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ダイハツ「DNGA」の見どころをクローズアップ(エンジン・CVT編)

従来技術の工夫と世界初技術の組み合わせが面白い

2019年6月6日 開催

エンジン・CVTに用いられたダイハツの新世代のクルマ作り「DNGA」に基づく新技術を紹介

 ダイハツ工業は6月6日、新世代のクルマ作り「DNGA(ディーエヌジーエー/Daihatsu New Global Architecture)に基づく新技術の発表会をダイハツ工業 東京支社にて開催した。発表会の模様は6月7日の記事で紹介をしているので、本稿では当日紹介された「DNGA」の技術のうちエンジンとCVTを紹介する。なお、DNGAプラットフォームの特徴は別記事で紹介している。

プラットフォームとは別の部屋に展示していた0.66リッターターボエンジン
こちらは同時に展示されていた0.66リッター自然吸気エンジン

 今回のDNGAに基づく新技術では、すべてのエンジン部品を見直すことで燃焼効率の改善を図っているのが特徴。その中で代表的な部分を紹介していこう。

 まず、構造についてだ。イマドキのエンジンでは動弁系の低フリクション化のためにローラーロッカーアームを採用することが多いが、DNGA新エンジンではカム山がリフターを押す直打式となっていた。そしてVVTも採用していないし、インジェクションはシリンダー内への直噴ではなく、従来からあるポート噴射式だ。

 ダイハツでは当然、ローラーロッカーアームやVVT、直噴などの機構を使うことのメリットは理解しているが、それらを使えば製造コストも上がる。するとそれがクルマの販売価格に跳ね返ってしまうため、これはダイハツの「求めやすい価格で世の中に提供」という目標に反することになる。

 そこでDNGAの技術陣が取った方法は、ローラーロッカーアームやVVT、直噴を含めたエンジンに関する最新機能の開発をしつつ、市販化するときには試したものの中から、コストに合わせた技術のチョイスをすること。つまりローラーロッカーアームやVVT、直噴などは「試したけど他の低コストの技術を磨くことでカバーできたので使わずに済んだ」ということだろう。

 最近は新しい技術の話ばかり耳にしていたので、DNGAで行なった従来技術の工夫というものはかえって新鮮であり、そこに目を付けて結果を出したダイハツの技術陣のアイデアと技量にはとても感心。日本のもの作りの原点を見せてもらった気がした。

DNGA技術を用いてのエンジン開発では、このような目標が立てられた
直噴式インジェクションでもなければVVTもないという、はたから見ると「?」マークが付く新型エンジンだが、技術者のアイデアと技量は従来の技術からまだまだ未来を生み出せるのだった

 さて、そうして生まれたのがこのエンジンである。ではここからは特徴的な部分を取り上げて紹介していこう。

 1つ目はインテークポートの形状について。DNGA新エンジンではよい吸入空気を得るために、インテークをデュアルポートとしている。加えて、バルブに対してインテークポートの角度を寝かすことでタンブル比を向上させつつ、シリンダーに流れ込む流量を減らさない設計とした。

 今回の新エンジンでは霧化性能が高いポート噴射のインジェクターが採用されていて、これと高タンブルポートを組み合わせることで、燃焼効率のよさと燃焼速度のアップを実現している。

新エンジンの概要。「素を磨く技術」というコピーがすてきである。ターボと自然吸気では、バルブ径とバルブの位置をそれぞれの圧縮比に合わせて最適化している。そんな細かい作りも「素を磨く技術」だ
縦渦であるタンブル流を生み出す形状のインテークポート。プラグも径が細い最新タイプを採用。プラグを細くすることでプラグまわりの冷却水通路などの設計自由度が上がるというメリットがある
このインテークポート形状にすることで、吸入行程では縦の渦で混合気が吸入される。ピストンは中央に窪みを持つ形状で、圧縮行程ではこの窪みに混合気が集まるようになるが、ここはプラグの着火点なので、DNGA新エンジンは効率のいい燃焼が得られるのだ
インジェクターの配置は直噴ではなくポート噴射式だ。ただ、ノズルは燃料の霧化がよいタイプとなり、タンブル流を生むポート設計と合わせて燃えやすい混合気が生成できる

 さらに、量産エンジンでは日本初となるマルチスパーク点火も採用している。マルチスパークとは名前のとおり、通常1回のみの点火タイミングのところ、連続して2回のスパークを行なうもので、DNGA新エンジンではEGRが循環される域の燃焼効率向上のために使われている技術だ。

 EGRとは排出ガスの一部を再度燃焼室に送り込むことで、NOxの低下や燃費の向上に効果があるのだが、EGRは不活性ガスなのでそもそも燃えにくいものである。

 そのため、従来の点火では火炎が広がりにくく失火もしやすかったが、2回の連続した点火を行なうマルチスパークを実施すると燃焼効率が安定&向上。燃えにくかった領域でも燃焼が促進されるので、実用回転域の性能アップに加え、従来よりも多くのEGRを循環させることが可能になる。なお、マルチスパーク域はエンジンの効率では負荷も回転も高くない巡航時の部分で、高負荷時や高回転時では従来と同じシングルスパークになるとのことだ。

コイルは従来からあるコイルをマルチスパークに対応するようにチューニングしたものを使用する
マルチスパークの解説
エキゾーストポートは集合ポートになっている。独立したポートに比べて熱損失が少ないので、触媒の機能を促進させることにつながる。ターボエンジンでも同様の集合ポートだ

世界初のスプリットギヤ採用による新技術を採用。動力伝達にギヤとベルトの両方を使うD-CVT

 DNGA技術の中でも注目度が高いのがこの「D-CVT」。開発コンセプトは伝達効率の向上と変速域幅の向上、それに軽量コンパクトであることだ。

 さてこのD-CVTだが、最大の特徴は従来のベルトだけの変速ではなく、ベルトとギヤとの組み合わせで駆動、変速をすることだ。

世界初の新技術を採用した「D-CVT」

 一般的なCVTはエンジンからの入力をベルト~タイヤという順で伝えていて、ベルトが掛かるプーリーの径を変えることで変速を行なっているが、D-CVTでは従来のCVT機構にソリッドなギヤと遊星ギヤという2つのギヤを組み合わせている。

 そして、発進時は一般的なCVTと同様にベルト駆動を使用しているが(トルクコンバーターも使用)、一定の速度からはベルトだけでなく伝達効率のいいギヤも合わせるスプリットモードへ移行する。

 速度がある状態ではギヤ駆動は効率のロスが少ないので伝達効率が上がる。ただ、この状態ではベルト駆動軸の回転が落ちてしまうのだが、遊星ギヤを使用しているD-CVTは、ベルト駆動軸の回転と2つのギヤの回転差を利用して遊星ギヤ後の軸の回転を増幅することができる。そのため、さらなる高速域への変速が可能となっているのだ。

ベルトを介して駆動を伝えていたCVTにソリッドギヤと遊星ギヤを組み合わせた世界初の新技術を採用
D-CVTではスプリットモードの採用や油圧系の改良により、中速から高速域では約8%の伝達効率を達成
こちらは燃費の違い。スプリット時の効率のよさは幅広い速度域に現れている
出力のロスも減るので加速感も向上。そして、ロスが減る分だけ走行中の回転数も抑えられるので車内騒音も低下する

 ちなみに従来のCVTでは機構上、変速比の幅は6速ATと同等なものが限界だったとのことだが、スプリットモードがあるD-CVTは8速AT並みの変速比の幅となる。そのため、高速走行時は回転を抑えた静かな走行が可能になっている。

 以上がダイハツの新世代のクルマ作り「DNGA」におけるエンジンとトランスミッションの紹介だ。どちらも従来技術がベースなので派手さはないが、電気的な機構に頼らず、機械的な工夫や作りで性能を向上させている部分はクルマ好きには共感できるところだと思う。

 まずは7月発売の新型「タント」からDNGAの技術が世に出るが、これは今後出てくるクルマすべてに採用されるものだけに、しばらくはダイハツの新型車が気になってしょうがないかもしれない。

D-CVTは軽自動車用のCVTと同一軸間というコンパクトなサイズでも、トルクが150Nmまでの小型車用エンジンに対応できる能力を持っている。ここも一括規格のDNGAのコンセプトどおりだ
トルクコンバーター付きで、発進時はコンバーターによるトルク増幅の効果も使用。コンバーターが不要になると、通常どおりロックアップしてロスをなくす
水冷式のCVTクーラーがケース後ろに付いていた。カットモデルになっていたが構造にとくに新しいことはないとのこと

【訂正】6月11日20時に一部資料の差し替えを行ないました。