試乗インプレッション
ホンダ「クラリティ PHEV」の高速EV走行をクローズドコースで試す!!
電動化への足がかりとなるモデル
2018年7月19日 12:10
本田技研工業「クラリティ」といえばFCV(燃料電池車)だ。しかし、2017年に北米で「クラリティ EV」が発売。そして、今回試乗するのは2017年の東京モーターショーで発表された「クラリティ PHEV」。つまり、“クラリティ=ホンダのFCV”という構図は崩れたことになる。個人的に、クラリティはホンダのFCVブランドで行ってほしかった思いはあるのだが。EV(電気自動車)そしてPHEV(プラグインハイブリッド)の発表で、そこにはホンダの戦略があることが見えてきたのだ。
ホンダは電動化への扉を大きく開き始めた。2030年までに新車販売の3分の2を電動化する、という目標を掲げている。排出ガスクリーン化とCO2排出量低減というカーメーカーの社会的責任はその重さが加速する一方。もちろん内燃機関の技術革新は続けなければいけないのだが、もう1つ、次世代エネルギーへの転換という課題において電動化は避けて通れない。なぜなら、電気というエネルギーを作る手法は多岐におよぶからだ。
これまでのハイブリッド戦略では、排出ガスクリーン化とCO2排出量低減という課題には効果的だが、どこまでいっても化石燃料抜きでは考えられない。石油に代わる次世代エネルギーへの転換に対応するにはFCVは切り札だが、まだ時間がかかる。直近への対応をしながら近未来への対策を行なう。そのためにはクラリティのプラットフォームを流用するのが効率的、という方向性になった。つまり、直近の対応(PHEV)、そして電動化(EV)、インフラなどの環境を整えながら徐々にFCV(燃料電池車)というレールを敷いているのではないだろうか。
2017年にフルモデルチェンジした「プリウス PHV」と「リーフ」、さらに「アウトランダーPHEV」の市場が着実に伸びている。その市場規模は6万台に達すると見られているのだ。ホンダは2016年3月に唯一のPHEVである「アコード プラグイン ハイブリッド」の販売を終了している。したがって、電動化の潮流に乗り遅れないためにも開発を続ける必要があった。それがクラリティだったのだ。
クラリティの特徴はFCVにもEVにも、そしてPHEVにも流用できるプラットフォームであることが分かった。そして、今回のクラリティ PHEVはアコード プラグイン ハイブリッド(2016年3月終了)から多くのコンポーネンツを継承している。では、アコード プラグイン ハイブリッドとはどう違うのだろう? まず、バッテリーの容量を17kWhに拡大したことでEVモードでの走行距離が37.6km→100kmと大幅に拡大された。PHEVやEVのバッテリー容量を示す数値にkWh(キロワットアワー)が使われるが、ピンとこない人が多いことだろう。そこで比較対象を例にとると、アコード プラグイン ハイブリッドが6.7kWh、プリウス PHVが8.8kWh、アウトランダーPHEVが12kWh、リーフが40kWhだ。つまり、クラリティ PHEVの電池容量17kWhはPHEVの中では最大電池容量で、EVのリーフの半分弱ということになる。
また、これまで普通充電機(200V)のみでの充電だったのが、高速道路のSA(サービスエリア)などにある急速充電が可能になった。最近は急速充電機も高速道路だけでなく、ディーラーや駐車場、コンビニにも設置されるようになってきた。200V充電はマンションなど集合住宅に住む人には無縁のもの。急速充電機インフラの普及は、このような人にもターゲットを広げる意味を持っているのだ。
アコードではPHVといえども頻繁にエンジンが稼働していたのだが、クラリティでは高い車速になるまでEVの状態で走ることができるようになった。今回の試乗ではこの部分がイチバン興味深いところ。エンジン駆動なしのEV状態でどれだけ走れるか? つまりは環境と燃費に優しいEVモードをしっかり使うために17kWhという大容量バッテリーを搭載しているわけで、頻繁にエンジンが稼働して発電・駆動&充電していたのでは本末転倒なのだから。
ちなみに、アコード プラグイン ハイブリッドのシステムはバッテリーを使い切ったあとエンジンで発電し、その電力を使ってモーター駆動する。また、充電もする。もちろん回生充電もする。その上で、高速域になるとエンジンが直接タイヤを駆動するのである。これは、アコード プラグイン ハイブリッドは変速ギヤを持たないため、高回転域ではモーターよりもエンジン駆動の方が効率がよくなるからだ。
そして、エンジン排気量はアコードの2.0リッター→1.5リッターにダウンサイジングされた。エンジンを小排気量化できた裏にはEV出力の高出力化がある。アコード プラグイン ハイブリッドと同サイズながらEV出力は3.3倍。理論上EVのみで160km/hまで出せる出力を備えている。
トランク容量はアコード プラグイン ハイブリッドのゴルフバック3個→4個と大容量になった。クラリティのサイズは全長がアコードと同じ4915mm、全幅は+25mmの1875mmで、全高は+15mmの1480mm。ほぼ同じようなサイズでこのトランク容量は立派。バッテリー容量も大きくなったのに、これが意味するところはそれだけプラグインハイブリッドシステムのコンパクト化に成功したということだろう。
高速域でEV制御はどのように働くのか?
さて、説明が長くなってしまったが走り出そう。発売より事前に開催された試乗会の会場は伊豆サイクルスポーツセンター。クローズドなので制限速度を気にすることなくインプレッションができる。ただし、タイヤ跡が残るようなドリフト走行は禁止されている。つまり、限界のギリギリまでは確かめることができるというわけ。ま、限界域でどうなの?というクルマではないことは分かっているので、それはそれとして(笑)走り始めよう。
ドアを開けた室内空間はかなり広い。スペース感がありくつろげる。走り出すと、予想通りとても静か。走行モードはノーマル、ECON、スポーツの3種類にHVボタンが加わる。この中でイチバンEV走行を持続するのがECONモード。HVボタンはバッテリー容量を保存したいときに使うもので、比較的エンジンを始動してEV走行を抑えて走る。さらにHVボタンを長押しするとチャージモードになり、約60%の充電量になるまでエンジンを積極的に始動して充電をする。HVは帰宅するときや早朝深夜の外出が予定されているとき、バッテリー容量に不安があるときに活躍するだろう。
さて、ECONモードで走り始めると、とにかく静かで場所によっては100km/hあたりまでEVで走る。そのフィーリングは十分に力強く心地よいもの。コースではアップダウンがきつく、バッテリー容量が落ちてなおかつ上り坂など負荷が強くなると速度とは関係なくエンジンが始動する。このときアクセルペダルにペダルクリックという反応があり、EV→HVへの移行を認知できる仕組みになっている。
また、ステアリングにパドルが装備されているが、これで減速Gを4段階にコントロールできる。左側のパドルを引けばアクセルOFFでの減速Gが強くなる仕組み。減速Gを強くすればするほど回生が強くなり発電も比例する。ただ、これを強くすると、アクセルを少し戻しただけで減速になるので、高速道路などのアクセル一定の長距離走行では右足が神経質で疲れやすい。これは個人の好みでどのレベルに設定するかは分かれるだろう。
ただ、スポーツモードを選択するとイチバン強い4段階目になる。これはちょっとしたタックイン現象を生み、なかなか気持ちよくコーナーに飛び込める。スポーツモードではエンジンはほとんど稼働しっぱなしで、エンジン音も気分を高揚させる。その上、サスペンションは比較的ハードなので気持ちよくコーナーに飛び込める。重いリチウムイオンバッテリーを床下に配置しているので、重心が低いこともこのハンドリングのよさに貢献している。
今回の試乗はクローズドコースでの限られたものだったが、今後一般道で走れる日を楽しみにしている。