インプレッション

アウディ「Q2 1.0 TFSI」(公道試乗)

1.0リッターモデルに試乗

 アウディ自ら“型破りなSUV”と銘打って登場した「Q2」だが、日本人にはあまりにも魅力的な要素が多くて、むしろ「型ハマり」と言い換えたくなる絶妙なツボを押さえたSUVだ。

 先行して行なわれた御殿場での試乗会では、1.4リッターモデルのみの試乗だったが、今回は299万円からと手が届きやすい1.0リッターモデルに試乗することができた。私もそうだが、こちらが気になっていた人も多いのではないだろうか。

 1.0リッターモデルのインプレッションの前に、Q2の絶妙なツボをおさらいしておくと、まずはそのボディサイズ。4200×1795×1530mm(全長×全幅×全高)は、日本の機械式パーキングに多いサイズ制限「全幅1800mm以下、全高1550mm以下」をクリアする。これは今まで、SUVでは日本車はもちろん、輸入車でもほとんど存在しなかった。とくに全高をクリアするのが厳しく、マツダ「CX-3」やスバル「XV」、BMW「MINI クロスオーバー」やプジョー「2008」がギリギリ1550mmというくらいだ。

「Q3」が欲しかったけどサイズで諦めたという人はもちろん、SUVが欲しいけどマンションの立体駐車場に入るモデルがない、というような人たちにとって、Q2はそれだけでも候補に上がるはず。さらに2595mmというホイールベースは、全長4200mm前後のSUVとしては決して長い方ではない。前後オーバーハングも短く、そのため最小回転半径が17インチタイヤでも5.1mという数値はすべてのライバルより小さく抑えられ、とくに輸入車のSUVとしては抜群に小回りが効くというオマケ付き。

 ただその代わり、1.4リッターの試乗ではスポーツサスペンション装着で18インチタイヤだったということもあるが、乗り心地はお世辞にもよいとは言えなかった。そこが1.0リッターモデルではどうなのか、気になるところ。

今回試乗したのは、直列3気筒DOHC 1.0リッター直噴ターボエンジンに7速Sトロニックを組み合わせ、前輪を駆動する「Q2 1.0 TFSI」。ボディサイズは4200×1795×1530mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2595mm。車両重量は1.4リッターモデルから30kg軽い1310kg。価格はオプション代を入れて410万円
Q2のエクステリアでは、アウディ車で初採用となるポリゴン(多角形)をモチーフにしたデザインが与えられるとともに、Cピラーにアイスシルバーまたはマットチタングレーのブレードを設定。デザイン上の大きなポイントになっている。足下は5スポークデザインの17インチホイールにミシュラン「プライマシー3」(215/55 R17)の組み合わせ

 そしてもう1つのツボは、やっぱりデザインだ。これまで優美な直線基調のデザインを得意としてきたアウディだが、今回初採用したのが「ポリゴン」と呼ばれる多角形モチーフ。フロントのシングルフレームグリルが8角形なのも特徴的だし、サイドビューにもベルトラインの下にその「ポリゴン」が見られ、全体的にエッジの効いたゴツめのフォルムとなっている。

 また、ベースモデルの1.0 TFSI以外には、後席のドアガラスとリアガラスの間のCピラー部分にアイスシルバー(ボディ色がグレイシアホワイトではマットチタングレー)のブレードが大胆にあしらわれており、これが“ガンダム世代”にも刺さりそうな雰囲気を醸し出している。既存のSUVはどうやって泥臭さやゴツさを薄めるか、というデザイン方向のモデルが多い中、あえてこうしたトンがった印象を押し出してきたことで、これまでのアウディユーザーとは違った層にも響きそうな予感だ。

 さらに、「アウディといえばAWDのクワトロ」というイメージが確立している中、このQ2は2WD(FF)のみのラインアップとしている。日本では機動性や使い勝手のよさ以上に、SUVをデザイン選択肢の1つとして捉え、デザインに惚れたから買うというユーザーも増えているだけに、AWDに比べると価格が抑えられ燃費もよいFFモデルはトライしやすい。実際、フォルクスワーゲン「ティグアン」やルノー「キャプチャー」、プジョー「2008」などFFモデルしか導入されないSUVも増えており、こうしたところもツボの1つとなりそうだ。

ブラックを基調にしたインテリア。オプションの「バーチャルコクピット」「ナビゲーションパッケージ」などが装着される
バーチャルコクピットの表示例
走行モードは「コンフォート」「オート」「ダイナミック」「インディビジュアル」の4パターンから選択可能

1.0リッターでも余裕のあるパワーフィール

 さて、今回試乗した1.0リッターモデルは、ベースグレードの「1.0 TFSI」より約75万円高となる364万円の「1.0 TFSI sport」。116PS/200Nmという直列3気筒DOHC 1.0リッター直噴ターボエンジン+7速Sトロニックのスペックは変わらないが、足下が16インチから17インチタイヤとなり、装備は405万円の1.4リッターモデルとほぼ同等の充実ぶり。

 LEDヘッドライトやスポーツシート、レザーステアリングといった目に見える部分から、オートエアコンやリアビューカメラ、アダプティブクルーズコントロールなどの快適・安全装備も含めて、ベースグレードとの差は大きい。また、多くの装備はベースグレードにオプションで装着できるが、車線をはみ出さないようキープしてくれるアクティブレーンアシストなど、先進の安全装備が揃ったセーフティパッケージはオプション設定されないなど、購入時にはよく検討する必要がありそうだ。

直列3気筒DOHC 1.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力85kW(116PS)/5000-5500rpm、最大トルク200Nm(20.4kgm)/2000-3500rpmを発生。3気筒ならではのコンパクトな設計に加え、アルミ製クランクケースの採用などによってエンジン単体の重量を88kgに抑制した

 インテリアは外観の斬新さからすると、ごくごくアウディらしい、モダンでコクピット感のある仕上がり。ベースグレード以外にはバーチャルコクピットがオプション設定され、メーターパネルにナビ画面が広がる最新のアウディ車らしい空間になる。スマートフォンと連携してアプリやコンテンツが利用できる、アウディスマートフォンインターフェースなど、デジタル世代に欠かせない装備もオプション設定されている。

 シートはスポーツシートと謳いながらも、少しゆったりめでクッションもそれほど硬くなく、やはりスポーツモデルとは違ってSUVらしい座り心地。スタートボタンでエンジンをかけると、アイドリングの静かさはさすがだ。出足の加速は俊敏というほどではないが、軽やかかつ頼もしさのある印象。2000rpmから最大トルク200Nmが引き出され、それを7速Sトロニックが切れ目なく操ってくれるので、街中でのストップ&ゴーも軽快に気持ちよく走ることができる。

 1つ気になったのは、アイドリングストップからの復帰がこちらの意図より一拍遅れること。最近はどれもブレーキから足を離した瞬間にエンジンが再始動し、アクセルに足を乗せる時にはすぐに加速が始まるが、それがやや遅く、再発進でもたつく場面があるのは残念だった。

 とはいえ、流れにのって走り出せば常に余裕のあるパワーフィールで、1.0リッターであることを忘れるほど。ステアリングの応答性もしっかりと手応えが感じられ、クルマと通じ合っている感覚になれる。直線での重厚感や、アウディらしいカッチリとした一体感は、FFモデルということもあるのかそれほど強くないが、代わりに味わえるのはコンパクトハッチバックを走らせているようなキビキビ感。アウディが作ったスニーカーのよう、と言ったら伝わるだろうか。街中では1.4リッターモデルとの差はほとんど感じられなかった。

 そして高速道路では、さすがに2.0リッターエンジンのような伸びやかさを期待するとガッカリするが、合流時の強い加速でも唸りをあげることなく、必要十分な駆動力を賢く繰り出し、1.0リッターを120%使って走れる感覚がちょっと新鮮。1.4リッターモデルはもう少し悠々とクルージングできる印象だが、気になっていた乗り心地はこの1.0リッターの17インチタイヤの方がゴツゴツとした振動が少なく、落ち着きがあると感じた。

 そして今回は1泊2日での試乗が叶ったため、自宅駐車場に乗って帰ることができた。我が家は表通りからクランクのように狭い通りを入った角地にあり、駐車場も狭く入れにくい。でも、そこにバックで駐車してみて実感したのが、ボディサイズと最小回転半径の恩恵にプラスして、ポリゴンモチーフのデザインはサイドミラーだけでも車両間隔が掴みやすく、SUVとしてはとても車庫入れしやすいということ。

 やはり、Q2は日本の住宅事情や道路環境に適した要素が盛りだくさん。頻繁にロングツーリングに行く人は1.4リッターの方がいいかもしれないが、そうでなければ1.0リッターでも十分に魅力的だと確認できた。デザインがいい! という人だけでなく、輸入車で本当に運転しやすいSUVを探している人もチェックして欲しい1台だ。

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、モータースポーツ参戦や安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。17~18年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。女性のパワーでクルマ社会を元気にする「ピンク・ホイール・プロジェクト(PWP)」代表。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦している。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968など。ブログ「運転席deナマトーク!」やFacebookでもカーライフ情報を発信中。

Photo:高橋 学