試乗インプレッション
ホンダ「ステップワゴン HYBRID Modulo X」で雪道へ。抜群のハンドリングで不安のない走りを実現
2019年2月14日 12:35
本田技研工業が2018年12月20日に発売した「ステップワゴン Modulo X」。従来からホンダアクセスが開発した専用のカスタマイズパーツを量産過程で装着するコンプリートカーとしてステップワゴン Modulo Xはラインアップされていたが、ハイブリッドモデルにもModulo Xが設定された。
今回は、この「ステップワゴン HYBRID Modulo X Honda SENSING」(以下、ステップワゴン ハイブリッド Modulo X)で、白樺湖方面の取材を兼ねて雪道に出かけてみることにした。
ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xは、ホンダアクセスが手がけるコンプリートカーとして空力バランス、乗り心地や高速走行時の安定性を数々の専用装備とともに実走して作り込み。カスタマイズカーならではの走りに加え、室内の専用装備も魅力の1台。雪道向けとして貸していただいたので、タイヤには横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード 6」が装着されていた。
中央道を西へ。Honda SENSINGで楽々移動
東京から白樺湖に向かうには、中央自動車道を西へ向かう。中央道の甲府区間はアップダウンが連続し、さらにコーナーも加わるなど、運転していて疲れる区間として知られている。まず、ここでステップワゴン ハイブリッド Modulo Xに装着されているHonda SENSINGを使ったりしつつ、高速道路走行のスムーズさを確認してみた。
レーンキープのための自動ステアリング制御を伴うクルマにとって、中央道甲府区間はその制御の出方が分かりやすい区間で、あまり制御のよくないクルマだといつまでも車線内をゆっくり蛇行するような動きが出る。とくに冬期はスタッドレスタイヤが必須の区間といってもよく、夏タイヤよりも接地面の剛性で劣る(柔らかさで勝るかな?)スタッドレスタイヤ装着車ではその動きが顕著に出る場合があり、結局自分で運転しているほうがマシということになりかねない。
この区間においてステップワゴン ハイブリッド Modulo Xは、極めて気持ちのよい走りを披露。Honda SENSINGを使っても使わなくてもスムーズに走り、気になる使った際に蛇行の気配もない。ステアリングを切れば切っただけスムーズにレーンチェンジが行なえ、しなやかな走りを見せる。スタッドレスタイヤのため鋭いレーンチェンジというものではないが、自分の曲がりたい気持ちとの一体感は心地よいものだ。
また、Honda SENSINGによるステアリング制御も、「Honda SENSINGってこんなによかったっけ?」というほどのでき。スタッドレスタイヤ装着車にもかかわらず、コーナーのR(曲率)にしたがってステアリングをきれいに制御。応答遅れのようなこともほとんどなく、高速道路走行を快適な時間として過ごすことができる。乗り心地もよく、ミニバンだけに見晴らしもよい。
自分の場合、ステアリングを軽く握ってクルマの直進性に任せて運転することが多く、ステアリング制御による走行時は機械からすぐに「ステアリングを握ってね(意訳)」と怒られるのもしばしば。そのたびにステアリングを強く握り直すなど残念な気持ちになることが多い。ところがステップワゴン ハイブリッド Modulo XのHonda SENSINGではステアリングセンサーの精度が高いのか、いつものように運転していても機械に怒られることはなく、気持ちよく運転できた。Honda SENSINGはバージョン表記などされていないが、新しいものほど改善されているのを感じる。
ただ、こんな素晴らしいできのHonda SENSINGだが、個人的には初期設定を変更してほしい部分が……。現在のレーンキープアシストは、ほとんどのクルマが前走車や車線を見て走っている。そのため、前走車がなく、車線が見えなくなると、走行レーンを外れていくのはご存じのとおり。その際に、ステップワゴンのHonda SENSINGでは警告音が鳴らない。最初は「あれれ?」と思いながら走っていたが、PA(パーキングエリア)に止まってマニュアルを確認すると初期値で警告音がOFFになっている。Honda SENSINGのできがよいだけに結構おまかせで走っていることも多く、中央道の車線がかすれている区間においては不意に膨らんでいこうとするクルマを理解するのに時間がかかってしまった。ここはメーカーの好みの問題もあるのだろうが、警告音のON/OFF設定があるのなら初期値はONのほうが初心者には親切だろう。とくにこの手のアシスト機能は初心者にとっては有用な機能なので、初期値として警告音があったほうが分かりやすいのではと思った部分だ。
走りのスムーズさ、そしてHonda SENSINGのできのよさから、ほとんど運転疲れもなく白樺湖の最寄りの出口である諏訪IC(インターチェンジ)が近づいてきた。しかし時間も遅くなっており、諏訪ICで降りても夜ご飯を食べるお店を探すのに手間取るかもと思い、そのまま諏訪湖SA(サービスエリア)へ。食事後、岡谷ICで下りて国道142号~新和田トンネル有料道路経由で白樺湖方面に向かうことにした。
夜間の山道走行。豊かなトルクとできのよいサスペンション
真っ暗になった国道142号~新和田トンネル有料道路は、雪が降っていなかったので主に助手席で体感。ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xは、ホンダ独自の2モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID(スポーツ ハイブリッド)i-MMD」を搭載し、システム最高出力は158kW(215PS)。走行用モーターは最大トルク315Nm(32.1kgfm)なので、モーターでの発進時などは3リッターガソリン車並のトルクがあることになる。その結果、国道142号の山道なども大人2人+荷物少しという構成では楽々上っていく。
助手席に乗って感じるのは、アップダウンが続くコーナーにおける姿勢のよさだ。自分で運転しているときは、ミラーなどで周囲をあれこれ確認しているため気がつかなかったが、Modulo Xとしてのチューニングを受けているためか、ハイブリッド車のためミニバンとしては重いもの(バッテリー)が下に搭載されているためか、助手席でも視線がぶれることがない。そのため山道にもかかわらず気楽に助手席に乗っていることができる。運転席以外では次のクルマの動きを正確には予測できず、思っている方向と違う方向に体や視線が持っていかれることで、クルマ酔いにつながってくる。ところがステップワゴン ハイブリッド Modulo Xでは、クルマの動きが安定しているため、そういった違和感がとても少ないのだ。結局、それほど積もった雪道は現われず、白樺湖近くのホテルで宿泊。翌日の取材に備えることにした。
待望の雪道走行。優れた前輪の接地感が走りの安心感に
翌日は取材仕事の最中から雪がちらつく天気。「あー、こりゃ積もるな」と思ったら、帰路の道路は真っ白になっていた。長野県の白樺湖エリアのスキー場は晴天率で知られ、標高1500mという高さから気温も低く、1回雪が降ると少ない雪でもすぐに積もってしまう。新潟県の上越エリアのスキー場が低標高ながら雪の量で勝負しているのに対し、長野県のこのエリアは標高の高さから来る気温の低さで勝負している。
そのため、雪質も北海道のパウダースノーとまではいかないが、サラサラ系。それが低い気温で凍った路面の上に降り積もるので、結構やっかいな路面状況で、風が吹くとすぐにホワイトアウト状態になり視程が極端に短くなる。
このような厳しい路面状況でも、ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xは適度なステアリングの手応えを感じつつスムーズに走っていく。FFのミニバンということで、とくにコーナリングの難しい上りコーナーでもタイヤがきちんとグリップし、ラインがずれていかない。上りの右コーナーの場合、アウト側を走るため曲率を緩く取ることができる。そのため車速も上がりやすく、右にステアリングを切っていくと、左前輪が逃げていくのがほとんどのミニバンの挙動だ。ところが、ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xは左前輪の接地感を失うことなく、しっかり曲がっていく。もちろんこれは、アイスガード 6の雪上グリップ性能が高いことも大きな要因だが、それを活かしきれるModulo Xのセッティングによるところも大きいだろう。
ステップワゴン ハイブリッド Modulo XはFFのみの設定となっているが、上り坂でも前輪の接地感が失われることなく、しっかり雪道を上がっていく。一般的に上りは前輪の荷重が抜けやすく、とくに雪道ではそれが前輪の空転につながりやすい。そのため、後輪も駆動する4WDが有利となるのだが、ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xでは、無茶な運転をしない限り前輪の空転を感じることはなく、ステアリングインフォメーションも適切なため不安感もない。標高1500m級の道路のため、路面はツルツルで雪はサラサラのツルサラ路面とは思えない走りを披露してくれた。
上りに不安がないなら、では下りはというと、これはハイブリッド車の回生ブレーキの恩恵をものすごく感じることに。ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xは、回生による発電に専用モーターを用いる2モーターハイブリッドシステムを採用している。回生ブレーキも唐突感のないもので、下り坂ではこの回生をうまく使うことで、安心して下っていける。ただ、この回生発電が高性能で、下っていると結構早くバッテリーが満タン(SOCが100%)に。するとエンジンブレーキに切り替わるようプログラミングされているようで、回生による下りの安心感との違いが印象的だった。
もちろん下り坂の場合も、ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xの持つ正確で気持ちのよいハンドリングは安心感つながる。FF車では、車体のロール軸を前下がりに設定するが、そのロール軸の動的な設定が絶妙とも言えるできで、しっかりした前輪の接地感がステアリングに伝わってくる。そのため不安なくステアリングを切っていくことができ、銀世界(というか白世界)の楽しさを思い切り感じることができた。
大阪オートメッセ 2019で、開発者の福田氏に走行性能の高さの秘密を聞く
実はこの雪道走行後、大阪オートメッセ 2019の取材でインテックス大阪に訪れたら、ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xの開発者であるホンダアクセス Modulo統括の福田正剛氏と会場で会うことができた。福田氏によると、ステップワゴン Modulo Xの作り込みでは、空力処理と高速走行時の安定性に配慮しており、その前提としてタイヤの接地性をきちんと確保しているとのこと。大阪オートメッセの会場では、高速走行時のうねり路面で進路がぶれない(つまり、タイヤの接地性が確保されている)映像が流されていたが、これは雪道においても感じることができ、荒れた雪上路面でもタイヤが接地しているため安心感が高い。高速走行の安定性だけを狙うと、とくにアップダウンの激しい日本の山道路面における接地性をおろそかにしがちだが、日本で実走開発されているだけあり、そのような路面への追従性が高い。
今回雪道走行を終えて気になったのが、ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xが意外と汚れていないこと。日本の雪道は多くの融雪剤がまかれており、雪道を走り終えるとボディへの融雪剤の付着が結構目立つ。気温が低かった(氷点下7℃くらい)こともあるのだろうが、雪道を走り終えたステップワゴン ハイブリッド Modulo Xのボディは、ちょっと汚れていた程度だった。この汚れの少なさについて福田氏に質問したところ、「当然配慮して開発しています」とのこと。Modulo Xでは、空気の流れにこだわって開発しており、空気の流れのスムーズさが雪道からの雪の巻き上げが小さいことにつながっているという。とくに、最近の車両ではLEDのポジションランプを採用することも多く、雪が付着した場合の熱による融雪も期待しづらい。それも考慮して、前から後ろにスムーズに空気を流すことに配慮してチューニング。それが高速走行の安定性につながるとともに、雪の巻き上げが小さいことにつながっているとのことだ。
ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xを運転して印象的だったのは、ステアリングを切っていったときの感触がとても気持ちよいこと。これは雪上、ドライ路面、速度域にかかわらず感じられる美点だ。ステアリング操作に敏感というのではなく、ステアリング操作にしっかりクルマが反応するといった感触。この感触をステアリングのギヤ比調整などのテクニックで実現しているのかと福田氏に聞いたところ、「実はベース車両からパフォーマンスダンパーを取り去って、チューニングしています。ステアリングのギヤ比はベース車両と同じで、クルマの反応は作り込みによって実現しています」と、驚愕する回答を得た。
パフォーマンスダンパーは、クルマの微振動や歪みを抑えるには極めて有用なアイテムで、クルマの上級グレードに採用されていることが多い。微振動や歪みを抑えるということは、クルマの小さな動きを抑え込むことにもつながっており、福田氏は「パフォーマンスダンパーにはいっぱいよいところがあるけど」と語りつつ、パフォーマンスダンパーを取り外した上で作り込みを進めた。クルマの小さな動きまで注意を払って作り上げた結果が、ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xのステアリングの気持ちよさなのだろう。それが微少なステアリング操作に追従する正確なタイヤの接地につながり、アイスガード 6の性能のよさを引き出し、雪道における運転の楽しさにつながっている。
福田氏は、「Modulo Xは走行性能にだけこだわって作っているように思われがちだが、なによりも重視しているのが運転の安心感。雪道って、前が見えなくなったりしてただでさえ怖いじゃないですか。そうしたときに安心して運転できる走行性能が必要だし、そういう性能を持たせている」という。つまり、単に走行性能を引き上げるのではなく、運転する人がどう感じるかという感性の領域に踏み込んでクルマ作りを行なっている。ステップワゴン ハイブリッド Modulo Xは、そうして作り手の思いが強く注ぎ込まれたクルマになっている。とくに日本の風土が反映されたミニバンという領域では、世界的に並ぶものはないのではという希少性を感じられるクルマに仕上がっていた。