試乗レポート
アストンマーティン史上最もパワフルなフラグシップモデル、新型「DBS スーパーレッジェーラ」は特別感のカタマリだった
スーパースポーツのようなアグレッシブさを上品に味わわせるのがアストンマーティン流
2018年12月21日 12:52
どこから見てもホレボレする
久々にアストンマーティンに乗る機会が訪れた。「ヴァンキッシュ S」の後継として6月に登場し、その名のとおり軽量化とともに走行性能にも本格的に力を注ぎ、新たな高性能版フラグシップの座に君臨した「DBS スーパーレッジェーラ」だ。
実車を目にしての第一印象は、予想以上にグラマラスな迫力ある姿に衝撃を受けた。大きな開口部にハニカムグリルを配したアグレッシブなフロントフェイスもインパクト満点。前後とも大きく張り出したブリスターフェンダーを備え、全幅が2mにも達する低く構えたボディは、細部にいたるまで見事なまでに美しい曲面を描き造形されていることも印象的だ。
さらにはフロントフェンダー後方のエアアウトレットも目を引き、ダブルディフューザーや両サイドに存在感のあるマフラーを配したリアデザインも凝っている。どこから見てもホレボレするほどスタイリッシュだ。いわゆるスーパースポーツの面々とは違った常識的なカタチの中で、これほどカッコよさを感じさせるクルマはそうそうない。
伝統の斜めに跳ね上がるドアを開け、高いサイドシルをまたいでシートに収まると、黒で統一されたコクピットにただよう凛とした空気を感じる。アストンマーティンならではの奥ゆかしいクラフトマンシップの中に高性能版としての精悍さが同居するとともに、最新モデルらしく現代的なものも与えられている。新感覚のマーブル柄のようなパネルも目を引く。一応、2+2レイアウトとなっているが、後席はシートの形をした荷物置き場と捉えた方がよいだろう。
サウンドと速さに圧倒される
カーボン製のフロントフードを開いてタイヤがむき出しになった姿もまた絵になる。その両輪の間、フロントアクスル後方の低い位置に搭載されるのは、メルセデスAMGに頼らず新世代のV12として自社開発した、従来の6.0リッターV12自然吸気エンジンの後継となる「AE31」と呼ばれるアストンマーティン謹製の5.2リッターV12ツインターボだ。
725PS、900Nmのパワー&トルクは、トランスアクスルレイアウトによりリアにマウントされたZF製8速ATを介し、より鋭い中間加速を得るためローギヤード化したファイナルドライブを備えた機械式LSDとトルクベクタリング機構により、着実に路面に伝えられる。
エンジンが刷新されても、独特の始動時のクランキング音からしてワクワクさせるのは、いつもながらアストンマーティンならでは。まずこの音を聴けるのがアストンマーティンに乗る醍醐味であり、その先に待っている魅惑の世界を大いに期待させる。
実に725PSにも達するピークパワーはもちろん、900Nmものビッグトルクを1800-5000rpmという幅広い回転域で発揮するのだから、どれほど速いかは言うまでもない。湧き上がるような怒涛のトルクは、まさしくターボ化により得られたものに違いなく、それはもう目の覚めるような強烈な速さだ。
回転の上昇に従ってドラマチックに音色が変化していく特有の乾いた咆哮も、非常に味わい深い。これを聴きたいがために、思わずアクセルを深く踏み込んでしまいがちになる。アストンマーティンというブランドにおいて、スタイリングはもちろんのこと、このサウンドと速さをもたらすエンジンもまた主役級の役を演じていることを痛感する。
それでいて、時代に合わせて片バンクを休止する気筒休止機構を備えているが、いつ切り替わったのかまったく意識できないのも大したものだ。
アグレッシブながら上品に
最新世代の軽量接着固定アルミニウム構造の発展進化版となるシャシーは、フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクのサスペンションに、最新世代のアダプティブ・ダンピングシステムが組み合わされる。
アクティブサスペンション的な理論に基づくスカイフックテクノロジーを導入したという先進的なダンパーや、相当に注力したというエアロダイナミクスの効果もあってかフラットライド感が高く、試乗時はかなりのウェットコンディションだったにもかかわらず接地性にも優れるおかげで、こうした性格のクルマながら安心して走ることができたのも印象的だった。
スーパーレッジェーラとはいえ、それなりに車両重量はあるものの、それを感じせないハンドリングは正確性にも優れ、大柄ながら隅々まで神経が行き届くかのような一体感もあり、先の動きも読みやすい。おそらくサーキットで全開で走らせるとさぞかし楽しいことだろう、と感じさせるものがあった。
むろんシチュエーションや好みに合わせてダイナミックモードを選択して乗り味をある程度は任意に変えることもできる。現代的に洗練された高級グランドツアラーとしての趣きを備えながらも、ときにはスーパースポーツのようなアグレッシブさを、あくまで上品に味わわせるのがアストンマーティン流で、DBS スーパーレッジェーラならではの境地である。
世界の列強が性能やデザインを競い合うなか、アストンマーティンが業績を伸ばし続けているのは、他では得られない独特の世界観に共感するセレブリティがそれだけ多いということにほかならない。今回のアストンマーティン史上最もパワフルなフラグシップモデルも、とにかく全身が特別感のカタマリのような存在であり、非常に印象的な1台であった。