インプレッション
アウディ「Q5」(2017年フルモデルチェンジ/メキシコ試乗)
2017年2月8日 13:02
メキシコで試乗会を開催した理由
2016年秋に開催されたパリモーターショー。その舞台で注目を集めた第2世代の「Q5」を、遥かメキシコの地でテストドライブした。
ドイツのプレミアム・ブランドの作品を、何故そんな場所で乗ったのか? 実はメキシコというのは新型Q5とは「切っても切れない縁」のある土地。このモデルのすべての生産は、この国に新設されたばかりのアウディの工場で行なわれるからだ。
「世界のプレミアム・ブランドの中で、初めてのメキシコ進出」と謳われるこの工場は、もちろんNAFTAの貿易協定を見込んでのものでもあったはず。となると、アメリカ新大統領の誕生によって、アウディがこれまで考えてきたシナリオには、この先、何らかの想定外の事態が起こらないとも限らない。いずれにしてもすでに「賽は投げられた」のだ。ちなみに、従来型Q5が生産されていたドイツの工場では、ブランニューモデルである「Q2」の生産が行なわれることが決定しているという。
アウディのラインアップ内にあって、従来型同様のポジショニングが与えられた新型Q5は、先にフルモデルチェンジを行なった「Q7」の大きさがダウンサイズ方向にあったということもあり、今回もそのボディサイズを大きくは変えていない。同時に、従来型がカテゴリー内でのベストセラーSUVだったという実績から、見た目の印象もひと目でQ5と分かるものへと仕上げられている。
一方で、新旧モデルを比べてみれば「どちらが新しいか?」は誰の目にも明らかであるはず。それは新旧の「A4」を比べた時と同様に、パネル面の抑揚の豊かさやプレスラインのシャープさなどに、明確な差が認められるから。
最新のアウディ各モデルのインテリア・クオリティの高さには定評がある。それはもちろん、メキシコ工場で生産される新型Q5も例外ではない。中央部に小型のタブレット端末を立てかけたような水平基調のダッシュボードは、こちらも最新のアウディ車流儀のデザイン。「タフなSUVらしい非日常感」といった視点からすると物足りなさを覚えるかもしれない一方で、SUVがますますポビュラーになる中で「こうしたカタチの乗用車」と受け取る人にとっては、こうした身構えナシに乗れる仕上がりの方が歓迎されるかもしれない。
“時節柄”なのは新型Q5に用意されたさまざまな装備類で、例えばメーターパネル部が全面カラーディスプレイとなる「バーチャルコクピット」や、インターネットとのコネクション機能、最先端のドライバー支援機能などは、当然ながら大きなセールスポイント。
また、アウディ車ならではと思えるのは、LEDテクノロジーを駆使した各種のライティング・システム。ウィンカーが流れるように点滅する「ダイナミック・ターンシグナル」も、最新のアウディ車に共通する分かりやすい記号性の1つになっている。
もっとも印象のよいグレードは?
現時点で発表されている新型Q5のエンジン・ラインアップは、ディーゼルが4種類にガソリンが1種類。最もポピュラーな2.0リッター4気筒のディーゼルには150/163/190PSと3種類の異なる出力チューニングが用意され、286PSという最高出力を発する3.0リッターの6気筒ディーゼルが「シリーズ中で最もスポーティ」という位置付けだ。
一方、日本市場にはまずこの心臓を搭載したモデルからの導入、と予想されるガソリン・ユニットは、2.0リッターのターボ付きで最高出力は252PS。7速DCTとの組合せで0-100km/h加速が6.3秒、最高速は237km/hと発表されているから、これでも十分な俊足ぶりだ。
実際、スタートすると同時にまず実感させられたのは、予期した以上に加速が軽快であること。そして、これもまた期待以上に高い静粛性が、そんな好印象をさらに後押ししてくれた。好印象といえば、運転視界に優れている点も見逃せない。ドアミラー周辺の“抜け”もよく、フロントカウルやベルトラインが低めであるためボディ周辺の死角がSUVとしてはかなり少ない印象なのだ。
前述のように、従来型に対してボディサイズは大きく変わらないので、率直なところ居住空間が大きく拡大されたような印象を受けることはなかったものの、フロントシート下への足入れ性は極めて優れているので、大人がリアシートで長時間を過ごすのはまったく苦にならないことも確か。1.9mに迫る全幅は、日本の環境下ではやや過大な印象も否めないが、それでも「何とか身の丈感を抱きつつ使えそうなSUV」というのが、新型Q5をテストドライブしての感想となった。
新型Q5の走りにかかわるメカニズムの売り物の1つは、オプション設定されるエアサスペンション。今回テストドライブを行なったモデルにも、これが装着されていた。オートモード時の標準位置を基本に、上げ方向に45mm、下げ方向に15mmという幅で車高調整が可能なこのアイテム。「その採用の目的は主に3つで、1つめはそうした車高調整の機能。2つめは乗員数などが変化しても一定の走行性能をキープできること。3つめは主にロシアや南アフリカなど、路面状況が厳しい地域でのオフロード性能の向上にある」とは、担当エンジニア氏の弁となる。
なるほど、路面をしっかりと捉えて“ヒタヒタ”と走行する感覚は、いかにもプレミアム・ブランドの作品に相応しいもの。そこには「SUVだから」などといったエクスキューズは、まるで必要がないということだ。
ところで、「日本への導入はまったくの未定」ということながら、前出のシリーズ・トップグレードである、6気筒の3.0リッター・ディーゼルエンジン車もテストドライブすることができた。端的に言って、そのパフォーマンスは2.0リッターのガソリン・モデルとは異次元とも感じられたもの。「ノイズや振動面にハンディキャップがある」と言われがちなディーゼル・ユニットを搭載しつつも、むしろよりスムーズなエンジンフィールが味わえるのは、やはり“プラス2気筒”の恩恵であるはずだ。
組み合わされる8速ATが、トルコンATならではのスムーズさとともにダイレクトな駆動力の伝達感を味わわせてくれたことも、見逃せない美点。さらに、そもそも加速力に余裕が大きいため、敢えて高回転まで引っ張る必要がないことも、「ガソリンモデルよりも静か」という印象を引き出すことになっていた。
もちろん、シリーズ中のフラグシップグレードという位置づけゆえ、その価格も跳ね上がることにはなってしまうはず。それでも、「ぜひとも日本の方々にもこのプレミアム感を知ってもらいたい」と思えたのが、この3.0リッター6気筒エンジンを搭載した「3.0TDI」グレードだったのだ。