試乗レポート

アウディ「A7 スポーツバック 40 TDI」、ディーゼルだと気づかないほどの静粛性と快適すぎる高速クルージング

高速道路なら満タンで航続距離1000kmも夢ではない

2020年4月に日本国内に追加されたディーゼルエンジンモデルに試乗

 アウディ A7 スポーツバックにディーゼルエンジンを搭載した40 TDI クワトロが発売された。テスト車両が用意できたというので早速410kmほど試乗に連れ出してみた。

12Vマイルドハイブリッドを搭載

 これまでA7 スポーツバック(以下A7)には直列4気筒2.0リッターガソリンターボエンジンの45 TFSI クワトロ(819万円)と、V型6気筒3.0リッターガソリンターボエンジンを搭載する55 TFSI クワトロ(1090万円)がラインアップされていたが、今回エントリーグレードともいえるポジションとして直列4気筒2.0リッターディーゼルターボエンジンの40 TDI クワトロ(812万円)が投入された。

アウディ A7 スポーツバック 40 TDI クワトロ S-Lineパッケージ

 このEA288 evo型のディーゼルエンジンは最新の排ガス基準に適合しており、最大出力は150kW(204PS)/3800-4200rpm、最大トルクは400Nm/1750~3500rpmを発生し、12Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされる。

 12Vマイルドハイブリッドシステムは、従来の電装系用バッテリーに加えて、リチウムイオンバッテリーも搭載。この2つ目のバッテリーの助けによって、55~160km/hの範囲でエンジンをオフにしたコースティング走行や、22km/h以下でのアイドリングストップを実現するほか、5秒間のエンジンアシスト(最大2kW、60Nm)を行なうという。また、通常のスターターモーターより大型のBAS(ベルトオルタネータスターター)のため、エンジン停止・再始動は非常にスムーズになるメリットも備えるとのことだ。

トランスミッションは7速Sトロニック。そこにAWDクラッチを使用する高効率なクワトロシステムが搭載されている

高い静粛性

 スペックの紹介はこのくらいにして早速走り出してみよう。アウディの広報車両のデポは住宅街の中にあるため、一方通行の路地をゆっくり抜けなければならない。そういった時にA7スポーツバックのようなサイズ4970×1910mm(全長×全幅)では持て余しそうな気がする。しかし、今回お借りしたA7にはオプションのドライビングパッケージが装備されており、そこにはダイナミックオールホイールステアリングとダンピングコントロールサスペンションが組み込まれる。

ダイナミックオールホイールステアリング機能により、ステアリングを切ったフロントタイヤとは逆方向にリアタイヤが向いているのが分かる。これにより小回りがきくようになる

 前者は4WSのことなので、最小回転半径が5.7mから5.2mとはるかに小さくなり、路地から路地へ曲がってもおや? っというくらい簡単に入り込んでいけるのは大きなメリットといえ、できうるならばぜひ装備したいオプションだ。

 そこから幹線道路へ出て、一気にアクセルを踏み込むと、ほとんどシフトショックを感じないまま7速Sトロニックはおよそ1500rpmくらいでどんどんシフトアップし、あっという間に制限速度を超えそうになる。そこでアクセルを抜いて流れに乗って走っていて気づいたのは静粛性の高さだ。

 ほとんどといっていいほどディーゼルエンジンの音は室内に侵入せず、ドライバーを含めディーゼルだと思わせるものはまったくといっていいほど感じられない。更にロードノイズもかなり静かなので、普通に走らせている分にエンジンの種類を気にすることはまったくなかった。コースティング機能によるエンジンストップと再始動はタコメーターを見ていなければわからないレベルだったことを追記しておこう。

 今回、アウディドライブセレクトはAUTOを選択しテストしたが、乗り心地もしなやかでありながら妙にあおることもなく、快適な乗り心地を乗員に提供し続けてくれた。

4970×1910×1415mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2925mm、車重1840kg

12Vマイルドハイブリッドなのに

 一方、街中でいくつか気になったことを記しておくと、それは大きく2つある。ひとつはアイドリングストップだ。

 前述の通り12Vマイルドハイブリッドシステムを搭載していることから、信号などでの停止寸前でエンジンが休止する。そこからの再スタート時に、意外とエンジン始動の振動がぶるんと大きく伝わり、まるでBASを使わずスターターでエンジンを始動させているような印象だった。

TDIエンジンはアルミ製シリンダーブロック、アルミ製ピストンなどで軽量化した2200barの燃料噴射圧を、新開発の8穴ソレノイドインジェクターが正確な噴射コントロールを実現。状況に応じて1行程あたり合計5~8回の噴射(パイロット/メイン/ポスト噴射)を行なうことで、高い環境性能や低振動、静粛性を両立した

 もうひとつはエンジンとギア比のマッチングだ。特にオートホールド(ブレーキペダルから足を離しても停止状態を維持するシステム)を使っている場合に顕著なのだが、信号などからスタートする際に、マニュアル車でいうと長々と半クラッチを使っているような、あるいは2速から発進しているような印象が伴うのだ。

 そこで試しにと少し速度が出てからアクセルペダルを僅かに戻してあげると回転がすっと落ちてきちんとクラッチがつながったような状態になり、リニアに速度と回転が一致した印象になることが多かった。オートホールドを使わない場合でも似たようなもので、一瞬このクルマは重くて遅いの? という印象が付きまとう。仕様書のギア比を見ると55 TFSIとまったく共通なので、多少エンジン特性の違いがこの違和感に現れてしまったように感じる。

 さらに2速や3速あたりで走らせていて、そこからアクセルを踏み込むとそのギアをホールドして一生懸命加速しようとし、さらに踏み込むと今度はキックダウンして必要以上の加速が手に入ることになり、若干ピーキーなエンジンではないかという印象が残った。

 例えば1速~5速くらいまではもう少しギア比を下げることで、このエンジンのトルク特性に合った気持ちの良い走りが手に入ると思われる。

Sライン専用エンブレムが付く
Sラインパッケージに付属するマトリクスLEDヘッドライト

得意な高速移動

 さてこのA7の真骨頂は高速での移動にある。街中でちまちまと走っている分には前述のようなネガ部分が気になってしまうが、いざ高速に入れば快適さと静粛性が際立ってくる。特にエンジンからはほとんど何も主張してこないので、適度にトルクのあるガソリンエンジンに乗っていると勘違いしてしまいそうだ。

 後席などに乗っている乗員がこのクルマをディーゼルだと言い当てることは不可能だろう。そういった室内でBang & Olufsenのオーディオシステムから流れる音楽に耳を傾けつつ走る高速は快適以外の何物でもない。

 クワトロシステムを搭載していることから、直進安定性も抜群だ。ほとんど修正舵を与えることなく、どこまでも走らせることができる。その時に若干気になるのが、ペダル類が僅かに上に向いていて足首が疲れやすいことが挙げられるが、これもアクティブクルーズコントロール(ACC)などを使えばクリアできる。

リヤスポイラーは、車速が約120km/hを超えると自動的に展開し、約80km/h未満で格納されまる。また、室内のタッチディスプレイから手動で調整も可能
アルミホイールはオプションSラインパッケージの5ツインスポークVデザイン。サイズは8.5J×20

 その完成度も高くほとんどエラーもなく前車を追従してくれ、加減速も比較的スムーズで違和感を覚えることも少なかったことを付け加えておこう。

 このように、高速での移動は得意なうえに、さらにメリットとして挙げられるのがディーゼルならではの足の長さだ。後述する燃費を参考にしていただきたいが、今回の計測では18.1km/Lを記録したので、タンク容量63Lをフルに使うと1000kmを余裕でオーバーする走行距離となり、まさにグランドツアラーということができよう。

ストップ&ゴーは少し苦手な燃費

 さて、その燃費だが……( )内はWLTCモード燃費

・市街地:59.8km 9.3km/L(14.2km/L)
・郊外:273.3km 14.2km/L(15.6km/L)
・高速:76.3km 18.1km/L(17.6km/L)

 という結果だった。市街地ではかなりの渋滞に巻き込まれたことからWLTCモード燃費から大きく下回ったが、発進停止を繰り返す都内ではこのくらいの燃費は想定しておいた方がいいだろう。

Audiバーチャルコクピットは12.3インチの高精細液晶モニターで、視線をそらさず瞬時に情報を取得できる

 一方、郊外や高速ではかなりの伸びを示し、やはりこのクルマが中速域以上の速度域が得意分野であることが証明された。

 さて、400kmほどを走らせてみた結果だが、当初、ボディ形状を含め、果たしてこのクルマにディーゼルは必要だろうかと疑問に思ったものだ。しかし、実際に走らせてみると、スタイリッシュでありながら居住性と荷室容量を十分に確保したグランドツアラーとして、ディーゼルエンジンは非常に魅力的な選択肢ということができる。

 特に足の長さとともに、静粛性の高さからディーゼルの音と振動というネガを感じさせない仕上げはさすがといわざるを得ない。街中をずるずると這いずり回るのは多少苦手だが、そのデメリットも高速での快適性を考えると目をつぶってもいいとさえ思わせてくれるものだった。

トランク容量は535L(VDA値)
運転席、助手席はもちろん、後部席の快適性も高次元の仕上がり。エンジンは静粛性がよく後部席の搭乗者はディーゼルエンジン車だと気づくのも難しいだろう

タッチスクリーンはスマホのようで綺麗だが

 最後にひとつ安全性について触れておきたい。近年、アウディに限らず多くのクルマがタッチスクリーンを採用している。見た目には大変美しく、あとから装備が追加された際のアップデートも物理スイッチを追加するわけではないので簡単だ。まるでスマホを操作する感覚で容易に操作ができるだろう。

インフォテインメント用の高解像度10.1インチアッパースクリーンと、空調操作(デラックスオートマチックエアコンディショナー)や手書き文字入力用の高解像度8.6インチローワースクリーンの2つのタッチディスプレイを搭載したナビゲーションシステムを搭載

 しかし、果たしてクルマとしてはどうだろうか。つまり移動している空間として果たしてタッチパネルが安全かどうかという視点だ。物理スイッチであれば配置さえ覚えておけば(そしてレイアウトさえきちんとしていれば)、ほぼ間違うことなくブラインドタッチが可能だ。しかしタッチスクリーンの場合はほぼ画面を注視してしまうことになる。

 例えば空調の温度調整をしたいと思うと、その画面を呼び出し、温度を変えて、また元の画面に戻さなければならない。その都度、指を持っていく位置は間違っていないか、きちんと操作が出来たかと画面を注視し、確認してしまうことになる。

 いずれは音声操作が可能な時代が来るのだろうが、その過程で安全性が軽んじられるのは本末転倒だ。ぜひ操作頻度の高いものに関しては物理スイッチを採用してもらいたいと感じている。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。