【インプレッション・リポート】
MINI「ジョン・クーパー・ワークス」シリーズ

Text by 岡本幸一郎



 BMW傘下のブランドとなり、日本では2002年3月2日(MINIの日)に新たな歴史のスタートを切ったMINI。それからまもなく10年が経過するが、各年度の登録台数は、少なく見積もって1万1000台足らず、多ければ1万4000台超と、月販にしてほぼ1000台超という立派な数字をマークしているのは大したものだ。

 そして日本では、MINIといえば「MINI クーパー」とイコールだと思っている人が多いのだが、正しくはMINIの上級・高性能版である1つのグレードであることは、事情に詳しい人ならご存知に違いない。ではそのクーパーが何かというのは、そこそこ詳しい人でないと知らないのではないだろうか。

 クーパーは、今回紹介する高性能バージョン「JCW(ジョン・クーパー・ワークス)」と由来は同じで、F1をはじめモータースポーツの世界で数々の金字塔を残した、クーパーカンパニーの創設者であるジョン・クーパーを指す。往年のF1コンストラクターとして2度のチャンピオンを獲った実績のあるクーパーは、MINIとの関係が深いことでも知られる。アレック・イシゴニスが設計したオリジナルのクラシックMiniの戦闘力に興味を持ったクーパーは、やがてMiniのチューニングを手がけるようになり、1960年代のレース界を席巻。伝統のモンテカルロ・ラリーで3回も勝利を飾っている(本当は4回だが、うち1回は規定違反により失格だった)。

 JCWは、そんな中で生まれたMINIのサブブランドだ。

 それから50年あまり。時代は流れ、2011年にはニュルブルクリンク24時間レースに参戦して完走し、2012年からはWRC(世界ラリー選手権)にフル参戦するなど、MINIブランドとしてのモータースポーツ活動はますます盛んな様相を呈しているが、そのマシンのどこかに「JCW」の文字が見られることに気づいたファンも少なくないだろう。

 また、徐々に拡大する市販モデルのMINIファミリーにおいても、JCWはクラブマン、コンバーチブル、そして登場したばかりのクーペと、ボディータイプを問わず設定されている。執筆時点ではクロスオーバーだけ未設定となっているが、そう遠くないうちにラインアップされるものと思われる。

 そんなJCWだが、日本での認知度はいま1つで、実はあまり知られていないのが実情かもしれない。それは実にもったいない話である。そこで今回、JCWの存在をもっと広く知ってもらうとともに、MINIブランドが追求する走る楽しさをもっと強調していこうとの主旨から、富士スピードウェイでJCWを全開でドライブするという、大胆な試乗会が企画された。なお、今回すでに発売されているJCWの各モデルの仕様に、とくに変更があったわけではないことを先に記しておく。

試乗会当日はMINIブランドの量産モデルで初となる2シーター・クーペ「MINI クーペ」の発表会も行われた

 筆者も過去に一般道でJCWをドライブしたことはあるが、いわば「秩序あるヤンチャ」という感じだったと記憶している。今どきただヤンチャなだけだと「完成度が低い」と言わざるを得ないところだが、ちょっとぐらいヤンチャな部分があったほうがドライブしていて楽しめる。

 その点、JCWは適度にヤンチャな雰囲気があるものの、それは決してピーキーとかスパルタンという感じではなく、あくまで日常性に求められる「秩序」の範疇にある非日常性という印象のものだった。

 そして今回の試乗コースはサーキットだ。1周4.563kmの富士スピードウェイ本コースは、基本的にハイスピードコースながら、ダンロップコーナーから最終コーナー手前にかけての区間はけっこうテクニカルで、その後は約1.5kmのロングストレートが待っている。そこでハッチバック、コンバーチブル、クラブマンというJCWのすべてをドライブすることができた。

 JCWの最大の特徴はまずエンジン。欧州で開催されているワンメイクレース用のエンジンが、まるっきりそのまま与えられているのだ。エンジン~トランスミッションについては3タイプとも同じものが搭載されている。ハッチバックで0-100km/h加速は6.5秒と、クーパーSよりも0.5秒速く、トップスピートも公表値で231km/hに達している。

 しかも、約2000rpmから5000rpmまでフラットにトルクを発生させるエンジンは、レース用ながら市街地でのドライブも扱いやすい特性で、温度管理のシビアな一般使用にも耐える信頼性が確保されていると言う。また、シャシーとブレーキについては、10mmローダウンとなる専用のスポーツサスペンションが与えられ、ブレーキも高性能タイプとなる。

ジョン・クーパー・ワークスシリーズは直列4気筒DOHC 1.6リッターターボエンジンを搭載し、最高出力155kW(211PS)/6000rpm、最大トルク260Nm/1850-5600rpmを発生

 まずはハッチバックからドライブ。コースインしてスロットルを深く踏み込むと、その加速フィールは体感的にも文句なく速い!

 小排気量ながら野太いサウンドも気分を盛り上げてくれる。1周目はDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール=横滑り防止装置)をONにして走り、その後にDSCを解除して、DTC(ダイナミック・トラクション・コントロール)のみの状態で走ることを薦められたのでその通りに試すと、DSCがONではアクセルの踏みすぎやステアリングの切りすぎに対し、的確に介入して破綻しそうな動きを抑えてくれる。ただし、スポーツドライビングという意味ではDSCを解除したほうが、暴れそうなマシンを自らコントロールする楽しさがあるのは言うまでもない。

 適度に固められたサスペンションチューニングも絶妙で、俊敏なフロントに対し、リアの接地性が高く、ゆっくり流れるところがよい。流れ方が速すぎると操作が追いつかず危なっかしい。ゆっくり流れてくれることで、曲がり具合をリア荷重の加減でリニアにコントロールすることができる。そのあたりのさじ加減が実に巧いのだ。リアサスペンションのセッティングがコーナリングの楽しさを左右するカギを握っていることを、改めて思い知らされる。

 ストレートエンドでは、メーター読みで針が最高速に近い230km/hのわずかに下を指していた。フルブレーキングでの制動力も、さすがに少しは変わるものの、周回を重ねても予想したほどフィーリングが変化しない。ちなみに、今回走るのは富士の本コースだから、さすがにブレーキパッドぐらいはフェード性の高いものに換えてあるのではないかと思ったのだが、すべてノーマルとのことだった。

 もう1つ、JCWの特徴的な装備として、「EDLC(エレクトロニック・ディファレンシャル・ロック・コントロール)」が挙げられる。これは、走行中のアクセル開度やヨーレイト、ステアリングアングルなどに応じ、デファレンシャルのロック率を最適に制御するというもので、デフロック率が機械式LSDの30%から50%にまで高められている。

 このEDLCのおかげで、どんなコーナーでもより強力なトラクションを得ることができるというわけだ。長いコーナリングの途中で微妙にロック率が変わったり、コーナーの状況によっては曲がらずにまっすぐ進むなど、ちょっとしたクセの残る印象もなくはなかったが、それは慣れの問題だろう。このクセを上手く掴んで走ると、FFでハイパワーにも関わらず、グイグイと前に進んでいく感覚が実に楽しいのだ。

MINI ジョン・クーパー・ワークス

 続いてコンバーチブルに乗り換えても、オープンボディーながら、先のハッチバックとなんら変わらないドライバビリティを維持していることに驚かされた。むろん車重は90kgばかり重くなっているので、全体的にちょっと重さが感じられたわけだが、重心は下がったような印象で、むしろ走りやすく感じられる面もあった。おそらくオープン化による剛性低下をカバーする補強部材を、車体の低い位置に意図して配しているのだろう。

 もう1つ感心したのが、風切り音が小さいこと。走行中はソフトトップを閉じた状態だったのだが、200km/hを超えるスピードを出しても、ハッチバックとそれほど耳に入ってくる音の印象が変わらない。JCWならではの高性能を、オープンカーでもクローズドモデルと変わりなく快適に楽しめるところが素晴らしいと思う。

MINI ジョン・クーパー・ワークス コンバーチブル

 一方のクラブマンは、車重はハッチバックに比べ60kg増にとどまるが、ホイールベースが80mmも違うので、ハンドリングはそれ相応に印象が違う。ハッチバックを基準にすると挙動が全体的にマイルドになり、富士の鬼門といわれる100Rからヘアピンにかけての高速コーナリングでも安定しているし、200km/hオーバーからフルブレーキングする1コーナー進入での安定感も高い。

 反対に、MINIらしいカート感覚のキビキビ感を楽しめるという意味では、やはり軽くて剛性が高いハッチバックがファーストチョイスであることは違いない。また、ホイールベースの短いハッチバックやコンバーチブルも、100Rではもっとスリリングな感覚かと予想したのだが、前述のようにゆっくり流れるおかげで、それほどでもなかったことを再度お伝えしておきたい。このあたりは好みの分かれるところというべきか、各モデルの走りにそれぞれのよさがある、と認識するのが妥当かと思う。

MINI ジョン・クーパー・ワークス クラブマン

 というわけでひと通りの試乗を終えたわけだが、全モデルに共通して感じるのは、まるっきり市販状態のままでサーキットに持ち込んでも、こんなに走れてしまうことへの驚きだ。パワフルなエンジンは熱ダレすることもなく、固めながら街乗りも問題なくこなす足まわりは、そのままサーキットを全開で攻めることもできるし、ブレーキについても述べたとおりだ。

 ただでさえ、その愛らしいユニークなルックスと独特の世界観が魅力のMINI。そこに本格的でエキサイティングな走りを身に纏ったJCW。究極のMINIを求めれば、そこにはJCWという選択肢があるわけだ。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 11月 25日