試乗レポート

トヨタの新型「ハリアー」に採用される先進技術「調光パノラマルーフ」「デジタルインナーミラー」を深掘り。実際の使い勝手は?

 2020年は後半戦もSUVが市場をけん引する。魅力的な新型車が次々に登場するからだ。4代目となった新型「ハリアー」は、今では当たり前となった「クロスオーバーSUV」の先駆け的な存在。1997年に初代が提唱した「高級乗用車×SUV=クロスオーバーSUV」というカテゴリーは次第に受け入れられ、その後、世界中の自動車メーカーがプレミアムブランドを中心にラインアップを増強した。

 新型ハリアーのロードインプレッションについては、自動車ジャーナリストの先輩である日下部保雄氏の記事に詳しいのでそちらのレポートをお読みいただきたい。代わりに本稿ではハリアーの先進技術について少し深掘りする。

写真は新型ハリアー「G」のハイブリッド4WD(E-Fore)モデル。価格は422万円。ボディサイズは4740×1855×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2690mm。18インチの切削光輝+ダークグレーメタリック塗装のアルミホイールに装着するタイヤは、225/60R18サイズのダンロップ「グラントレック PT30」
ハイブリッドモデルは最高出力131kW(178PS)、最大トルク221Nm(22.5kgfm)を発生する直列4気筒2.5リッター直噴型エンジンと最高出力88kW(120PS)、最大トルク202Nm(20.6kgfm)を発生するモーターをフロントに搭載。4WDモデルではリアに最高出力40kW(54PS)、最大トルク121Nm(12.3kgfm)を発生するモーターが追加される。WLTCモード燃費はハイブリッドの2WDモデルで22.3km/L、4WDモデルで21.6km/L。このほかに、最高出力126kW(171PS)、最大トルク207Nm(21.1kgfm)を発生する直列4気筒2.0リッターエンジンを搭載するガソリンモデルもラインアップ
ハリアーの高級感漂う内装。グレードによってブラック、ブラウン、グレーから内装色を選べる。撮影車は12.3インチのディスプレイを持つT-Connect SDナビゲーションシステム+JBLサウンドシステムを装着
シート表皮は写真の本革のほか、ファブリック+合成皮革、ファブリックの3種類を設定

 日本でクロスオーバーSUVが受け入れられてきた背景には、1989年のスバル「レガシィ ツーリングワゴン」に続く、日産自動車「アベニール」、トヨタ自動車「カルディナ」、本田技研工業「アコード ワゴン」、マツダ「カペラワゴン」、三菱自動車工業「レグナム」などによるステーションワゴンブームが一段落し、新しい価値観の模索が始まっていたことが挙げられる。

 クロスオーバーSUVとともにミニバンブームも1990年代のトピックだ。1994年の初代ホンダ「オデッセイ」に端を発したミニバンは、国内各社にラインアップされるまでになり今に至る。

 現在のSUVは、ハリアーの属する上級クラスから、スズキ「ハスラー」、ダイハツ工業「タフト」に代表されるような軽自動車まで実に幅広い。ヒップポイントが高いので乗り降りしやすく、さらに見晴らしがよいため運転にクセがない。加えてプレミアムからスポーティまで出で立ちまでもが変幻自在。パワートレーンにしてもハイブリッドからディーゼルモデルまで選べ、ミニバンと比較すれば動力性能にしても乗用車に近い。

 いずれにしろユーザーがクルマに求める、先進的で室内が広くて運転しやすく、アクティブかつスポーティでありながら、上質な雰囲気を醸し出していることから、SUVは世界で人気を博している。

 なかでも歴代ハリアーは先進技術との親和性が高い。日本では三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」(1996年)から実装がはじまったHIDヘッドライト。これを初代ではいち早く導入し、2代目(2003年~2013年)ではハイブリッドモデルと、先進安全技術群「Toyota Safety Sense」の前身である「プリクラッシュセーフティシステム」を採用、3代目(2013年~2020年)では当時のトヨタが持つ先進技術をフルに搭載していた。

 そして4代目。歴代のセオリー通り、快適装備を各種取りそろえながら、衝突被害軽減ブレーキに始まるToyota Safety Senseを全グレードで標準装備(「S」グレードは連続可変配光式の「アダプティブハイビームシステム」ではなく、ロー/ハイ自動切り替え式の「オートマチックハイビーム」)としつつ、上質な室内を演出するために「調光パノラマルーフ」(「Z」グレードシリーズにオプション設定)や、前後方向の録画機能を搭載した「デジタルインナーミラー」(Sグレードにオプション設定、その他グレードは標準装備)などを用意する。

 初代が目指したクロスオーバーSUVは、これまで存在しなかった“高級乗用車×SUV”という定義であったが、時代の移り変わりとともに変化する。4代目ハリアー最大の特徴は「マルチパフォーマンスSUV」ともいえる全方位に対するスキのない作り込みだ。とりわけ先進技術がふんだんに採用されていることから、ここからはその代表的な部分を解説したい。

調光パノラマルーフの仕組み

 まずは調光パノラマルーフから。これは、AGCが開発した調光ガラス「WONDERLITE Dx」を活用した先進技術で、2枚のガラスの間に挟み込んだ特殊フィルムにより車内の調光が瞬時に行なえる。

調光モード(左)と透過モード(中央)はマップランプ部分(右)のスイッチから変更可能

 具体的には、九州ナノテック光学製の特殊フィルム中に含まれる、ある特定材料の配列を予め「分散」させることでガラスそのものを乳白色化。これにより光が遮られる「調光モード」が実現する。次に、特殊フィルムに電圧を加えると、これまで分散していた特殊材料が同じ向きに整列され、今度は光を通しやすいクリアな「透過モード」になる。

 この特殊材料の分散と配列にかかる時間(≒スイッチ操作や音声操作からの反応時間)が、量産車に採用される同様の自動車用外装ガラス向けとしては世界最速であり、量産車ではハリアーが世界で初の搭載になるという。ちなみに調光と透過、いずれのモードでも紫外線(UV)カット率は約99%だ。

トヨタの新型「ハリアー」に採用された「調光パノラマルーフ」を音声で操作してみた

 この手の調光ガラスは、たとえばメルセデス・ベンツ「SL」が2012年に、そしてその後、SLCなどが採用した「マジックスカイコントロールパノラミックバリオルーフ」でも実現している。これはオープンモデルのクローズドルーフ状態の時に、外光を積極的に採り入れるために開発された技術だ。

 クリアガラスとダークガラスの状態がスイッチ操作で任意に変更できるのだが、筆者の体験値では、スイッチ操作からの反応時間はハリアーのそれの1.5倍ほど時間がかかり、その濃度変化も両方向でゆっくりだった。しかしながら効果は大きく、ダークガラスにすることで炎天下の車内温度は最大で10℃下がることが実証され、紫外線と赤外線の両方を大幅カットするという。

デジタルインナーミラーとの付き合い方

 続いて、新型ハリアーのデジタルインナーミラーについて。デジタルインナーミラーそのものは、トヨタだけでなく軽自動車や国内外の各社がこぞって採用する先進技術だ。鏡面にスイッチ切り替え式の液晶パネルを埋め込み、そこに光学式カメラの高精細な画像を映すことで、たとえば後部座席に座る同乗者やラゲッジルームに積んだかさばる荷物などに左右されることなく、クリアな後方視界の確保が期待できる。同時に、光学式カメラの特性を活かした鏡面よりもワイドな(広範囲に見える)視界も得られる。

新型ハリアーに搭載されるデジタルインナーミラーは鏡面ミラーとワンタッチで切り替えが可能。ミラー下部にあるスイッチで設定の変更ができる

 一方で、ミラーの基本的な位置は鏡面/液晶、どちらの状況でも変わらない。これが筆者(48歳)のように遠視で老眼が重なった眼にとっては、正直つらい。鏡面を使う「光学ミラーモード」であれば合焦点を鏡に映る後続車などに合わせる(≒遠い)ため問題はないが、液晶画面を使う「デジタルミラーモード」では手を伸ばす位置に画面がくる(≒近い)ことから合焦させるために時間がかかる。

 加えて、いくら高精細な液晶画面といえども、鏡面と比較すると見え方はドットの関係から小さなものほど認識しづらく、たとえば液晶画面に映し出される後方車両のLEDウインカーの点滅などの認識能力は、筆者の場合、鏡面の半分以下に落ちることが分かった。

 新型ハリアーの開発担当者である小島利章氏は、技術説明の場で「新型ハリアーは30歳台と50歳台を中心に訴求したい」と発言している。そうしたことからも、特に視力が衰え出す50歳台のミドル層に対しては、先進安全技術がもたらすメリットと、物理的に抗えないデメリットの両方を同じ温度で伝える必要がありそうだ。

 もっとも、この手の先進安全技術は課題が分かっているだけに克服方法も見出しやすい。また、新型ハリアーの取扱説明書やカタログには、「体調・年齢などにより、ディスプレイに表示される映像に焦点が合うまで時間がかかる場合があります。焦点が合わせづらいと感じたときは、光学ミラーモードに切りかえてください。」(原文まま)としっかり明文化されている。

 筆者も、自分なりにデジタルミラーモードに対する解決策を持っている。光学ミラーモードは一般的な鏡面ルームミラーとして使うため、ドライビングポジションに応じてルームミラーの適正位置が決まってくるが、液晶画面モードではミラー本体をなるべく体に近づけて画面に目線を正対させ、同時に画面が外光の影響を受けない位置へとミラー本体を移動させる。

 まぁ、分かりやすく位置決めが面倒なのだが、たった数秒の作業でずいぶんと画面が見やすくなるし、外界把握までの時間も筆者の場合、20%は短縮できる。ただし、ここにも課題が……。前述したとおり光学ミラーモードへ戻す場面では、そのたびに、ミラー本体の位置を鏡面向けに戻さなければならない。

鏡面ミラーの位置でデジタルミラーモードにすると見づらさを感じることがあるため、ミラー本体の位置を体と正対させるように大きく向きを変えると、見やすさが上がる

 1990年5月21日、三菱自動車は「三菱インテリジェントコックピットシステム/MICS」を上級セダン「ディアマンテ」に世界で初めて採用した。これはドライバーごとに適した、シート位置(スライド、高さ、リクライニング角)、ステアリング位置、ルームミラーおよびドアミラーの角度を総合的に自動調整する機能で、ここにルームミラーの自動調整が含まれていることが、その後の車内HMI開発において大きな影響を与えた。

 この先、デジタルルームミラーには、画面のさらなる高精細化に加え、夜間や地下駐車場の暗部で発生する表示タイムラグの短縮とともに、MICSのような総合的な車内HMIとの融合にも期待したい。

 さらに、新型ハリアーが搭載するデジタルインナーミラーには前後方向の録画機能がある。車内からみてデジタルインナーミラーの左側(車外から見て右側)にある前方の専用光学式カメラと、リアゲートのハイマウントストップランプ下部に設けられた後方の光学式カメラの映像(=デジタルインナーミラーの映像)を、デジタルインナーミラー本体に内蔵するマイクロSDカード(16GBを推奨)に記録する。

フロントは最も右側にあるカメラで映像を録画。後方の映像はハイマウントストップランプ下にあるカメラで録画する

 衝撃検知による録画記録と手動の静止画記録に加え、「いったん前後方録画機能をON/OFFすると、次回パワースイッチをONにしたときにも、そのままの状態が続きます」(取扱説明書の原文まま)とあるように、連続録画モードにも対応する。

 しかし、音声の録音はできず、パワーOFF(≒降車して駐車している)状態での録画もできない。また、スマートフォンとのBluetoothやWi-Fiを経由した連携も今とのところ対応していない。

 その理由を先の小島利章氏に伺うと、「新型ハリアーでは、デジタルインナーミラーの付随として録画機能が欲しいという販売店などからの要望に応えた形で実現させています。よって、音声録音はできず、ドライブレコーダーといった文言も使用していません。また、ルームミラーは直射日光にさらされる場所であり、録画機能を内蔵したデジタルインナーミラーそのものも発熱体です。よって熱対策との関係もあり、連続録画に対応させるためマイクロSDカードは16GBを推奨しています」とのことだった。

安全面で気になる、新型ハリアーの“被視認性”

 以上、新型ハリアーの先進技術について触れてきたが、最後に安全という観点から被視認性について筆者の考えを述べたい。車体後部のウインカー位置についてだ。

 彫りが深く立体的で、きれいな横一文字を描くLEDストップランプや、ワイド(ロング)なLEDハイマウントストップランプ(上位グレード)には真っ先に目が行くのだが、車体後部のLEDウインカーはその存在が目立ちにくい。端的に配置が低く、発光面積も小さいからだ。

 ただ誤解のないように申し上げれば、この新型ハリアーの後部ウインカー、当然ながら道路運送車両法の保安基準の細目に定められている「方向指示器」の要件を100%満たしているため、いわゆる法令遵守は万全だし、実際、LEDウインカーを点滅させた際の輝度も十分だ。

 しかし、人間工学的な見地では人の目線が一度に集中できるのは2~3か所程度が上限だと言われていて、それに伴い脳における認識も限定されるという。

 新型ハリアーでいえば、ストップランプとハイマウントストップランプの配置は、運転席に座る後続車のドライバー目線から上部に集中するため、そちらに目線が奪われがちになる。ここに低い配置のウインカー点滅が加わるとどうなるのか。また、そもそも「ウインカーはストップランプ近くにあるものだ」と無意識に自分のなかで定義付けされているドライバーも、私を含めて少なくないのではないか……。

右ウインカーが出ているのだが、理解するまでにほんの一瞬、脳の処理が追いつかなくなるようなタイムラグが生じる

 道路交通法に定められている合図(ウインカー操作による点滅)のタイミング、すなわち3秒/30mルールが世間一般に遵守されていればよいのだが、残念ながら実際はこれよりも短時間/短距離での合図に留まるケースが多い。そうした交通社会の実状に照らし合わせた場合、ハリアーの後部ウインカーはどう他車から意識されるのだろう。興味は尽きない。

 かつてホンダに小型のマルチワゴン「モビリオ スパイク」(2002年9月登場)があった。ボクシーなスタイルを強調すべく、リヤコンビランプは地面から低い位置に横位置で集約されていた。

 もちろん法令に合致しており、見た目にしてもシンプルで好評だったが、市場からは「ストップランプやウインカー位置が低すぎて見えにくい」という意見があがる。そこでホンダは、2005年12月のマイナーチェンジでリヤコンビランプの位置を高くするとともに、発光面積も大型化した。また、位置が高くなったことで、後退時にバンパーと一緒に破損しやすかったリアコンビランプも自ずと守られる結果となり、安全性と経済性の両方を高めることができた。

 われわれはつい、安全というと先進安全技術にばかり目が行ってしまう。しかし、事故ゼロ社会を目指す基本は、例えば全国二輪車安全普及協会でも提唱されているように、「見る・見られる、いい運転」であると筆者は常々考えている。

 その意味でウインカーは、自車の次なる行動を周囲に意思表示する大切な機能部品。法令遵守にプラスして交通社会の実状にも合致できるようになれば、さらによいと思う。

 また、この先の自動運転社会に対してもこうした灯火類を使った意思表示は重要になる。自車周囲の状況把握に対して補完的に使われるからだ。自動化レベルのさらなる高度化によって、将来的にはコネクティッド技術を使った車々間通信が自動走行状態を安定させるツールとしても使われる。その際、ロバスト性の向上と通信技術のフェールセーフという観点から、各車が搭載する光学式カメラが映し出す他車の灯火類が重要な役割を担う。

「新型ハリアーは最高のデザインで成し遂げたい、その強い想いで造り上げました。しかしながら、後部ウインカーについてはさまざまなご意見を頂戴していますので、われわれになにができるか、考えてみたいと思います」と語るのは、RAV4の開発責任者を担当し、新型ハリアーや北米市場で販売中のSUV「ハイランダー」をとりまとめる佐伯禎一氏(Mid-size Vehicle Company MSZデザイン領域 統括部長 チーフエンジニア兼務)。

 ふとカタログを見ると、デザイン上のアクセントになっているリアバンパーのクロームパーツだが、ベースグレードの「S」には装着されていない。光り物がないだけで先のウインカーとの関係は改善するようにも感じられるのは筆者だけだろうか。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一