試乗インプレッション
欧州向けの高剛性ボディが秀逸。1.5リッター VTECターボ搭載のホンダ「ヴェゼル ツーリング」はシリーズ本命か
172PS/220Nmのスペック。JC08モード燃費は17.6km/L
2019年2月14日 00:00
上質さを意識した内外装
2013年末の登場から5年あまり。「ヴェゼル」にかねてよりウワサのあった待望のターボモデル「TOURING(ツーリング)」がいよいよ追加された。「シビック」や「ステップワゴン」「CR-V」などにも搭載されているものと基本的に同じ1.5リッター直列4気筒のVTECターボエンジンはレギュラーガソリン仕様であり、シビックのセダンと同じ172PS/220Nmのスペックとなる。ヴェゼルでは初採用となるアジャイルハンドリングアシストをはじめシャシーの味付けも専用となり、基本骨格に欧州向けの高剛性ボディが与えられる点も特筆できる。そのあたりの印象は後ほど詳しく述べたい。
2018年2月にヴェゼルはビッグマイナーチェンジを実施しているが、今回のツーリングは既存モデルに対してブラック塗装のヘッドライトガーニッシュやクロームメッキのフロントグリル、専用のフロントバンパーロアーグリル、RS仕様のグレーメタリックのボディロアーガーニッシュ、左右2本出しとされたエキパイフィニッシャー、グレー塗装の18インチホイールなど見た目の違いはそれなりにある。
インテリアではウルトラスエードを用いたダークグレー/ブラウンの専用コンビシートや運転席&助手席シートヒーターが装備されるのも特徴で、内外装を見るにつけ、全体として上質さを意識したことがうかがえる。
なお、ツーリングには4WDの設定がないことが気になったのだが、仮に設定すると価格が300万円を超えるのは確実で、ヴェゼルとしてそれはどうなのかという議論があり、ひとまず見送られたようだ。
刺激的なエンジンフィール
気になるエンジンフィールはなかなかに刺激的だ。車両重量が200kgほど大きいCR-Vにも対応するエンジンだけに、軽量なヴェゼルに搭載すればどうなるかは明らか。踏み込むとひと呼吸おいて力強くトルクが盛り上がり、そこから伸びやかに吹け上がっていく。低回転からトップエンド近くまで強力な加速Gが持続する、いかにもターボらしい味付けだ。
ごくおとなしく流すにも、基本性能が十分に高いのでストレスを感じることはない。乗りやすさでいうと、発進停止を繰り返す市街地のような状況では自然吸気の方が扱いやすい気もして、実用域ではややリニアさに欠ける感もあったものの、これぐらい刺激があった方がドライビングを楽しめる。もともとヴェゼルは自然吸気エンジンでも動力性能的には十分なところ、あえてターボをラインアップするわけだから、この味付けの方が意味があるというものだ。
高速道路では低いアクセル開度で余裕を持って車速を維持できるし、再加速したい時には軽く踏み増せばモリモリとトルクが沸き上がり車速を高めてくれるので圧倒的に走りやすい。パドルシフトも付くので、そのエンジンの美味しい領域を意のままに味わうこともできる。
一方で、ECONモードを選択するとノーマルモードがパワフルな分なおのこと、加速感はずいぶん控えめになり、ターボの存在を感じさせなくなるくらいなのだが、ECONらしくしたらこうなったという感じ。ターボでも普段は大人しく経済的に走りたいという人にもってこいだ。
想像以上の高剛性ボディの実力
エンジンも印象的だったが、実はさらに印象的だったのがフットワークのよさだ。専用セッティングを施したサスペンションやパフォーマンスダンパー、可変ギヤレシオステアリング、ヴェゼル初採用となるアジャイルハンドリングアシストなどが与えられているが、なによりも効いているのはズバリ、専用の高剛性ボディに他ならない。
日本仕様に対し、フロントを中心に各部に手当てを施したという欧州仕様と共通の高剛性ボディの実力は想像以上で、入力の受け止め方からして既存モデルとは別物。サスペンションもより理想的に動いているように感じられた。
乗り心地もよくフラット感が段違い。ステアリング操作に対するクルマの反応も応答遅れがなく、フロントと同時にリアも横力が即座に発生して、可変ステアリングギヤレシオによる俊敏なハンドリングの旨味をより引き出すことができていて、気持ちよーく曲がることができる。
「ハイブリッド Z」と乗り比べることもできたのだが、出た当初のヴェゼルに比べると乗り味がずいぶん改善されたことは重々承知しているものの、ツーリングと比べるといろいろとアラが目立つ。
ハイブリッド Zはタイヤのハイトが高いせいか当たりはややマイルドなのだが、路面への感度が高く影響を受けやすい。その点、ツーリングはバタつきや突き上げが小さく、振動自体が起こりにくい上に素早く収束する。静粛性についても、パワートレーン系の発する音やタイヤのロードノイズなどがキャビンに侵入しにくく、圧倒的に静かだ。運転してもらって後席にも乗ってみたが、快適性には大きな差があった。
せっかくこんなにいいものがあるのだから、ぜひ他のグレードにも使うべきと思わずにいられないところだが、聞いたところではコストや手間など克服しがたい事情がいろいろあるらしく、そこはいかんともしがたいようだ。
とにかく見た目もエンジンも車体や足まわりも、どこを取ってもなかなか魅力的な仕上がりだった。とりわけこの高い完成度を誇る高剛性ボディが与えられるのは、このクルマのみであることは念を押しておきたい。一見すると価格は高めだが、実車に触れて筆者も大いに納得した次第である。より上等なヴェゼルを求める向きにも“待ってました!”な、ヴェゼルの新たな境地を開拓した1台に違いない。