試乗レポート

レクサス初の新型EV「UX300e」、公道でのフィーリングやいかに?

ハイブリッドとの違いは?

 トヨタやレクサスが電動化で出遅れているかのような報道が正しくないことは、われわれの業界にいる大半が理解している。出そうと思えばいつでも出せたものの、じっと機をうかがっていた純EV(電気自動車)。それがいよいよお目見えした。初となる市販EVは意外やレクサスブランドから。コンパクトクロスオーバーであるUXをベースとする前輪駆動車だ。

 2020年秋に同年度生産予定分の限定135台の注文を受け付け、抽選の結果、某芸能人が当選したことも報じられていたが、2021年2月から通常販売される運びとなった。

 外見での既存のUXとの差はバッヂと充電口のリッド、専用カラーのアルミホイール程度。床下空力カバーも専用となる。車内も一見すると違いがないように見えるが、シフトが「LC」のような形状となり、メーターに走行可能距離や回生ブレーキ力インジケーターなど、EVに特化した情報が分かりやすく表示される点が異なる。バッテリーの残量計が燃料計のようなマークにひょっこりコンセントがついているのもオチャメだ。カーナビは目的地周辺の充電できる場所を表示させることができる。

今回試乗したのは2020年10月にデビューしたレクサスブランド初のEV「UX300e」。撮影車は“version L”(635万円)で、ボディサイズは4495×1840×1540mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2640mm。最低地上高はハイブリッド車のUX250h、ガソリン車のUX200と比べて20mm減の140mmとなっている
外見での既存のUXとの差はさほど大きくなく、ボディサイドの「ELECTRIC」やリアの「UX300e」のバッヂ、専用カラーのアルミホイール程度だが、GA-Cプラットフォームの高い基本性能をさらに磨き上げるべく、ステアリングギヤボックスにブレースを追加し、ギヤボックスの両側をボディに固定することで剛性を向上させたほか、ショックアブソーバーの減衰力最適化などEV化による運動特性の変化に合わせて細部にわたってチューニングを施した。“version L”では切削光輝+ミディアムグレーメタリック塗装の18インチアルミホイール(タイヤは225/50R18サイズのミシュラン「プライマシー3」)を履く
ボディの左側に急速充電用、右側に普通充電用のポートが用意される

 各部のクリアランスも実はバッテリー搭載により微妙に変化していて、後席のヒップポイントやフロアが高くなり、ヘッドクリアランスが減少している。実際に座ってみると「言われてみれば」という印象で、たしかに足の収まり具合などに心なしか落ち着かない感もあるものの、気になるほど狭くなってはいない。座面の土台が高くなっても座って硬さを感じないようにクッション厚を確保しているのが分かる。

 ローデッキ仕様のラゲッジスペースは、デッキボード上部で改良後の既存モデルと同等の303Lの容量が確保されており、向かって左側にAC100V 1500W電源コンセントがある。

室内では走行可能表示を常時表示するEVモデル用メーターを採用するとともに、シフトバイワイヤ方式のシフトノブを備え、小気味よい操作性を実現
マルチメディアシステムはSmartDeviceLink、Apple CarPlay、Android AutoTMに対応し、iPhoneやAndroidスマートフォンを10.3インチワイドディスプレイと連携させることで、リモートタッチによる画面操作や音声操作が可能。また、ナビゲーションシステムでは目的地を設定すると、その周辺にある充電ステーションを示す機能も備わる
UX300eとハイブリッド車のUX250h、ガソリン車のUX200を比較した場合、UX300eではカップルディスタンスが5mm増の875mm、リアヒール高は54mm増の335mm、リアヒップ点は16mm増の623mm、リアヘッドクリアランスは6.6mm減の40.2mmとした
UX300eのラゲッジスペース。ラゲッジスペースはデッキボード上部で303Lの容量を確保。向かって左側にはAC100V 1500W電源コンセントが用意される

どの車速域からでもついてくる

 動力源には総電力量54.4kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、「300」のグレード名のとおり300Nmの最大トルクと150kW(203PS)の最高出力を生み出す4KM型モーターにより前輪を駆動する。WLTCモード航続距離は367kmだ。

 車検証によると車両重量は1790kgと、スペックの近い日産「リーフ e+」に比べると100kgあまり重い。重量物であるバッテリーを車体の中心寄りの床下に配置できるおかげで、同前軸重950kg、後軸重840kgと重量配分のバランスもわるくない。低重心を実現しており、慣性モーメントも良好なのはハンドリング面でも有利だ。

UX300eが搭載するモーターの最高出力は150kW(203PS)、最大トルクは300Nm(30.5kgfm)。一充電走行距離はWLTCモードで367kmとなっている

 ドライブすると、全体的に控えめな感もあるものの、だからこそ誰でも扱いやすく、その上でどの車速域からでもアクセルを踏むとリニアについてくるレスポンス感を大事にしていることがうかがえた。発進時も低速から80km/hぐらいまで、その感覚はあまり変わらない。それはまさしくEVとして期待される大事な部分に違いない。

 ただしノーマルモードでは、そこから先の加速が伸びない。そこでスポーツモードを選択すると一変して、その先でも勢いをあまり衰えさせることなく加速が持続する。サウンドもスポーティなものとなり、加速フィールに相応しく音質も変化する。それでいて前席の静粛性はかなり高い。おそらく電気的なノイズの侵入についてもかなり手当てしたのだろう。

 回生ブレーキはパドルで4段階に強さを変えることができるようになっているのも使いやすくてよい半面、ちょっと気になったのがブレーキフィールだ。トヨタやレクサスはその他の車種も含めハイブリッドカーではかなりいいセンまでブレーキフィールを仕上げたように感じていたのに、UX300eはペダルストロークの途中からぐっと急激に減速Gが立ち上がり、やや唐突感があるのが目立つように感じた。自分で発電できないEVゆえ少しでも多く電力を回収しようとしたのだろうか? 何か理由があるのかもしれない。

そつのないまとまり

 シャシーについてもEV化に合わせていろいろ手当てされており、バッテリーパックを搭載した鋼鉄製アンダーフレームがフロアと面で固定されキャビン全体の剛性向上にも寄与しているほか、フロントのサイドメンバー間をクロスメンバーでつなぐとともにステアリングギヤボックスにもブレースを追加して締結点の剛性を高めているという。これらが効いてか、いたって回頭性は素直で、それをなんら無理することなく実現している印象を受けた。

 むろん1.8tという車両重量もあって、素早く切り返すと位相の遅れも見受けられなくないほか、ロールやピッチングもそれなりにする。そのあたりはもっと動力性能や運動性能の高さをアピールするような乗り味にもできただろうが、UX300eではあえてそうせず、扱いやすさと快適性を重視したであろうことがうかがえた。

 レクサスは今後も世界各地のニーズやインフラ環境に応じて適材適所でHV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV、FCV(燃料電池車)など多角的に電動車の商品開発を進めていく旨を表明しており、2025年には全車種に電動車を設定予定で、その販売比率がガソリンエンジン車を上まわることを目標としている。

 周囲を見わたすと何かしら個性を訴求する電動車が増えてきた中で、UX300eはレクサスが送り出した「初」の市販EVとしての関心と期待もあってか、どちらかというと控えめな気もしたのは、それだけそつなくまとまっていたからだろう。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛