試乗インプレッション

4代目となったトヨタ新型「ハリアー」に速攻試乗。“都会派”にますます磨きがかかる

ハイブリッドとガソリンにサーキットで乗った

ハリアーが4代目に

 トヨタ自動車「ハリアー」はSUVの概念を覆した画期的なクルマだった。SUVの主戦場、北米ではクロカンタイプから派生したクルマがほとんどだった。トヨタは他メーカーが半信半疑だった乗用車のプラットフォームを使った上級SUVとして「レクサス RX」を投入し、大ヒットを放った。その日本モデルがハリアーだ。

 2013年に3代目ハリアーになってからはRXとは独立した国内専用車となり、SUVの相対的な人気が高くなるにつれて存在感も大きくなり、今回、モデルチェンジして4代目となった。

 ほぼ市販モデルの試乗会が袖ケ浦フォレストレースウェイで行なわれた。コロナウイルスの3密を避けるために、ソーシャルディスタンスをとりながらのプレゼンと試乗だが、久しぶりの新型車試乗は嬉しい。

 ハリアーはグローバル展開をするRXとはサイズ感が異なる。全幅は3代目ハリアーより20mm広がった1855mm、全長は15mm伸びて4740mm、そして全高は1660mmと30mm低くなっている。このことからも分かるように、都会派SUVのポジションを鮮明にした。グラスエリアのアーモンドアイのようなデザインもあって、流れるようなフォルムはこれまでのトヨタSUVにはない斬新なもので、特にテールエンドで集約するキレのよいデザインは、ハリアーを特徴付けている。

今回袖ケ浦フォレストレースウェイで行なわれた新型「ハリアー」プロトタイプ試乗会では、ガソリンモデルとハイブリッドモデルにそれぞれ試乗。新型ハリアーのボディサイズは4740×1855×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2690mm。価格や燃費値といった詳細は明かされていない
エクステリアデザインは、もともとハリアーが持つスタイリッシュさをベースに、新たに逞しさを追加。流麗なクーペフォルムが大きな特徴になっている。キャビンを凝縮しつつ、リアフェンダー付近を張り出すことによってスポーツカーライクなフォルムを目指した。試乗車の足下はZ系グレードが19インチ(写真右)、G系グレードが18インチを装着
ブラウン本革を採用するハイブリッドの「G“Leather Package”」のインテリア。インパネから左右のドアトリムにかけたボリューム感のあるラインにより、大らかに広がる雰囲気を演出して包み込まれるような安心感と居心地のいい空間を表現。また、幅広く堂々としたセンターコンソールは乗馬用の鞍をイメージしたデザインで、新型ハリアーのハイライトの1つになっている

 新型ハリアーは「RAV4」と同じGA-Kプラットフォームを採用し、ホイールベースは2690mmと共通だ。パワートレーンはRAV4と共通の2.0リッター直噴エンジンと、2.5リッターのハイブリッドの2機種で、それぞれにFFと4WDがある。ただし、RAV4の2.0リッターモデルで採用された4WDシステム「ダイナミックトルクベクタリングAWD」は性格の異なるハリアーには設定がない。

ガソリン仕様が搭載する直列4気筒2.0リッター直噴自然吸気「M20A-FKS」型エンジンは、最高出力126kW(171PS)/6600rpm、最大トルク207Nm(21.1kgfm)/4800rpmを発生。トランスミッションには発進用ギヤを備える「Direct Shift-CVT」を搭載し、駆動方式は2WD(FF)と「ダイナミックトルクコントロール4WD」を用意
ハイブリッド仕様が搭載する直列4気筒2.5リッター直噴自然吸気「A25A-FXS」型エンジンは、最高出力131kW(178PS)/5700rpm、最大トルク221Nm(22.5kgfm)/3600-5200rpmを発生するほか、リダクション機構付の電気式無段変速機を備えるハイブリッドシステム「THS II」を採用。システムトータルで2WD車が160kW(218PS)、4WD車が163kW(222PS)を生み出す

高い静粛性と迫力ある加速

 試乗したのはAWDのハイブリッドとFFの2.0リッター。舞台がサーキットなのでつい速度を上げたくなるが、中速のワインディングロードと街中での取りまわしを想定して走らせてみた。もちろん飛ばしたラップもあり、それはそれで普段できないハンドリングチェックにはもってこいだ。

 試乗したハイブリッド車は225/55R19サイズのTOYO TIRE「PROXES R46A」を履く。インテリアはウッド調をアクセントに使い、日本発のSUVらしさをデザインしている。センターコンソールも鞍型にするなど、機能が優先されるSUVにあって、ハリアーはゆとりを感じさせる空間を目指している。エクステリア同様、優雅さを追求しているのがよく分かる。

 ドアの開閉もガッチリしたもので安心感があり、同時に閉めた時にスーっと車外の音が収まるのが分かる。遮音がシッカリしているのはもちろんだが、フロアなどに吸音材が効果的に配置されている効果が表れている。

 バッテリーはタップリ残っているので走り出してもエンジンはかからず、モーターによる走行がしばらく続いて静かなものだ。エンジンがかかると確かにノイズが入ってくるが、よく遮音されている。前からのロードノイズはあまり入ってこない。ただ、クルージングではリアからの共鳴音のような音が入ってきた。静かなキャビンが逆に音を目立たせてしまった感じだが、静かであることに変わりはなく、試乗を通じて快適だった。

 直前視界は突出していいものではないが、シートのハイトコントロールもタップリあり、ほとんどのドライバーにとって不自由のない視界が得られる。後方視界はリアウィンドウの形状のために少し狭く感じられる。しかし、ハリアーはクーペフォルムを持っているにもかかわらず、前後席でもヘッドクリアランスは十分とられており、圧迫感はない。

 余談だが、ハリアーはデジタルインナーミラーに前後ドライブレコーダーが純正として装備されている。昨今の交通状況を考えると純正で選べるのは心強い。

 サスペンションはストラット/ダブルウイッシュボーンの組み合わせだが、「カローラ スポーツ」から採用された、摺動抵抗が少なく、かつ必要なフリクションのあるダンパーが専用設計されており、接地性に大きな効果を発揮する。コーナーではしなやかにロールし、ハンドルの切り返しでの収まりがよく、ロールの収束も素直かつスムーズで破綻がない。

 乗り心地では段差通過をしてみたが、突き上げられることもなく、上下動をよく吸収してくれる。例えば首都高速でのコーナーでの段差なども接地力が高いので安心できそうだ。

 ハリアーはコーナーでも路面をよく掴んで落ち着いたハンドリングを持っているが、本来の持ち味は都市部で乗り心地がよく、そして高速クルージングでの疲労の少なさではなかろうか。ハンドルへの振動も少なくて、スッキリとまっすぐ走れ、上下動もサスペンションがよく吸収してくれるので目線の移動が少ない。短い試乗時間だったが、コーナーでの挙動や速いレーンチェンジからそのように感じられた。

 ハイブリッドはモニターから非常に小まめに回生を行なっているのが分かる。また、加速した時のパフォーマンスはRAV4でも感じたように結構迫力がある。今回のハリアーではターボエンジンはラインアップされていないが、ハイブリッドで充分に速い加速が得られる。また、4WDは想定以上に後輪を駆動しており、例えば何気ないスタート時やコーナリング時など、安定性を担保している。使い慣れたパワートレーンとはいえ、確実に進化していた。

 一方、2.0リッター/FFモデルの試乗では、2.0リッターのダイナミックフォースエンジンは他の車種では4000rpmを超えたあたりの吸気音が大きかったと思うが、ハリアーではよく遮音されており、それほど気にならない。重量の軽いFFは4WDに比べると60kg、ハイブリッドの4WDと比較すると90kgも軽くて軽快だ。その気になればかなりのペースを維持できるが、動きが穏やかでよく姿勢制御が効いている印象だった。降雪地帯でなければFFの2.0リッターで十分にハリアーのよさを楽しめる。たとえば音声でも作動する瞬時に調光可能なパノラマルーフをオプション装着するなどして、心地よい空間を作るのもいいだろう。

 発表以来、都会派という立ち位置の変わらないハリアーにますます磨きがかかっていた。そしていよいよ日本発のSUV、ハリアーが北米にも進出することが決まっている。

新型ハリアー(4代目)試乗まとめ(2分12秒)

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛