試乗レポート

フォルクスワーゲンの新型SUV「T-Roc」でエコランにチャレンジしてみた

高速道路モード(WLTC-H)の21.0km/Lを上まわることはできたのか?

2020年7月に発売されたフォルクスワーゲンのクロスオーバーSUV「T-Roc」でエコランを行なってみた(左が筆者。右はエコランとしてはお荷物といって過言ではない編集者)

T-Rocでエコラン

 メーカー主催の試乗会で燃費競争が行なわれることがあるが、今回ほど燃費的に厳しいコースはないだろう。最終目的地は標高759mの諏訪湖。その途中には中央自動車道の最高標高ポイントである1015mが立ちはだかる。もちろん、アップダウンがあって、最終的にスタート地点と同じ標高に辿り着けばチャラとなりそうだが、走り始めは都内。このコースで燃費をアピールするにはムリがあると思いつつ、クルマ移動に慣れている人にとって約200kmの行程となる東京~長野間くらいの移動はよくある話。参考になる部分もあるだろう。

 今回共にするのはフォルクスワーゲンのSUV次男坊である「T-Roc」だ。燃費を考えてクルマを見れば、SUVとはいえクーペを思わせるルーフラインを描いているから空力的には有利か? ボディサイズは4240×1825×1590mm(全長×全幅×全高)と欧州SUVとしては小さめ。前面投影面積もパッと見る限りは少ない部類だろう。ちなみに車重は1430kgとそれほど重くはない。FFレイアウトであることが効いているのだろう。

T-Rocの日本導入モデルは全車直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を搭載し、試乗車は「TDI Sport」(419万9000円)。ボディサイズは4240×1825×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2590mm
TDI Sportの足下は10スポークの18インチアルミホイールにファルケン「AZENIS FK453」(215/50R18)の組み合わせ
2.0 TDIエンジンは最高出力110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルク340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpmを発生。WLTCモード燃費は18.6km/Lだが、今回エコランで走行したのは高速道路が主体のため、ターゲットは高速道路モード(WLTC-H)の21.0km/L。この数値を上まわることを目指した
T-Rocはコンパクトなサイズながら広々とした室内空間を実現するとともに、安全装備では先行車を完全停止状態まで自動追従して走行するアダプティブクルーズコントロール“ACC”(全車速追従機能付)、プリクラッシュブレーキシステム“Front Assist”(歩行者検知対応シティエマージェンシーブレーキ機能付)といった先進安全装備を全車に標準装備する
画面全体にナビゲーションマップを表示できるデジタルメータークラスター“Active Info Display”は全グレード標準装備。また、純正インフォテイメントシステム“Discover Pro”では走行モードを選択でき、今回はエコモードを主体に走行した。なお、T-Rocは2020年12月にアップデートを受けており、eSIM内蔵の通信モジュールを搭載して常時オンライン接続が可能になった新世代インフォテイメントシステム“Discover Media”を「Style Design Package」以上のグレードに標準設定する
適度なホールド性が魅力のTDI Sportのシート。ラゲッジスペースはクラストップレベルの445L(VDA方式による欧州測定値)とし、後席のシートバックを倒すと最大1290L(同)まで拡大可能

 搭載されるエンジンは2.0リッターディーゼルターボで、最高出力は110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルクは340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpm。燃費はWLTCモードで18.6km/Lと示されている。これに7速のDSGが組み合わされている。スリップロスを最小限に抑えるDSGと、わずか1750rpmから最大トルクが発生するという組み合わせにより、できるだけアクセル開度を落としながら走れれば、この難局も乗り越えられるか?

東京~長野間の総走行距離は197km。首都高速道路の五反田ICから乗って4号新宿線経由で中央道(中央自動車道)を走る予定だったが、大橋JCTから高井戸ICが断続9kmの渋滞! そのため大橋JCTから3号渋谷線を経由し、東名高速道路、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)を経て中央道に入る算段に
ところが取材日は各所で渋滞が激しく、東名 東京料金所から横浜青葉ICまで工事渋滞6km、さらに横浜青葉IC~海老名JCTが渋滞9kmという試練。そのため用賀ICで降り、環状8号線で中央道の調布ICを目指すこととした。環八も詰まっており、エコランとしてはなかなか厳しい状況

カギになるのはコースティングモード

 期待と不安の中、T-Rocに乗り込んで真っ先に行なったのが走行モードをエコにすることだった。アクセルが穏やかになり、無駄に踏み込みにくくするその制御は、エコドライブを快適に支えてくれる。あまりに反応がよすぎると、細かなコントロールに疲れてしまうが、コレならそんな心配はない。それでいて走り出しから力強く、アンダーパワーに感じないところがこのパワーユニットの見どころの1つ。回転を上げずに次々とシフトアップを繰り返し、速度を重ねていく感覚が心地良い。まさにグッと前に出るようなフィーリングだ。また、ディーゼル特有の音や振動はそれほど大きくない。これなら街中でも不満ナシだ。

 そのエコモードで最も効果を発揮するのはコースティングモードだ。駆動を断ち切り、クルマを惰性で転がすことを許すそれは、フォルクスワーゲンの十八番ともいえるもの。アクセルONの状態では「E7」などエコモードとギヤの段数がセットで示されるが、アクセルOFFにした瞬間からメーター内の表示からギヤの段数が無くなり、Eとなった時点でギヤはニュートラルになる制御である。これは街中でも体感できるもので、例えば遠くの信号が赤に変わったと見えた瞬間からアクセルOFFにしてしまえば、スーっと転がり続けていく感覚に溢れている。まるでそれはカーリングをやっているかのようなフィーリングで、停止線寸前までスムーズに転がれば気分爽快かもしれない。

中央道最高標高点の1015mを超え、ここからは下り坂。ここからいかに燃費を稼げるか勝負といったところ

 高速道路に乗り、そのコースティングモードが威力を発揮するのはやはり下り坂だ。中央道でいえば、小仏トンネルから勝沼ICへと下り続けるようなシーンでは、スピードがみるみる高まっていくほど。ニュートラルにギヤがいるとなると不安材料にもなりかねないが、ブレーキを踏んだ瞬間にギヤは繋がり、安定させることも忘れていないところはさすがだ。もちろん、速度が高まり過ぎればシフトダウンを任意に使う必要にも迫られたが、その状況であれば燃料カットも働くはずだから、回転が上昇したとしても不安はない。

 一方、中央道の最高標高地点へ向けた上りは最後の難所だったが、低回転からトルクフルなエンジンのおかげもあり、さほどアクセルを開けることなく速度をキープしながら走り切ることができた。実用域のトルクをシッカリと持たせ、リアルなシーンで役立つセットといえるだろう。勾配がきつくなれば細かくシフトダウンをしてそれに対処しているところも絶妙だった。7速ということもあり、1速落としただけではそれほど回転が高まらないところも好感触だった。

 こうして難所を上り切ったあとは、諏訪ICまで下り坂。例のコースティングモードの威力を最大限に発揮! 結果的にゴール地点では22.6km/Lの燃費を叩き出した。実はこの時にもう1台が同じプログラムをこなしていたのだが、そちらは22.5km/Lを記録していた。厳密には共に通ったルートも違い、もちろん走り方も違ったのは言うまでもない。こちらは3人乗車、あちらは1人だったのだ。こうした条件の違いをものともせず、誰もが安定した燃費を出せるというところに感心した。これこそがこのディーゼルユニットと7速DSGの良さではないだろうか? T-Rocという燃費的にはやや不利な条件であるSUVであっても、ここまで走れれば大満足だ。

諏訪 茅野ICの出口付近での平均燃費は22.5km/L。ここからコンマ1伸ばすことに成功し、最終的に22.6km/Lでゴール
2媒体によるエコラン競争を何とか制して優勝! フォルクスワーゲン グループ ジャパンから景品をいただきました

 帰路はワインディングや高速道路を元気に走ってみたが、SUVとはいえグラつくこともないため操る愉しみが十分に感じられた。これなら日常からレジャーまで快適に使えそうだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛