

ガソリンの直列4気筒DOHC 2.5リッター「SKYACTIV-G 2.5」を搭載する「25S Lパッケージ」(6速AT/2WD)にも試乗
「SKYACTIV-G 2.5」は最高出力138kW(188PS)/5700rpm、最大トルク250Nm(25.5kgm)/3250rpmを発生。JC08モード燃費は16.0km/L

 GVCの効果はもちろんガソリン車にとっても小さくない。ガソリン車の場合、ディーゼルよりも前軸重が軽いという強みがあり、持ち前の軽快なフットワークにGVCによる素直で滑らかな走りが融合して、これまた素晴らしいドライブフィールを実現している。また、いくら前記のようにディーゼルのNVHが上がったとしても、むろんガソリンにはかなわない。動力性能や経済性ではかなわないが、ガソリンを選ぶのも大いにアリだ。

 先進安全装備についても、歩行者検知を可能にしたり、作動速度域を大幅に拡大するなど進化した「アドバンスドSCBS」が与えられた。また、「TSR」と呼ぶ交通標識認識システムなど各種情報の表示も充実した。さらに、あまり評判のよろしくない(?)マツダ コネクトも、地道に改良されていることがうかがえた。

 このように大幅改良されたアテンザは、まさしく“鬼に金棒”。もともと非常に価値の高いクルマだと常々思っていたところ、さらに輪をかけて素晴らしいクルマになった。世界を見わたしても、アテンザぐらいの価格帯で、これほど内容の濃いクルマというのはあまり心当たりがない。コスパの高さも魅力のクルマである。見た目の変化は小さいが、興味のある人はまずは実車に触れてみてほしい。きっと感じる何かがあるはずだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一