試乗レポート
スバル、WRX STI EJ20 ファイナルエディション。水平対向4気筒 バランスドEJ20型エンジンを堪能する
2020年7月17日 00:00
水平対向4気筒 DOHC EJ20型エンジンを搭載する最後の最後
新型感染症が自動車業界に与えた影響は計り知れず。メーカーはニューモデルの生産や販売のスケジュールを見直している情報も多々報じられている。モータースポーツもようやく動き始めたところだが、5月から9月に時期を移して開催予定のニュルブルクリンク24時間耐久レースについては、6月末にSTI NBR CHALLENGEチームの参戦断念が発表された。
自身の走行性能の高さを証明すべく、2008年から参戦を継続していた同レースでクラス3連覇を目指していたところだっただけに本当に残念でならない。ファンに向けたSTI NBR CHALLENGE 総監督 辰己英治氏のコメントからも、その無念の気持ちがヒシヒシと伝わってきた。
本来、スバル「WRX STI EJ20 ファイナルエディション」のインプレッションはもっと早く予定していたが、県を越える移動を控えてほしいとの自治体の表明もあり試乗機会を延期していたものになる。取材スケジュールを組み替え、ようやく「EJ20 ファイナルエディション」の試乗レポートをお届けできるときがやってきた。
2019年秋の東京モーターショーで一般公開されたEJ20 ファイナルエディションは、同期間に実施した限定555台の購入優先権の申し込み受け付け倍率が20倍をゆうに超えたとか。前出の辰己監督にとっても、WRX STIは非常に思い入れのあるクルマであることはいうまでもない。30年あまりにわたって、一時期はスバルの多くのクルマに搭載され、かたやモータースポーツにおいても数々の金字塔を打ち立て、スバルの走りのイメージリーダーであり続けた名機「EJ20」を搭載する、正真正銘の最後の最後のクルマとなる。
バランスドエンジンから生み出される7000~8000rpmの回転域が真骨頂
このEJ20 ファイナルエディションの特別装備品は、ゴールド塗装のBBS製19インチアルミホイール、6ピストンのシルバーキャリパー、フロントグリルとリアバンパーのチェリーレッドピンストライプ、専用レカロシート、専用色シートベルトと派手さはなく、シンプルな内容。
搭載されるEJ20型エンジンの仕様は、最高出力227kW(308PS)/6400rpm、最大トルク422Nm(43.0kgfm)/4400rpmと、通常のWRX STI搭載タイプと同じながら92.0×75.0mm(ボア×ストローク)というショートストロークタイプのエンジンを上まで回し切るために、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、フライホイールとクラッチディスクカバーといった回転系をバランス取り。ピストンと組み合わせるシリンダーに関しても選別品によって組み立てられている。まさしくEJ20バランスドエンジンを搭載するために生まれたクルマである。
早速ドライブすると、もともと高回転型でありボクサーエンジンの強みであるスムーズな吹け上がりを身上としていたEJ20が、EJ20 ファイナルエディションではさらに別物になっていて驚いた。
とにかく下から上までウルトラスムーズなのだ。スペックが通常版と同じとは思えないほど体感的には別物。ごく普通にドライブしていても、バランスドエンジンならではの精緻で軽やかな回転フィールを味わうことができる。
そして上まで回したときは、待ってましたとばかりに本領を発揮する。とくに違うのが、7000rpmから8000rpmにかけての回り方。さしものEJ20も通常版はさすがにこの回転域になると頭打ちの印象を受けるところ、バランスドエンジンは勢いを衰えさせることなく、そこからが本当に美味しいところだといわんばかりにもうひと伸びしてパンチの効いた加速を見せる。8000rpmまで回しても振動が極めて小さい。さすがはピストン&コンロッドの重量公差50%低減、クランクシャフトの回転バランス公差85%低減、フライホイール&クラッチカバーの回転バランス公差50%低減を図ったというだけのことある。これほどエンジンフィールの気持ちよいクルマはそうそうない。
加えてストロークが短く、しっかりとしたシフトフィールを身につけた6速MTのステップ比もちょうどよく、市街地でもワインディングでも、この珠玉のエンジンをより深く味わわせてくれる。
EJ20よ、永遠なれ!
2017年の改良でずいぶん印象が変わったフットワークについて、同特別仕様車では特に手は加えられていないが、改めてそのよさを確認できた。SGP(スバルグローバルプラットフォーム)採用以前のスバル車に見受けられた昔ながらのスパルタンな味わいを残しつつも、それまでに比べてサスペンションの初期ストロークが増して快適性が向上し、アンジュレーションを通過したときのあおられるような動きもよく抑えられている。
また、WRX STIといえば伝家の宝刀「DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)」についても、2017年の改良でフル電子制御に変更され、より応答性と回頭性が高まり、より動きが素直になっていることも改めて実感した。やや重めのステアリングはそれまでどおりとして、いじると面白いようにハンドリング特性が変わり、1台で何台分もの走り味を楽しめるのも特徴の1つだ。
シルバーを随所にあしらったコクピットもファイナルエディションの特徴。「フルパッケージ」に含まれる専用のレカロシートは、それほどきつくないながらも身体をしっかり保持してくれて、ワインディングも安心して走ることができる。いくつかの特別装備を付与したスバルブルーのボディには、WRCを戦っていたマシンを彷彿とさせるゴールドのホイールやチェリーレッドのアクセントもよく似合い、さりげなく特別感をアピールしている。
バランスドエンジンはいうまでもないが、特別装備品を考えたら価格的にも割高ではないどころか、むしろ割安感すらある。購入希望者が殺到したのも当然だ。1つの時代を作ったEJ20型エンジンの歴史が終焉を迎えるのは残念でならないが、そんなEJ20の魅力を極めたファイナルエディションは、その有終の美を飾るに相応しい、素晴らしいドライブフィールを味わわせてくれた。
晴れてオーナーとなる555人が本当にうらやましいかぎり。そんなWRXの歴史の中でもひときわ特別な1台となるであろうファイナルエディションは、いずれは中古車市場に出てくる個体もあることだろうが、それが少々高くても、欲しい人は最大限に手に入れる努力をする価値のあるクルマだと思わずにいられなかった。そしてEJ20型エンジン搭載車は、もう新車では買えなくなるが、この先もずっと語り継がれていくことに違いない。EJ20よ、永遠なれ!