インプレッション

BMW「MINI クラブマン(2代目)」

プレミアムスモールからプレミアムコンパクトへ

 クラシックMiniの時代にもあったシューティングブレークコンセプトを具現化し、2007年に登場した「MINI クラブマン」は、今やワイドバリエーションを誇るMINIの中でももっとも早くから存在する派生モデルだ。

 そして初代の登場から8年が経過し、このほどモデルチェンジした2代目クラブマンはより上級移行し、これまでの「プレミアムスモール」から新たに「プレミアムコンパクト」へのシフトを図った。

 ボディサイズは初代と比べて全長が290mm、全幅が115mm拡大して、4270×1800×1470mm(全長×全幅×全高)となった。クラブマンの新旧の差よりも現行の5ドアハッチバックや、あるいは「MINI クロスオーバー」との関係が気になるところだが、5ドアハッチバックは4000×1725×1445mm(同)、クロスオーバーは4105×1790×1550mm(同)だ。ホイールベースはそれぞれ2565mm、2595mmで、クラブマンは従来比105mm増の2670mmとなり、ダントツで長くなった。増加分のうち半分がニースペースにあてられている。このサイズになると「MINIじゃない」という声も聞こえてくるところだが、もはやMINIというのはブランド名という理解でよいのではないかと思う。

 横から見る長めのホイールベースとともに、広いキャビンを想起させる伸びやかなルーフラインを描くプロポーションが印象的。従来モデルに比べて実際にもリアシートを中心に室内空間が大幅に広くなっている。フロントヒンジの4ドアとなったのも特徴で、従来よりもエステート的なイメージが高まり、クルマとしての雰囲気もかなり変わった。

直列4気筒2.0リッターターボエンジンに8速ATを組み合わせる「MINI クーパー S クラブマン」(384万円)。撮影車のボディカラーはメルティング・シルバーで、ボディサイズは4270×1800×1470mm(全長×全幅×全高)とし、先代モデルから全長が290mm、全幅が115mm拡大した
クーパー SではLEDのヘッドライトやフォグランプ、テールランプが与えられる。足まわりではオプション設定となる18インチのスター・スポーク アロイホイール ブラックを装着(タイヤサイズ:225/40 R18)。ちなみにブレーキランプはバンパーにある下側で、上側はテールランプのみとなる
インテリアは専用の新デザインを採用。クロームの採用やハイグロス・ブラック仕上げによって上質感を演出。レザーシートのカラーはピュア・バーガンディー

スプリットドアの後方視界について

 先にそのBピラー以降の話をすると、リアシートは広く、膝前もコブシ3つ分ほどあるし、頭上も十分に余裕がある。横方向の広さも5ドアハッチバックやクロスオーバーはかなり窮屈だったように記憶しているが、これなら3人掛けもなんとかできそう。また、後席用のエアコン吹き出し口が設けられたものファミリーユースにはありがたい。

 垂直に近い角度で切り落とされたDピラーや、観音開きのスプリットドアを踏襲しているが、リアビューも雰囲気が大きく変わった。初代クラブマンや現行の3ドア、5ドアハッチバックが縦基調としているのに対し、水平方向に配されたテールランプにより、まるで後ろにも顔があるようなデザインになった。

 スプリットドアだと、後方視界で重要なちょうど真ん中の部分が遮られてしまうのは難点だが、使い勝手においては重宝する場面も多い。スマートオープナー機能付きコンフォートアクセスにより、足を動かすだけで自動的にドアが開き、その際にダンパーにより、まるで電動のような開き方をするのも面白い。

スプリットドアの開閉のようす。足を車両の下に出すことで、1度目で右側、2度目で左側を開けることが可能になる「イージー・オープナー機能」が備わる
イージー・オープナー機能の体験動画

 ラゲッジスペースは360Lと十分な容量が確保されており、開口下端が低いところもよい。ご参考まで、5ドアハッチバックは278L、クロスオーバーは350Lだ。ただし、横幅はあまり広くなく、ゴルフバッグは横向きには置けない。ラゲッジフロアボードは2段階に調節でき、高さのある荷物も横に倒さずに積載できる。リアシートにはフレキシブルに使える40:20:40の3分割可倒式を採用するのもありがたい。

ラゲッジスペースから見たシートアレンジ。リアシートは40:20:40の3分割可倒式

 インテリアは、丸型のセンターディスプレイなどをはじめMINIらしさを表現しながらも、随所にクロームパーツやハイグロスブラック塗装を施すなどしてプレミアムコンパクトに相応しい上質感を演出している。さらには、MINI初の電動パーキングブレーキを採用しているほか、3ドアと5ドアハッチバックのMINIではカーナビがオプション設定のところ、クラブマンは標準装備となることも念を押してお伝えしておきたい。

 外観ではクロームパーツを多用したクーパーに対し、クーパー Sはブラックのハニカムグリルやスクープの付くボンネットによりスポーティなイメージを強調している。クーパーではオプションとなるLEDの灯火類やスポーツシートが標準装備される。

こちらは直列3気筒1.5リッターターボエンジンに6速ATを組み合わせる「MINI クーパー クラブマン」(344万円)。ボディカラーはピュア・バーガンディー、シートカラーはインディゴ・ブルー

MINIらしさとらしくない両面

 心臓部は、クーパーには136PS/220Nmを発生する直列3気筒1.5リッター、クーパー Sには192PS/280Nmを発生する直列4気筒2.0リッターのいずれもツインスクロールターボエンジンを搭載。

 組み合わされるトランスミッションは、3気筒が6速AT、4気筒がMINI初の8速ATという違いもあってか、エンジンスペックの差はそれなりにある割に、JC08モード燃費はそれぞれ17.1km/L、16.6km/Lと差は小さい。

 すでにハッチバックのMINIの試乗記でもお伝えしたとおり、性能的にはクーパーの1.5リッターでも十分に満足できるものだ。2.0リッターのクーパー Sでは、やや過剰気味の性能を味わえる。

クーパー Sの直列4気筒2.0リッターターボエンジン。最高出力141kW(192PS)/5000rpm、最大トルク280Nm/1250-4600rpmを発生
クーパーの直列3気筒1.5リッターターボエンジン。最高出力100kW(136PS)/4400rpm、最大トルク220Nm/1250-4300rpmを発生

 車両価格はそれぞれ344万円と384万円。40万円の価格差の理由は、主にパワートレーンといくつかの装備の違いにあるわけだが、パワートレーンについて違いを如実に感じるのは性能よりもむしろ音。やはり3気筒と4気筒では耳に入る音の質がだいぶ違うのだ。このクルマの性格なら3気筒でも許せそうな気もするが、逆に「プレミアムコンパクト」として、他のMINIよりもそれなりに期待値が大きくなるかもしれない。そこは判断の分かれるところだろう。

 フットワークは、いい意味でMINIらしさとらしくない両面を持っている。通常のハッチバックのMINIも従来に比べるとずいぶん動きが落ち着いたのはお伝えしたとおりだが、MINI クラブマンはやはりホイールベースが長くなり、重量も増したことでさらに落ち着き度が増している。その上でMINIに期待されるクイックなハンドリングを与えたという印象だが、クルマ自体の動きは落ち着いているので、ロングドライブでも乗員が不快な思いをすることはないはずだ。

 また、試乗車にはいずれもダイナミック・ダンパー・コントロールが装着されており、スポーティな走りはもちろん、コンフォートモードを選んだときの快適性の高さも印象深かった。ぜひ装着すべきオプションである。

 MINIならではの個性的なデザインをまとったショートワゴンとして、その存在自体がユニークな新しいクラブマンは、中身が大幅にアップデートされたことはもとより、ワイドバリエーションを誇るMINIの中でも、もっとも実用性に優れるクルマになったといえる。とりわけこれまでMINIに興味はあっても、実用性の面で躊躇していた人にとって、待望のニューモデルではないかと思う。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:原田 淳