試乗インプレッション

フォルクスワーゲン「ゴルフ トゥーラン TDI」に日本&ドイツで試乗。多人数乗車モデルが必要な方はご一考を

ゴルフ トゥーラン TDIのタクシーで350km移動してみた

ドイツでの後席インプレッション

 フォルクスワーゲンの7人乗りコンパクトミニバンである「ゴルフ トゥーラン」。ディーゼルエンジン搭載車(TDI)が日本市場に加わったのは9月末のことだ。筆者はその約2か月後、初めてのドライバーとして試乗することができたのだが、じつは今回の試乗に先だって、ゴルフ トゥーラン TDIの2列目シートに350kmほど“試乗”する機会を得ていた。そう、いつもの試乗とは勝手が違い、ドライバーではなく乗客として道中を過ごしたのだ。私が最初にゴルフ トゥーラン TDIに触れたのはタクシー、場所はフォルクスワーゲンの本拠地があるドイツだった。

12月に行なわれたフォルクスワーゲンオールラインアップ試乗会。本稿では交通コメンテーターの西村直人氏による「ゴルフ トゥーラン TDI」のレポートを紹介

 6月、取材で訪れた彼の地で国内移動をするため、とあるターミナル駅に向かった。しかし、遅延のため乗車するはずの列車は到着していない。聞けば近年、ドイツの鉄道は遅延が激しいとのこと。次の目的地までは350kmほどあるため、このまま待ちぼうけを食らうだけではこちらの予定に遅れが生じる。そこで取材チームの考えた代替案は、レンタカーでの移動だった。

 割と大きなターミナル駅、よって簡単にレンタカーを確保できるかと思ったのだが然にあらず。周辺のコンベンションセンターでイベントが開催されていたこともあり、大荷物を抱えた取材チーム全員で移動するのに適したクルマが出払っていた。

 そこで最終手段としてタクシー(!)での移動を敢行。350kmといえば東京駅から名古屋駅あたりまでを結ぶ長距離だが、アウトバーンを走ればなんとか次の予定に間に合うことが判明。問題は高額が予想されるタクシー運賃だが、背に腹は代えられない。早速、駅周辺でタクシーを探してみると……、偶然にもタクシー仕様のゴルフ トゥーラン TDIが2台(しかも1台は新車のようにピカピカ)客待ちをしていたのだ。

客待ちをしていた2台のゴルフ トゥーラン TDI

 急いで取材チームがドライバーと交渉する。渋滞はなさそうか、燃料は十分か、そもそもそんな長距離をタクシーで移動できるのかなどなど。結果、ドライバーは笑顔で「OK!」と応えてくれたため、取材チームは2台のゴルフ トゥーラン TDIに分乗。3列目シートを倒し各人の大きなスーツケースや鞄を放り込み、筆者は3座独立タイプの2列目シート(折りたたんだ3列目は2座独立タイプ)に収まった。

 ドライバーの後ろ(左ハンドル)に座りシートベルトを締める。ちなみに乗り込んだのはピカピカのトゥーラン。長距離は慣れているのか、それとも単なる話好きなのか、車内では終始笑顔を絶やさないドライバーとの会話が弾む(長距離客なので当然か!?)。ダッシュパネルにはフォルクスワーゲンの純正インフォテイメントシステム「Discover Pro」こそ装着されていないが、明らかに新世代のインフォテイメントシステムが搭載されている。

 外観だけでなく車内もピカピカだ。「最近のジャーマニータクシーは清掃も行き届いているんだな」と思いつつ、何気なくドライバーにどれくらいの期間使用している車両なのか聞いてみた。すると、「納車3日目だ」という。そういえば乗り込んだ瞬間から新車特有の匂いがしていたし、見ればドアパネルやインナールーフはきれいでドアのサッシ部分にも汚れが一切ない。ということで前置きが長くなったが、今回はゴルフ トゥーラン TDIの2列目シート(ドイツ仕様だが……)からのインプレッションを最初にお届けしたい。

ドイツでゴルフ トゥーラン TDIのタクシーに試乗したときの様子。まだ納車3日目という新車状態! 3列目に荷物を搭載していざ出発

 装着タイヤは16インチ。日本仕様のゴルフ トゥーランでいえばTDI コンフォートラインが装着しているサイズと同じ205/60 R16(コンチネンタルタイヤ/商品名は失念)だ。市街地での乗り味は硬めながらも、シートの減衰特性が非常によいため身体が感じる衝撃に角がない。搭載エンジンは1.6リッターのディーゼルターボ(115PS)で7速DSGとの組み合わせだった。ドライバーはそれなりに景気よくアクセルペダルを踏み込んでいたようだが、大人4名で大荷物(100kg程度)を積んだ程度ではものともせず、信号待ちからのダッシュでは何度も車列の先陣を切る。

 アウトバーンではビシッとした直進安定性が2列目シートにいても伝わり気持ちがいい。筆者のシート位置ではホイールベースの後ろ側、後輪の前方50cmあたりに腰を下ろすことになる。速度無制限区間では160km/h巡航(ほぼベタ踏みか?)していたが、エンジン音や風切音は高まるものの乗客として不安になるような挙動は一切なかった。コーナリング性能も安定感が高い。ロールはじんわりとかなりの量を許すものの、その速度がゆっくりしているため不安がない。

 不安がないといえばブレーキ性能にしてもそう。運転しているわけではないが、同乗していても不安定なクルマはそれだけでドキドキしてしまうもの。ゴルフ トゥーラン TDIの場合、単に車体が前下がりになるだけでなく後輪側がグッと下側に沈み込むため高速域でも車両姿勢は常に安定傾向に保たれる。当たり前だが、法定速度100km/h(110km/h)の日本ではさらに高い安心感が得られることは容易に想像がつく。

 過去の取材時、たいていドライバーとして走らせることが多かったアウトバーンだが、こうして乗客として乗り込むと道路がけっこう傷んでいることが分かる。途中、日本の高速道路ではすぐさま補修工事が入りそうな凹みが連続するような箇所に差し掛かったのだが、通過の際にはドスンと大きめの衝撃音とともに身体は上下に揺さぶられる。はじめは「高速域でも高めの減衰特性なのか」と感じていたものの、よくよくその揺れを体感してみると、比較的大きな凹みであっても通過後はストンと1回で収束させていることが分かる。

乗客として乗り込むと、アウトバーンがけっこう傷んでいることが分かる

 見た目は囲まれ感の強い車内でも、実際の開放感はかなり高い。2列目シート、3列目シートへと下がるに従って座面が高くなるシアターシート形状になっているため前方視界がよく、それだけに同乗者としても次に来る道路の凹みなどから来る揺れに対処がしやすかった。筆者は幼少期、かなりクルマ酔いに悩まされたが、ゴルフ トゥーラン TDIのような乗り味や開放感だったら違っていたかもしれない。

 また、シートそのものの完成度がとても高い。これも乗客でなければ発見できなかったところだ。2列目シートは床面から座面の高さが国産ミニバンと比較してやや高く、そしてバックレストが標準状態で立ち気味(筆者の身長は170cm。足下は広く、当然足は伸ばせるが、正しく座ると膝が90度折り曲げた状態で落ち着く)で、乗り込んだ直後は「長距離はつらいかな」と正直思っていた。しかし、座面とバックレストは点の集合体ではなく面で身体を支えてくれるため(シート地の摩擦係数も高めで身体がずれにくい)、一度腰を下ろすと長時間、お尻の位置を変えなくても身体が痛くなりにくい。かくして幾度か工事渋滞に巻き込まれながらも、途中1回の短時間休憩を挟み、4時間ちょっとで350km離れた目的地に到着した。

10月1日に発売された「ゴルフ トゥーラン TDI」。今回試乗したのは上級グレードの「ゴルフ トゥーラン TDI ハイライン」(407万9000円)で、ボディサイズは4535×1830×1670mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2785mm。ハイラインでは17インチアルミホイールにコンチネンタル「コンチプレムアムコンタクト 5」(215/55 R17)を組み合わせる
ゴルフ トゥーラン TDIのインテリア。ハイラインではACC(アダプティブクルーズコントロール。全車速追従機能付)やレーンキープアシストシステム「Lane Assist」、渋滞時追従支援システム「Traffic Assist」、レーンチェンジアシストシステム「Side Assist Plus」、プリクラッシュブレーキシステム「Front Assist」(歩行者検知対応シティエマージェンシーブレーキ機能付)といった先進安全装備を標準装備する
3列目シートは50:50分割可倒式を採用

日本の道路事情ともマッチする2.0リッターディーゼルターボ

 なかなか得難い予習をもって臨むことになったゴルフ トゥーラン TDIの国内試乗。取材したのはTDI ハイラインだ。まずは2.0リッターディーゼルターボ(DFG型)の走行性能だが、これが日本の道路事情とも非常に合っている。150PS/34.7kgfmと、同時期に試乗した「パサート オールトラック」(190PS/40.8kgfm)よりもパワー/トルクともに低下するものの、市街地での走行フィールはむしろゴルフ トゥーラン TDIが上をいく場面が多かった(ともに1名乗車の場合)。

 具体的には、信号待ちから交通の流れになじむようにゆっくりスタートした際の力強さは、ゴルフ トゥーラン TDIがパサート オールトラックを上まわる。このときのエンジン回転数は2000rpmを下まわる領域だ。カタログでも確認できるように、1500rpm付近でのトルク値はゴルフ トゥーランの方が1.5~2.0kgfmほど多い。厳密にはパサート オールトラックの最終減速比がゴルフ トゥーラン TDIよりも若干ローギヤードな設定なので、加速タイムを計測すればパサート オールトラックが速いのだろうが、少なくとも多用する発進加速、しかもアクセル開度にして30%程度の領域ではゴルフ トゥーラン TDIの乗りやすさが光った。これぞ多人数乗車向けの設定だ。

ゴルフ トゥーラン TDIが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルク340Nm(34.7kgfm)/1750-3000rpmを発生。JC08モード燃費は19.3km/L

 高速道路では優れた直進安定性を確認。ドイツでの2列目シートで感じた高い安定感はドライバーズシートではさらに確かなものとなる。ステアリングフィールは7人乗りミニバンとしては操作に対してやや過剰な動きを見せる部分もあるものの、前述したように2列目シートは身体を支えるホールド性が高いことから、よほど乱暴な運転をしない限り同乗者が不快と感じる場面は少ない。今回は試していないが、同様の形状を持つ3列目シートにしても身体とシートとの密着率が高いため印象は近いはずだ。

 われわれライター陣はどんなタイプのクルマであっても自らステアリングを握り、そこで得たものを文章にしている。しかし多人数乗車を目的としたミニバンでは、こうした2列目シートでたっぷりと試乗し、その車両の開発ポイントを探り出すことも大切であると改めて実感するよい機会となった。筆者のライフスタイルでは現状、7人乗りのコンパクトミニバンを必要としないが、多人数乗車の必要性が生じた際にはゴルフ トゥーラン TDIを真っ先に候補としたい。

 そしてこの先、ゴルフ トゥーラン TDIのオーナーになる機会があるならば、ぜひとも電動パノラマスライディングルーフ(ハイラインのみオプション設定)は装着したい。2列目シートでの開放感はこの上なく高かった。これも2列目での試乗で分かったゴルフ トゥーラン TDIの美点だ。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一