試乗レポート

第5世代となったルノーの新型「ルーテシア」、その進化点を探る

先進運転支援システムも充実して頼もしい相棒に

11月に日本国内で発売された第5世代ルーテシアを試乗してきた

 ルノーのベストセラー「ルーテシア」が第5世代へと進化し、やっと日本市場でも11月に発売された。詳細については「第5世代の新型ルーテシア発売、多彩な先進運転支援システム搭載」「写真で見る ルノー ルーテシア(第5世代)」で既報済みなので参照していただきたい。ここでは試乗インプレッションをお伝えする。

 新型ルーテシアは、装備の違いにより受注生産の「ゼン(236万9000円)」「インテンス(256万9000円)」「インテンス テックパック(276万9000円)」の3グレードが設定され、今回試乗したのはインテンス。ルノーらしいエモーショナルなデザインは、大きなうねるような面構成が特徴で、サイズも大きく見え、Bセグメントの枠から飛び出している。

 プラットフォームはルノー、日産自動車、三菱自動車工業の3社連合で共同開発されたモジュラープラットフォームで「CMF-Bプラットフォーム」と呼ばれるもの。このプラットフォームは今後各社のEV(電気自動車)も含めた多くのモデルに展開されることになるという。

CMF-Bプラットフォーム

 ルーテシアはBセグメントでスタートしたが、次第に大きくなった欧州BセグメントはCセグメントとの境が曖昧になっている。新型ではデザイン効果でさらに大きくなっているように見えるが、実際のサイズでは従来型よりもワンサイズコンパクトな4075×1725×1470mm(全長×全幅×全高)となった。プラットフォームの刷新でホイールベースも2585mmと15mm短くなり、従来のルーテシアは4095×1750×1445mm(全長×全幅×全高)なので全高以外は小さくなった勘定だ。これによって全体モチーフは変わらずだがグッと引き締まったスタイルになった。

第5世代のルーテシア
第4世代のルーテシア

 デザインでもっとも変わったのがインテリア。従来モデルはコンサバで少々退屈だったのは事実だが、今回のフルモデルチェンジでは劇的に変化した。メーターは正面に7インチ液晶ディスプレイ、センターダッシュボード上には9インチディスプレイが備わり、ドライバーのニーズによってさまざまな顔を見せる。

7インチ液晶ディスプレイ
9インチディスプレイ

 例えばドライブモードを変更すると、その都度わかりやすく正面のタコメーターのカラーが変わり、タイヤ空気圧などの車両情報、オーディオなどの表示もできる。センターディスプレイ上では車両設定が可能なだけでなく、エコドライブに役立つゲーム感覚で表示を変えられるなど、イメージを大きくチェンジさせている。

 エンジンも新開発の直列4気筒1.3リッター直噴ターボを搭載し、このエンジンはルノー、日産、三菱自動車のアライアンスによって開発されたもので、ルーテシアが搭載するエンジンはHSH型と呼ばれる。最高出力は131PS/5000rpm、最大トルクは240Nm/1600rpmで、実用域で大きなトルクを出せるような性質だ。従来エンジンのH5F型は1.2リッターの直噴ターボで120PS/190Nmだったから、11PS/50Nmの出力アップとなっている。

直列4気筒1.3リッター直噴ターボエンジンは最高出力131PS/5000rpm、最大トルク240Nm/1600rpmを発生

 エンジン特性は低回転からトルクがあり、発進から滑らかにトルクバンドに乗ってアクセルコントロールの幅も大きく使いやすい。それにレスポンスよく想像以上にパワフルだ。小排気量エンジンらしい俊敏さとターボエンジンのトルク感をあわせ持ち、トルクの有効回転域が広くてトランスミッションとのマッチングにもすぐれていて乗りやすい。

 このパワーユニットはルーテシアの美点の1つではなかろうか。エンジンの回転フィールも高質感のある回り方なのだが、1つ不満があるとすれば整理されていないメカニカルノイズが大きめなこと。少しアクセルを踏んだ領域では特に目立つ。もう少し少し回転を上げたところからはそれほど気にならなくなるが、ルノーらしいところでもある。

 トランスミッションはこれまでの6速から湿式デュアルクラッチ7速になり、ステップ比も細かく刻まれて高速クルージングではエンジン回転を下げられるし、市街地や山道では適切なギヤを選択してグイグイと走る。このデュアルクラッチはトルコンのような変速ショックもなく多段化されたことも功を奏し、街中から郊外までギクシャクすることなくどの場面においても加速が素早い。

 新しいプラットフォームは剛性を上げながらも軽量化を果たしており、プラットフォーム単体では50kgも軽い。車両重量は1200kg(ゼンのみ1190kg)。先代の1.2リッターエンジン車で1210㎏だったので、数字だけ見ると10kgの軽量化だが、ボディが小型化されたとはいえ安全対応や装備の充実などにより、フルモデルチェンジの度に重くなる要素が増えていることを考えるとプラットフォームの軽量化の効果は大きい。

ルーテシアの装着タイヤはコンチネンタル・エココンタクト6で、サイズは前後とも205/45R17。素直な特性のタイヤだ

 ハンドリングは軽快。それも最近のスポーツモデルのようなフラットな姿勢でコーナーをクリアするというよりも、ステアリングを切ると穏やかに進むロールを感じさせながら路面をグリップするところがルノーらしい。タイヤは路面を掴んで正確にトレースする。また、ステアリングのギヤ比は15.2から14.4に早められている。とはいえ、操舵フィールは穏やかでかつ過敏ではない。ドライバーの狙ったとおりにコーナーをクリアする。

 速度レンジを上げるとロールは少し深くなるが、以前のルーテシアよりも4輪がグリップする感触は高く安心感がある。操舵力は軽いが感触はしっかり伝わってくるし、誤解されるといけないが、クルマに身を委ねるような自然体で運転するとルーテシアはグイグイと曲がってくれる。S字コーナーのようなステアリングを切り返すような場面でもロール収束がすぐれているので不安感はない。こちらもバネ、ショックアブソーバーだけでなく前後のロールバランスが見直されレベルアップしている成果だ。どんなドライバーにも鷹揚なのがルノーらしい。

 乗り心地は低速ではゴツゴツとした上下動があるが、シートのクッションストロークがタップリしており乗員には伝わりにくい。中高速では4輪のアシがよく動き快適だが、段差などではリアサスペンションンが多少バタつく傾向がある。ト―ションビームの癖だろうか。

 ちなみにドライブモードはマイセンス、スポーツ、エコをセンターディスプレイから選択できるが、変更する度にドライバー前面のディスプレイのカラーが変わるのでどのドライブモードを選定しているかが分かる。マイセンスとはノーマルのことだが、デフォルトの他に操舵力など個別に選択できるので自分に適した設定を選ぶことができる。ちなみにドライブ中は少しフィードバックが欲しくて操舵力はスポーツを選んだ。またこのタッチパネルからは室内やメーターの照明色なども選ぶことができる。

選択しているモードによってデザインが異なり、ひと目でどのモードが分かる
充実しているADAS(先進運転支援システム)

 ADAS(先進運転支援システム)は新しいルーテシアのセールポイントとなる。これまでルノーにはあまり馴染みがないADASだが、これがなかなかよくできており、グレードによって装備内容は異なるが充実ぶりはちょっとビックリだ。全車速ACC(アダプティブクルーズコントロール)や360度カメラ、レーンキープ機能などが装備されているが、こういった部分は日産とのアライアンスの成果と言えそうだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一