試乗インプレッション

豪快な加速、日本に合ったボディサイズ。アウディ最小SUV「SQ2」の実力

ベースの「Q2」とは全く異なる世界観

オプション込みで722万円

 アウディのSUV、Qシリーズ中で最も小さいボディとなる2シリーズでありながらも、その前に4駆でハイパワーを盛り込むスポーツバージョンのSの文字を掲げるこの「SQ2」は、ある意味かなり贅沢な1台だ。価格は599万円。試乗したクルマはさまざまなオプションが盛り込まれた状態で722万円である。同じボディで最もベーシックな「Q2」のおよそ倍の価格なのだ。ハッキリ言ってこれだけの価格を出せば、もっと大柄なクルマを購入することだって十分に可能。だが、そこに踏み出さず、ボディサイズが4220×1800×1525mm(全長×全幅×全高)のSQ2をあえて選択する価値はどこにあるのだろう?

 一見すればそこに派手さはない。オプションカラーであるデイトナグレーに包まれたボディは、かなりシックな佇まい。ややポップな仕上がりだったQ2とは違ったイメージだ。インテリアこそ革シートを奢りホールド性を高め、一部を赤く染めて高級感やスポーティさを演出しているが、Q2シリーズであることに変わりはない。リアシートに収まったところで空間は同じだし、センターにアームレストすら装備されていないのだ。

今回試乗したのは2019年12月に発売された、「Q2」をベースにスポーツ性能を大幅に高めた新型「SQ2」。エクステリアでは専用デザインのシングルフレームグリルやバンパーを装着し、撮影車のボディカラーは「デイトナグレーパールエフェクト」。ボディサイズは4220×1800×1525mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2595mm
最高出力221kW(300PS)/5300-6500rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/2000-5200rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボ「DNU」型エンジンを搭載。トランスミッションは7速DCTの7速Sトロニックを採用し、0-100km/h加速は4.8秒(欧州計測値)
撮影車のインテリアでは、ファインナッパレザーのシートセンター地にロックグレー ステッチを施したマグマレッドを採用するとともに、エアコン吹き出し口に付くレッドアクセントリング、マルチカラーアンビエントライティングを組み合わせた「SQ2インテリアデザインパッケージ」(26万円)を装着

これはホットハッチ? スポーツカー?

 だが、走り出せばそんな不満は一気に吹き飛ぶ。直列4気筒2.0リッターターボで300PS/400Nmを発生するそのエンジンは、1.0リッターで3気筒だったベースモデルの世界観とは全く異なり、滑らかでありながらもアクセルを踏み込めば低回転から豪快な加速を示す。4駆のクワトロのおかげで無駄なく地面を蹴り出すところもさすがだ。

 特にドライブモードをダイナミックにすると、エキゾーストノートは低速から野太く変化。その後、レッドゾーンとなる6800rpmあたりまで引っ張れば、今度は爽快なサウンドを提供してくれる。細かく刻まれた7速Sトロニックにより、小気味よくシフトアップを繰り返し、気づけば高速域に連れて行ってくれる気持ちよさはハンパじゃない。ちなみにこの7速はベースモデルが使うものとはギヤ比が異なっている。ホットハッチというか、スポーツカーというか、とてもSUVに乗っているなんていう感覚はない。

 それと手助けしているのが、引き締められたシャシーの仕上がりだ。ハンドルを少し切っただけでシャープに反応するフットワークのよさは魅力の1つ。とても高いところに座るSUVとは思えない仕上がりがそこにある。もちろん、そんな味付けだから乗り心地は多少荒々しい部分があるのだが、それでも身軽さを演出できていることを考えると許せるところ。

 サスペンションはフロントストラットとベースと変わりないが、リアは4駆化に伴いトレーリングアームからウイッシュボーンへと改められている。着座位置が高く遠くまで見晴らせる、SUVとしては捨てられない性能を持ちつつ、スポーツカーのような走りを許容しているところが面白い。もしもこのクルマが背後から迫ってきたら僕は道を譲る。それくらい侮れない速さがSQ2には存在する。

 はじめはこんなコンパクトなクルマでありながら700万円を超えるなんて、正直どうかと思ったが、試乗した後に考えてみればこのクルマは究極の贅沢ができるクルマなのだと目がハートになった。ベースとなるQ2が素の醤油ラーメンだとしたら、SQ2はズワイガニでも入れた北海ラーメンのような存在。一杯のどんぶりの中でどこまでできるかを考え抜いた力作といっていい。

 日本でも操りやすいサイズに収め、その中にアウディのすべてをつぎ込んだともいえるその仕上がりは、その気になれば雪山からサーキットまで受け止めてくれるに違いない。大きくて高級なモデルはもちろん魅力だが、それは時に我慢を強いられることもある。日本の道路事情ならなおさらだ。そこですべてを楽しむにはピッタリな意外性のある1台だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車はトヨタ86 RacingとNAロードスター、メルセデス・ベンツ Vクラス。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸