トピック

【インタビュー】新型「CX-5」のチーフデザイナー 諌山慎一氏に聞く

「魂動デザインを進化させ、より大人が魅力的に感じるデザインを施す」

2016年11月17日~19日(現地時間)開催

米国 ロサンゼルス・コンベンションセンター

新型「CX-5」のチーフデザイナー 諌山慎一氏

 2012年2月に発売された「CX-5」は、マツダのデザインテーマとなる「魂動」を取り入れた第1弾モデルとなった。魂動デザインとは、クルマに生命を与えることをコンセプトとしていて生命感や躍動感、塊感を体現している。

 2014年末に行なわれたCX-5の大幅改良ではフロントとリアまわりのデザインをより進化させ、スタイリッシュさと力強さを増した意匠へと変更。魂動をより感じるデザインとなった。また、インテリアデザインも電動パーキングブレーキの採用によってセンターコンソール付近がすっきりとし、上質感がアップした。

 大幅改良の前年にもグレード展開の見直しや足まわりのアップデートなどの一部改良を施し、初代CX-5は4年半の販売期間で2回の改良を加えてきた。現在のマツダは、新しい技術や安全思想、デザインなどが他車で採用されれば、そのままスライドして取り入れるようにしている。

 そして、初代CX-5の登場から始まった新世代商品群は、「アクセラ」「アテンザ」「デミオ」「CX-3」「ロードスター」と続き6車種が出揃った。新型CX-5は新世代商品群のふたまわり目になるモデルで、今後導入されるであろう次世代モデルとの橋渡し役にもなるのだ。つまり、デザインや技術など、そこには将来のエッセンスが含まれている。

 それでは、どのようなコンセプトと方向性を新型CX-5に与えたのか、チーフデザイナーの諌山慎一氏にうかがった。

究極のRX-VISIONに向かって最初の1段を上がるクルマ

新型「CX-5」のチーフデザイナー 諌山慎一氏:1992年マツダに入社しプロダクトデザインのエクステリアを担当。「RX-8」や「ベリーサ」、2代目「アテンザ」のデザインチームに所属し、2008年からMRE(Mazda R&D Europe)、2010年からMNAO(Mazda North American Operation)のデザインスタジオに出向。2012年から「Mazda2(セダン)」「BT-50」のチーフデザイナーを経て新型CX-5チーフデザイナーに就任した

――初代CX-5はマツダの4分の1の販売台数を占めるヒットモデルでしたが、デザインのチーフとしてプレッシャーはありましたか?

諌山氏:プレッシャーはありましたが、方向性に迷いはなく、信じたことに愚直に取り組みました。

――新世代商品群で唯一のフルモデルチェンジとなるCX-5は、次世代への受け渡しになりますが、どんな思いでデザインされましたか?

諌山氏:初代CX-5の開発のとき、私はアメリカにいて携わっていなかったのですが、こんなにヒットするとは誰も思っていませんでした。

 SUVとしては、ど真ん中を狙わずにストライクゾーンの右上を狙ったマツダらしい個性を感じました。4年経った現在ではCX-5を取り巻くようにさまざまな競合車が入ってきましたので、単純に成功したからといって同じことをやっていたら次はないなと感じていました。

 そこで、“再び次世代のスタンダードとして選んでいただく”というコンセプトはキープしつつ、深化の道を選びました。デザインで言えば「魂動」の深化であり、CAR as ART(カー アズ アート)の世界。究極は「RX-VISION」だけれども、そこに向かって一歩一歩階段を上っていく、最初の1段を上がるのがこのクルマという位置づけですね。

――魂動デザインも進化していて、究極のRX-VISIONもお披露目されています。そこで新型CX-5は、どこを狙ったのでしょうか?

RX-VISION

諌山氏:初代が高く評価いただけたのは、世界で通用した優れたパッケージングがあり、SKYACTIVの採用や、SUVとしては若々しく躍動感のあるスポーティなスタイリングなどトータルでのバランスのよさがあったからだと思います。このよさをさらに磨き上げ、もう1段上のレベルへ上げていく、英語でいうと「マチュア(mature)」。大人の質感に上げていくことにこだわりました。単純にプレミアムやゴージャスという表現ではなく、このクルマだと生活の質が上がったように感じていただける、そんな感覚のものですね。

 我々の手法は外向けにきらびやかな要素を足していくのではなく、つきつめて真理に向かって深く掘り下げていく“引き算”です。マツダ独自の価値観なのですが、目新しいものは探していません。私はスローデザイン的な思想を大事にしています。長く愛されるものを作り、いつか振り返ったときに魅力的に見える形をつきつめていきたいと考えています。

――フルモデルチェンジなのでイチから手を加えられる自由度があったと思います。大人の質感を表現するために具体的にどんなことしたのでしょうか?

諌山氏:クロスオーバーとはいえSUVですから、存在感の強さを美しく極めていきたいと考えました。コンセプトは“リファインドタフネス”としました。クルマの美しいプロポーション比率というのは、FF、FRだろうと、こうあるべきというものがあるのです。誰が見ても美しいと感じるプロポーションを愚直に創りこみました。

 通常、大きな諸元変更がない場合には“フロントウィンドウは共用で開発せよ”となりがちですが、美しいプロポーションを作るためにすべてを最初から作り直したのです。フロントではロー&ワイドなスタンスにこだわり、彫りの深い精悍な表情を創りこみました。ボディサイドではシンプルな動きの中にエレガンスを表現しています。

 また、インテリアでは今まで以上に質感向上に注力しました。アッパーエリアではフロントからリアのドアトリムまで、質感の高いダブルステッチとソフトな素材を使用しています。

ロー&ワイドに見えるフロントのデザイン
リアのデザインは立体感を強めたリアコンビランプなどを採用

――新型CX-5はとくにフロントのデザインが印象的ですが、リアまわりのこだわりについて教えてください

諌山氏:現行モデルは前傾姿勢を表現するためにリアの重心を高く設定していました。今回のモデルではリアコンビの位置を下げ、全体の重心を下げることでスタンスのよさを表現しています。また、リアコンビ内側に樹脂パネルを追加し、2ピース構成に変更しています。これによってフロント同様に立体的で精悍な目つきを表現することができました。

――初代に比べてインテリアが直線基調になったように感じましたが、理由はなんでしょう?

諌山氏:横方向によりワイドな広がりを表現しています。ドライバーが運転に集中できる、心地いい緊張感をインテリアで表現するために、要素をステアリングセンターの高さに集中させることで水平基調を感じさせています。これはパッセンジャーにもゆとりを感じる快適な空間になっています。また、センターコンソールの高さを大幅に見直し、上質なSUVの持つ強さと安心感を表現しました。

インテリアデザインは水平基調に仕上げられた


 このように、セールスが好調だった初代CX-5の基本路線は踏襲しつつも、大人の質感を体現するように内外装ともに進化させてきた。魂動デザインについても4年でだいぶ進化していて、「CAR as ART」というコンセプトも加わり、より芸術的な美しさの表現に注力しているという。

協力:マツダ株式会社

記事初出時から内容を補足して、再掲載させていただきました。