試乗レポート

フォルクスワーゲンの新型SUV「T-Roc」が日本デビュー。「ティグアン」「T-Cross」との違いはどこにある?

「ゴルフ」で物足りなくなった人に勧めたいクロスオーバーSUV

「T-Roc」が日本市場デビュー

 容姿端麗にして文武両道な「ティグアン」、天真爛漫にして実用性も高い「T-Cross」。このフォルクスワーゲンSUV兄弟に、新たな仲間が加わった。ボディサイズからしてティグアンとT-Crossの中間を担い、フォルクスワーゲンブランド取締役会会長・Dr.ヘルベルト・ディース氏をして「フォルクスワーゲンの美点が凝縮されている」と言わしめる、まったくのブランニューモデルとなる「T-Roc」だ。

 その車名にはT-Cross同様、すでに世界的に成功を納めているフォルクスワーゲンを代表するSUV、ティグアンと「トゥアレグ」の頭文字「T」を冠し、続けて英語のRockに由来する「Roc」が授けられた。時に激しく、時に静かな調べでセグメントをrockする(揺り動かす)存在になる、というメッセージが込められているという。

 初対面したT-Rocは、パッと目を惹くハンサムなフロントマスクに、クーペライクなルーフラインと逞しさを隠しきれない足腰が融合した、ダイナミックな印象を受けた。フォルクスワーゲンSUVで初めてツートーンルーフが採用されたのもトピックの1つだが、今回試乗したトップグレードの「TDI R-Line」は、イナジウムグレーメタリックにブラックルーフのツートーン。かなりシックにまとまっており、「アルテオン」のように都会的な雰囲気が強まっている。これがラヴェンナブルーメタリックにホワイトルーフの組み合わせになると、かなり違ったポップな印象となるのが面白い。R-Lineはフロント&リアバンパー、サイドスカート、リアスポイラーが専用エクステリアとして装着され、タイヤサイズも最も大きく19インチとなるので、全体的にドッシリとした貫禄が強調されている。

 ボディサイズは全長4250mm、全幅1825mmと、欧州SUVとしてはコンパクトな部類に入る。全高が1590mmあるため、多くの機械式の立体駐車場にはギリギリ入らないところが残念ではあるものの、メルセデス・ベンツの「GLA」などと比べるとルーフは低く、フォルクスワーゲンに実用性重視なイメージを抱いている人からすると、ちょっと異質な存在がT-Rocかもしれない。

今回試乗したのは新型「T-Roc」の「TDI R-Line」(453万9000円)。ボディサイズは4250×1825×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2590mm。車両重量は1430kg。プラットフォームはティグアン、T-Crossと同じく「MQB」を採用するが、ボディやインテリアなどは独立したレイアウトを採用する
「TDI R-Line」ではLEDヘッドライト(オートハイトコントロール機能、LEDポジションランプ付)やフォグランプ、19インチアルミホイール(タイヤは225/40R19サイズのブリヂストン「POTENZA S001」)などを標準装備。アダプティブシャシーコントロール“DCC”は「TDI R-Line」のみの装備

 ただ室内に入れば、デジタル時代にふさわしくフォルクスワーゲンらしいインテリアの手法が踏襲されている。全車標準装備となる最新のデジタルメータークラスター「Active Info Display」を中心としたシンプルモダンなインパネに、スッキリと配置されたスイッチ類、見やすいメーター、たっぷりとした座面のシート。ここにもR-Line専用となる、レザーマルチファンクションステアリングホイールやファブリックシートが特別感をプラスする。アルミ調ペダルクラスターも、このR-LineとTDI Sportだけの装備で、スポーティな印象をアップしてくれる。

 でもここまでスポーティなインテリアはR-Lineだけのようで、他グレードではブラック、ブルー、イエローの3色がデコラティブパネルとシートにコーディネートされる「T-Roc TDI Style Design Package」によって、とてもカラフル。オプションとなるレザーシートも、明るい雰囲気のものが用意されている。ポップか、シックか。T-Rocは、乗る人の好みで振り幅の大きいイメージチェンジが可能となっている。

 運転席に座ると、視界はスクエアで広く確保されており、シートのゆとりも頭上空間も申し分ない。クーペライクなスタイルのわりには、後方視界もデザインの犠牲にはなっておらず、しっかり確保されているのはフォルクスワーゲンらしい律儀なところだ。収納はセンターコンソールに大きなポケットがあり、カップホルダーも飲み物だけでなく小物入れとしても使えるタイプ。ドアポケットがガバッと大きめなのも、近年のフォルクスワーゲンモデルに通じている。

T-Rocのインパネは水平基調を特徴とし、最新のデジタルメータークラスター「Active Info Display」を標準装備。「TDI R-Line」ではスポーツシートを採用し、シートのサイドボルスター部にマイクロフリースを用いる。インテリアカラーはブラック、イエロー、ブルーの3種類が用意される
リアシートは6:4分割可倒式を採用。通常使用時のラゲッジ容量は445Lだが、背もたれを折りたたむことでラゲッジ容量は最大で1290Lまで拡大可能

 パワートレーンは全て最新の2.0リッターTDIエンジン+7速DSGを搭載。最高出力150PS/最大トルク340Nmは、ちょうど「MINI クロスオーバー」のディーゼル、クーパーD(4WD)と同じ出力で、トルクは10Nmほど勝るというイメージだ。この2台はボディサイズもほぼ同じなのでいいライバルと言えそうだが、T-Rocは2WD(FF)のみ。そのため最小回転半径もMINIの5.4mに対してT-Rocは5.0mと小さく、取りまわしのよさが期待できる。

T-ROCは直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジンを搭載し、最高出力は110kW(150PS)/3500-4000rpmを、最大トルクは340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpmを発生。WLTCモード燃費は18.6km/Lで、燃料タンク容量は50L

ゴルフじゃ物足りなくなった人へ

 スタートボタンを押してみると、即座にディーゼルを感じさせるようなノイズは小さく、室内で聞いている限りは気にならないほど静か。アクセルペダルを踏み込んでいけば、スルスルとなめらかな加速が始まり、低速域でのDSG特有のショックも最小限で、クセのないフィーリングは日本人好みだ。同時にステアリングの適度な手応えが、上質なクルマを操作している感覚を芽生えさせる。交差点の手前で減速し、再び加速を始めるような場面では、すでにボディのカタマリ感がしっかり伝わってきた。T-Rocはティグアン、T-Cross同様のプラットフォーム「MQB」を共用しているが、ボディは完全に専用設計。ティグアンほど全高が高くないわりに、全幅は近い数値となり、SUVとしてはロー&ワイドなスタンスを実現していることで、重心が低くボディバランスが優れるのではないかと感じた。

 おまけにこのR-Lineのみに与えられているのが、電子制御ダンパーのアダプティブ・シャシー・コントロール(DCC)。コンフォート、ノーマル、スポーツといった走行モードの選択に応じたサスペンションセッティングができるため、シーンに適した運動性能や快適性が手に入る。これは市街地を走っている時でも違いが分かるほどで、とくに乗り心地はコンフォートなら穏やかに、スポーツならやや引き締まる感覚。でもどれも、路面のギャップなどは包み込むようにいなし、不快な振動も軽減してくれるので、このクラスではとても落ち着きのある乗り味だ。

 それは、再確認のためにT-Rocと一緒に借り出したT-Crossに乗ってみると、さらに印象が際立つ。T-Crossはボディサイズが全長4.1mほど、全幅1.7mほどとひとまわりコンパクトになり、パワートレーンもガソリンの1.0リッター3気筒ターボ+7速DSGが搭載されており、どちらかと言えば走りは元気で軽快、乗り味はカジュアル。パワーをめいっぱい使って、ヒュンヒュンとよくまわる楽しさが持ち味だ。よって、高速道路の継ぎ目などではリアが弾む感じもあり、ドッシリ重厚というよりは、ヒラリとカーブをかわしていく方が似合うSUVだ。優等生なフォルクスワーゲンしか知らない人が乗ったら、こんなクルマもあるんだと驚くのではないだろうか。

 また、T-Crossは後席の前後スライドができたり、前倒しも軽い操作で簡単にできたりと、キャビンとラゲッジをフレキシブルに使える実用性がウリ。ラゲッジ容量も実は、5名乗車時だとT-Crossが455Lに対してT-Rocは445Lと、わずかながらT-Crossの方が大きくなっている。その代わり、T-Rocの後席はゆったりとした足下スペースと上質な空間で包まれるような安心感が魅力的。頭上スペースも、外観のルーフラインから想像するよりはしっかりと余裕があるので、自信を持ってゲストを迎えることができる。

 さて、最後に高速道路を走ってみた。短い距離での合流では、やや踏み込みに対するラグがあるもののすぐにトルクフルな加速が得られ、一気に流れにのることができる。クルージングに入ると、一転して静かで上質な時間がやってきて、とてもリラックスできるのがいい。先進の運転支援技術も豊富に揃い、全車速追従機能付きのアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)を試すと、ペダル操作を任せているのに、自分の思い通りに加速と減速を操っているような、どこまでも自然な動作に感心。レーンキープアシストシステム(Lane Assit)では、以前のフォルクスワーゲンモデルに比べてハンドル制御の違和感がかなり減ったことにも驚いた。これなら、こうしたアシスト技術が初めての人にも受け入れられやすいはずだ。

T-Rocの後ろを走るのはエナジェティックオレンジメタリックカラーの「T-Cross」

 こうして1日を共にしたT-Rocは、長男のティグアンよりも都会的なエッセンスにあふれ、3男のT-Crossよりも落ち着いた大人の乗り味が満ちていた。フォルクスワーゲンのド真ん中である「ゴルフ」を基準に語るなら、カジュアルなT-Crossは「ゴルフ嫌いの人にぜひ乗ってみてほしい」と勧めたくなるのだが、T-Rocは真逆だ。「ゴルフじゃ物足りなくなった人へ」。そして「ゴルフより少し遊び心がほしい人へ」、ぜひ勧めたいクロスオーバーSUVがT-Rocである。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z(現在も所有)など。

Photo:高橋 学