インプレッション

ハーレーダビッドソン「ダイナ・ローライダー」「ストリート750」(公道試乗)

2台のハーレーに試乗

 ハーレーダビットソンに対する憧れから2輪免許の限定解除(現・大型2輪免許)を思い立ったのは、今から27年前のこと。16歳で中型限定2輪免許(現・普通2輪免許)を取得していた筆者は、18歳になるや運転免許試験場で限定解除にチャレンジした。限定解除と聞いて「懐かしい!」とお感じの読者も多いことだろう。これはいわゆる“1発試験”と呼ばれる試験方法だ。当時は運転免許試験場での技能テストである「1発試験」に合格することが、限定を解除された(どんな排気量のバイクでも乗ることができる)2輪免許を手にする唯一の方法だった。

 今でこそ指定自動車教習所で学科/技能の教習を受け、卒業証明書を取得すれば運転免許試験場では視力検査などの適性試験に合格するだけで技能テストなしに大型2輪免許の取得が可能だが、1996年の免許制度の改正前まではこうして限定解除を行なっていた。ちなみに、筆者が限定解除を行なった1990年代前半の合格率は3~5%と難易度が高く、故にライダー憧れの免許であった。また、1回の受験で合格することは希であったし、「年度末で雨の試験日に当たると合格率が上がる!」というまことしやかな噂話が流れるほどライダーの間では“難関試験”として話題となっていた。筆者は年度末の受験でたまたま雨の試験日であったことから1回で合格。もしや噂は本当だったのかもしれない!? なお、免許制度の改正以降は合格率が飛躍的に向上し、ここ数年は98%程度で推移している。

 さて、この時期の恒例イベントとなった2輪のJAIA(日本自動車輸入組合)試乗会だが、今年も数多くのインポーターが参加した。ハーレーダビットソンも相当数のモデルを試乗車として用意したが、そのなかで我々Car Watch編集部がチョイスしたのは「ダイナ・ローライダー」と「ストリート750」の2台だ。ダイナのパワートレーンは空冷V型2気筒/排気量1690cc/6速トランスミッション。エンジンは「Twin Cam 103」と呼ばれ、シリンダーのバンク角は45度だ。

ビビットブラックカラーのダイナ・ローライダーは長く低いシルエットが特徴で、全長は2345mm、ホイールベースは1630mm。シート高は700mm、最低地上高は105mmとなっている。価格は212万8000円~
ダイナ・ローライダーは空冷V型2気筒1690ccエンジンと6速トランスミッションを組み合わせ、最大トルク126.0Nm/3250rpmを発生。大型の2in1エキゾーストも外観上でのポイントになっている

 一方のストリート750は水冷V型2気筒/排気量749cc/6速トランスミッションで、こちらのエンジンは「Revolution X」と呼ばれ、シリンダーのバンク角は60度。シリンダーのバンク角によって、クルマ以上にバイクのエンジンの場合は回転フィールに違いが出る。なかでもハーレーダビッドソンのようなビッグボア、ロングストロークエンジンともなると、キャラクターを左右する大きな指標にもなっている。

“都会向けマシン”として発表されたストリート750の全長は2215mm、ホイールベースは1520mm。シート高は720mm、最低地上高は145mm。97万5000円からというプライス設定
ストリート750は水冷V型2気筒749ccエンジンに6速トランスミッションを搭載。最大トルクは59.0Nm/4000rpmを発生する

 今回の2輪JAIAでは全車バイクにまたがり左足を着けた状態での比較写真を撮影した。そのため試乗レポートの前に筆者のスペックからお伝えしたい。身長は日本人男性の平均身長からは少し低い170cmで、ご覧のように手足は特段長くない。上半身/下半身ともにクルマのレポート時よりもふくよかに見えるのは、プロテクターの入ったライディングウェア上下の中にさらに強固なプロテクターを着用しているからだ。

ダイナ・ローライダーにまたがったところ
ストリート750にまたがったところ
バイクに乗る際はプロテクターを着用したい

 都内における2輪車乗車中における死亡事故で損傷部位の1位は頭部で、じつに45%以上のライダーが頭部損傷によって命を落としている。よってヘルメットは「PCSマーク」(シール)のついた「乗車用ヘルメット」を選ぶとともに、予算に余裕があれば「JIS規格」や「スネル規格」など、より高い安全基準をクリアしたものを選びたい。同時に正しく被り、顎紐もしっかりと締める必要がある。2位は胸部で、約29%のライダーはこの損傷が死亡原因だ(数値はいずれも警視庁発表による2012~2016年の平均値)。

 東京都交通安全協会の東京二輪車安全運転推進委員会指導員でもある筆者は、20年以上前から胸部プロテクターに加え背中を守る脊椎プロテクターも同時に着用し、さらに下半身にもライディングズボンの下に腰まわりや膝、そして脛を守るプロテクターを着用している。なお、現在は高いライディング技術をもった白バイ隊員ですら、万が一に備え胸部プロテクターを着用する。バイクはクルマと違い、生身の身体が直接損傷を受ける確率が高いだけに、こうしたプロテクターは走行時間や距離にかかわらず着用したい。

ダイナの乗り味に感心

 さて、試乗だが、まずはダイナから行なった。ライディングポジションはご覧のとおり上半身はかなりアップライトで前方視界が広く、ローライダーのモデル名が示すとおり足つき性も抜群だ。シート高は700mmと原付スクーター並に低いが、車体に幅があるため両足は開き気味になる。とはいえ、普段「VFR1200X」(車両重量288kg+パニアケース一式の合計300kg以上)に乗る筆者からすれば、311kgの車両重量を支えるには十分な足つき性。ハーレ-ダビッドソンでは、このシート高を計測する際のライダー体重を81.7kgに設定しているというが、試乗時の筆者(体重72kg+ウェア一式+プロテクター一式)は、ほぼそれに近い値だった。

 感心したのは乗り味で、厚みのあるシートは見た目以上にクッション性が高い。加えてシート後方はお尻を支えるような形状になっているから、ハンドル/シート/ステップの3点支持がしっかりと行なえる。また、大きく開いたハンドルも上方に持ち上がりながら緩やかにライダー側へ戻ってくるプルバック形状となっているため、たとえばUターンなどのフルロック状態であっても片方の腕がハンドルから離れてしまうことがない。ステップ位置にしてもおろした足との干渉が少なく、日本人の体型にフィットすることが分かる。見た目以上に取りまわしはよかった。

 エンジンはゆったりと走ることが似合うハーレ-ダビッドソンらしい特性だ。直径98.4mmのエンジンピストンが111.1mmも上下にストロークするわけだから当然のこと。ただ、近年のハーレ-ダビッドソンのうち、試乗したダイナのTwin Cam 103や「スポーツスター」系が搭載する「Evolution」エンジン(空冷V型2気筒/45度)などは、大きな回転マスがあるとは思えないほどきれいに、そしてスムーズな回転フィールをもつ。ダイナの場合、最大トルク(12.8kgm)を発揮する3250rpmを超えても加速力が衰えることなく、5000rpmをちょっと超えるあたりまでは常用域として気持ちよく使うことができる。

 反対にビックボアエンジンの得意とする2000rpm以下での低回転域を使い、高いギヤでゆったり走らせても気持ちがよい。5速ギヤ/40km/hあたりで巡航しながら時折スロットルを大きく捻れば、たとえそこが登坂路であったとしてもエンジンの力強い鼓動はすぐに高まり力強い加速を開始する。後輪を駆動させるセカンダリードライブがベルト方式であるため、加速のツキはチェーン方式やシャフトドライブ方式と比べると角が丸い。こうした特性は長距離になればなるほど疲労度の低減にも効いてくる。こうなると先の快適なライディングポジションと相まって、急いで走ることがもったいなくなってくるから不思議だ。加えて高速巡航性能も高く、60km/h以上であればトップギヤである6速ギヤのままで十分に加速してくれるからシフトダウンの必要性を感じない。

 また、ディーラーオプションとして用意される大きなカウルを装着すれば防風性能も高まるし、荷物を収納するパニアケースの類いも豊富に揃うからロングツーリングにも最適だ。ベテランライダーがハーレ-ダビッドソンを好む理由がまた1つ理解できた。

100万円を切るハーレー、その実力は?

 続いてストリート750に試乗。このストリート750は新規ユーザー獲得のため、ハーレーダビッドソンとしては破格の97万5000円のプライスタグを付けた戦略モデルだ。見た目はブラック基調でワイルドだし、どこから見てもしっかりハーレーダビッドソンの風格がある。しかし、他のハーレーダビッドソンとは違い、ライディングポジションは非常にコンパクトだ。シート高は720mmとダイナより20mm高いが、足つき性は車体の幅に大きく左右されるため、スリムな車体のストリート750は格段に足つき性がよい。しかも車両重量は233kgとハーレーダビッドソンのなかでは最軽量の部類に入るから、身長150cm台の小柄なライダーでも安心して取り回すことができるだろう。

 走行性能はハーレーダビッドソンらしさが弱い。これが率直な印象だ。最大トルクは6.0kgmと、750ccクラスの平均値より若干劣る程度なのだが、どうにも線が細く、どの回転域でも力強さがあまり感じられない。回転フィールにしてもショートストロークタイプ(85mm×66mm)ながら伸びが弱く、箱根のワインディングロードは試乗ルートとして似合わなかったようだ。

 もっとも、これは意図的な設計なのかな、とも感じた。気軽に乗ることができるハーレーダビッドソンとしてこうしたキャラクターがあってもよいのだろう。コンパクトなライディングポジションではあるが、各部にはハーレーダビッドソンのロゴが控えめに入っているし、各部の操作フィールもハーレーのそれだから所有欲は現状のままでも満たされる。試乗ルートが市街地であったら印象もずいぶん変わっていたと思う。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一