試乗レポート

日産の新型「ノート」に試乗 走りの進化点はどこにある?

e-POWER、ワンペダルドライブの改良から新生ニッサンの姿勢を見た

新型ノートに公道で乗った

 新生ニッサンロゴを掲げた第1号車として登場した新型「ノート」で、いよいよ公道を走り出すタイミングがやってきた。以前、テストコースでのファーストインプレッションをお伝えしているが、リアルなシーンではどんな顔を見せるのか?

 今回借り出したのは、ノートの最上級グレードである「X」(2WD)。それにインテリジェントアラウンドビューモニターやプロパイロットなどを加え(44万2200円)、さらにホットプラスパッケージというシートヒーター、ステアリングヒーターを装備(7万3700円)している1台。さらに16インチアルミホイールやLEDヘッドランプなどのオプションを盛り込んだ仕様で(33万5500円)、メーカーオプションの価格はなんと85万1400円! 車両本体価格が約220万円だから、乗り出しで300万円オーバーという個体である。まさに小さな高級車といっていい。ダウンサイジングユーザーであればこれくらいは欲しいよね、と思える装備を盛り込んでいるのだから、きっと需要はあるだろう。

今回は2020年12月に販売をスタートした新型「ノート」に試乗。撮影車のグレードは2WDの「X」(ダークメタルグレー/ブラック)で、ボディサイズは4045×1695×1520mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2580mm。価格は218万6800円
外観では新しい日産ブランドのロゴや新型のVモーショングリルなどを採用。足下は16インチアルミホイールにブリヂストン「ECOPIA EP150」の組み合わせ
新型ノートのe-POWERユニットは直列3気筒DOHC 1.2リッター「HR12DE」型エンジンと「EM47」型モーターの組み合わせ。エンジンの最高出力は60kW(82PS)/6000rpm、最大トルクは103Nm(10.5kgfm)/4800rpm。モーターは最高出力85kW(116PS)/2900-10341rpm、最大トルク280Nm(28.6kgfm)/0-2900rpmを発生。XグレードのWLTCモード燃費は27.8km/L(16インチ装着車の場合)で、燃料タンク容量は36L(無鉛レギュラーガソリン)
インテリアではワイドなインパネ、水平で快適なロングコンソールを採用するとともに、ドライバー用のアドバンスドドライブアシストディスプレイは7インチを装備。シフトデバイスもコンパクトなものに新調
アドバンスドドライブアシストディスプレイの表示例
ステアリングにも新しいブランドロゴが与えられる。ステアリング右側のスイッチでプロパイロット(ナビリンク機能付)の設定が行なえる。ナビゲーション用ディスプレイはクラス最大級の9インチを採用
センターコンソールには大型の収納ボックスが用意されたほか、センターコンソール下にも収納スペースを設定。スマートフォンを置くだけで充電できるワイヤレス充電器などはXにのみ設定されるオプション
本革シートもXだけが選べるオプション。後席スペース(ニールーム/ヘッドルーム)は先代よりも減少するが、クラストップを維持。また、新たに後席用のリクライニング機能が追加された

先代との違いはどこに?

 これで走りがチープなコンパクトカーなら眉を顰めるところだが、走りはなかなか感触が良い。ドタバタとホップするようなこともなく、荒れた路面でもフラットに突き進む感覚に優れているそれは、次世代上級小型車向けのCMFBプラットフォームへと改められた成果なのだろう。先代比でボディ剛性30%、ステアリング剛性90%アップ、サスペンション剛性10%アップと相まって、走り心地がかなりいいのだ。

 ステアリングを切り始めてからリアが追従するまでの応答遅れのなさ、そして旋回性の高さもまたこれまでと違う。もちろん、そこにはホイールベースを20mm短縮したことや、全長を55mm縮めたことも効いているのだろうが、手足のように操れる感覚は身体に馴染む。運転感覚が研ぎ澄まされたせいか、リアシートに座ると若干乗り味は硬質な部分もあるが、入力を一瞬で収めているから許せる範囲内だ。

 また、運動性能だけでなく、都市部の裏路地であっても取りまわしがしやすく、操舵力をそれほど必要としない設定となったステアリングとの連携プレーで、どこでもスイスイ通り抜けることが容易いところが好感触だ。

 手足のように操れるといえば、やはりe-POWERの仕上がりが気になるところだろう。今回はエンジン始動直後のデフォルト設定がエコモードとなるように改められたが、それでも力不足はそれほど感じない。出足が極端に鋭すぎず、穏やかな加速を続けてくれるところは、静かに走るには十分すぎるくらい。単に鈍感なわけでもなく、リニアなスロットルレスポンスとしているところもありがたい。

 先代に比べると最大トルクが254Nmから280Nmへ、最高出力は80kWから85kWへ高められているが、それを前面に押し出していない感覚がある。エンジンをできるだけ静かにまわし、静粛性に優れたところもポイントの1つ。低回転でまわしながらグッと前に出る感覚は、e-POWERがずいぶんと大人になったように感じられる。発電の効率重視でイッキに回転を高める傾向にあった先代とはまるで違う仕上がりだ。おかげで街乗りでも高速でも忙しなさが影を潜め、上質に感じられるようになった。

 ワンペダルドライブについても考えが改まった。今回はアクセルペダルを完全に離しても、速度ゼロにはならないようになったのだ。最後の最後はクリープを残し、完全停止するにはドライバーの意思でフットブレーキを踏む必要が出た。ワンペダルドライブは慣れればかなり重宝するシーンもあるにはあるが、慣れていないドライバーがそれに固執すると、同乗者は「本当に前走車に追突せずに止まれるのか?」と不安になることもしばしば経験している。あくまでもこれまでのクルマと同様に動かしていこうと考えを改めたことは、個人的にはよかったと思う。

 ただし、ワンペダルドライブのよさがなくなったわけじゃない。周囲の交通環境を把握し、アクセルをスムーズにON/OFFしていけば、かなりのシーンでブレーキペダルに足が乗る状況にはならない。今回の試乗は東京から千葉までの往復だったが、信号に差し掛かった時とパーキングに入った時以外、ブレーキペダルに足を乗せることはなかった。これならe-POWERらしさも健在で、イージードライブと疲労軽減にも繋がるだろう。

 よさはきちんと伸ばし、けれどもやり過ぎた部分はきちんと改めるその姿勢こそ、新生ニッサンの新たなるカタチなのかもしれない。“やっちゃえ!”で済ますことなく、確実に熟してきた今度のノートは“買っちゃえ!”と素直に勧められる1台だと思う。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学