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ダイハツの新型「タント」から導入される良品廉価なクルマ作りの基礎「DNGA」新技術説明会
プラットフォーム、パワートレーンなどすべてを一新。軽自動車からA・Bセグメントをカバー
2019年6月7日 16:09
- 2019年6月6日 実施
ダイハツ工業は6月6日、新世代のクルマづくり「DNGA」に基づく新技術説明会をダイハツ東京支社で実施した。
DNGAとは「Daihatsu New Global Architecture(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」の略で、CASEへの技術対応とスピーディな商品ラインアップ拡充を同時に実現するため、サスペンション、アンダーボディ、エンジン、トランスミッション、シートといったプラットフォームを構成する要素のすべてをゼロベースで新開発した。
DNGA第1弾は7月登場予定の新型「タント」となり、2019年内には第2弾の投入も予定。今後、2025年までに15ボディタイプ、21車種に展開を予定している。
DNGAの特徴
軽自動車を基点に小型車まで設計思想を共通化した「一括企画開発」を採用し、「車両の進化」「パワートレーンの進化」「先進安全の進化」の3つの進化を実現。将来の電動化やコネクテッドサービスの実現など「CASE対応を見据えた設計思想」も織り込まれた。
具体的には、従来のプラットフォームや開発スピードでは、CASE対応や競合激化が予想される新興国市場へのスピーディな商品展開が困難と考え、大きくしたものを小さくするのは難しいという「小は大を兼ねる」という考えから、軽自動車で最小単位を極め、小型車まで設計思想を共有する一括企画開発を実施。
これにあたり、エンジンやサスペンションの取付位置、骨格配置、着座位置といった共通化できるサイズや位置をあらかじめ設定。性能や仕様まで含めて一括で企画し、今後すべての新型車をこの設計思想に基づいた相似形で開発することで、良品廉価と開発の効率化を両立するという。
さらに、将来の電動化を見据えたエンジンコンパートメントの諸元設定、スマートアシストの進化やコネクテッドサービスの提供を見据えた電子プラットフォームの設定など、CASE技術の織り込みを想定したプラットフォームにすることで「先進技術をみんなのものに」すべく、今後開発を加速していくとした。
新プラットフォームは「安全」「安心」「心地よさ」の提供のため、性能目標を「クラスを超えた安定感と乗り心地」に設定。コストアップすることなく性能を実現できる最適な部品配置として、プラットフォーム構成要素をゼロベースで新開発。一括企画開発と連動した部品軸活動により、軽自動車から小型車の部品共用化率は75%以上として、タイムリーな商品提供を実現。新型車の投入ペースを約1.5倍にスピードアップ可能とした。
また、車両の進化だけでなくパワートレーンにも手が加えられた。
エンジンではすべての部品を見直し、エンジン性能の根幹となる燃焼素性を改善することで燃費性能や走行性能、環境性能といったすべての要素で性能向上を実現。日本初の「マルチスパーク(複数回点火)」を採用し、シリンダー内での燃焼速度を速め、ノッキングを抑制してEGR量を拡大して燃費性能をアップ。噴霧する燃料の形状をこれまでの粒状から霧状に変更することでポート内や燃焼室内への燃料付着を低減して、シリンダー内への燃料直入率を向上させた。
加えて、これまで共通だった自然吸気エンジンとターボエンジンのバルブ系とバルブ位置を、それぞれの圧縮比に合わせて最適化することで、エンジンヘッドとピストンの表面積を最小化しながら凹凸を減らし、冷却損失を低減。エンジンヘッド内で排気ポートを集合させることで、排出ガスの温度低下を抑制しつつ、触媒の浄化性能を高めた。
トランスミッションでは、ギヤを組み込むことでより伝達効率のよい「ベルト+ギヤ駆動」が可能となる世界初の「パワースプリット技術」を採用。低速域ではこれまでのCVTと同じベルト駆動だが、高速域になるとギヤ駆動が加わり、伝達効率を8%向上するとともにハイギヤード化することで、低速域でのパワフルでスムーズな加速と高速域での低燃費で静かな走りを実現した。なお、ベルト伝達トルクを適正化させることにより、サイズはそのままに1.5リッタークラスまで対応可能となる。
そのほかにも、従来のスマートアシストで蓄積した知見を活かし、独自の制御ロジックを構築することで「スマートアシストIII」に運転を支援する下記新機能を追加した。
「全車速追従機能付ACC」
ステレオカメラで先行車の車速や距離を検知して、先行車との車間距離や車速を維持しながら追従し、停車まで制御。
駐車支援機能「スマートパノラマパーキングアシスト」
並列駐車、縦列駐車ともに対応可能。従来の「パノラマモニター」で搭載していた車両前後左右に配置したカメラの内、左右のカメラが駐車枠の白線を検知して、音声と画面ガイドに加えてステアリング操作をアシスト。ドライバーはシフトレバー、アクセル、ブレーキの操作と周囲の安全確認に専念することができ、駐車が苦手な人でも安心して駐車可能とした。
「LKC(レーンキープコントロール)」
車線をステレオカメラ我見氏して、車線の中央を走行するようにステアリング操作をアシスト。
「車線逸脱抑制制御機能」
クルマが車線をはみ出しそうになると、メーター内表示とともに、車線内に戻すようにステアリング操作をアシスト。
「ADB(アダプティブドライビングビーム)」
ハイビームで走行中に対向車を検知すると、対向車の部分のみ自動で遮光。
「標識認識機能(進入禁止)」
進入禁止の標識をステレオカメラが検知すると、メーター内に表示して通知。
「ブレーキ制御付誤発進抑制機能(前方・後方)」
従来のエンジン出力制御に加え、ブレーキ制御を付加することで急発進を防止。
DNGA技術による良品廉価なクルマ作りで、2025年に250万台への拡大を目指す
説明会では、ダイハツ工業 取締役 松林淳氏がDNGAの概要について「ダイハツは生活者に寄り添った商品を提供することにより、裾野を広げてまいりました。エントリー層、女性、高齢者を主とした地域の生活者を主なお客さまとし、良品廉価のスモールカーを提供し、世界中の皆さまに笑顔をお届けしたいと考えております。一方CASEへの早急な対応やグローバルで激化する競合への商品優位性の確保と、大きく2つの課題がございます。これらを突破するために、DNGAの取り組みを開始いたしました」と説明。
また、「ダイハツの商品がお客さまに選ばれるために、DNGAではダイハツらしい性能の確立のため、われわれの商品の生命線でもある“良品廉価”の“良品”に関して再定義を行ないました。良品は品質と基本性能と考えております。特に基本性能について、われわれはダイハツらしさを見て、触って、乗って、安全、安心、心地よいと感じるクルマだと考えております。そこで、ダイハツではDNGAらしさをブランド化するべく部門の垣根を越えて、評価のスペシャリストが性能評価チームを結成しました」と、社内での取り組みを紹介した。
続けて、新プラットフォームについて、車両の進化、先進安全の進化については、ダイハツ工業 車両開発本部 本部長 寺前英樹氏が、パワートレーンの進化についてはダイハツ工業 パワートレーン開発本部 本部長 茨木幹氏がそれぞれ紹介した。
寺前氏は、車両の進化について「新プラットフォームの開発コンセプトは、ダイハツらしい性能を実現するため、クラスを超えた安定感、乗り心地を提供するということで、まずサスペンションジオメトリーの開発に着手しました。次に、それを受け止めるアンダーボディ骨格の最適化に着手しました。ボディへの着力点を結び、骨格をスムーズに結合することで、サスペンションの応答性がよくなり、先を見据えた衝突安全や振動騒音性能を実現する骨格配置といたしました。これにより、剛性は約30%向上しております。また、アッパーボディなどを軽量化して、従来のタントと比較して車両全体では80kgの軽量化を実現しました」と取り組みについて語った。
先進安全の進化については、まず「毎日のように起きる事故に心を痛めている」と述べ、「お客さまの立場に立って、安全・安心をいつも考えています。先進技術をお客さまにお求めやすい価格で普及させ、いつの日か交通事故が起こらない世の中となるよう、先進技術を進化させてまいります」と話し、既存部品を活用することで安価に実現したという、軽自動車初搭載となるスマートパノラマパーキングアシストなどについて解説した。
パワートレーンの進化について茨木氏は、新エンジン、新CVTの開発コンセプトを「安全、安心、心地よいパワートレーンをお求めやすい価格で世の中に提供する」と紹介。新エンジンに関して「エンジン素性を極めること。ダイハツらしい良品廉価を見極めること。軽自動車ユーザーに最適な低速トルクを重視すること。この3点をコンセプトに開発しました」と述べ、「ボルトやナット以外はすべて新設と言っても過言ではありません」と、従来とまったく異なるエンジンになったと説明した。
新CVTについては「開発コンセプトは、伝達効率向上と変速比幅拡大による燃費向上、軽量コンパクトであることです。世界初となる新技術によるD-CVTを開発しまして、燃費、加速感、静粛性を向上させました。D-CVTは軽自動車と同一軸間距離で1.5リッタークラスまでカバーできるコンパクトな設計となっております。これらDNGAエンジンとDNGAトランスミッションで燃費、加速感、静粛性の向上だけでなく、世界トップレベルの環境性能も実現し、軽自動車初の排出ガス5★認定を受けております」とD-CVTの特徴を紹介した。
最後に松林氏が再度登壇して、生産・品質についての説明を実施。「良品廉価の考えは生産効率を上げ、リードタイムの短縮にも繋がります。まずは軽自動車で立ち上げますが、A・Bセグメント展開時の作りやすさも考えて、生産要件を事前に盛り込んでおります。同時に、設備投資の削減にも着手して、従来であれば各車種専用のライン、設備を設定する手段で効率化を行なっておりましたが、今回は生産や開発チームはじめ、全社協力のもとで汎用ラインを推進しました。結果、従来より約30%の投資削減となり、良品廉価なクルマづくりに貢献いたしました」と取り組みを紹介した。
さらに電動化については「これまでどおり従来技術を磨き上げていきながら、各国の状況に合わせ、まずはハイブリッド車の導入がリーズナブルと考えております。環境規制をにらみながら、最適なタイミングで導入し、電気自動車の投入に繋げ、コンパクトにふさわしい電動化を推進してまいります」と述べた。
松林氏は最後に「新プラットフォームをベースとして、2025年のダイハツ開発車250万台への拡大へとつなげてまいります」と今後の展開を語った。
【訂正】6月11日20時に一部資料の差し替えを行ないました。