インプレッション

BMW「MINI クロスオーバー」(2017年フルモデルチェンジ)

上級指向に舵を切ったMINIブランド

 新型車の試乗会場には、ほぼその車両の全グレードが用意されていることが多いのだが、取材時間の関係ですべてに試乗することは事実上不可能。よって、試乗できるグレードはその場での巡り合わせ的なところが大きい。今回の新型「MINI クロスオーバー」では、シリーズ唯一の車両価格300万円台となるエントリーグレード「MINI クーパー D クロスオーバー」(前輪駆動モデル)に試乗した。

 エントリーグレードといえども輸入車、とくにドイツ車の多くがそうであるように、本国では中間グレード以上の装備を揃えていることから、MINI クーパー D クロスオーバーでもかなり魅力的なスペックを持つ。搭載エンジンは静粛性と出力特性を向上させた新世代ディーゼルだ。4輪駆動モデルである「MINI クーパー D クロスオーバー ALL4」にも搭載される直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボディーゼルエンジンは、150PS/330Nm(カタログには「ツインパワーターボ」とあるが「ツインスクロール」の意味で搭載タービンは1つ)を発生し、トルクコンバータータイプの8速ATが組み合わされる。初代MINI クロスオーバーである先代ディーゼルが6速ATであったから、新型では中間加速領域に2速分のギヤが追加された格好だ。

 ちなみに、上位ラインアップには同じく2.0リッターディーゼルエンジンを搭載した4輪駆動モデルである「MINI クーパー SD クロスオーバー ALL4」(483万円)もあるが、こちらはBMW 5シリーズのディーゼルエンジンと同じ190PS/400Nmを発生するハイパワー版となる。トランスミッションは同じく8速ATだ。

 新型となり、ボディサイズは拡大した。先代の全高は1550mmと立体駐車場を意識したものだったが、新型は45mmアップの1595mmとなった。また、全長は195mm(!)伸びて4315mm、全幅も30mm拡張されて1820mmとそれぞれ大型化。ボディの実寸でいえばメルセデス・ベンツ GLAやアウディ Q2などよりひと回り大きく、フォルクスワーゲン ティグアンに近づいた。

2月に発売された新型「MINI クロスオーバー」。今回試乗したのはエントリーグレードの「MINI クーパー D クロスオーバー」(386万円)で、ボディカラーはアイランド・ブルー・メタリック
新型MINI クロスオーバーのボディサイズは先代モデルから全長を195mm、全幅を30mm、全高を45mm拡大し、4315×1820×1595mm(全長×全幅×全高)となった。足下は17インチアルミホイールにブリヂストン「TURANZA」(225/55 R17)の組み合わせ

 もっとも、大きくなったとはいえ全長はいわゆる日本の5ナンバーサイズだし、全幅は1820mmだがトレッドは1500mm内に収まることから、全高1600mmまでを許容する最近の立体駐車場であれば、パレットサイズを考慮しても不便をそう感じることはないだろう。こうしたボディの大型化はBMW X1シリーズとプラットフォームを共有化したことによるものだが、MINI クロスオーバーのアイデンティティであるキュートなデザイン路線は守られた。ここはブランド戦略の一環でもあるという。

 そのブランドといえば、今回から「MINI」のCIが変更され、シンプルな白黒2色の表示となった。ご存知の通り、MINIブランドでは“ゴーカートフィーリング”をブランディングの柱として若々しくてポップな走行性能やイメージ戦略がとられてきた。それを今回から上級志向とし、CIに加えてディーラーでのイメージカラーも白、黒系統の落ち着いたものへと変更していくという。

インテリアでは、MINIらしい円形デザインをモチーフとして採用しながらクローム仕上げを取り入れることで上質な空間に仕上げた。従来モデルに比べリアシートを中心に室内空間が広くなり、快適性が向上。リアのバックレストは40:20:40分割可倒式で、トランク容量は先代モデルから100L拡大して450Lとなった。そのほか撮影車にはラゲッジスペースの後端に腰掛けるためのオプション装備「ピクニック・ベンチ」(1万6000円)が備わっていた

大人っぽさがグンと増した

 さて、上級志向へとシフトした新型の走りはどうか? 時間の関係で正味20分ほどの試乗だったが、箱根の裏道にあたる狭い道から、荒れた路面のワインディングに至るまでMINI クーパー D クロスオーバーのとてもしなやかな足まわりを体感することができた。

 実はこのしなやかさこそ新型での一番の驚きで、一気にMINI クロスオーバーのファンになってしまった要因でもある。というのも、筆者は先代モデル(2014年にクラス初の2.0リッターディーゼルエンジンを搭載)に対する印象があまりよくなかった。オーナーには大変失礼ながら、先代モデルはディーゼル燃焼音がはっきりとキャビンへと透過し、またフロアをはじめとしてがっつりと振動を伝えていた。ワイルドな外観に合わせた特性なのだろうが、どことなく荒削りであったこともあり、個人的な評価を下げていたように思う。

 それが新型となってその方向性がガラリと変わった。前述したしなやかな足まわりに代表されるように、たとえばステアリングの操舵フィールや静粛性は3シリーズに迫るほどだし、狭さが指摘されていた後席の居住性にしても身長170cmの筆者がゆとりをもって足が組めるようになった。なんだか、この3年弱で一気に大人っぽさが増している。

 30~40km/h程度での走行が続く裏道では、静粛性に加えて振動が極端に減ったことを実感。新型エンジン+8速化が好影響をもたらし、甲高い燃焼音はなりを潜め、ディーゼルモデルのネガティブな面を意識することはなくなっている。実はこのように静々と走らせているときこそ、そのクルマの素性というかベースとなる性格が色濃く出るものだが、その意味で新型は滑らかさが全面に出ており、おしなべて走行フィールはとてもよい。それはディーラーでちょっと試乗しただけでも“上質だな”と感じられるとても分かりやすいレベルだ。ドライビングポジションにしてもシート位置の調整幅が広く、1段ごとのピッチが狭くなったこともありベストなポジションを探し出しやすくなった。また、最適なドライビングポジションをとった状態でも、先代モデルのように左ドアミラーの鏡面がドアに隠れてしまうことがなくなり、0次安全の向上という意味でも高く評価できる。

 道幅が広くなり、50~60km/hへと走行ペースを上げてもマナーのよい走行フィールは保たれたままだ。走り続けると徐々に登り勾配がきつくなってきたが、そうした場面ではディーゼルならではの低速トルクがものをいう。ただ、重箱の隅をつつくようだがBMWグループの2.0リッターディーゼルは、この新世代となっても滑らかさが少し足りない傾向にある。これは同エンジンを搭載するBMWの新型「523d」でも感じたことなのだが、低速トルクこそ十二分であるものの、回転フィールは若干重くディーゼルを意識させるもので、とくに低回転域ではその傾向が強い。その点、スムーズさとパワー感の両立という意味では、マツダのSKYACTIV-D(2.2リッターエンジン)が1歩上だ。

MINI クーパー D クロスオーバーのパワートレーンは最高出力110kW(150PS)、最大トルク330Nmを発生する直列4気筒2.0リッター直噴ディーゼルターボエンジンに8速ATを組み合わせる

 ただ、BMW/MINI陣営には8速ATがある。しかも、ギヤ段が細分化されただけでなくシフトプログラムが優秀で、路面勾配に応じたアクセルワークに対して欲しいところでシフトダウンがスッと行なわれる。だから、上り勾配路にさしかったシチュエーションでも平坦路と変わらずどこでもクルマとの一体感が続くのだ。

 とはいえ、ディーゼルエンジンであることからトランスミッション・ギヤ比との兼ね合いもあり、エンジンブレーキでの減速度がガソリンエンジンほど期待できない。このことから下り勾配では積極的なシフトダウンを行なうとともに、フットブレーキでの減速をセットにした運転方法が求められる。もっとも、これは今回のMINIに限った話ではないが、ガソリンモデルの運転方法と異なる部分なので意識されるといいだろう。

 ところで、新型にはシリーズ初のプラグインハイブリッドモデル(PHV)が「MINI クーパー S E クロスオーバー ALL4」として用意された。ガソリンの直列3気筒1.5リッター直噴ターボエンジン(136PS/220Nm)に、88PS/165Nmのモーターを組み合わせた4輪駆動モデルだ。トランスミッションは6速ATのみ。ディーゼルのALL4が駆動力を前後で自動配分する4WD方式であるのに対して、MINI クーパー S E クロスオーバー ALL4ではガソリンエンジンが前輪を駆動し、モーターが後輪をそれぞれ分担して駆動する。モーター駆動だけ、つまりEV走行状態での最高速は125km/hだ。

 充電1回あたりのEV走行可能距離は約40km。7.6kWhのリチウムイオンバッテリーは後部座席下に配置されている。充電時間はSOC 0%の状態で200V/3時間とのこと。車両価格も戦略的で、MINI クーパー SD Crossover ALL4の4万円安となる479万円に設定された。PHVのデリバリーはディーゼルモデルより若干遅れるとのことだが、こうしたスペックだけみてもかなり魅力的な存在だ。いずれ試乗レポートをお届けしたい。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:安田 剛