試乗インプレッション

圧倒的な存在感を誇るメルセデス・ベンツのフラグシップSUV「GLS」、その走りの実力を体感

走らせる上での条件が厳しくなるほど、メルセデスはその強みを発揮

SUVを7車種も擁するメルセデス

 セダンのイメージの強いメルセデス・ベンツだが、SUVだって大得意。いまやメルセデスの中でもSUVの販売比率はセダンに匹敵する22%に達しており、SUVだけで7車種をラインアップしているというのは、実は国産メーカーを含め日本国内で販売されるブランドの中で最も多いという意外な事実もあるほどだ。

 中でも、2016年のマイナーチェンジ時に、新しいルールに則ってSUVを表す「GL」に車格を表す「S」を組み合わせたモデル名に改名した「GLS」は、メルセデスのフラグシップSUVであり、メルセデスで唯一の3列シート7人乗りSUVでもある。

 前回ドライブしたのは、まだGLだった時代にディーゼルが加わったときだと記憶しているが、ひさびさに触れて、あらためて惚れ直した点が多々あった。まずは、まさに圧巻というほかない5mをゆうに超える全長と2mに迫る全幅を持つ堂々たる体躯、その大きさを活かした圧倒的なスペースユーティリティこそ、このクルマの真骨頂であることはいうまでもない。

今回試乗したメルセデス・ベンツのフラグシップSUV「GLS」(GLS 550 4MATIC スポーツ)のボディサイズは5140×1980×1850mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3075mm。価格は1530万円。同グレードのステアリング位置は左のみの設定
エクステリアでは、フロントグリルに2本のルーバーと大開口化したエアインテークなどが特徴的なAMGデザインを採用するとともに、アンダーガードやルーフレール、サイドスカートなどにクロームルックのエクステリアパーツを用い、スポーティさとSUVのデザイン要素を融合

 広大で高級感あふれる室内空間は用途に応じてさまざまなアレンジが可能で、そのほとんどを電動で行なうことができるのもGLSならではである。

 3列目への乗り降りも、2列目の肩のスイッチを押すだけで自動でシートが折りたたまれる電動イージエントリー機能によりスムーズにこなせる。3列目の居住性についても成人男性が不満なく座れる広さが確保されているところもよい。ダブルフォールディング機構を備えた2列目と3列目を前倒しすると、2300Lもの容量を誇る広大な空間を創出でき、しかもキレイにほぼフラットになるのもありがたい。

インテリアはSクラスと同等の上質さを備えたとし、3列シートの全席でエルボールームとヘッドルームを広く確保したことで、大人7人がくつろげる室内空間を実現。シートレイアウトを変更することで、ラゲッジルームは680Lから最大積載量の2300Lまで調整できる

極めて快適で安定した走り

「GLS 550 4MATIC Sports 」は最高出力335kW(455PS)/5250-5500rpm、最大トルク700N・m(71.4kgf・m)/1800-3500rpmを発生するV型8気筒4.7リッターツインターボエンジンを搭載。JC08モード燃費は8.2km/L

 2018年6月時点のエンジンラインアップは、ディーゼルの3.0リッターV6とガソリンの4.7リッターと5.5リッターのV8で、GLSには3.0リッターV6の「AMG 43」モデルの設定はない。今回試乗した「GLS 550 4MATIC スポーツ」の価格は1530万円となる。

 乗り込むと高めの着座ポイントによる見晴らしのよさが心地よい。登場からそれなりに時間が経過しているため、メルセデスがさらに次の世代に移行しようとしている中にあって、インテリアデザインにやや古さを感じるのは否めないものの、フラグシップSUVらしいラグジュアリーな雰囲気は色あせることはない。

 かつてディーゼルの「GL 350 d」をドライブしたときには、これでも十分だと思ったものだが、音や振動が小さく吹け上がりがスムーズで、上質なフィーリングを持つ今回のガソリンV8を味わうと、やっぱりよいものだとあらためて思う。

 今回は都市部の一般道と首都高速道路、東京湾アクアラインと木更津の一般道をごく普通にドライブしたのだが、やはり何も不安に感じさせることのない終始安定した走りと、期待どおりの極めて快適な乗り心地を提供してくれた。乗車人数や積載量にかかわらず一定の車高を維持する「AIRマティックサスペンション」と、減衰特性を瞬時に連続可変制御する「ADSプラス」を備えた足まわりはストロークもたっぷり確保されていて、路面からの入力を巧みにやわらげてくれるので後席も含め乗員はまったく不快に感じることはない。それでいてロールを抑制する機能により、カーブでもなんら不安を感じることはない。

 ステアリングの切れ角も十分に確保されており、これほど大柄な車体のわりには取り回しもわるくなく、意外なほど乗りやすい。ドライブフィールはフラグシップSUVらしく重厚ながら、けっして鈍重ではないところも念を押しておきたい。そのあたりのまとまりのよさは、さすがはメルセデスというほかない。大きい、重い、重心が高い、バネ下が重いなどといった、走らせる上での条件が厳しくなればなるほど、メルセデスは強みを発揮するように思えてくる。

最強の実用車

 なお、メルセデスでは4MATICのトルク配分を搭載する車種のキャラクターに合わせて差別化しているが、GLSでは50:50とされている。最低地上高は200mmを確保しており、最大渡河水深は500mmを誇るほか、3mを超えるロングホイールベースを持ちながら、アプローチ、ディパーチャー、ブレークオーバーなどのアングルを十分に確保するなど、オフローダーとしての能力も相当なもの。さらにGLS 550には、よりオフロード性能を高める「ON&OFFROADパッケージ」が標準装備されるのも魅力だ。

 そんなGLSのオーナーは経営者や士業が多いそうだが、経済力のある人があえて他の高級車ではなくGLSを選ぶのもうなずける話。筆者もかねてよりGLSこそ“最強の実用車”ではないかと思っていて、もしも好きなクルマを何でも買えるとしたら、ぜひ1台をGLSにしたいと常々から思っているのであった……。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:中野英幸