インプレッション
フォルクスワーゲン「ゴルフ トゥーラン(2016年フルモデルチェンジ)」
2016年1月12日 11:30
多くの親に選ばれてきたコンパクトミニバンがフルモデルチェンジ
子を持つすべての親が、ドライブ中にもっとも強く願うこと。それは、子供が機嫌よく快適に乗ってくれて、安全に家まで辿り着くことではないだろうか。大切な命を守れるかどうかは自分次第。そんなところに、ファミリーカー選びの難しさがある。
2003年に初代が日本導入されたフォルクスワーゲン「ゴルフ トゥーラン」は、7人乗りというパッケージを備えながらも、そうした「安全性」という面での頼もしさを感じさせてくれることで、多くの親に選ばれてきたコンパクトミニバンだ。室内が至れり尽くせりの日本のミニバンと比べると、使い勝手は少々目をつむらなければならないものの、剛性感たっぷりの走りと安全装備では大きく差をつけてきた。今回、そんなゴルフ トゥーランが久々のフルモデルチェンジで、どんな進化を遂げたのか興味津々だ。
まずは外観を眺めてみると、全体的にちょっと低くワイドになった印象。ミニバンでは初めてフォルクスワーゲンが進めている次世代モジュールコンセプト「MQB」を車台に採用し、ボディサイズは全長4527mm(数値は欧州公表値)と先代より130mm延びている。全幅は1829mmとやや広がり、全高は1659mmと少し低くなりつつ、直線基調でエッジの効いたスタイリング、ヘッドライトまでつながるフロントグリルの横方向へのラインなどで、どっしりとした存在感が強まった。延びた全長のうち113mmはホイールベースにあてて、ショートオーバーハング化とロングホイールベース化を両立していることも、プロポーションのよさにつながっているようだ。
また、トップグレードのハイラインではLEDヘッドライトが標準装備となったり、アルミホイールは3タイプが用意されていたりと、オシャレにも気を配ったことが伝わってくる。
室内に入ってみると、無駄のないシンプルなインパネ、クッションがぶ厚くカッチリとしたシートで、なんだか事務用品みたいな味気なさを正直感じてしまう。機能性を重視するにしても、もうちょっと遊び心とか色気があってもいいのになぁと思うものの、少し乗っていると質感は高いしメーターやスイッチも見やすいし、これがフォルクスワーゲンならではの洗練されたデザインなのだと好きになってくるから不思議だ。
実際、運転席からの視界は座面の高さも手伝って、とても開けた印象。ピラーは細く、ベルトラインが低めで斜め前や横方向の見切りもいいので車幅感覚がつかみやすい。ただ、これはフォルクスワーゲン全モデルに言えることだがサイドミラーが小さめ。日本のミニバンに慣れた人には、ちょっと心もとなく感じるかもしれない。
そしてシートは座面長がしっかりとってあり、厚いクッションでサイドサポートもあるのでフィット感が強め。私の場合は座面の側面が常にふくらはぎに当たっているため、少し煩わしく感じるシーンもあったが、長身の編集者の場合はまったく気にならないとのことだったから、体格によって感じ方は変わるようだ。
収納は大きなオープンポケットが何でもホイホイと入れられて便利。ドリンクホルダーの位置やホールド性もよく、ハイラインには新開発のアレルゲン除去機能付きフィルター採用の3ゾーンエアコンが装着されるなど、こうした使い勝手は満足度が高い。
2列目シートは3名分が独立したタイプで余裕たっぷり。背もたれが直立気味なので、リクライニングしたところで日本のソファ感覚シートのようにはいかないが、大きなパノラマスライティングルーフのおかげで開放感いっぱい。心地よさはしっかりある。試乗車は17インチタイヤを履いていて、乗り心地は一般道では少し硬いところがあったが、高速道路では落ち着いて快適性もアップした。
そして3列目シートは、イージーエントリー機能が新たに採用されたおかげで、2列目シートが簡単に前によけてくれるので乗り降りがしやすくなった。とはいえ、スペースはかなりタイト。ひざを折り曲げて体育座りのような体勢になるので、子供ならまだしも大人の長時間乗車はキツいかもしれない。
軽快さが勝る爽快な乗り味、さらに手厚くなった先進安全装備
さて、この新型ゴルフ トゥーランのパワートレーンは、日本で販売されるのはすべてわずか1500rpmから最大トルクを引き出す、150PS/250Nmの1.4リッターTSIエンジン+7速DSG。日本のミニバンの1.8リッタークラスよりもパワフルで、燃費も18.5km/L(JC08モード)という贅沢なパワートレーンだ。ただし、使用する燃料はプレミアムガソリンとなる。
走り出しはその豊かなトルクを軽やかさに変えたように、とってもなめらかに加速してくれる。もっと重厚なドッシリ感があるかと思いきや、軽快さが勝る爽快な乗り味。先代より62kgの軽量化に成功した恩恵もありそうだ。でもレーンチェンジでのカッチリとした剛性感や、カーブでのグラつきのないフラットライドなど、ここぞという場面では欧州車らしい別の顔を見せる。とくに高速道路での安定感はミニバンということを忘れるほどで、加速減速のペダル操作にも自然で素早いレスポンス。運転中の不安要素を取り除いてくれるので、これなら泣かれることの多い小さな子供とのドライブでも、落ち着いて安全運転できそうだ。
そして、そんなドライブをサポートしてくれるのが、さらに手厚くなった先進安全装備の数々。レーダー方式のプリクラッシュブレーキ、アクティブクルーズコントロールをはじめ、それでも万が一衝突してしまった際には、被害を最小限にとどめるためのポストコリジョンブレーキシステムなども装備し、何重もの対策で私たちを守ってくれる。
また、画期的なのがインテグレーテッドチャイルドシート(後席一体型チャイルドシート)だ。2列目左右に内蔵されており、使用する時には座面を引き起こして専用のサイドヘッドレストを装着するだけ。とても簡単な操作で、使用しない時に収納場所をとらないので、急にお友達の子供を乗せる時などにも重宝しそうだ。
最後に、ベビーカーや自転車や遊び道具と、子供がいるとどんどん増える荷物を積めるかどうかラゲッジのチェックを。3列目シートを使うとなると、A型ベビーカーがやっと入る程度のスペースしかないが、3列目を格納すれば高さも横幅もたっぷり。家族旅行にも十分なスペースだ。さらに2列目シートを倒すと、フラットで広大な空間は1040Lという大容量。掃き出し口も低くフラットなので、重たい荷物も積みやすそう。これならアウトドアスポーツやキャンプなどもいけそうだ。
こうして見てくると、ただガッチリしているだけでなく、シーンに合わせてしなやかに走る術を身につけているし、使い勝手では日本のミニバンのような細やかさにかなり近づいてきた。その上で妥協のない安全性を盛り込んでおり、ユーロNCAPの衝突安全テストで最高評価の5つ星を獲得。新型ゴルフ トゥーランは、子供の安全を一番に願う親の気持ちに寄り添いつつ、運転が苦手な人の不安も癒し、毎日の買い物やレジャーでのイライラも減らしてくれる、理想に近い1台と言えそうだ。