試乗レポート
日産の新型「ノート」はコンパクトカークラスの常識を変えた? テストコースで速攻試乗
2020年12月3日 07:30
軽く、コンパクトに、そして安く
3代目となる新型「ノート」(E13型)にいよいよ試乗する機会を得た。新型ノートのポイントとなるのは、まず全車がe-POWERを採用しているところだ。2016年にノートに投入されたこのe-POWERは、2018年の時点でガソリン車と合わせてノートを登録車ナンバーワンのポジションに押し上げた立役者。ガソリン車の比率が年々減少していったこともあり、いよいよe-POWER1本で行く決断をしたようだ。
新型ノートが搭載するモーターはEM47型で、先代が搭載していたEM57型とは違い小さいサイズとなる。インバーターも「リーフ」から受け継がれたものから改められ、e-POWERの使い方を考えて40%ものコンパクト化と33%の軽量化に成功。一方で効率を高めており、最大トルクは254Nmから280Nmへ、最高出力は80kWから85kWへと進化。ケースの剛性なども高め、音の発生に対しても配慮した上で、軽く、コンパクトに、そして安くということを実現している。
もう1つの注目ポイントは、プラットフォームが刷新されたことだ。先代は「マーチ」などと共用するVプラットフォームだったが、ルノー「ルーテシア」、欧州で販売される「ジューク」などが採用する次世代上級小型車向けのCMF-Bプラットフォームとなった。これに伴い、ボディ剛性は30%、ステアリング剛性は90%、サスペンション剛性は10%アップされたとのことで、走りの質感がどう進化したのかが見どころだ。
サイズは先代に対してコンパクトになり、全幅は1695mm、全高は1520mmと変わらないものの、全長は4045mmと55mm減、ホイールベースは2580mmと20mm減となっている。そのシェイプアップぶりはひと目で理解できるもので、先代に比べてかなり凝縮された感覚がある。デザインは新生日産を象徴するEV(電気自動車)「アリア」に続くもので、新しい日産ロゴを採用した第1号車というところもポイントの1つだろう。
これがコンパクトクラス?
最上級モデルの「X」に乗り込むと、シンプルながらもモダンさを感じさせてくれる仕上がり。アリア譲りの先進一体型バイザーレスディスプレイはひと目で情報が理解できるところがマル。カーナビもクラス最大級の9インチとなかなか豪華だ。収納スペースをうまく隠し、例えばセンターコンソール下にスペースを備えたり、リトラクタブル・インパネカップホルダーとするなどして、生活じみた空間にしていないところが好感触だ。
シートは座った瞬間から全身をふっくらと包み込むような感覚があり、触れる部分にも気を遣ったところが伝わってくる。これがコンパクトクラス? かなり贅沢な空間がそこにある。ただ、後ろ側にセンターの大型コンソールボックスを持たせようとするあまり、ステアリングを左に切った際に肘が当たるところは改善してほしい。座面を上げて乗れば問題はないだろうが、それでは調整機構も無駄になるのだから……。
テストコースを走り出すと滑るように動いていく。第一印象はとにかく静けさが際立つ感覚で、エンジンが始動しようとも気にならない感覚があった。かつてのように、瞬間的にエンジン回転が高まることもなくなったことが相当に効いている。先に登場したSUV「キックス」に乗った時にもe-POWERはかなり調教された感覚があったが、ノートのe-POWERはそれ以上。回転を高めずして十分な発電を行ない、モーターに電気を送っていると感じさせてくれる。
新型ノートでは荒れた路面に差し掛かった時にエンジンを始動させ、滑らかな路面になるとエンジンをできるだけOFFにする制御を行なっている。これはモータートルクが車輪にどう伝わるかを、車輪速センサーを利用して検知するもので、波形が乱れた段階であえてエンジンをかけるようにしたそうだ。その切り替わりポイントは、今回試乗したテストコースではなかなか判断できなかったが、エンジンの存在を完全に黒子にしたさまは驚きがあった。
また、新型ノートは遮音性に優れているということもある。先代に対してロードノイズがかなり低減されている感覚で、先代ではリアのホイールハウス内にカバーはなかったが、今回からそこも対策されている。コンパクトカークラスであっても全力で静かにしていこうということが伝わるエピソードだ。
乗り味はかなり骨太な感覚があり、ステアリングはかなりシッカリとしたフィーリングが得られている。パワーステアリングはコラムアシスト式のEPSとのことだったが、切り始めた瞬間からタイヤの状況が理解しやすく仕上がっていた。フットワークも荒れた路面を見事に吸収しながらフラットさが際立っている感覚。ロールやピッチングは程よく起きるイメージで、e-POWERらしくワンペダルで走行中でもコーナリングでの荷重移動をさせやすい。後にスポーツモードにして意地悪にフル加速もしてみたが、極端にピッチングすることなく、きちんとトラクションを与えていたことが印象的だ。その気になればホットハッチ的にも振る舞えるかもしれない。
ここまで走りの質感が高く、そして走れてしまうイメージがあると、後席の乗り心地が気になるところ。突き上げはないのかと乗ってみたが、そこでも上質な乗り味は健在。Xの場合はシートのリクライニング機構も付いているし、試乗車にはアームレストもあったため、それらをフルに使えばかなりリラックスした空間が生まれる。ホイールベースが短縮されたとはいえ、身長175cmの筆者のニースペースが、こぶし1つ分余裕があったのだから、これなら実用面で問題はないだろう。
このようにトータルで激変した新型ノートは、コンパクトカークラスの常識をさらに改めてしまったかもしれない。プロパイロット搭載もOKとなるが、最上級クラスのXでしかそれを得られず、高価になってくるという状況もあるが、それでも十分に許せてしまう質感と走りがこのクルマにはある。これならまたもや登録車ナンバーワンとなる日もそう遠くはないだろう。