試乗レポート

プジョーの新型「208」。1900kmの試乗でガソリンモデル「GT Line」の実力を確かめた

プジョーの新型「208 GT Line」

 プジョー(Groupe PSA Japan)から欧州カーオブザイヤー2020に輝いた新型「208」の導入が開始された。そこで1900kmほどの旅に連れ出し、じっくりと味わってみたのでレポートしよう。

EVもガソリンも同じプラットフォームで

 現在日本に導入される新型208は大きく2種類あり、1つは今回テストに供したガソリンエンジンモデルと、もう1つはEV(電気自動車)の「e-208」だ。

 どちらも同じ最新世代の車両プラットフォーム CMP(Common Modular Platform)を採用。このBセグメントおよびCセグメント専用の新しいプラットフォームは、ディメンジョンとパワーユニットのバリエーションに高い柔軟性を備えている。その最大の特徴は居住空間、ラゲッジスペースなどを限りなく共通にしつつ、BEV、ICE(Internal Combustion Engine=内燃機関)のどちらの動力源にも対応するプラットフォームで、ユーザーはICEと電気モーターのいずれかのパワートレインを自由に選べることだ。

新型208 GT Lineのボディサイズは4095×1745×1465mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2540mm

 詳細は別記事に譲るとして、今回借り出した208は、直列3気筒1.2リッターターボエンジン「Pure Tech」を搭載するガソリンモデルだ。最高出力は74kw(100PS)/5500rpm、最大トルクは205Nm/1750rpmを発揮。組み合わされるトランスミッションは電子制御8速AT(EAT8)を採用している。

最高出力74kw(100PS)/5500rpm、最大トルク205Nm/1750rpmを発生する直列3気筒DOHC ターボエンジンを搭載

 208の外装を見てみるとグロスブラックのホイールアーチが目に留まる。これはGT Line専用のもので、スリムなボディと対称的にさらにタイヤを大きくワイドに見せている。またこのグレードではアリュールの16インチに対して17インチホイールを採用。スポークの間に樹脂のブレードをインサートすることでバネ下重量の削減(1台あたり約3.6kgの軽量化)とホイールまわりのさらなるエアロダイナミクスの向上を実現しているという。

最新型のi-Cockpitを採用するインテリア

 内装では近年のプジョーが採用しているi-Cockpitの最新型が搭載されている。このi-Cockpitは、大きく3つから構成されており、小径ステアリングと、その上から見るヘッドインストルメントパネル、そしてセンターに位置するタッチパネルだ。新型208ではヘッドアップインストルメントパネルに3D(除くスタイル)を採用。3次元表示により奥行きを用いて情報が変化して表示される。具体的には手前の一層目には主に重要かつ安全に関する情報、二層目にはそれらに準ずる情報が表示される。この3Dの表示によりドライバーは情報に対して0.5秒ほどの反応時間を短縮する効果があるという。

 シートはGT Lineにはホールド性の高いダイナミックシートを装備。シート素材にアルカンタラ&テップレザーを採用。アリュールには長時間ドライブでも疲れにくいコンフォートシートが設定された。

取りまわしが楽なボディサイズ

 今回は2泊3日のテストとして、初日は東京を出発し、名古屋まで東名を利用し用事を済ませ、そのまま伊勢湾岸、新名神、中国道、米子自動車道などを経由し出雲まで。2日目は大山あたりを走らせたあと、3日目は若干ルートを変え、東名と中央道を使いながら一気に帰京する1900kmのルートを組んだ。

 借り出したのはパールホワイトの208 GT Line。オプションのパノラミックガラスルーフとナビが装着されていた。

 さて、ざっと車両概要を頭に入れたところで、208 GT Lineに乗り込んでみよう。ドアを開けて、クッション性が高くふわっと腰まわりを包み込むホールド性の高いシートに腰を下ろす。シートの上下と前後、そしてリクライニング機能、ステアリングのテレスコピック機能を使い最適なポジションを探り当てると、必然的に小径ステアリングの上からメーターを見下ろすポジションになる。当初は違和感を覚えるかもしれないが208などのハッチバック系と508に限っていえば、すぐに慣れ好ましく感じてくるだろう。

 ステアリングの左側にあるスタート・ストップボタンを長めに押し続けると3気筒エンジンは軽やかに目覚めた。

プジョー独特のATシフトレバー

 これもプジョー独特のATシフトレバーのサイドにあるボタンを押しながら手前に引きDをセレクト。ゆっくりとアクセルを踏み込めば電制サイドブレーキは自動的に解除され、208はするりと走り始めた。路地をぐるぐるとすり抜ける際、208ほどのボディサイズは非常に取りまわしがよいので楽だ。さらに小径ステアリングのため、その操作が忙しくないのもありがたい。惜しむらくはドアミラーがピラーにマウントされており、その位置と高さから特に右側に大きな死角が発生してしまっているので、右折時は注意が必要だ。

 幹線道路に出て深々とアクセルを踏み込むと、3気筒100PSのクルマかと驚くほど力強い加速を開始した。注意深く観察すると4000rpmくらいから3気筒独特のサウンドが耳に届き始めるが、決して不快なほどではない。いずれにせよ1180kg(サンルーフなしは1170kg)という比較的軽い車重とこのエンジンの出力はベストマッチといえるだろう。

新型208 GT Line

太いタイヤでも乗り心地は許容範囲

 そんな印象を抱きながら高速道路に入り、料金所から一気に加速するとやはり必要にして十分以上のパワフルさを感じるだろう。これは高速道路のあらゆるシチュエーションでも変わりなく、積極的にシフトダウン、アップを繰り返す優秀なシフトプログラムとも相まってストレスはまったく感じず、場合によっては流れを積極的にリードするほどの余裕を持ち合わせている。

 そういった時に大きく貢献するのが高い直進安定性だ。矢のようにとまではいわないが、ほとんど修正舵なく高速を走行できるのは大したもの。特に海沿いや山間などで横風の強いシーンであってもそれほど進路を乱されないのは高く評価できる。

 個人的にはフランス車はできるだけ細く扁平率の高いタイヤの方が乗り心地がよいという考えを持っているが、近年のGroupe PSAのクルマたちはそれが当てはまらなくなりつつある。例えばSUVの「DS3 クロスバック」や「C3 エアクロス SUV」などはその典型だ。そういう意味ではこの208も当てはまる。205/45R17(テスト車はミシュラン プライマシー4を装着)は性能からするとファットといえるが、その乗り心地は許容範囲であり、外観の見た目はタイヤがしっかりと地面を踏みしめている印象でスポーティさとともに安定感があるので、ついこちらを選びたくなる。

新型208 GT Lineはミシュラン「プライマシー4」を装着。サイズは205/45R17

 乗り心地も良好でボディ剛性が高いこともあり、足がきちんと仕事をしてむやみに突っ張ることなくショックを吸収していることが伝わってくる。確かにタイヤサイズによるバネ下の重さは気にはなるものの、それが大きくネガティブな印象にはつながらないだろう。

 もう1つ付け加えるならば、シートのできがよいことだ。流石に800km近くをまったく同じ姿勢で運転することはできないが、初日の出雲の宿に就いた後、原稿を書けるくらい疲れが少なかったといえば、その優秀さが伝わるだろうか。

 また、3Dとなったメーターは昼夜を問わず非常に見やすく目にも優しく、さらに疲れにくいのは発見だった。重要な情報を手前に表示という説明だが、特に意識せずとも必要な情報を瞬時に得られるので有効な仕様だと感じた。

ワインディングでは生き生きと

 出雲などの山陰方面では荒れた路面からワインディングまで、さまざまなシーンで走行することができた。その印象はとても軽快であるということのひと言に尽きる。しかもワインディングでは安定したスタンスで思い通りのラインでコーナーからコーナーを“ひらひらと”駆け抜けることができる。そういった時に多少荒れた路面でもタイヤはしっかりと路面に食いつきグリップするので安心感もあった。このあたりは17インチの面目躍如といったところだ。しかもサイドサポートがしっかりとしたシートのおかげで腰が安定してドライビングに集中できるのも評価できる。

 こういったシーンでは結構な上り坂もあったがこの208は本当にストレスなくグイグイと登っていく頼もしさを備えている。ターボエンジンでは低回転域のトルクの細さが気になるクルマもあるが、208に限っていえばそういうことはない。しかしせっかくなのでパドルシフトを駆使してドライビングを楽しみたくなる性格を持っている。ものは試しにとドライブモードをスポーツに切り替えてみると、シフトタイミングが高回転になるとともに、ステアリングが若干重くなる。同時にスピーカーからスポーティーな排気音が“流れて”来るのは面白かった。308のンディーゼルなどではまるでAMGのV8のようなサウンドを聴くことができたが、今回はそこまでのチューニングではなく、ちょっとだけスポーティな音であった。

気になる安全運転支援システム

 さて、ここまで大いに評価が高かった208だが、今回のテストで気になった点をまとめておこう。唯一、そして最大の欠点ともいえるのが安全運転支援システムだ。装備としては充実しており申し分はない(グレードによって差がある)。これまでGroupe PSAの多くのクルマをテストしてきた経験からいって、今回の208はあまり高い評価は与えられなかった。

 まずアクティブクルーズコントロールだが、例えば95km/hに設定したとすると、そのデジタル表示が変わらない範囲でわずかな加減速が繰り返され、それが乗員に伝わってくるのだ。実際には速度調整はどのクルマでも行なっているのだが、加減速はかなりファジーでほとんど乗員は気付かない範囲だ。しかし、208の場合はそれがかなり細かいようで、逆に気づいてしまう様相を呈していた。また、並行して走行しているクルマを拾ってブレーキが掛かるエラーも多々あったのでかなり気になってしまった。

 次にレーンポジショニングアシストとレーンキープアシストだ。レーンポジショニングアシストは、左右の車線の任意の左右位置(無段階)をドライバーが選び、その白線から一定の距離を保ったまま走行が可能で、一般的には左右両車線の中央をキープするが、ドライバーの好みや工事などでガードレールが迫っている場合など乗る人の感覚に寄り添った制御ロジックを持っており、これはGroupe PSAだけのもの。ほぼ全速度域でステアリング補正を実施する。

 そして、レーンキープアシストは、約65km/h以上の速度で走行中、車載カメラが車線を検知し、ウィンカー操作がない状態で車線からはみ出しそうになると、自動的にステアリングに反力を生じさせ、元の車線へと戻すシステムだ。

 この2つの相性がわるいのか、車線内での位置を修正したいとステアリングに修正を与えようと力を加えると抵抗にあい、それを超えると一気に軽くなって、今度は切り過ぎそうになる。また、工事が終わった後の消された白線に反応して突然ステアリングに補正が入ることもあったので、この2つを使えば使うほど疲れが増えてしまう。ほかのGroupe PSAの車両ではここまでは感じないので、今回は輸入極初期の車両であることから、個体差、あるいは今後調整が進む可能性もあるので、そこに多いに期待したい。

新型208のインテリア
7インチタッチスクリーン
3Dデジタルヘッドアップインストルメントパネル

 また、これはGroupe PSAの各モデルにも共通するのだが、空調関係の調整などもすべてセンターのタッチスクリーンで行なわなければならない。例えば温度を少し下げたい、あるいはあげたい場合には、スクリーン左側の一番下にあるセンサーに触れて画面を変え、温度を調整し、再びセンサーのどれかに触れて元の画面に戻す操作が必要だ。つまり、それぞれの操作をするたびに指が確実にそこに触れているのか、操作は確実に行なわれたかを目視する必要に迫られるので、その瞬間、前方から目を離す結果となり非常に危険だ。ぜひこの辺りは物理スイッチなどをうまく利用してほしいと感じた。

市街地、郊外、高速道路での燃費性能は?

 さて、最後に燃費の報告をしておこう。

・市街地走行242km:10.0kmm/L(WLTC市街地モード燃費値:13.0km/L)
・郊外走行74km:13.3km/L(WLTC郊外モード燃費値:17.3km/L)
・高速道路1600km:17.9km/L(WLTC高速道路モード燃費値:19.3km/L)

(*車載のトリップメーターはコンマ1桁を表示しないのでそのままで記載)

 という結果だった。これまでの経験からいうとWLTCモード燃費とほぼニアリーイコールの結果が多かったが、今回は全般的に下まわった。市街地では撮影やストップ&ゴーが多かったこと、郊外ではワインディングも含まれているので、ほぼこれが下限値と思っていいだろう。

 そういった意味では市街地で10km/Lを下まわらないのは優秀といえる一方、郊外ではもう少し伸びてもいいかという気もするが、これは8速に入るのが100km/hを僅かにオーバーしなければ入らないほどのかなりハイギヤードな設定も影響しており、この辺りはもう少しファイナルのギア比も含めて日本の道路事情を勘案すれば、より燃費は伸びると思われる。

1900km走行後のオドメーター

 1900kmほどプジョー208 GT Lineをテストした結果は、このセグメントのスタンダードを引き上げるクルマが登場したということがいえる。質感も比較的高く見やすい3Dのメーターもある。長距離移動も疲れないコンパクトハッチバックはなかなかないだろう。もちろん安全運転支援システムのチューニングは必要だが、それさえクリアすればいいだけのこと。Groupe PSAとしてもその点は把握しているはずで、早急に改良が施されるだろう。

 では、どのグレードが買いか。それはどのような使用条件かによる。ワインディングを十分に楽しみたいということであればGT Lineを勧めるし、街中や高速移動が中心であれば「アリュール」がよいだろう。

 フランス車好きとしては廉価グレードの「スタイル」にも注目したい。16インチのスチールホイールを履き、エアコンもマニュアルだ。クルーズコントロールは追従型でもないし、レーンポジショニングアシストもつかないが、優秀な足車としての素養は備えている。走りの面はほかの208とまったく変わらないので、さらっと普段使いでこのクルマに乗るというのもしゃれていると思う。例えば路地裏のパン屋にバゲットなどを買いに行くのにこのクルマで行くというのは素敵ではないか。だからといって東京タワーがエッフェル塔には見えてはこないだろうけど。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。