試乗レポート
トヨタの新型「ハリアー」全パワートレーンを市街地&高速道路で乗り比べ
しなやかな走りと乗り心地に重点を置いたクルマづくりを体感
2020年7月16日 07:03
発売前の「ハリアー」に試乗したのは袖ヶ浦フォレストレースウェイだったが。まだ登録できない状況で公道に出ることはできなかった。今回、待望の公道試乗が可能となり、都市部や市街地、高速道路までを含めた試乗を行なった。
試乗車はハイブリッドの2WD(FF)とE-Four、それに2.0リッターガソリンの2WD(FF)となる。
ハリアーは「RAV4」と同じ「GA-K」プラットフォームをベースとしてボディが構成されているため、ホイールベースは2690mmと共通だが、デザインコンセプトが異なるためにボディサイズは異なる。オフロード性能はハリアーが必要とする重点機能ではないので、前後のオーバーハングを長くとり、全高も低くして流れるようなデザインを実現している。RAV4 ハイブリッドの4600×1855×1685mm(全長×全幅×全高)に対して、ハリアーは4740×1855×1660mm(全長×全幅×全高)となっている。都会派SUVとして誕生したハリアーの真骨頂である。
インテリアも鞍型センターコンソル―ルなどデザイン優先でゆったりした室内になっており、ステッチもパイピングを使うなどハリアーらしい質感を出している。
オーディオ・ナビなどのスイッチは、全てを大型ディスプレイ内のタッチセンサースイッチにしているためスッキリとしている。ハリアーのタッチセンサースイッチは分かりやすいが、やはり視線を前方から逸らす必要のあるタッチセンサースイッチはちょっと苦手だ。ステアリングスポークにあるボリュームスイッチも小さく、個人的には手探り可能なスイッチがありがたい。スイッチに優先順位の統一がなされていないように感じられた。
また、S以外のモデルに前後方録画機能付きの「デジタルインナーミラー」を標準で備える。ドライブレコーダーの耐久性に不安を持つユーザーには、メーカー保証の効く録画機能は心強いに違いない。
さらにメーカーオプションで、シェード付き調光パノラマルーフがある。これはスイッチ1つで瞬時にガラスルーフの濃さが変わり、遮光することも空を見ることもできる。音声でも操作できるので、クルマと会話しているような気持ちになる。
ドライバーシートではハイトアジャスターはもちろん、電動のチルト/テレスコでハンドルもアジャストできるので、大抵のドライバーに合ったドライビングポジションがとれる。斜め前方視界もAピラーが後退し、ドアミラーも取り付け位置を外側にずらしているためにスッキリしている。ただ、サーキットでの試乗では視点が異なるので気にならなかったダッシュボードセンターの12.3インチディスプレイが意外と大きく、座高の低いドライバーには最初はわずらわしいと感じられるかもしれない。
ハイブリッド、ガソリン、それぞれに個性的な乗り味
最初に試乗したハイブリッドの2WDは、スティールブロンドメタリックというカッパー系のボディカラーだったが、落ち着いた色でハリアーの優雅さを引き立たせている。
今回試乗した2WDのハリアーはすべてダンロップ「グラントレック PT30」の225/60R18を履き、E-Fourの225/55R19ではTOYO TIRE「プロクセス R46 A」となる。
2.5リッター+THS IIのハイブリッドは、スタート時のエンジンノイズがないので極めて静かでストレスがない。ある程度速度が乗ってくるとエンジンが始動するが、その時点ではエンジンノイズとロードノイズが共存するので静かな室内空間は維持され続ける。ハリアーはSUV志向の強いRAV4に比べて遮音材の使用が徹底されているために、静粛性ではかなり異なる印象だ。サーキットで感じられたリアから入るロードノイズも、市街地から高速道路での走行に至るまで、大きなピーク音としては感じられない。静粛性はデザインと共に、ハリアーのもう強みの1つでもある。
ハリアーではリチウムイオン電池を搭載しており、EV走行の範囲がさらに広がって緻密に回生をするだけではなく、積極的にEVで走る領域を広げている。高速でもEVモードでクルージングする場面が多い。WLTCの燃費モードで、2WDでは市街地モード19.5㎞/L、高速道路モード22.1㎞/Lと、ミドルサイズSUVとしては素晴らしい。
乗り心地はハイブリッドはフロントが重いためか、荒れた路面ではリアから入る振動があるが、少し大きな段差乗り越しのような場面ではショックをサスペンションがよく吸収して、総じて滑らかな乗り心地となっている。
パワフルなハイブリッドはシステム出力(2WD)で160kW(218PS)を出しており、急な追い越しのようなアクセルを強く踏むような場面では保舵感が薄くなるような感覚があったが、姿勢は終始安定している。直進性や旋回時の姿勢安定性も高く、4輪はしっかり路面を掴んでいるのが分かる。
一方、試乗した19インチタイヤを履くE-Fourは重量が約60kg重いものの、後輪荷重が増えているので前後重量バランス的には改善され、落ち着いた乗り心地となっている。2WDで時折感じられたリアからのピッチングも影を潜め、フラットな姿勢を保つ。荒れた路面を通過する際も上下収束がスマートで快適だ。首都高速道路でのコーナーで時たま現れるジョイント路でも、高い接地力で姿勢の乱れはない。
ハリアーではRAV4 PHVで採用された低フリクション、かつオイル特性で適度なダンピング効果のあるショックアブソーバーを採用しており(最初の採用は「カローラ スポーツ」から)、路面への高い追従性を実現して、乗り心地にも、また横力の入ったコーナリングでもよい効果を上げている。
ハイブリッドのパフォーマンスは高く、確かに後輪モーターを入れるとシステム出力163kW(222PS)は余力がある。アクセル開度の小さいところからトルクの立ち上がりが早く、しかも必要に応じて後輪を駆動するので安心感の高い走りを楽しめた。
ハリアーには購入しやすい2.0リッターガソリン車も用意されており、こちらも2WD(FF)と4WDがある。2WDのベース車両は300万円を切るところからスタートしている。
ハイブリッドに比べると出力は126kWと少なくなるが、元気のよいエンジンでDirect Shift-CVTと組み合わせられる。どうしても同じような加速を得ようとするとエンジン回転を上げなくてはならないためにノイズや振動が大きくなるが、ハイブリッドと比較するとの話で、絶対値ではハリアーの2.0リッターも遮音がシッカリしており、静粛性では高い点を付けられる。
またハンドリングもガラリと変わって、ハイブリッドのどっしりした動きとは違って軽快なフットワークを見せる。ハイブリッドでは重めだったハンドルの操舵力も軽くなり、回頭性も高い。ハリアーの根っこのコンセプトは変わらないものの、ハイブリッドとは印象はかなり違う。しっとりとした乗り心地はハイブリッドがよいが、コンベエンジン車も荒れた路面でのフラットな乗り心地はなかなかだ。
全車速ACCなどをはじめとするADAS系のものは充実しており、夜間の歩行者検知や昼間の自転車検知も可能な「Toyota Safety Sense(トヨタセーフティセンス)」が採用されている。事故を起こさないクルマに着々と進化しているが、過信は禁物であることに変わりはない。
ハードな路面も走破する能力を要求されるRAV4とは違い、ハリアーは都市部から高速までしなやかな走りと乗り心地に重点をおいて作られているのが分かる。
そして、6月8日発売のハリアーは6月末の時点ですでに4万台に近い受注があるという。その理由も、実車を見て乗って走らせるとうなずけるというものだ。
これまで国内専用だったハリアーが、いよいよ北米にも「Venza(ヴェンザ)」のネーミングでデビューする。マーケットがセダンからSUVに移行していく中で、トヨタのラインアップはスキがないのもすごい。
【お詫びと訂正】記事初出時、ディスプレイのサイズ表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。