試乗インプレッション

ダイハツの新型「タント」プロトタイプ試乗。新プラットフォーム&パワートレーンで走行性能アップを体感(橋本洋平)

 ダイハツの軽ハイトワゴンである「タント」が、およそ6年ぶりにフルモデルチェンジする。「DNGA」と呼ばれる新たなプラットフォームを採用することで、全く新しいクルマに生まれ変わるタントを、いち早く袖ケ浦フォレストレースウェイで試乗した。

 今回のDNGAは軽自動車のみならず、A&Bセグメントまでを視野に入れたもので、最も制約の多い軽自動車でまず磨き上げ、後に拡大していくことを目論んでいる。また、将来へ向けて電動化や自動運転、さらには燃費や排出ガスについても視野に入れたという。プラットフォームやユニット、そしてサスペンションの同時開発はダイハツとして初の試みとなる。これにより将来的にプラットフォーム数は7つから4つへと削減することが可能となり、車種数は20から21(15ボディタイプ)へと拡大。90か国を視野に、良品廉価なクルマを送り出そうという狙いだそうだ。

 その第1弾となる新型タントは、まずボディで40kg、シャシーで10kg、その他で30kgの軽量化を実施。年々高まるユーザーニーズや安全装備の標準化などで40kg増加した部分と差し引きしても、40kgも軽い状態で仕上げることに成功している。

 とはいえ、走りを犠牲にしているわけではないという。軽量化を施してはいるが、剛性は従来比で30%アップ。加速性能についても40~80km/hの中間加速で13%も向上したそうだ。エンジンは見かけこそ一緒だが、中身はまるで違うとのアナウンスがあった。日本初となる1回の燃焼に対して2回点火するマルチスパークを搭載。燃料もターゲット噴霧からスワール噴霧に改めることで、燃焼室への燃料付着量を77%低減。筒内直入率を20%向上させている。これらの効果で燃費はモード燃費との乖離を減らし、実燃費で20km/Lを達成(従来比9%向上)。60km/h定常走行時には12%、100km/h定常走行時には19%もの燃費向上が見られたそうだ。

 その走りを支えるトランスミッションも見どころ満載だ。ダイハツ内製となる「D-CVT(デュアルモードCVT)」を搭載している。これはベルト駆動だけでなく、ギヤでも駆動するパワースプリット技術を盛り込んでいる。スピードやスロットル開度にもよるが、40km/hほどでギヤにより直結。変速比幅が従来は5.3(現行タントは6.7まで使用)だったものを、7.3まで拡大することができたらしい。発進加速性能や静粛性、そして高速燃費までカバーできそうなスペックだ。

 従来よりも全体的に丸みを帯びたデザインとなり、けれどもひと目でタントであることを理解させてくれる新型にいよいよ乗り込む。運転席に座れば相変わらずの視界の広さを確保しているが、その段階でも変わったな、と思わせてくれる部分があった。それはシートのホールド性だ。座面の張りがあり、フラットな感覚だった現行型に対し、新型はシッカリと腰を沈ませ、包み込むような感覚に改められたのだ。停車している時よりも動いた時にいかに身体を落ち着けるか? そんなところに注力したようにも感じさせる造りだ。

特色が分かれた自然吸気モデルとターボモデル

 まず走らせたのは自然吸気モデルだったが、発進加速はスムーズであり、力不足をあまり感じさせるようなことはない。上り坂でややエンジンの唸り音を感じる部分はあるが、タウンユース主体であればこれでも十分だと思えてくる。乗り心地についてはユルさを感じることなく、シッカリと路面と捉えている印象があり、段差の乗り越えなどを行なってみても、きちんとダンピングしていることが伝わってくる。ハイトワゴンというとどうしてもグラつきが気になるところだが、そうしたネガを感じさせず、ジワリとコーナリングしてくれるところも好感触。

 ただ、ステアリングの操舵感は反力がきちんと展開される感覚もあり、走りを気にするタイプの人ならありがたいかもしれないが、正直に言えばちょっと重たい部類といっていい。ブレーキ踏力はあまり必要としないようにチューニングしたということもあって、女性でも扱いやすく仕上がっているだけに、手の重さと足の重さがリンクしていないところはこれからの課題かもしれない。

 続いてターボモデルに乗ってみるが、やはり自然吸気モデルとの力強さの違いは明らかだ。発進加速の素早さ、そして高速域における静粛性、さらには登板路におけるトルクフルな感覚とこれまた静粛性については上をいく。15インチ装着モデルはそれに加えてコーナリング時のシッカリとした感覚が高く、サーキットでペースを上げても音を上げない骨太な感覚がある。これなら例えワインディングロードに行ったとしても、不満を持つようなことはなさそう。乗り心地についてはやや硬質になるが、入力を即座に収めることができているから、問題はないだろう。

 後に現行型も試してみたが、ロールスピードが速く倒れ込むようにコーナリングすること、そしてインフォメーション性能の少なさがあるなど、やや恐怖感を従うようなところは気になった。また、乗り心地についても第一印象は柔らかいが、入力を即座に収めることはできておらず、揺らぎが長く続くイメージだった。よって、新型の走行性能のアップは肌で感じられるほどの向上が見られることは明らかだった。新型はハイトワゴンでもきちんとした走りを展開できたことが伝わってくる。

 ただ、ターボモデルに関してはD-CVTとのマッチングはまだ取り切れていないようにも感じる。ベルト駆動で発進し、ギヤ駆動に切り替わるポイントで、トルク変動が大きく感じてしまうのだ。2段階に背中や首がカクンと押されるような動きは、まだスムーズとは言い切れない。負荷が変化するポイントでブーストが一瞬高まってしまうような、そんなイメージがあったのだ。それが正式登場した時にどうチューニングされるのか? 注目していたいと思う。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一