試乗インプレッション

新プラットフォーム「DNGA」第1弾。ダイハツの新型「タント」プロトタイプ試乗で感じたダイハツ車の未来(河村康彦)

 乳幼児の子育て世代へとピンポイントでフォーカスすることで、日本特有の軽自動車というカテゴリーの中でもさらなる確固たる独自のポジションを切り拓いたのが、2003年末に初代モデルが誕生したダイハツの「タント」というモデル。

 現行モデルの登場以来、丸6年を目前にしてのフルモデルチェンジを行なって発売される新型は、数えて4代目。もちろん今度も1.7m超におよぶ全高と、極限まで前出しされたウインドシールドの組み合わせが生み出す、圧倒的に大容量なキャビン空間と共に、左側センターピラーレスのデザインで実現された軽自動車随一の使い勝手が最大の売りという点は変わってはいない。

 具体的なボディサイズや重量、エンジンのスペックや装備類など、最新モデルでオープンにされた情報は、本稿の執筆時点ではまだかなり限定的。

 けれども軽自動車に留まらず、さらに上位となるA・Bセグメント車への展開までもを踏まえたという軽量・高剛性の新骨格「DNGA」や、マルチスパーク(2回点火)を行ない火炎伝播速度を高めるなどで実用燃費の向上を果たしたエンジン、運転状況によってベルトもしくはギヤと伝達経路を使い分けることで、燃費や静粛性、加速感などを共に向上させるスプリット・モードを用いたCVTの新採用など、開発陣からは「基本となる性能を向こう10年程度まで見据えて大幅に引き上げる」という声が聞こえる新たなハードウェア面も、実は大きな見どころであるのが今度のモデルでもある。

 そんな新型のプロトタイプを、取り急ぎのチェック。ただし、テストドライブを行なったのは完全舗装のサーキット上のみで、時間もごくわずかに限定されることとなった。

まずはターボモデルから試乗

 前述のようにまだ多くのスペックが明らかではないものの、「ボディで40kg、シャシーで10kg、そのほかの部分で30kg」と大幅な軽量化が伝えられるのが、今度のモデルの1つの特徴。現行モデルの場合、FWD仕様でも900kgを大きくオーバー。すなわち、計算上は「ターボ付きでも何とか800kg台に収まる程度」となるはずなのが、今度のモデルの車両重量だ。

 そんなターボ付きのモデルで早速スタートをしてみると、なるほどさしあたりの加速力に不満はない。サーキットゆえ周囲が開けているため、実際の街乗り場面に比べるとスピード感は薄いもの。そうした状況の中でも「1人乗りはもちろん、これならば大人3人程度が乗り込んでも不足を感じることはなさそうだナ」と、その程度の実感を受けられるのがこのモデルの動力性能なのだ。

 とはいえ、それでもアクセル開度が深くなって回転数が上昇してしまえば、やはり現行型と同様にエンジンノイズがそれなりに耳を突くことは避けられない。けれども、タントというモデルでは高い頻度で使われるであろう街乗りのシーンをイメージしたアクセルワークを心掛けると、なるほどこうしたカテゴリーの中にあっては、「静粛性はなかなか高い」と言えそうだ。

 路面状況が一定で目立った凹凸もない中、フットワークの実力を知るのはなかなか難しいもの。それでも、全幅よりも全高の方がはるかに高いという特有のディメンションの持ち主の中にあっては、「なかなか安定感が高いナ」と実感をできたのは確か。

 ロールが残った状態でも安心してブレーキングを行なうことができ、スタビリティコントロール機能も簡単には介入をしない点にも、実力の高さの一端が現れていた。このあたりは、サスペンションのみならずシャシー/ボディのポテンシャルが総合的に上がったことをイメージさせる部分でもあったわけだ。

自然吸気モデルに乗り換えると……?

 一方、そんなターボ付きモデルからターボなしのモデルへと乗り換えると、正直なところ新型でもやはり加速の非力感は否めないものだった。

 現行モデルの場合、ターボ付きとノンターボの重量の差は20kgほど。すなわち、新型ではターボ無しモデルの車両重量は、800kg台半ばに収まっているはずだ。そんなボディに、変速レンジの拡大と伝達効率のよさを謳う“スプリットモード”が売りの新しいCVTを組み合わせるが、それでもやはり、ターボ付きとは加速の身軽さは大きく異なっていた。発進時に限ってみれば、特に自然吸気モデルの場合、一部ライバルに採用例が見られる「副変速機付きCVT」の方が効用が大きいとも考えられそうだ。

 そうした印象もあって、率直なところ新型の場合も、後輪駆動系を備えるゆえに重量がかさむ4WD仕様や、2WD仕様であっても高速道路走行や大人3人以上乗りの機会が考えられるユーザーには、ターボ付きモデルを薦めたくなるというのが正直なところ。

 一方で、そんな動力性能以外の項目では、自然吸気モデルでも基本的にはターボ付きモデルと同様の好感触を得ることができたのが新型。特に、しっかりとしたペダルタッチも含め、ブレーキの印象のよさはこちらも特筆の水準。こうしたカタチと背の高さのモデルで、これほど安心をしてブレーキを踏み込むことができるのは初めての経験と言ってもいいほどだった。

新型タントがダイハツ車の未来を想像させる

 というわけで、まずは走りの印象をお伝えすることになった新型タントだが、実はまず乗り込んだ瞬間に大いに印象的だったのは、予想と期待通りのキャビン空間の広大さや、全方位への視界のよさなどに加えて、各ドアの開閉感やダッシュボード/ドアトリムなどの仕上がり、さらにはステアリングホイールの握り感など、さまざまな部分の仕上がりの質感が、軽自動車の中にあってはトップレベルにあるという点でもあった。

 率直なところ、こうした部分のクオリティは、グローバルでの販売を念頭に置きながら、可能な限りのコストダウンを図ったことを連想させられる各メーカー発のいわゆる“リッターカー・クラス”の作品を大きく凌ぐ印象。国内市場のみをターゲットとするという軽自動車の特殊性ゆえ、日本人の厳しい審美眼を意識した結果が、こうした高いクオリティをもたらしたとも言えそうだ。

 そんな観点も踏まえて新型タントを見て・触れて感じられたのは、これまでは軽自動車のカテゴリー内に閉じ込められてきた“小さなクルマを作るテクノロジー”が、今後はそうした枠を飛び出してより幅広いダイハツ車に展開されていくようになるのではないか、という期待でもある。

 特に、今回チェックを行なったタントに比べると、より全高が低く、従って車両重量も軽くなるであろう、今後モデルチェンジが行なわれる軽自動車各モデルに関しては、当然「新型タント以上に優れた走りのポテンシャルが実現されるに違いない」と、そんな予想もできることになる。

 こうして、“DNGA”と名付けられたダイハツ発の次世代プラットフォームは、軽自動車のみならずダイハツが得意とする「小さなクルマ」の、あらゆる領域に渡ってさらなる磨きをかけてくれることが予想できるもの。

 新型タントの出来栄えの一端を見せられた今、ダイハツが手掛ける今後のモデル群には、これまで以上の期待が持てることになってきた。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:堤晋一