ニュース

西村直人の新型クラウン&カローラ スポーツで「コネクティッドカー」を体感。オペレーターはおもてなしの心

 新型「クラウン」と新型「カローラ スポーツ」には通信技術を使うことで移動の質を高めることを目指した。トヨタ自動車はこの仕組みを「コネクティッドサービス」と命名。2車は専用の通信機であるDCM(Data Communication Module)を全車に標準搭載し、各種通信サービスである「T-Connect」を基本とした新機能を購入から3年間(初度登録日より初回の36か月点検[車検]月の末日まで)は2車とも無料で受けられる。また、4年目以降はクラウンが1万6000円(税別)/年、カローラ スポーツが1万2000円(税別)/年の使用料を支払うことでサービスを継続することも可能だ。このように、2車は通信機を標準搭載し、かつ新しい通信サービスが使えることからトヨタでは「初代コネクティッドカー」と位置付けた。

 IoT(Internet of Things/物質のネット化)によってコネクティッドという言葉が一般化してきたが、今から20年以上前はそうした情報のやりとりはテレマティクス(Telematics)と呼ばれていた。これは、Telecommunication(遠隔通信)とInformatics(情報処理)による造語で、そのうち車内における情報提供サービスはカーテレマティクス(車載型情報通信)として独自の路線を歩んできた。

 トヨタのカーテレマティクスの分野は1997年に発表された「MONET」(モネ)の実用化がスタート地点。携帯電話の回線を利用して道路情報などの提供が行なわれた。その後、2002年には「G-BOOK」へと機能強化され、異業種合同プロジェクト「WiLL」のクルマシリーズ第3弾として販売された「WiLL サイファ」に初めてG-BOOK対応ナビが搭載された。このG-BOOKはトヨタだけでなく、2004年に富士重工業(現SUBARU)、2005年にはマツダにも搭載車を増やしていく。

筆者(左)と新型「クラウン」のチーフエンジニア 秋山晃氏(右)

 そうした着実な歩みの上に誕生したのが今回のコネクティッドサービスだ。その詳細についてはCar Watchでも詳細情報として紹介しているため、まずは概要を解説したい。

新型「クラウン」
新型「カローラ スポーツ」

 コネクティッドサービスでは、「安心・安全」と「快適・便利」という大きく分けて2つの領域で構成されている。細かく分けるとコネクティッドサービスではクラウンで11種類、カローラ スポーツでは9種類のサービスが提供される。詳細はカタログページに譲るが、各種サービスに対する考え方は2車とも共通だ。一方、2車では同じ領域で構成されながらもクラウンには以下の専用機能が付く。

 ①遠隔操作による車両管理、②自動車保険と連動した保険料割引のプランの設定、③オペレーターとの会話サービスによるホテルや国内航空会社の予約、④エージェント(音声対話機能)による車載ナビゲーションの音声認識機能に加えて「トヨタスマートセンター」での音声認識機能を組み合わせた「ハイブリッド音声認識」、⑤トヨタスマートセンターの道路情報とユーザーの走行情報をもとにした最短時間で到着するルートの取得。以上5項目がクラウンの専用機能だ。

新しいクラウンとカローラ スポーツ(写真)は「LINE マイカーアカウント」に対応

 スマートフォンなどでの利用者が多い「LINE」では、クラウンやカローラ スポーツを“友だち”として追加可能。これはコネクティッドサービスを象徴する機能の1つであり、自宅などに居ながらにしてスマホなどを経由して目的地登録(目的地設定ではない。目的地を設定するには車内でのダウンロードが必要)や自車のガソリン残量などを知ることができる。このように多種多様な機能が用意されているコネクティッドサービスだが、トヨタがコネクティッドカーとして位置付ける“つながる”領域としては、ドライバーとつながる/街とつながる/社会とつながる、以上3点が大枠として掲げられた。

「LINE」の「トーク」機能を利用して、検索などで選び出した目的地を車載ナビの「Gメモリ」として登録
LINEで登録したポイントの一覧から選択するだけで簡単に目的地を設定できる

 このうち今回は「ドライバーとつながる」の中から、前述した「快適・便利」に分類されている「CAR IS PARTNER」を集中的に取材した。具体的には、「オペレーターサービス」と「エージェント(音声対話サービス)」に取材対象を絞り込み、“走行中、会話によってさまざまな情報を取得する”ことを焦点とした。

秋山氏から解説を受け、疑問点などを質問しつつコネクティッドサービスについて確認していく
今回はコネクティッドサービスの機能から、「オペレーターサービス」と「エージェント(音声対話サービス)」に取材対象を絞り込んだ

会話を中心としたHMIの「いい部分」と「注意すべき部分」

 オペレーターサービスとエージェント(音声対話サービス)は、いずれもHMI(Human Machine Interface/人と機械の接点)として「音声」が使われる。つまり、会話(≒対話)を通じて人(ドライバー)と人(オペレーター)、もしくは人(ドライバー)と車両(エージェント)の間でコミュニケーションを図る仕組みがとられた。われわれは会話、つまり言葉をしゃべることで互いに意思の疎通を図る。これは車内においても同じことで、助手席や後席の同乗者と会話しながら運転することは一般的だ。

 しかしながら、走り慣れているはずの試乗ルート(千葉県郊外)で運転しながら人(オペレーター)や車両(エージェント)と会話を行なっていくうちにある種の違和感を覚えた。その要因は、より高度が会話ができることにあるように思われた。これを具体的に示すため、会話を中心としたHMIによる「いい部分」と、「注意すべき部分」の両面を解説していきたい。

走行中のカローラ スポーツで「オペレーターサービス」を起動
ステアリングの左側スポークに装着された「トークスイッチ」を押してサービスを起動

 まずはオペレーターサービスのいい部分。これは非常に明快だ。ステアリングの左側にある「トークスイッチ」を押して「オペレーター」と発話し、その後は接続先である「トヨタスマートセンター」のオペレーターと会話するだけでカーナビの目的地設定ができること。これに尽きる。もっとも、オペレーターとの会話による情報検索は、その一例として2005年8月にレクサスで初めて導入されたカーテレマティクス「G-Link」で実現しているし、車載ナビのローカル音声認識(ナビゲーションのTTS/Text to speech)機能を使った音声コマンドによる目的地設定に至っては20年以上前から実用化されている。車内における音声操作は珍しくないのだ。

 しかし、今回のコネクティッドサービスでは、過去の類似機能と比べて、オペレーターと会話を始めるまでの時間が段違いで早く、あいまいなドライバーの問い合わせに対しても柔軟な対応のもと会話が成立していた。オペレーターが情報を検索している間の待ち時間が少ないことも美点で、“情報をお調べします”との会話から最短だと10秒程度(通信環境による)で次の会話へと進めることができた。

クラウン専用機能の「ハイブリッドナビ」では、より短時間で到着する“最適なルート”が提供される

 興味深かったのは、車内環境をオペレーターがモニタリングできること。情報検索を依頼してその結果を伝える際、「みなさまお話中、失礼します。情報が○件、見つかりました」とくる。素直にスゴイな、と思う半面、雑談であっても下手なことはしゃべれないなと痛感。利用者のわれわれにとっても、マナーという意味で今後の課題になるのかもしれない。

 さらによかったのはオペレーターの機転の利かせ方で、会話におもてなしの心が通っていたこと。「目的地への途中、そうだなお昼ぐらいに通過する地点の中華料理店で駐車場があって……、あ、できれば四川風がいいです」といったかなり込み入った会話でも、オペレーターは迅速に検索して実現可能な情報を組み合わせ、さらにドライバーの声色や、会話の中で発せられた「そうだな……」「があって」「あ、できれば」という文節に含まれるあいまいな人の心理をも読み取っているかのようだった。高度な技術を支えるのは、やはり人の力だ。

オペレーターサービスでは「会話におもてなしの心が通っていたこと」がよかった
クラウンとカローラ スポーツの双方でエージェント(音声対話サービス)をチェック

 次にエージェント(音声対話サービス)のいい部分。人を介さないのでオペレーターサービス同様とまではいかないが、それでも意思の疎通を図る場面では通信機を用いない従来型ナビとは大きく違い、短時間での目的地設定が可能だった。オペレーターとの会話と同じようにステアリングのトークスイッチによってT-Connectナビの音声認識機能を起動させると、DCMを通じてトヨタスマートセンター内にあるサーバーに接続されてドライバーとの会話によって目的地設定などができる。

 前述の④で示したように2車ではエージェント(音声対話機能)に違いがあり、カローラ スポーツでは車載ナビの情報だけを使ったローカル検索と、T-Connectナビによるエージェント(音声対話サービス)の自動的な切り替えができない。切り替えのトリガーはトークスイッチで、“短押し”でローカル検索、“長押し”でエージェント(音声対話サービス)となる。クラウンの場合は、このローカルとエージェントの切り替えを自動で行なうことから“ハイブリッド音声検索”と呼ばれている。

 会話の認識率は極めて良好。とりわけクラウンは走行中の静粛性が高く、さらにハイブリッド音声検索ではドライバーの発話タイミングとなる“ピッと鳴ったらお話ください”の数秒前から車内での会話を解析している。そのため、長い文節であってもかなりの精度で会話が成り立つ。

音声で圏央道を使って成田国際空港まで走るルートを検索。表示の変更も音声で操作できた
静粛性が高いクラウンでは、かなりの精度で会話が成り立つ
ちょっといじわる(!?)な質問にも、模範的回答で華麗にスルー
カローラ スポーツではステアリングスポークのトークスイッチを使い、“短押し”でローカル検索、“長押し”でエージェント(音声対話サービス)と、ドライバーが操作で使い分ける必要がある

じっくり付き合うと評価が変わるクラウンの「ダブルディスプレイ」

 情報を表示するHMIである液晶画面「ダブルディスプレイ」では賛否が分かれた。上下2段のディスプレイは先代クラウンにも採用されている手法で、新型ではさらに各画面の目的が明確になった。上段の「遠視点ディスプレイ/8インチ」はナビゲーション画面などの表示が主でタッチ操作はできない。一方で下段の「トヨタマルチオペレーションタッチ/7インチ」ではドライバーや同乗者のタッチ操作を主とし、エアコン操作画面をデフォルトとしながら、上部のナビ画面を操作する際には、下段ディスプレイ右下の「MAP」ボタンを押すか、下段ディスプレイ上部中央の下向き矢印をタッチ操作して呼び出す方式。ここまででお分かりの通り、上段/下段が別々のチャンネルを持たない共通1チャンネルのシステム構成となっているため、下段画面でナビゲーションを操作している際、上段画面にも同じ画面が表示される、いわゆるミラーリング処理での対応になる。

ダブルディスプレイは上下の画面を異なる目的で使い分ける仕組みだが、上段の「遠視点ディスプレイ/8インチ」のナビ画面を操作する際は、下段ディスプレイ右下の「MAP」ボタン、または下段ディスプレイ上部中央の下向き矢印をタッチして呼び出すスタイル。共通1チャンネルのシステム構成となっており、ミラーリング処理での対応になる

 実のところ、筆者は上下の使い分けや上段画面を操作する際にワンアクションが必要な点に最初は戸惑ったし、ミラーリング処理にしても煩わしいと感じることもあった。しかし、別の取材で3日間ほどクラウンとじっくり付き合っていくと、なかなか造り込まれているな……、と一転してなじんできた。運転中に必要な情報は上段のみに表示されることから、下段はあえて無視できる。エアコン操作画面がデフォルトであることはその好例で、だからこそ下段には運転中、意識を配分する必要がない。むしろ、エアコン操作にしても物理的スイッチがなくなったことで原価低減に貢献するし、その分、車体設計やコネクティッドサービスに開発費用をまわせるというメリットもある。

 ただ、できることなら下段画面だけは長時間の操作がない場面で自動的に画面をOFFにすることができればいいと思えた。夜間、3時間ほど高速道路で走行する機会があったが、下段画面の光源が気になり眼が疲れてしまうことがあった。もっとも、下段画面がフロントウィンドウへ映り込むことはなく、そもそも画面は黒地ベースなので影響は最小限だが、BMWやフォルクスワーゲンが実用化しているジェスチャーコントロール機能などを使って、手を伸ばした際に画面が自動的に復帰するようなモードがあるとさらに使い勝手は向上しそうだ。

上段はナビなど運転中に必要な情報を表示し、下段はエアコンや車両設定など視線を送る頻度が高くない設定をタッチ操作で変更する画面として使い分けている
下段画面は黒地ベースなのでフロントウィンドウへ映り込むようなこともなかった
画質関連の調整シーン

自律自動運転技術の世界で、よきパートナーとなるであろう“会話というHMI”に意識を向けるきっかけに

 最後に注意すべき部分。これは運転操作に対する意識レベルの低下だ。具体的には運転操作に集中すべき場面で、脳(前頭前野)の活動が部分的にオペレーターサービスとエージェント(音声対話サービス)による会話を継続するためにあてがわれることで、明らかに運転操作が無意識に行なわれていると(意識レベルの低下を)実感するシーンが多々あった。危険を感じる、もしくは円滑な交通環境を乱すほどではないが、例えば会話中における自身の運転操作を、ある時点から意図的に10秒間ほど振り返ってみると、ステアリングを切り始めた位置や丁字路のカーブミラーに映る車両のボディカラーやどちらのウインカーが点滅していたか、さらには対向したセダンの何台後が小型トラックだったかなど、よくよく考えないと思い出せないことがあった。

 ここは身体能力や記憶能力による個人差が大きいので、一概に運転中の会話が危険とは言えない。むしろ会話をすることで眠気が抑えられ、運転操作に集中できるという論文は世界中にいくつもあるほどだ。ただ、前述したようにオペレーターとの会話は、単なる検索や予約だけでなくドライバーの高度な要求にも応えてくれる能力があるため、運転中でありながら、自身のおける未来の行動予測にまで気を配ることが(望まなくとも)可能で、またこちらの発言内容に応じて、さらに深い階層にまで思いのほか簡単に到達してしまう。

 ここに“未体験の無意識ゾーン”があるとしたら、それは功罪なのか? いずれにしろ表裏一体にあると踏まえた上で、運転中の高度な会話をこなしていく必要がある。いわゆる「歩きスマホ」は前を向いていないから危険という事実のほかに、耳に入ってくる周囲の音から意識が遠のくことにもあると言われている。1つの欲求が叶えられると、必ず次の欲求が生まれてくる。これは人の本能だ。これに対しわれわれは、ネット社会の高度化やIoTの具現化によって対応してきた。今や、スマホさえあればリビングだろうが、車内だろうが、寝落ちする直前まで、情報の真偽は定かでないものの、欲した時にタイムラグなしに表示される画面からの情報によって欲求の大部分を満たすことができる。

 こうした環境をMaaS(Mobility as a Service/サービスとしての移動体)の世界で考えるとどうなるのか。SAEによる自動化レベル4以上を実現する車内では、運転操作から意識が解き放たれることが許される。つまり、高度な情報を取得することで移動の質を欲求に応じてどんどん高めることができるようになる。今回、トヨタがコネクティッドカーとしてクラウンやカローラ スポーツで実現したものは、見方を少し変えると、運転支援技術の先にある自律自動運転技術の世界で、よきパートナーとなるであろう“会話というHMI”に意識を向けるきっかけになったのかもしれない。加えてこれはガラパゴス化と無縁だ。メルセデス・ベンツの「MBUX」を筆頭に、BMW、フォルクスワーゲングループ、そしてGMも車内のHMIとして会話をとても重要視している。これまでは車両の動的性能や質感を向上させることが競争の中核であったが、これからは車内における人とクルマの関係性を問うHMIの開発競争がこれに加わることになる。