試乗インプレッション
ディーゼルエンジン搭載車に待望の4WDモデル登場。フォルクスワーゲン「パサート オールトラック」をテストドライブ
速度域を問わずまろやかな乗り心地に驚き
2018年12月20日 06:00
ディーゼルエンジン+4WDモデル「パサート オールトラック」デビュー
「パサート ヴァリアント」のディーゼルエンジン搭載車に待望の4WDモデル「パサート オールトラック」が登場した。フォルクスワーゲンでは4WDのことを「4モーション」と呼ぶ。この4モーションは電子制御クラッチ「ハルデックスカップリング」の採用により、前輪100%:後輪0%の前輪駆動状態から、前輪50%:後輪50%までの4輪駆動状態を路面状況などに合わせて適宜コントロールする。最低地上高はベースのパサート ヴァリアントから30mmアップの160mm(タイヤサイズは235から245へ拡大)を確保した。
パサート オールトラックの試乗に先立って、「パサート TDI」(セダン)で長距離試乗を行なった。ステーションワゴンに乗り続けて20年以上の筆者にとって、ボディ別の走行性能に違いがあるのかという点が気になっていたのだが、結論からすると乗り味の違いは少なかった。厳密には、車体後部の開口面積拡大による剛性確保に応じて乗り心地が若干ハードだが、これは世界中のセダン/ワゴンに見られる相違点で物理的な問題。
パサートの場合、純粋にワゴン化に伴って車両重量が50kg増、さらにオールトラックでは4モーション化されたことで70kg増と、合計120kg(細かな装備違いがあるので概算値)増えている。しかし、デュアルクラッチトランスミッション(フォルクスワーゲンではDSGと呼ぶ)の最終減速比をヴァリアントのTDIから1~4速で約10%、5~6速で約8%、それぞれローギヤ―ド化(1~6速のギヤ比は同一)し、発進から中間加速域において、また高速巡航時に至っても若干ながら高回転域を保つ(100km/h時で100rpm弱高い)ことから車両重量増加のストレスは感じなかった。
ただ、搭載する2.0リッターターボディーゼル「DFC」型エンジンにも若干の弱点はある。排出ガス規制のうち、ユーロ6/ポスト新長期をクリアするいわゆるクリーンディーゼルエンジンは、1500rpm付近までの過給効果が得られにくい領域ではスペック数値ほどのエンジントルクを実感しづらい。オールトラックの場合は、市街地/高速道路ともに巡航状態からちょっと加速したい際、アクセスペダル操作に対して半テンポほど遅れて加速度が高まってくる。もっとも、乗り慣れてくるとそれを見越して早めにアクセルペダルを踏み込めるようになるので、決定的なマイナスポイントには当たらない。とはいえ、パサートシリーズが搭載する190PS仕様の2.0リッターターボディーゼルエンジンは、本格的な過給効果が得られる2000rpm付近から上の領域と低回転域における躍度(時間ごとの加速度変化)の差が大き目であることは確かだ。
これは、ディーゼルエンジンモデルを購入検討されている方々からすれば関心事の1つだろう。しかし正確に期すれば、こうした“半テンポの遅れ”はフォルクスワーゲンに限ったことではなくて、国内外メーカーのクリーンディーゼルと呼ばれるエンジンには程度の差はあれ存在する現象だ。加えて、大型商用車が搭載する排気量1万ccを超えるディーゼルエンジンであっても、現時点では同じ状況に置かれている。この克服に向け、例えばマツダのディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」の2.2リッターでは小型/大型のターボチャージャーによるツインターボ化によって主とする過給領域を分担し、小型のタービンで低回転域のトルク増強を図っているのはご存知の通り。
DFC型では、タービンをまわす原動力となる排出ガスが少ないエンジン低回転領域でノズルベーンを駆動させ過給圧をコントロールする、いわゆるVGターボを採用。これにより、絶対的な排出ガスが不足気味な低回転域における過給効果が狙える。このVGターボは信頼性が向上したことと費用対効果が高いことから、国内外の乗用/商用の自動車メーカーにおいても広く採用されている。
パサート オールトラックは6速DSGを搭載しているが、ティグアン TDI 4モーションのように7速となりギヤ段のステップ比を細分化すれば解消は見込めるだろうし、同時期に試乗した「トゥーラン TDI」(150PS仕様/6速DSG)ではその半テンポ遅れ現象をほとんど感じることがなかったから、過給特性を変更するだけでも印象は好転するはずだ。
まろやかな乗り心地に驚き
では、具体的にパサート オールトラックの乗り味はどうか? なによりも筆者が好感を抱いたのは非常にまろやかな乗り心地であること。試乗車は上級グレードの「Advance」で、シート表皮は革(ナパレザー)仕様であったことからシートの張りそのものは強めながらも、路面からの衝撃には速度域を問わず角がない。サスペンションとタイヤにおける衝撃吸収性能が高い証拠だ。
Advanceに標準装備となる可変シャーシ制御機能「DCC」のうち、快適性の高まる“コンフォート“を選択(もしくはカスタムで任意選択)すると、ダンパーの減衰力がソフトな方向に設定されるため、いっそうその印象が強くなる。単にソフトになるだけでなく、高速道路などでの高速度域では必要とされる高めの減衰特性にシフトされるため、いわゆるフワフワの乗り味にはならない。全車速域においてコシのある特性はパサートシリーズ No.1だ。
オンロードにおけるハンドリング性能も納得できるもの。最低地上高が30mm上がった分、重心位置は高まっているもののカーブにおける車体の傾きは安定し、ロール速度もじんわりしていて運転操作に余裕が持てる。ロールセンターの最適化が図られた結果だ。また、画像で確認できるように、試乗当日は落ち葉が多く滑りやすかった。登り坂ではカーブ内側が落ち葉で敷き詰められていて、一気に外側へと車体が持っていかれそうになることもあったが、電子制御ディファレンシャルロック機構「XDS」の働きでカーブ内側の駆動輪に対してブレーキ制御が入るため、安心してステアリング操作に集中することができた。
今回は雪上やオフロードにおける試乗はできなかったが、オールトラックには専用装備としてドライビングプロファイリング機能に“オフロード”モードが付いている。①低速域などで車輪を若干ロック気味にして砂利道などでの抵抗力を活用し、制動距離を短縮する専用ABS機能、②前進と後退それぞれの下り坂で車速制御(2~30km/hの任意車速)を行なうヒルディセントアシスト機能、③滑りやすい路面でのアクセルコントロールをしやすくする機能。オフロードモードを選択するとこの①~③の制御が介入する。
ディーゼルエンジン×4WDのステーションワゴンは理想の1つだ。ウインタースポーツを趣味とする筆者からすると、高速道路などで巡行燃費数値に優れ、トルク値が大きく登坂能力も高いディーゼルエンジンは魅力的に映る。オールトラックの“エコモード”にも、エンジン/トランスミッションを切り離して滑走状態となる「コースティング走行モード」が備わるが、今回の高速道路におけるACCを活用した法定巡航では終始20km/Lを超えていた。
こうしたACCに代表される運転支援技術について、フォルクスワーゲンは積極的に採用してきた。中でも車線逸脱抑制機能である「レーンアシストシステム」は、その拡張機能を使うとさらに利便性が向上する。フォルクスワーゲンの純正インフォテイメントシステム「Discover Pro」の“ドライバーアシスト設定”画面から、“アダプティブレーンガイド”機能をONにすると、いわゆる車線の中央付近を走行し続けるようなステアリングアシスト制御が入る。これが非常に優秀で、適切なステアリングアシストによって疲労軽減効果は高かった。また、フォルクスワーゲングループの日本市場におけるACC装着車は、5年程前(筆者が確認できた限り)からACCの加減速度においてもドライバーの好みに応じたレベル選択ができる。
ACCとレーンキープが機能する状態を、世界各国の機関や日本の自動走行システムにおける旗振り役である「SIP-adus」(戦略的イノベーション創造プログラム自動走行システム)では「自動走行レベル2」と表現するが、このレベル2の技術昇華と正しい普及こそ高度運転支援技術の先にある自律自動運転技術への望ましい道のりだ。その意味で、今回試乗したパサート オールトラックはレベル2との親和性も高かった。