試乗レポート
日産「リーフ NISMO」が“マニアック”に進化。爽快かつフラットなドライビングにEVの未来を見た
ステアリングギヤ比、スプリングレート、電子セッティングなどの変更で走りをブラッシュアップ
2020年7月20日 14:00
わずか2年で進化することになった「リーフ NISMO」。MY20(モデルイヤー2020)となる今回の仕様は、ハッキリ言ってかなりマニアックだ。エアロパーツが生み出す空力効果はこれまでと変わらず、外観上はほぼ同じで唯一異なるのはルーフのアンテナにドルフィン形状のタイプが加わったことだが、中身については別物といえるチューニングが施されている。結論から先に言ってしまえば、スタビリティコントロールをはじめとする電子制御と、ギヤ比といった機械的な部分と進化の可能性の広さがうかがえる内容。もちろん、そこには「もっとよくしたい」という開発陣の想いがあってこそ実現したもの。
MY20で行なわれた改良は、まずステアリングのギヤ比をMY18の18.3:1から14.9:1へと改めることで、少ない操舵角と位相遅れを出さないように設定。これはスポーツカーに迫る数値。EPSの制御も専用チューニング。また、IDM(インテリジェントトレースコントロール)の設定を改めている。これは4輪のブレーキをそれぞれつまんで曲がりやすくするものだが、これを改良したことでS字コーナーなどの切り返しが発生するシーンで、初期応答の向上と巻き込み向上によって、ロールダンピングを向上させたという。さらにトラクションコントロール制御もコーナー出口では介入をMY18に対して少し抑えたところもポイントの1つだ。
一方でブレーキに対しても改良が行なわれた。使っているものは基本的にすべて変わらないそうだが、電動型制御ブレーキの液圧コントロールをチューニングすることで、踏力に対する液圧の立ち上がり方を鋭くし、減速度を高めている。
足まわりに対してもスプリングレートを高め、フラットな乗り心地を実現しようとしている。硬めだが即座に収束する方向に持っていこうということだろう。スプリングレートはフロント14%アップ(28→32N/mm)、リアは25%アップ(48→60N/mm)。減衰力は、フロントは伸び縮みともに10%アップ、リアは伸び側30%アップ、縮み側10%アップ。リアはバンプラバーをゴムからウレタンにすることで、コーナーリング中の姿勢が崩れないように改めたという。
最後にオプションとなるがシートヒーター付きのレカロシートも設定された。これは乗降性も確保しながら、サポート性を保つように設計が行なわれており、シートバックの形状を見直し、縫い目の部分をなるべく内側に入れることで、肩甲骨あたりを面で支えるように進化したものだという。走りが洗練されコーナーリングスピードの向上も見込める1台なだけに、最後の支えとして大いに役立ってくれるだろう。
テストコースで比較試乗
MY18を確認試乗した後に、MY20に乗り換えてテストコースを走る。Bレンジでスタートすると、スタートダッシュはMY18と同様に基準車とは別物と思える爽快なトルクの立ち上がりが感じられる。とはいえ、敏感すぎてジャジャ馬になっているわけではない。求めた通りのリニアさがある中で、それを得られる仕上がりはMY18から変わらずだが絶妙だ。しかしMY20はスプリングを変更していることで、そこまでのスタートダッシュを実現したにも関わらず、ピッチング方向にクルマが動かずフラットさをキープしていたところはさすがだ。MY18のノーズが浮き上がる感覚は皆無だ。
S字区間に入ればたしかに応答遅れはなく、少ない操舵角でクルマ全体が反応し、難なく駆け抜けることを許してくれる。さらに荒れた路面においてもクルマ全体が入力を受け止め、前後バランスのよい姿勢で通過することができる。従来型はリアが沈み過ぎる傾向があり、フロントタイヤだけに頼ってコーナリングする感覚があったのだが、MY20にはそんなフィーリングは一切ない。どんな状況でもフラットで落ち着いた姿勢でいられるのだ。おかげでトラクションは良好。だからこそTCSの介入を遅らせることができたのだろう。
減速側に対してもワンペダルで着実な減速を許してくれる。よっぽど飛ばせばブレーキペダルを触りたくなるだろうが、一般的な状況であればほぼワンペダルで走り切ることができそうだ。後にスポーティな走りにもトライして強めのブレーキングをしてみると、踏力を引き上げれば求めただけ減速してくれる感覚になったことは嬉しい。
オプションのレカロシートについてはホールド性をきちんと生み出してくれていることは間違いない。ワインディングやサーキットを楽しむのであれば是非とも装着したいアイテムだ。だが1点だけ惜しいのは、基準車のシートよりも着座位置が若干上がってしまったことだ。身長175cmで座高96.5cmの胴長短足だと、ちょっとだけ気になるポイントだった。
とはいえ、たった2年ちょっとでここまで進化したことは驚くばかり。それも主に制御系の煮詰めだけで終わることなく、シャシーも地道に進化させたうえでチューニングを行なったところにNISMOの良心を感じる。これぞ老舗の自動車メーカーが作るEVってもんだろう。電気になろうとも走りの味を大切に考えているところに、明るい未来を感じた。