試乗レポート
2代目プジョー「208」はジワリと粘る“猫足”も健在の元気なホットハッチだった
2021年2月12日 08:00
欧州と日本でカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した「208」の乗り味はいかに?
もし目の前でライオンに牙を剥かれたら、震え上がって生きた心地がしないはずだが、こちらのライオンは何度見ても、先進的でオシャレで精悍。いわゆる“いい面構え”だというのが大方の評価となっている。大きく口を開けたフロントグリルに、両サイドには牙をモチーフにしたデイタイムランニングライト、リアにはかぎ爪を思わせるテールランプが個性的なプジョー「208」だ。
2019年のジュネーブショーで披露されて以来、販売も好調で欧州カー・オブ・ザ・イヤーに輝いただけでなく、日本にも2020年7月に上陸し、日本のインポート・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得。久々にやってきた大物フレンチコンパクトカーである。名称は従来通りの方式なら「209」となるはずだったが、今回はそうではなく208の2代目ということになった。
しかしその中身はプラットフォームから一新。モジュール化によってガソリンからEVまでカバーできる柔軟性と高剛性を併せ持つ、新世代の小型車向けプラットフォーム「CMP(コモン・モジュラー・プラットフォーム)」を採用している。
パワートレーンは直列3気筒1.2リッターターボエンジン+8速ATの組み合わせで、グレードはベーシックな「スタイル」(受注生産)、装備と価格のバランスがいい「アリュール」、17インチタイヤでスポーティな内外装となる「GTライン」の3構成。この日の試乗車は、16インチタイヤを履くアリュールだ。
文字が浮かび上がっているように見える先進的なメーター
運転席に座ると、まず目に入るのは文字が浮かび上がっているように見える、「3D-iコクピット」と呼ばれるデジタルメーター。さりげなく先進的で洗練されたセンスを感じさせながら、必要な情報は分かりやすく表示される。センターパネルに7インチのモニターも設置され、Apple CarPlayとAndroid Auto対応で、スマートフォンをつないでナビや音楽などが使えるようになっている。
こちらは実際、2020年の初秋にiPhoneをつないで合計5時間ほど走ってみたが、これで十分だと思える便利さだった。ただメーターに関しては、本来なら日差しを遮る役目を果たすはずのメーターナセルの左右に隙間が空いており、日差しの向きによっては光が当たって反射し、見えにくいと思う場面があった。
そしてステアリングは小径で、上下がフラットなタイプを採用。シートはサイドサポート形状がほどよくあり、同クラスのコンパクトカーのドライビングポジションよりも、少し深い位置に腰掛けるように感じるかもしれない。この感覚は、プジョーに慣れ親しんだ人にとってはしっくりくる“お約束の”ポジションだ。
スタートボタンを押すと、振動もノイズも小さくエンジンが回り始める。それがアクセルをひと踏みした途端、さっきまでは猫を被っていたのだと痛感する、軽やかでイキイキとした加速フィールに変身。8速ATがいい仕事をするようで、加速と減速のコントロールが思いのままにしやすく、都市部のストップ&ゴーさえ楽しくなってくる。
高速道路に入ると、ETCゲートから本線までの合流で、すでにスカッと爽快。踏み始めてすぐからターボがダイナミックに引っ張り上げてくれる感覚で、「エンジンっていいな」という喜びに浸らせてくれるから、何度も再加速をしたくなってしまう。最近のコンパクトカーは風切り音などのノイズもよく抑えられているモデルが多いので、208が別段優れているとは言い難いものの、高速巡行中でも運転席と後席で普通に会話ができ、不快なノイズに疲れることはまったくない。
また、2020年の初秋に信州の山道を走った際に、かつて「ホットハッチ」と呼ばれた「205」や「206」の勇姿がまざまざと蘇るような、熱い走りを体験した。カッチリとした剛性感のあるボディと、そのボディの荷重移動を絶妙なしなやかさで受け止めるサスペンション。タイトなカーブでは、「猫足」と呼ばれた頃のリヤサスペンションのジワリとした粘りが感じられ、さすがと唸らされた。
しかも、ヒヤリとするような危うい挙動がまったくない安定感に感心しきり。猫足時代はトレーリングアームだったリヤサスペンションは、今はトーションビームになっているのだが、先代208よりもこうした「プジョーらしさ」が復活していると感じて嬉しくなる。いつの間にか、クルマがいいだけでなく自分の運転が上手くなったような気にもさせてくれて、すっかり夢中で汗ばむくらい走り回ってしまったのだった。
さらに、208にはノーマル、エコ、スポーツと選べるドライブモードがあり、エコだとやっぱり爽快感が物足りなく感じてしまう。でも必要以上にアクセルを踏みすぎないので、ノロノロ渋滞の時などに使うといいかもしれない。スポーツモードにすると、アクセルペダルの反応が俊敏になったり、ハンドルもややガッチリとした手応えになる気がしたり、低く吠えるようなエンジン音が聞こえてきて、気持ちを高めてくれるのが嬉しい。きっちりと3つのキャラ変が味わえるようになっている。
そして208には、全車速追従機能付きのクルーズコントロールや、ステアリング操作をアシストしてくれるレーンキープアシストといった、先進の運転支援システムも装備された。高速道路で作動させてみたところ、操作感はおおむねよかったのだが、スイッチがハンドルの裏についており、なかなか運転中に目で見て確認することが難しい。慣れればブラインド操作ができるとは思うが、できればステアリングスイッチにしてもらえると、初心者も使いやすいのではと思った。
前後席にUSBポート、ワイヤレス充電も完備する高い利便性
使い勝手の面では、後席は208と全長がほぼ同等の新型「ノート」(全長4045mm)と比べると、わずかに足下や頭上はタイトな印象。全長3995mmで驚異的な後席空間を持つ「フィット」には及ばない。ただ、チャイルドシートやジュニアシートを装着して子供を乗せてみたところ、それほど窮屈さはなく、家族3人ならそこそこ快適に使えそうだと感じた。
ラゲッジスペースは5人乗車時で265Lと、このクラスの標準的な容量を確保しており、開口部も大きめ。6:4分割で後席が倒せるため、ベビーカーなど大きな荷物を積むことも可能だが、完全にフラットにはならず少し段差は残る。そのほか、前席まわりの収納スペース、カップホルダーやUSBポート、非接触充電などが揃い、使いやすさもしっかり考えられている。
2020年は日本車でも「ヤリス」や「フィット」、2020年末に駆け込みでノートがフルモデルチェンジし、実力派コンパクトカーが豊作だったのだが、そこに勝るとも劣らないライバルとして推したいのが、この新型208だ。特に乗るたびにウキウキさせてくれたり、走ることに夢中にさせてくれるコンパクトカーを探している人には、ぴったりの1台。いつまでもフレンチコンパクトをマニアだけのものにしておくのは、もったいない。208には、食わず嫌いを克服するどころか、大好物にするチカラがあると実感したのだった。