試乗インプレッション

2代目となったアウディ「A7 スポーツバック」のポテンシャルを体感

新世代モデルは静粛性と加速力が一級品

 優雅で流麗なクーペのスタイリングと、フラグシップセダンである「A8」にも匹敵する先進テクノロジーの融合――まずはこうしたフレーズでそのキャラクターを紹介したくなるのが、2018年初頭に開催されたデトロイトモーターショーで披露され、日本でも9月から発売されている「A7 スポーツバック」だ。

 初代=従来型の登場は2010年の秋だったので、2代目となるこの新型は「7年余りでのフルモデルチェンジ」。5mに届かんとする全長と1.9m超の全幅という堂々たるサイズは従来型とからほとんど変わらない一方、全高は20mmほどダウン。わずかとはいえ、こうしてより低さを狙ったディメンションへの変更が、「よりスタイリッシュでありたい」という開発陣の思いを反映したものであるのは間違いないだろう。

 従来型で確立させた4ドアクーペのパッケージングをかくも受け継いだ新型が、同時に見た目のイメージも強く踏襲しているのは、「4ドアなのにスタイリッシュ」という特徴を追求した初代モデルのスタイリングに大きな自信を抱いている表れでもあるはず。従来型では控えめだった“6角形”の表現がより明確化されたフロントグリルや、“左右が繋がった”リアのコンビネーションランプなどに、これからの世代のアウディ車としての新たな解釈が感じられることにもなっている。

撮影車は「A7 スポーツバック 55 TFSI クワトロ 1st edition」(1058万円)。ボディサイズは4970×1910×1405mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2925mm
ヘキサゴングリルはこれまでより角張った印象に刷新
特徴的なデザインのHDマトリクスLEDヘッドライトの下には、55 TFSI クワトロ 1st editionならではのモチーフが付く
5ツインスポークVデザインのアルミホイールに、255/40 R20サイズのタイヤを組み合わせる
ハイビームのユニットを従来の横1列から横2列にすることで高精細、高解像な照射を可能とし、先行車両や対向車の有無によって自動で照射範囲を変えられる
ウィンカーはシーケンシャルタイプ
左右のリアランプをつないで一体化した「LEDリアダイナミックインディケーター」
リアスポイラーは約120km/hを超えると自動的に展開し、約80km/h未満で格納されるほか、MMIタッチディスプレイから手動で調整も可能

 一方、そんなエクステリアのデザイン以上に“新世代”を感じさせられるのが、従来型よりも水平基調が強くアピールされるダッシュボードを筆頭としたインテリアのデザインだ。

 ダッシュボードの高い位置に“立てかけられる”ようにレイアウトされていたディスプレイは姿を消し、スイッチ類が削減されたこともあって、スッキリとシンプルな仕上がりが印象に残る。これは、ナビゲーション・マップのように頻繁に目にする必要があるものを見やすいメータークラスター内に表示できるようにした、“バーチャルコックピット”を前提としているからこそ成立したデザインとも受け取れるデザインだ。

水平基調のインテリア
インパネ中央にはMMIタッチレスポンス付きMMIナビゲーションを設置
下側のディスプレイはエアコンやアイドリングストップのON/OFFなどの操作ができる
シートはアルカンターラレザーを採用。前席はスポーツシートで、後席は40:20:40の分割可倒式
後席用のエアコン操作スイッチを備える
メーターは12.3インチのカラー液晶を用いたAudiバーチャルコックピットを設定
ACCのスイッチはコラムタイプ
パドルシフトを装備
シフトレバーまわり

 現時点で発表されている日本仕様車に搭載されるエンジンは、最高出力340PSを発する3.0リッターのターボ付きV型6気筒 直噴ガソリンエンジンという1種類。ただし、興味深いのはこの心臓に組み合わされるトランスミッションが“Sトロニック”と呼ばれるDCTで、A8で同じエンジンに組み合わせられる“ティプトロニック”と呼ばれるステップ式のATではない点にある。

「フラグシップセダンのA8には、特に微低速域でスムーズネスに優れたステップATを選択し、A7にはよりスポーティさを狙ってDCTを選択」……と、一般論を当てはめればそんな推測も成り立ちそう。が、実際にはA7でも微低速域での挙動に不満があるわけではなく、実はアウディ自身もその選別の理由を明確にしてはいない。

 A8の場合、シリーズの頂点にはA7には設定されていないツインターボ付きの8気筒エンジン搭載モデルが用意され、当然その心臓はより高出力を発生する。結果、そんなトップモデルには、トルク容量の絡みから「ステップATを使わざるをえない」という事情がありそうで、となると、6気筒モデルも同じトランスミッションを組み合わせている、というのが真相かもしれない。

ツインスクロールターボを採用する直噴のV型6気筒3.0リッターTFSIエンジンは最高出力250kW(340PS)/5200-6400rpm、最大トルク500Nm(51.0kgfm)/1370-4500rpmを発生。トランスミッションには7速Sトロニック(DCT)を組み合わせる

ポテンシャルが高いA7 スポーツバックの動力性能を体感

 かくして、そもそもヨーロッパやアメリカの市場に向けても8気筒モデルは設定されていないのがA7だが、それでもその動力性能は「いったいこれ以上、何を必要とするのか」というほどに強力で余力に富んだものだった。エンジンそのものが6気筒ユニットとしては最上級のスムーズさを発揮するのに加え、例の“Sトロニック”が電光石火の素早い変速を行なうこともあって、絶対的な加速力も一級品なのである。

 加えて、静粛性が高いこともあって、少なくともその加速感からこれが1.9t超という重量の持ち主であることを言い当てられる人は稀であるはず。A7 スポーツバックの動力性能は、かくもポテンシャルが高いのだ。

1.9tを超える車両重量にもかかわらず、スムーズな加速を見せる

 一方で、フットワークの仕上がりに関しては、「ひとたび路面が荒れ始めると、それまでの上質な乗り味がやや急カーブを描いて低下してしまう」というのが気になるポイントだった。

 段差を乗り越えたりした際に、やや鼓膜を圧迫して感じられるドラミング・ノイズは、凹凸が続くとそれが連続するために少々不快。さらに、大きなアンジュレーションに差しかかるとサスペンションのストローク感もやや物足りず、「1000万円超えのモデルであれば、もう少ししなやかに路面の不整を受け流してもらいたい」というのが実感となったのだ。

 どうやらこのあたりは、このモデルならではのスタイリッシュなルックスともバーターの関係がありそう。“カッコよさ”を演じる大きな要となっている20インチという大径のタイヤを、2.7barという高い内圧の指定で用いていることが、少なからずの影響を及ぼしていそうと感じられたからだ。

 一方、ワインディングロードに差しかかってもその巨体を持て余す感じをあまり受けずに済んだ点には、このモデルに採用をされている4WSシステムの恩恵が大きいことを実感した。

 ステアリング操作に対する舵の効きは素早く、タイトなコーナーも“水すまし感覚”でクリアしてしまう。驚いたのは小まわり性能の高さで、何となればわずかに5.2mという最小回転半径は、遥かにコンパクトなモデルのそれに匹敵する値に過ぎないのである。

 このモデルの場合、特に日本で4WSシステムのメリットが実感できるのは、主に逆位相操舵が行なわれる低速シーンがメインになりそう。裏を返せば、安定性を引き上げるべく行なわれる同位相操舵の領域は、「そもそも4WSシステムがなくても十分に担保をされている」というハナシだ。

 ところで、今回テストドライブを行なったのは、日本への導入スタートを記念して設定をされた「55 TFSI クワトロ 1st edition」。ベース仕様に対すると、エクステンデッドレザーを用いたインテリアや、バング&オルフセン製のサウンドシステム、ダイナミックオールホイールステアリング(4WS)や、ダンピングコントロールサスペンションなど、よりハイグレードな機能や装備を標準採用している点が特徴となっている。

 そんな特別なバージョンということも手伝って、インテリアはゴージャスな雰囲気満点。スタイリッシュなエクステリアのデザインに、ハイテクムードが随所に漂うこのインテリアの仕上がりこそが、数あるモデルの中からA7 スポーツバックを選ぶ、最大のモチベーションとなることは間違いない。

 もっとも、2つの大型タッチディスプレイを低い位置で縦に並べた“MMIタッチレスポンス”は、そんな新鮮な雰囲気作りにひと役買っている一方で、純粋な操作性としてはセンターコンソール上に設けられていた従来のメカニカルな“MMI”の後塵を拝している印象は否めなかった。

 画面上のアイコン操作時に音と触感で応答するハプティック技術を用いるのは高級モデルらしい点だが、そもそもアイコンを探すために視線を落とす必要があるし、画面を切り替える必要がある場面でも同様。ブラインド操作で多くの作業がこなせる従来型が、懐かしく思える場面もあるのは事実だったのだ。

 クーペフォルムの持ち主ゆえ、乗降時の頭や脚運びには注意が必要な一方、ひとたび乗り込んでしまえば大人が実用的に過ごせる後席の空間が用意をされているのは、大柄なボディの持ち主ならでは。

 4ドアであることは欠かせないが、ありきたりのセダンではフォーマルに過ぎる。かと言ってSUVは大仰だし、流行に呑み込まれたようで好みではない……。そんな欲張りでゴージャスな最新世代モデルが好みという人にこそ、このモデルはまさにあつらえたような1台としてふさわしい存在かも知れない。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:中野英幸