試乗インプレッション

新たなNISMOファミリーの一員、日産「リーフ NISMO」は意のままに操れるEVだった

Bレンジ(e-Pedal OFF)でNISMOらしさ全開

NISMOシリーズ初のピュアEV

 自動車メーカーによるサブブランドを活用した新しいビジネスとしていち早くスタートし、徐々にラインアップを増殖している「NISMO」の一員として加わった、2代目「リーフ」をベースとする「リーフ NISMO」は、同シリーズ初の100%ピュアEVである点も特筆できる。

 初代リーフにはNISMOの設定はなく、パッケージオプションとして用意されるにとどまっていたのに対し、今回はレッキとしたコンプリートカーゆえ、期待する気持ちもより高まるというものだ。さらには価格も基準車に対して比較的リーズナブルに抑えられているのも魅力。リーフに興味を持っている人で、NISMOがあるのならぜひ検討したいという人も少なくないことだろう。

 既存のNISMOシリーズと同じく、リーフも基準車からの変更点は多岐におよぶ。NISMOの定番メニューである内外装デザインはご覧のとおりで、各部に配された赤のアクセントはもとより、エアロダイナミクス向上のための機能を満載するバンパーや専用のアルミホイール、さりげなくアルカンターラを用いたステアリングホイールや専用生地を採用したシートなどが与えられた特別感のあるルックスはもちろん、走りについてもハンドリングや加速感がNISMOとしてふさわしい味付けとされている。

 試乗会場の「グランドライブ」は、クローズドながら公道を想定したコースとなっており、走り方も本気で攻めるのではなく、一般道でちょっと走りを楽しんじゃおうかな、ぐらいのイメージで走ってみたのだが、その実力がなかなかのものであることは重々よく分かった。

 もともとリーフは普通のクルマっぽく見えながら、いざ走ってみるとアクセルレスンポンスが俊敏で、ミッドシップのスポーツカーのようなハンドリングを味わえるという、見た目と走りのギャップが大きいクルマ。そんなただでさえよくできたリーフの走りをさらによくしたのだから、楽しくないわけがない。

7月31日発売のNISMOロードカーシリーズ第7弾「リーフ NISMO」(403万2720円)。標準車の「X」グレードをベースとし、内外装に専用装備を与えて走りの楽しさを追求したモデルになっている。ボディサイズは4510×1790×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2700mm
エクステリアでは専用のフロントバンパー、フロントグリル、LEDハイパーデイライト、ドアミラー、サイドシルプロテクター、リアバンパー、リアフォグランプなどを採用し、Cd値を悪化させることなくダウンフォースを向上。足下はNISMO専用18インチアルミホイールにハイグリップタイヤのコンチネンタル「ContiSportContact 5」(225/45 R18)を組み合わせる
インテリアはNISMOのアイコニックカラーであるレッドを随所にあしらい、スポーティなデザインに仕上げた。アルカンターラ巻き3本スポークステアリング、インストルメントパネルの専用カーボン調フィニッシャー、ガンメタクローム加飾が施された電動シフトやパーキングブレーキスイッチなどが専用装備になる

足まわりと空力がポイント

リーフ NISMOが搭載する「EM57」モーターは最高出力110kW(150PS)/3283-9795rpm、最大トルク320N・m(32.6kgf・m)0-3283rpmを発生。専用チューニングが施されたVCMを搭載し、モーターの最高出力と最大トルクは基準車と同じ値ながら、NISMOモデルらしい力強く俊敏なアクセルレスポンスを実現。一充電走行距離(JC08モード)は基準車が400kmのところ、リーフ NISMOでは350kmとなる

 サスペンションは、あえて基準車から車高を変えないためスプリングはそのままで、ショックアブソーバーのみ変更。とくに伸び側を強化した減衰特性としたほか、タイヤとホイール、パワーステアリング、VDC(ビークルダイナミクスコントロール)などが専用にチューニングされている。空力についても、基準車もかなり頑張っていてゼロリフトに近いところにあるのに対し、NISMOにはCd値を悪化させることなくダウンフォースを稼ぐための、まず性能ありきのデザインが与えられている。

 いざ走ってみると、いかにも空力が効いていそうな感覚があることがまず印象的だ。ダウンフォースが増したことで路面に張りつくかのような感覚が高まり、ボディの動きが抑えられてフラット感も増し、直進安定性やコーナリングでの安定感が高まっているのは明らか。リーフならではのグライダーが滑空するかのごとき滑らかな走り味に、さらに磨きがかかったように感じられた。路面の段差を乗り越えたときに伝わる衝撃も上手く抑えられている。

 さらには基準車よりもやや重くされた操舵力と、サスペンションやタイヤとのマッチングがとてもよく、微小な舵角からリニアにクルマが応答するようになっている。加えて、ステアリングインフォメーションの情報量が増し、より素早く伝わるようになったことで、修正舵をあてる量も少なくて済む。おかげでよりラクに高速巡行できるうえ、コーナリングでもイメージどおりにラインをトレースしていけるようになっている。

空力性能について。専用バンパーなどにより空気抵抗を悪化させずにダウンフォースを増大
専用タイヤ&ホイール、サスペンションとともに、VDCなども専用チューニングし、スポーティなハンドリング性能を実現した
サスペンションのスプリングは基準車と同じになるが、フロントショックアブソーバーの減衰力をベースから25%、リアショックアブソーバーの減衰力を33%それぞれ向上
電動パワーステアリングやインテリジェント トレースコントロール(コーナリング安定性向上システム)も専用チューニング
専用タイヤとアルミホイールについて
ブレーキの制動性能や乗り心地性能について

Bレンジでe-PedalをOFFにすると……

 アクセルを踏み込んだときの加速感も基準車とはひと味違う。実は基準車というのはポテンシャルを出し切っておらず、一般ユーザー向けにややマイルドな味付けになっているのが事実。そこでNISMOでは、走りを求める人のために、e-PedalをOFFにしてBレンジを選ぶと全てを解き放って出し切るセッティングにしたという。

 そのBレンジを試してみると、アクセルレスポンスがさらに輪をかけて瞬時に立ち上がり、パワフルになることを直感する。そしてペダルから足を離すと、より素早く減速する。このまさしく“意のまま”のリニアな加減速レスポンスのおかげで、本当に気持ちよく走ることができる。エンジンで走るクルマでこのドライブフィールを実現するのはまず無理だ。

各シフトモードの加速の強さ、減速の強さについて

 ただし、アクセルOFFで減速するのはよいのに対し、ブレーキペダルを踏んだときの反応はやや遅れがち。そこのバランスが図られるとなおよいかなと思う。また、まったく別の話だが、基準車と同じくステアリングにテレスコピックがないのが残念。絶対にあった方がよいので、今後の改善に期待したいところだ。

 クルマを楽しむ要素として、エンジンの音や鼓動といったものを求めると話は別だが、アクセルを踏んだとおりに加速してステアリングを切ったとおりに忠実に動いてくれれば、それはクルマとして“楽しい”ことは言うまでもない。その味付けが巧くてリニアであればあるほど走る楽しさも増すのは当然。

 リーフ NISMOはまさしくそんなクルマ。既存のクルマには真似できないレベルでそれを実現していて、もちろんゼロエミッションや静粛性、経済性などといったEVならではの美点もそのまま。リーフ NISMOの凄さは、そんなかつてない新しい価値を身に着けているところにあるのだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛