インプレッション

アウディ「A7/S7/RS 7 スポーツバック」

A7シリーズがマイチェン

 2014年には日本での販売台数が初めて3万台を超え、ドイツのプレミアムブランド御三家としての存在感が、ここ日本でもますます板についてきた感のあるアウディである。いずれもラインアップの拡大を図っているドイツのプレミアム勢において、それを象徴する車種の中の1台である、アウディが2011年に放った「A7 スポーツバック」「S7 スポーツバック」「RS 7 スポーツバック」(以下「スポーツバック」を省略)がマイナーチェンジを迎えた。

 変更個所は内外装、インフォテイメント系、パワートレーン、シャシー、安全装備と多岐にわたる。エクステリアでは、より存在感を増したシングルフレームグリルや、新たに採用したマトリクス技術を駆使したヘッドライトと流れるウインカーは、クルマに乗り込んでしまうと自分では見えないとはいえ、外から見たときにはやはり印象的だ。また、今回は車両の用意が間に合わず乗ることはできなかったが、ついにA7にも2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載するエントリーモデルの「2.0TFSI クワトロ」が設定されたというのもニュースだ。

撮影車の「A7 スポーツバック 3.0TFSI クワトロ」。ボディーサイズは4990×1910×1430mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2915mm。アルミニウムを積極的に採用したハイブリッド構造を採用し、車両重量は総スチール製だった従来モデルから約15%軽量化した1900kg。価格は924万円だが、オプションの「パークアシストパッケージ」「フロントコンフォートパッケージ」や、20インチホイールなどを装着し、総額は1140万円となっている。ステアリング位置は右のみの設定
エクステリアでは、ワイド感を強調するとともにクローム処理が施されたシングルフレームグリルを採用。ヘッドライトには最新の「マトリクスLEDヘッドライト」を標準装備し、ハイビーム時でも対向車や前方車を幻惑させることなく前方を照射できる。ホイールはオプション設定の「5スポークWデザイン(鍛造)」。タイヤサイズは265/35 R20
3.0TFSI クワトロに搭載するV型6気筒DOHC 3.0リッタースーパーチャージャーエンジンは、最高出力245kW(333PS)/5500-6500rpm、最大トルク440Nm(44.9kgm)/2900-5300rpmを発生。トランスミッションは7速DCT(7速Sトロニック)。0-100km/h加速は5.3秒、JC08モード燃費は12.6km/L
インテリアデザインの核は、ドアから始まるラインが大きな弧を描いてフロントウインドーの下部まで伸びる、ヨットのキャビンをイメージした「ラップアラウンドデザイン」。従来からの大きな変更点は、後席を2人乗車から3人乗車に変更したこと。これにより乗車定員は5人となっている。S7とRS 7は従来どおり4人乗り仕様

 それにしてもA7系は魅力的だなと個人的にも思う。むろんそれはスタイリングのよさが大きな要因に違いないのだが、紛れもなくラグジュアリーカーであり、スポーティなクーペでもあり、ワゴン的にも使える実用車でもあるという、多くの要素を巧みに持ち合わせているところがこのクルマならでは。これほどのスタイリッシュさを持ちながらも荷室は相当に広く、後席の居住性も十分に確保されている。

 そしてスポーツバックというキャラクターが、アウディのブランドイメージによく似合うように思える。また、この価格帯のクルマを購入する経済力はあるが、根強いセダン信望の枠に囚われず、かといって定番を大きく外すわけでもなく、といったところに上手くはまるクルマでもある。

 プレミアム各社が、このセグメントの4ドアクーペをラインアップしている中で、登場時期からすると優位とはいえないこのクルマが、同カテゴリーにおいて2014年の日本での販売台数でトップに立ったというのもうなずける。それが今回さらに改良されて、ますます魅力的になったわけだ。

こちらはV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボエンジンに7速DCT(7速Sトロニック)を組み合わせる「S7 スポーツバック」。ステアリングは左右から選択でき、車両重量は2050kg。価格は1344万円だが、オプションの「パークアシストパッケージ」「アドバンストオプティクスパッケージ」などを装着し、総額は1475万円
S7のエクステリアではシングルフレームグリルがプラチナグレーカラーに塗装され、横桟はダブルアルミニウムバーとした。アウターミラーはアルミニウム調仕上げで、テールエンドは左右4本出しのオーバルツインエクゾーストパイプを装備。タイヤサイズは265/35 R20
S7が搭載するV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボエンジンは最高出力331kW(450PS)/5800-6400rpm、最大トルク550Nm/1400-5700rpmを発生。トランスミッションは7速DCT(7速Sトロニック)。0-100km/加速は4.6秒で、JC08モード燃費は10.1km/L
S7のインテリア。メーターまわりはグレーの文字とホワイトの針で構成されるとともに、3本スポークステアリング、フロントシートのバックレストなどにS7のロゴが配される。シートはアルカンターラとレザーを組み合わせたもので、中央にダイヤモンドパターンを採用

それぞれの価格とバリューの関係は?

 まず、A7で試乗したのはV型6気筒DOHC 3.0リッタースーパーチャージャーを搭載する3.0TFSI クワトロ。

 今回、エンジンの最高出力が23PSアップの333PSになった。それも効いてか、心なしか吹け上がりがスムーズになったように思える。もともとわるくなかったDCTの制御もさらに進化して、ATと比べてもそん色ないほど滑らかだ。この3.0TFSI クワトロの価格は924万円。同モデルを基準に考えると、冒頭でも述べた2.0TFSI クワトロは200万円あまりも安い716万円となる。そちらがどのような仕上がりなのかも気になるところ。車両が用意されてから改めてお伝えすることにしたい。

 では、上級グレードで420万円高いS7や、そこからさらに428万円も高いRS 7は、果たしてどういうクルマなのか? それぞれプラス400万円以上を支払う価値はあるのか? そのあたりを考えつつ試乗してみた。

 S7になると、エクステリアはもちろんカーボン柄のインテリアや、グレー色になるメーターも違うしシートもスポーティな形状になるなど、ガラッと雰囲気が変わる。こちらも30PSアップの450PSとなったV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボエンジンは、サウンドからしてA7とは異質で、フィーリングも別物だ。A7とはスーパーチャージャーとターボチャージャーの違いもあるが、排気量が十分あるので過給の安定しない低回転域でも2000rpmも回っていれば十分にトルクフルで、低音を効かせた野太いサウンドを聴かせる。いかにも高性能車に乗っている感覚をよりダイレクトに味わえる。

 足まわりもより全体的に締まった感じになる。ステアリングはクイックな設定で、低速での操舵力は軽いが、60km/h程度の中速域になると据わり感が増して、直進性が高まる。鋭敏なステアリングレスポンスを見せながらも、鋭敏すぎて乗りにくいこともない。こうした巧みなセッティングを実現できたことにとても感心させられた。電子制御のスポーツディファレンシャルを備えたリアは極めて高いトラクションとスタビリティを誇り、まったく不安を感じさせない。

 このように視覚的にも運転感覚においても、プラス420万円の価値は十分あるように思えた。

上級グレードになるほどディープな魅力が増す

 RS 7になるとさらに凄味が増す。

 エンジンはS7と同じV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボだが、より高度にチューニングされている。許容トルクの関係で、DCTではなくトルコンATが組み合わされているのも特徴で、7速ではなく8速となる。JC08モード燃費がS7よりもRS 7の方が若干上となるのは、そのせいもあってだろうか。

 エンジンスペックで優位なことに加えて、トルコンによるトルク増幅効果もあってか、どこからでも猛然と加速する感覚はRS 7の方がだいぶ上だ。さらにRS 7は、加速もすごいが派手なサウンドによる演出もある。

A7シリーズのトップモデルとなるRS 7。ボディーサイズは5010×1910×1425mm(全長×全幅×全高)と、ベース車から20mmワイド化した。車両重量はS7と同様の2050kg。ステアリング位置は左右から選べ、価格は1772万円
RS 7のシングルフレームグリルはハイグロスブラックハニカムで覆われる専用のもの。マトリクスLEDヘッドライトのトリムがスモーク仕上げとなるほか、リアまわりではエクゾーストシステムは左右出しの大型オーバルテールパイプで、リアディフューザーも装着。キャリパーは6ピストンで、重量軽減を目的としたウェーブデザインの390mmブレーキディスクを標準装備するが、オプションで420mmのカーボンファイバーセラミックブレーキディスクも用意される。タイヤサイズは275/35 R20
RS 7が搭載するV型8気筒DOHC 4.0リッターツインターボエンジンは最高出力412kW(560PS)/5700-6600rpm、最大トルク700Nm/1750-5500rpmを発生。トランスミッションはトルコンの8速AT(8速ティプトロニック)。0-100km/加速は3.9秒で、JC08モード燃費はS7よりも0.2km/L向上の10.3km/Lとした
RS 7のインテリア。メーターまわりはブラックをベースに、目盛りが白く、針が赤いデザイン。シート地はブラックアルカンターラとレザーのコンビネーションで、S7同様にこちらもダイヤモンドパターンを採用。リアシートは左右独立式でヘッドレストも装備するスポーティ仕様

 しなやかながら締め上げられた足まわりは、よく動きながらもストロークの振幅が小さく抑えられており、姿勢変化はより小さい。ラグジュアリーにしてスパルタンでもあり、大きなドライビングプレジャーがある。それでも、はっちゃけすぎていないあたりに、アウディひいてはドイツのブランドらしい理性を感じさせる。内外装も大なり小なり差別化されている中で、たとえばリアシート後方のトノカバーのようになるボードですら裏皮のような素材で覆われているあたりも、RS 7ならではのこだわりを感じる。

 S7に比べると、車両重量はS7とRS 7では同じながら、S7の方が軽快に感じるし、ステアリングの正確性もむしろS7の方が上と感じられ、全体として乗りやすい。そこはやはり「RS」と「S」では求められるものが異なるため、結果的にそうなったと理解しよう。

 A7とS7、そしてRS 7。それぞれ価格差に見合うバリューがあるかどうかは人によって感じ方は違うだろうが、やはりA→S→RSになるほどディープな魅力を持っていることはアウディの常のようだ。

 ご参考まで、これまでA7/S7/RS 7を合計して平均で年間800台あまりが販売されてきた中での比率は、概ね70:15:15だったという。S7とRS 7のようなモデルが同等に売れているのも珍しい傾向だというが、今後これがどのように変化していくのかも興味深いところだ。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸