インプレッション

トヨタ「コースター」(2017年1月フルモデルチェンジ)

フルモデルチェンジをした新型「コースター」

 マイクロバスとも呼ばれる小型バス「コースター」がフルモデルチェンジを行ない4代目に生まれ変わった。これを機に公道で試乗するチャンスを頂いたのでその試乗レポートをお届けしたい。

 と、その前にコースターが属する小型バスの市場について少し解説したい。小型バスの市場はこの50年で世界中に広がっており、今では110カ国以上にまで及ぶ。今回紹介するコースターだけでも初代コースター(1969年~1982年)の前身であるトヨタ自動車「ライトバス」(1963年~1969年)を含めると世界累計で55万台以上の販売実績がある。さらにここ20年はアジア地域における経済発展が著しいが、こうした地域では都市部において道路インフラが積極的に整備されている半面、少し郊外まで足を延ばすと舗装がなされていない場所が多く荒れた道も多く残り、また道路自体の幅も狭い。そうしたことから小回りが効いて運転操作がしやすく、それでいて30人近い乗車定員を誇る小型バスに人気が集中しているのだ。

 また、コースターはトヨタブランドということもあり、同じくトヨタのクロスカントリーSUVである「ランドクルーザー」に対する優れた耐久信頼性へのイメージがよい影響をもたらしている。しかしこれは、単なる口コミ効果によるものだけでない。実際、コースターの耐久信頼性は過酷な使用条件下でも高く、新型となった4代目も随所に新しいデザインと設計思想を採り入れながら、必ずしも整備環境が十分でない国や地域でもメンテナンスが滞りなく行なえるような配慮がなされており、こうしたことも先の好印象を後押ししている。

新旧モデルの比較
角(エッジ)を強調したデザインへ方向転換

 新型コースターは従来型である3代目の流麗なフォルムから、角(エッジ)を強調した力強いデザインへと方向転換を図った。これに対して新型コースターの開発責任者である山川主査は「日本市場のお客様には新たな提案として、また海外市場ではより存在感を際立たせるために、押し出しの強いデザインを作り上げた」という。

新型コースター。試乗車はEX/ロングボディ/ハイルーフ/29人乗り/6速AT仕様。ボディサイズは6990×2080×2635mm(全長×全幅×全高)
29人乗り、25人乗りの最後列固定シートの下にラゲッジルームを設定(24人乗りには大きく開く観音扉を用意)
最高出力180PS、最大トルク47.0kgmを発生する直列4気筒 4.0リッター直噴ディーゼルエンジン

 ボディバリエーションは全長6255mmでホイールベースが3200mmの「標準ボディ」と、全長6990mmでホイールベースが3935mmの「ロングボディ」の2種類。さらに全長を延長した「スーパーロングボディ」は設定されず(ライバルとなる三菱ふそうの小型バス「ローザ」には設定あり)、従来型に採用されていたエアサスペンション仕様も現時点では採用を見送っている。また、エンジンとトランスミッションも新型化に合わせて最適化が図られたものの、基本となる部分はキャリーオーバーとして各部に新しい設計を盛り込んだ格好だ。

 ところでトヨタでは、2016年4月から新体制としてカンパニー制を進めているが、そのうち新型コースターは「CV Company」が担当した初のフルモデルチェンジモデルとして誕生した。トヨタ車体を中核とするCV CompanyはSUVやトラック、ミニバン、そしてバンとしてコースターを専門に扱うとし、将来的にはラインアップの拡充や「自動運転技術」や「燃料電池」といったトヨタが得意としている分野も採り入れていくという。また、新型コースターでは乗用車との部品共有化を目的に、バッテリー電源を24Vから12V化へと変更した。これにより、前述したとおりエアサスペンションの採用は現時点では見送られているが、順次法規対応が決まっている車両挙動安定装置(横滑り抑制装置)である「VSC」(トヨタグループでの固有名詞)の制御部品を乗用車と共有化できたため今回から前倒しで全車への標準装備化を完了するとともに、合わせて品質保持とコストダウンも両立させた。

開発メンバーと記念撮影。左からトヨタ自動車株式会社 CV Company CV製品企画 zu 主査 山川雅弘氏、筆者、トヨタ自動車株式会社 CV Company CV製品企画 zu 主幹 服部達哉氏、トヨタ車体株式会社 車両実験部 参事 伊豫田憲司氏

 コースター独自の仕様であり「中型免許8t限定」で運転可能な9人乗りモデルの「ビッグバン」は引き続き設定された。ちなみに小型バス運転に必要な運転免許は、「8t限定なしの中型」(含む8t限定なし中型二種)か、「大型自動車」(含む大型二種)で運転可能だ。注意すべきは免許証に「8t限定」とある場合は運転できない。この場合は、限定を取り除く「限定解除」を行なうか、上位免許の取得が条件になる。

【編集部より追記】9人乗りモデル「コースタービッグバン」を運転できる免許について追記させていただきます。まず2007年6月1日までに「普通免許」を取得した人は「中型免許8t限定」とみなされ運転が可能です。2017年3月12日の改正道路交通法により2007年6月2日~2017年3月11日に「普通免許」を取得した人は「準中型免許」(5t未満)にみなされますが、運転免許試験での技能審査などに合格すれば限定のつかない「準中型免許」になり、運転することが可能になります。また、2017年3月12日以降では「準中型免許」の取得が必要になります。

新旧モデルの乗り比べ

 こうした背景を踏まえた上で早速試乗だ。今回の試乗会場は名古屋市郊外の大型宿泊施設を拠点に、周辺の一般道路から高速道路まで約80km程度の道のりを走行した。また、比較試乗用として先代コースターも新型に同行してくれたので、交互に乗り比べながら新型の進化点を探ることができたのはありがたかった。

 試乗グレードは、新型コースターが「EX/ロングボディ/ハイルーフ/29人乗り/6速AT仕様(最高出力180PS/最大トルク47.0kgm/車両重量3880kg)」、従来型は「GX/ロングボディ/ハイルーフ/29人乗り6速AT仕様(最高出力180PS/最大トルク47.0kgm/車両重量3680kg)」だ。グレードや装備の違いから新型の車両重量が200kg重いことから、従来型には乗客として従来型に男性3名が余分に乗り込み、さらに撮影機材を積載して、およそ200kg分重くなる新型と試乗条件が同一となるよう調整している。

 試乗スタート直後は、宿泊施設の敷地外に出るまで制限速度が20km/hに定められた連絡路を通る。この20km/hという速度域は小型バスの活躍する主要ステージの1つであることから、ここでのドライバビリティは小型バスの評価を大きく左右すると言われている。まずは従来型から試乗してみたのだが、Dレンジでは強めのクリープ走行となり、ブレーキペダルでの速度微調整が頻繁に求められる(アイドリング回転数は新旧とも同じ)。また、ステアリングの操舵力が軽い(≒パワーアシストが強い)こともあり、ボディサイズを感じさせない軽快感が全面に出ている印象だ。

 対して新型は徹底してスムーズでクリープ走行速度も若干低く、ブレーキペダルの操作回数も少ない。また、アクセルペダルに対する躍度の出方が自然なので、ドライバーが意図した通りの加速度を伴った走りを生み出しやすい。特筆すべきは、エンジンマウントなどの変更によって振動が劇的に少なく感じられること。開発陣に伺うと、これは振動そのものの絶対値が減ったというよりも、設計を改めた運転席の座面やバックレストを通した振動周期が変化したことで、体感値として減ったと解釈するのが正しいようだ。また、ステアリングの操舵フィールも少し重みを感じる特性になった。微速域での操舵フィールに対する「軽い/重い」は好みの問題だと言われることがあるが、筆者は大きなボディをいつでも操作しているというインフォメーションをドライバーへと伝え続けることが大切であると考えているので、新型になって変化した重めの操舵フィールを歓迎したい。

 20km/h前後の速度域は、たとえばホテルの送迎などで使われるシーンとも重なる。加えて、駐車場や駅前ロータリーなどでは他車や自転車、また時として横断歩道を渡る歩行者への配慮が必要となることから、こうした場所での安全確保は運転席からの視界が大きく左右する。

運転席まわり
ドライバー席の隣にあるカバーを開けるとエンジンが現れる

 ここでも新型の優位性が際立った。従来型からインパネ周りやダッシュボードをスリム化するなど、形状変更を行なったことで、運転席からの視界が車両の手前側へグンと広がっている。同時に助手席フロア部分のエンジンカバー前端部が50mmほど下げられたため、運転席から助手席や助手席ドアを通した車両左側方の視界も開放感が高められた。0次安全の向上はすべての基本となるため、大いに評価したいポイントだ。

 乗客として実感する乗り味はどう進化したのか? 車両最前部の助手席と車両最後部右側の対角位置で、新旧それぞれで乗客として乗り比べをした限りで言えば、新型は走り出しから滑らかな振動特性へと進化していることが分かる。とくに20~40km/h程度の小型バスが頻繁に走行するステージでは、バスの基本性能として求められている滑走感が強まり上質だ。だからといって、決して足回りがソフトになったわけではなく、ボディ剛性が高まったことにより10Hz前後のクルマ酔いを誘発する振動域が極端に減った。確かにソフトな乗り味が好評のエアサスペンションが新型となってなくなってしまったのは惜しいが、それでもこの乗り心地なら十分に納得できると感じられた。

 新型の進化をもっとも感じられるのは高速走行だ。とりわけ直進安定性が大きく向上している。取材当日は北風が強く、吹きさらしの陸橋などを走行したのだが、進路を乱されやすいこうしたシーンでの直進安定性は実際の操舵フィールで2倍向上、心理的な安心感を加えれば3倍程度にまで高まった。これには、新型となって追加されたフロントサスペンションのスタビライザーと、強化されたボディ剛性によるところが大きい。ダンパーの減衰力も車重増加に対して前輪120%/後輪140%程度それぞれ強化している。同時にねじり剛性も向上させた結果、凹凸路面やジョイント通過時に体感する車体のねじれが減少し、大型商用車特有の前後輪の位相ズレが明らかに減っている。

 優れた静粛性も新型の美点だ。遮音設計を変更したことにより、緩加速時のタービン音(高周波音)が大幅に減少しているのが分かる。高速道路などでの合流シーンではアクセルペダルを全開近くに保つスクランブル過給領域となり、さすがにここでは音圧こそ高まるものの、従来型と比較すると新型は車体全体が薄いラバーでコーティングされたかのようで、耳に届くエンジン音や体感する振動はマイルドだ。また、こうした状況での盛大なエンジン音や高まる振動は同乗者を不安にさせる要素の1つだが、新型は静粛性に優れていることから、その意味でも人に優しい方向へと昇華したと言える。

 新型では走行性能だけでなく安全性能の基本スペックも高められた。新型から本格的な環状骨格をボディに採用(先代もそれに近いボディ構造)したことで、「ECE基準:R66-02ロールオーバー」を上回る安全性能を確保している。こうした高い安全性能はレーザー溶接や高張力鋼板など、乗用車で馴染みの深い技術に支えられたものだが、大型商用車への採用はカンパニー制によるメリットなのだろう。また、運転席/助手席含め全席3点式ELRシートベルト、補助席2点式ELRシートベルト、さらには前述したとおりVSCの標準装備化など、法規対応を前倒しで実施を行なっている。同じく法規対応が公布されている衝突被害軽減ブレーキについては、法規に合わせたタイミングで採用を行なうという。

ELR付3点式シートベルトを装備したシートを採用
補助シート(はね上げ式・シートバック上下スライド式)にもELR付2点式シートベルトを装備
メーカーオプションで用意される冷蔵庫
車体全体に角(エッジ)を強調したデザインを採用したことで荷物を積載する棚のスペースに余裕が生まれた

 快適な車内空間も新型のこだわりだ。カタログ数値の上では窓席と窓の感覚が約40mm、窓の開口高が50mmそれぞれ拡大されたに過ぎないが、キャビンは乗客席に座ってみると上部へ行くに従って開放感が高まるため、それらの数値以上にゆとりが増えたように感じられる。さらに新型では窓枠に腕がのせられるようになった。これにより長距離の移動も苦にならない。頭上のルームラック(荷物を積載する棚)を車体外側へ140mm移動させながらラックそのものの高さも60mm拡大させるなど、実質的なコンパートメントスペースも拡大している。

 ボディが大きくなっていることから空力面を左右する前面投影面積も拡大していて、空力特性は従来型に若干ながら劣る。しかし、今回の実走テスト(一般道路:4/高速道路:6の割合)では6.9km/Lと重量車モード値の約78%を記録するなど、実質的な走行条件における燃費数値の悪化はほぼゼロと言える。小型バスを一般ドライバーが運転する可能性は低いが、一方、ひょんなところで乗客としてお世話になることも多いだろう。過疎化が進む地域ではコミュニティバス(街中を走る小型バス)の需要も高まっているというから、今回のフルモデルチェンジは公益性の高い仕事であったとも言えよう。

【お詫びと訂正】記事初出時、9人乗りモデルを運転できる免許の種類に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:佐藤安孝(Burner Images)