試乗インプレッション

ワゴンとして生まれ変わったマイチェン版ホンダ「ジェイド」。その進化はいかに?

5名乗車仕様「RS」の実力を試す

ユーザーの評価が厳しかったジェイド

 そもそもは都市型3列シートの低車高パッケージミニバンとして市場に参入したという本田技研工業「ジェイド」。全高は1540mmで立体駐車場もOK。3列目のシートもあるから、イザという時の乗員増加にも対応できる。こう聞けば、なかなか考えられている1台のようにも感じられるのだが、実は中途半端だったという反省がホンダにはあったようだ。

 ホンダが示した市場概況によれば、リアにスライドドアではなくヒンジドアを備えるミニバンは、減少していく一方なのだとか。販売台数は2015年には年間5万台オーバーだったものが、2017年には3万台を割り込むまでに少なくなっている。ジェイドも2015年は約1万台の販売を記録したものの、2017年にはほとんど売れないという状況にまで陥ったのだ。SUVの売れ行きが伸びたなど、ほかのタイプにユーザーが流出したということも考えられるだろうが、いずれにせよジェイドには厳しい状況だったことが伺える。

 ユーザーからの評価もなかなか厳しかった。内容の割には高価過ぎる。3列目シートが狭い。2列目がキャプテンシートで2名しか座れず、実質4人乗りになってしまうといった意見が出ていたらしい。その反省を踏まえ、今回のマイナーチェンジではミニバンとして売るのではなく、「NEW STYLE WAGON」をコンセプトにしたという。舵を一気に切り直したその仕上がりに注目してみたい。

今回試乗したのは5月18日にマイナーチェンジした「ジェイド」で、直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンにCVT(7速モード付+パドルシフト)を組み合わせる「RS・Honda SENSING」(右)と、直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴エンジン+スポーツハイブリッド i-DCDに7速DCTを組み合わせる「HYBRID RS・Honda SENSING」(左)。RSの乗車定員は5名(前席2名、後席3名)だが、引き続き6名乗車仕様(前席2名、2列目2名、3列目2名)もラインアップされる
HYBRID RS・Honda SENSINGのボディサイズは4660×1775×1540mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2760mm
スポーツグレードのRSではフロントグリル、内側にブラック塗装を施したLEDヘッドライトなど専用デザインを採用。フロントバンパーの下側も左右に連続するスタイルとし、ワイド&ロースタンスを強調するデザインを採用。アルミホイールは18インチ(タイヤはダンロップ「SP SPORT MAXX 050」で、サイズは225/45 R18)を装備してスポーティさを強調。ホイールは路面の凹凸を通過したときにタイヤから発生する「気柱共鳴音」をレゾネーターの共鳴で打ち消す「ノイズリデューシングホイール」となっている
ボディカラーはRS専用の新色「プレミアムクリスタルオレンジ・メタリック」で、G以外のグレードでルーフやドアミラーなどがブラック塗装になる「ブラックルーフ仕様」を新たに設定
マフラーのタイコ部やアルミホイールのバランスウェイトをブラック化する(存在感を消す)ことで、見た目の質感を高めるという細かな改良も行なわれた
ハイブリッドモデルが搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴エンジンは、最高出力96kW(131PS)/6600rpm、最大トルク155N・m(15.8kgf・m)/4600rpmを発生。これに最高出力22kW(29.5PS)/1313-2000rpm、最大トルク160N・m(16.3kgf・m)/0-1313rpmを発生するモーターを組み合わせる。JC08モード燃費は24.2km/L
ガソリンモデルが搭載する直列4気筒DOHC 1.5リッター直噴ターボエンジンは、最高出力110kW(150PS)/5500rpm、最大トルク203N・m(20.7kgf・m)/1600-5000rpmを発生。JC08モード燃費は17.6~18.0km/L

 ミニバンと謳わなくなった新生ジェイドは、まずガソリン車とハイブリッド車に2列シートの5人乗り仕様を追加した(従来通りの6人乗りもラインアップされている)。キャプテンシートではなく、一般的なベンチシートにしたおかげもあってか、そこに乗り込めばユッタリとしている。ホールド感はもちろんキャプテンシートの方があるわけだが、大型のアームレストを出して座れば、コーナリング時もなかなかの安定感があり、ベンチシートでも十分ではないかと思えてくる。さらにアームレストの下にある座面を反転させれば、ドリンクホルダーや小物入れ、そして小さなテーブルが出てくるなど、ユーティリティもバッチリ。後席用のエアコン吹き出し口も備えられているし、これはなかなか優雅だ。

RSグレードに設定されるブラック×オレンジの内装。インパネ加飾にはカーボン調パネルを採用する
RSと「G」グレードは3人掛けの「コンフォートシート」を後席に採用
ハイブリッドモデルのメーター表示例。なお、今回のマイナーチェンジにより安全運転支援システム「Honda SENSING」を全車で標準装備。「CMBS(衝突軽減ブレーキ)」「路外逸脱抑制機能」「LKAS(車線維持支援システム)」「先行車発進お知らせ機能」「誤発進抑制機能」に加え、新たに走路外の歩行者を検知して回避方向にステアリングアシストする「歩行者事故低減ステアリング」を追加した
ガソリンモデルのシフトまわりとメーター

かなりの熟成が感じられた

 そして乗り心地も良好だ。今回試乗した「ハイブリッド RS・Honda SENSING」は、17インチから18インチに拡大されるなど、スポーツ方向へ振られた1台のようだが、リアの動きはかなり滑らか。突き上げを感じることなく、それでいて収束は素早く、無駄に動かされる感覚が一切ないのだ。ワゴンとしての再出発ということもあって、この辺りの乗り心地は相当に煮詰めたのだろう。

静粛性もあり、会話するのに声を張らずに済むところもいい。ホイール内にレゾネーターを備えたノイズリデューシングホイールを採用したことで、段差の乗り越え時にタイヤが発生する気柱共鳴音を打ち消してくれることも効いているのではないだろうか。いずれにせよ、グランドツアラーとしての要素もシッカリと盛り込まれている1台だということはリアシートにいるだけで体感できるものなのだ。

 もちろん、ドライバーズシートに収まってみても納得の走りは体感できる。ガソリン車、ハイブリッド車ともに目指したことはスポーティで爽快な走りだったそうだが、たしかにスロットルレスポンスもブレーキの応答もリニアリティが増していたことを感じた。ガソリン車はRS専用のCVT制御を、ハイブリッド車はギヤレシオの変更やi-DCD制御のリファインを行なったらしい。日常域から全開加速まで思い通りに、そして爽快な吹け上がりを得られるその実力は、RSのエンブレムを掲げるに相応しい仕上がりではないかと思えてくる。

 さらにはフットワークも軽快だ。後席に座っている限り、ここまで乗り心地を出していたら旋回性などはどうなんだろう? こんな疑問があったのだが、ボディ全体がしなやかに動き、クルマがジワリと旋回していく感覚が心地よく、何ら無理せずにコーナーを駆け抜けてくれるから満足。持ち前の全高の低さは、やっぱり背が高いミニバンとはひと味違うコーナリングを得られる。その素性のよさを活かしつつ、前後バランスに優れた足まわりを備えたのだから走りがよくて当然か!? ドライバーのことだけを考えると、リアの足はもう少し引き締めたほうが追従性はよかったかもと思えるのだが、後席に座った時の快適性を思えば、これはなかなかなバランス。どのシートに座っていても満足できることだろう。

 また、当然のように全車に対して安全運転支援システムのHonda SENSINGを標準装備したことはなかなかエライ。これからの時代にはやはり必要不可欠だろう。ただし、カメラを運転席上部に持ってきたところはちょっと残念。せっかくの開放的な視界が、やや狭まっている。ちなみに試乗車にはそれに加えてドライブレコーダーも備えていたから余計に圧迫感があったのだ。

 なぜこんなことになってしまったかというと、実はジェイドのワイパーが原因らしい。両サイドに支点を持ち、クロスするように拭くこのワイパーは、上部を拭けるのが片側だけという状況。よって、視界をきちんと確保したい運転席側のワイパーの方が助手席ワイパーより支点が上になり、上部まで拭ける設定だ。雨などを考えると、カメラ関係はワイパーが完全に拭ける位置に置きたいわけで、結果的にこうしたレイアウトになってしまうらしい。時代の狭間に登場したクルマならではのネガである。ワイパーもカメラも、これからは色々とレイアウトの奪い合いが始まるのかもしれない。

Honda SENSINGのカメラが運転席側にオフセットされ、視界がやや狭まってしまったのは残念。ドライブレコーダーも圧迫感を余計に与えている

 このように、やや突っ込みどころはあるものの、クルマの仕上がりとしてみれば、さまざまな状況を吟味して登場したマイナーチェンジ後のジェイドからは、かなりの熟成を十分に感じられた。立体駐車場の悩みがある方々、そして走りのよいワゴンをお探しの皆さま、ジェイドという選択肢もあるのだということを頭の片隅にでも入れていただければと思う。もうミニバンとは言わないワゴンのジェイド、これはなかなか面白い存在だ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は日産エルグランドとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学