インプレッション
ハーレーダビッドソン「ULTRA LIMITED」「ULTRA LIMITED LOW」北海道試乗
“上質さ”と“自由さ”を極める、新エンジン「ミルウォーキーエイト」搭載モデル
2016年10月28日 00:00
- ULTRA LIMITED:379万7600円~388万9600円
- ULTRA LIMITED LOW:387万2600円~396万4600円
ハーレーダビッドソン ジャパンが、新世代エンジンの「ミルウォーキーエイト」を搭載した2017年のTOURINGファミリーおよびトライクなどを北海道で発表したのは既報の通り。
それと同時に、網走・北見・紋別地方と根室地方を巡る試乗会も開催され、各車両で比較的長距離を走行する機会に恵まれた。ここでは、「ULTRA LIMITED」および「ULTRA LIMITED LOW」を中心とするミルウォーキーエイト搭載車のレビューをお届けする。
パワフルなのに低振動、高効率な新型エンジン「ミルウォーキーエイト」
改めて、ハーレーダビッドソンの新しいエンジンであるミルウォーキーエイトについて簡単に解説しておこう。
同社の大部分のモデルで、ハーレーダビッドソンならではの鼓動感を体現する大排気量45度Vツインエンジンを搭載していることをご存じの方は多いだろう。従来は1999年から登場したツインカムエンジンがベースとなっており、ハイパフォーマンスを追求した構造とされていた。「ツインカム」とは、エンジン内のバルブを開閉するカムシャフトが2本ある、という意味だ。
新たなミルウォーキーエイトエンジンでは、この「ツインカム」が「シングルカム」、つまり1本になったのが大きな変更点となる。シングルカムとしたことにより、メカニカルノイズの低減に効果があるのはもちろんのこと、コスト面やメンテナンス性においても好影響があると考えられる。
排気量は、車種によって107ci(キュービックインチ、1745cc)と114ci(同1868cc)の2パターンが用意される。排気量が従来からアップし、1気筒あたり4バルブの計8バルブとなったこと、ツインスパークプラグを採用したこと、圧縮比を高めたことなどにより、トルクが10%引き上げられ、モアパワーを獲得している。
ボアが拡大し排気量が増えると、その分振動が大きくなりそうだが、低回転時はカウンターバランサーが、高回転時にはラバーマウントが効果的に振動を低減する仕組みになっている。アイドリング回転数を850rpmという低回転に設定したことで停車時の振動もより少なくなり、エンジンからの発熱も抑えられたことでライダーの快適性につなげている。しかも、アイドリング回転数が低いにもかかわらず、オルタネータの発電量は従来比50%増となったため、スマートフォンなどのモバイル機器・バイク周辺機器の充電にも余裕で対応できるようになった。
このミルウォーキーエイトエンジンを搭載するのは、2017年モデルのうち2輪車はTOURINGファミリーのULTRA LIMITEDおよびULTRA LIMITED LOWのほか、「ROAD KING」「STREET GLIDE SPECIAL」「ROAD GLIDE SPECIAL」「ROAD GLIDE ULTRA」「CVO STREET GLIDE」「CVO LIMITED」の計8車種。今回の試乗会では、このうちCVO STREET GLIDEとCVO LIMITEDを除く6車種と、3輪トライクのFREEWHEELERが試乗車として用意された。
6速だけでほとんどの走行シチュエーションをカバー可能な懐の深さ
ULTRA LIMITEDとULTRA LIMITED LOWは、107ciのミルウォーキーエイトを搭載する。イグニッションをONにしてすぐに気付くのは、そのエンジンサウンドのジェントルさだ。辺りに響き渡るようなやんちゃで鋭い排気音はなく、あくまでも控えめで柔らかな低音。雑味のないクリアな音質で、しかし大排気量Vツインらしい重厚な鼓動感はそのまま残されている。
アイドリングでハンドルやシートに感じる振動はかなり少なく、これまでのツインカムエンジンとは明らかに違うことが分かる。走り出してエンジン回転数が上がってもその感覚は全く変わらない。振動がゼロになっているわけではないので、ハンドルを握る手やステップに乗せている足、シートに腰掛けている臀部から小さな揺れを常に感じるものの、その振動には“角”がなく、まろやかな“上質さ”みたいなものがある。
ギヤを1速から2速、3速と上げていき、低回転で巡航すると、まるで穏やかな海の上で寝そべっているかのように、ゆったりとした波の上下にも似た心地よさを感じ取れる。もちろんこれは、ULTRA LIMITEDの大きく張り出したフロントカウリングやウインドスクリーンのおかげでもあるだろう。ハンドルを握る手元には走行風が直接当たることがなく、膝元付近も軽く風が通り抜ける程度で、強い風圧として感じることはない。
頭部や上半身はウインドスクリーンがあるため、低速時はしっかり風を防ぐ。ある程度速度を出すと今度は巻き込み風によって反対に頭部が前方に押されるような力が加わり、首や肩への負担はむしろ少なくなる。まさしくラグジュアリーな乗り心地で、必要に応じてアクセルをひねれば、大排気量による太いトルクがマイルドな出力カーブを描き、どのギヤからでもスムーズに加速する。加速の仕方が穏やかとはいえ、それでもシートの角に当てた尾てい骨から背中にかけ、じりじりと圧迫されるような加速Gを感じるほどにはパワフルだ。
デュアルノックセンサーによるノッキング低減の効果も想像以上だ。例えば6速で1100rpmなど、極端なハイギヤかつ低回転からアクセルを開けていっても、ノッキングが発生しそうな息苦しい振動や金属的な音が現れることはなく、そこからするすると加速していける。6速1500rpmでおよそ60km/h前後だから、大部分の走行シチュエーションを6速だけでカバーすることも無理な話ではない。
路面の亀裂にも臆することなく突っ込んでいける
新しいデュアルベンディングバルブ採用のショーワ製フロントフォークと、調整幅が大きくなったエマルジョンリアサスペンションの組み合わせは、400kgをゆうに超えるULTRA LIMITED/ULTRA LIMITED LOWの大柄で超重量級の車体の挙動をしっかりと受け止めるだけでなく、軽快なハンドリングにも貢献している。もちろん、装着しているタイヤのプロファイルによるところも大きいとは思うが、少々タイトなワインディングでも、軽々と左右に倒し込んで確実に狙ったラインをクリアしていける。
北海道では、道路の真ん中にわだち状の溝や亀裂があることも珍しくないが、そんな路面に堂々と突っ込んでいっても全く不安を感じない。コーナリング中でも軽くそのギャップをいなし、何事もなかったかのように走り抜ける。つまり、走行ラインが限定されにくく、思った通りの走りを邪魔されることがない“自由さ”がある、と言い換えることもできる。
しかし、正直に言えば1人乗り時は路面のギャップでフロントが跳ねるのを感じることもあった。新車のため、サスペンションの“慣らし”がまだ完全に終わっていないことも差し引いて考えなければならないが、男性2人が乗車したタンデム走行の方が、サスペンションの動きが落ち着くようだ。
ULTRA LIMITED LOWの方は、シート高が675mmとULTRA LIMITED(740mm)より低く、わずかにローダウン気味に調整された前後サスペンションを採用しているが、ULTRA LIMITEDと比べると、極低速時(信号停車時など)にふらつきやすい傾向にあるように感じられた。これはシート座面が下がっている分、ハンドルとの位置関係のバランスが微妙に変わっているであろうことと、注意しないとフロントサスペンションへの荷重入力が不足がちになるせいもあるかもしれない。
大柄でも人馬一体感が味わえる、進化したモデル
ただ、ULTRA LIMITED LOWも、ハンドリングの軽快感や、わだちなどに影響されにくい安定感はULTRA LIMITEDと同様だ。どちらも不快な振動をほぼゼロにしたミルウォーキーエイトエンジンの穏やかでパワフルな性格と、ソフトなクッションでありながらも確実にホールドしてくれるシート、ニーグリップしやすいタンクによって、大柄な車体なのにしっかり人馬一体感を味わいつつ終始リラックスして走り続けられる。
エンジンはノッキングの発生しにくい構造となり、高いギヤでも幅広い走行シーンをカバーするトルクの太さとスムーズさが得られるのに加え、進化した前後サスペンションが組み合わされたことで、自分の狙った通りの走りができる。ULTRA LIMITEDとULTRA LIMITED LOWの2台は、そういった上質さと自由さの両方を兼ね備えたモデルなのだ。
ちなみに、同じくミルウォーキーエイト搭載のROAD KINGやSTREET GLIDE SPECIALにも試乗したが、個人的に最も疲れが少なく感じたのはULTRA LIMITEDとULTRA LIMITED LOWだったことも申し添えておきたい。