試乗インプレッション

TOYOTA GAZOO Racingとダイハツのタッグで生まれた「コペン GR SPORT」、クローズドコースと公道で乗った

快適なドライビングと乗り心地をバランスさせた設定

標準車のコペン(左)とコペン GR SPORT(右)の走りの違いは?

 2002年に登場した「コペン」は、生産台数こそ少ないがダイハツ工業にとってシンボル的なクルマであり、軽自動車の枠内で2シーター+電動トップを持ったスポーツカーというユニークな存在だ。現行モデルはそのコンセプトを継承しながら2014年にフルモデルチェンジを受け、その後いくつかのバリエーションを出しつつ安定した販売を続けている。

 今回リリースされたのは、2019年の東京オートサロンでトヨタブースにさりげなく置かれていた「コペン GR SPORT」だ。ダイハツとトヨタ GRカンパニーの間で初の協業となったコペン GR SPORTは車両開発をダイハツで行ない、TOYOTA GAZOO Racingの実験部隊のスゴ腕ドライバーの意見を反映したモデル。コペンの最上級モデルになる。

 画期的なのは、ダイハツとトヨタの全チャンネルで販売されることだ。両販売店で売られるクルマはバッヂも含めて共通。従ってコペン GR SPORTの外観上にダイハツバッヂは付かない。

 エクステリアでは、水平基調のフロントグリルと空力を意識した角ばったフロント&リアバンパーが特徴だ。どこか愛嬌のあるコペンがイッキに精悍になった印象である。インテリアではGR専用の自発光式3眼スポーツメーター、ピアノブラック調センターコンソール、レカロシート、MOMOステアリングホイールなどに目がいく。

今回試乗したのは10月15日に発売された「コペン GR SPORT」。TOYOTA GAZOO Racingがモータースポーツ活動で培ったノウハウを活かしつつ、ダイハツが開発を進めたモデルで、トヨタが展開するスポーツカーシリーズ「GR」初の軽2シーターオープンモデルとなる。ボディサイズは他のコペンシリーズと共通で3395×1475×1280mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2230mm。価格は7速CVT車が238万円、5速MT車が243万5000円
エクステリアではGRシリーズの一部モデルで採用する「Functional MATRIX」グリルを採用するとともに、フロント/リアともにブラックアウト化したランプをブラックラインでつないだ水平基調の構成を強調するデザインとした。足まわりでもスプリングやショックアブソーバーを最適化するなどサスペンションを刷新し、専用のBBS製鍛造16インチアルミホイール(タイヤはブリヂストン「POTENZA RE050A」:165/50R16)も標準装備
直列3気筒DOHC 0.66リッターエンジンは最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルク92Nm(9.4kfgm)/3200rpmを発生。WLTCモード燃費はCVT車が19.2km/L、5速MT車が18.6km/L
インテリアでは大人の上質感を演出する専用加飾として、GR SPORT専用のピアノブラック調加飾ドアグリップ/センタークラスター、カードキー、レカロシート、MOMO製革巻ステアリングホイール、自発光式3眼メーターなどを採用
CVT車とMT車を用意
会場にはダイハツ純正アクセサリー&TRD(トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)パーツを装着したモデルも展示。TRDパーツはコペン GR SPORTの発売に合わせて用意されたもので、「GR(TRD)パーツ」との名称で呼ばれる。全国のトヨタディーラーとともにダイハツディーラーでも販売されるのが新しい
フロントまわりでは「GRフロントスポイラー」(4万7000円)、「GRフロントコーナースポイラー」(4万円)を装着。前後コーナーに貼られるのはGRロゴ入りアルミテープ「GRディスチャージテープ」(4枚セットで5000円。1枚1500円)
リアまわりでは「GRリヤサイドスポイラー」(4万3000円)、「GRリヤトランクスポイラー」(2万円)に加えてチェッカーフラッグ柄でレーシーなイメージを想起させる「GRフューエルリッドガーニッシュ」(7000円)などを装備。HKSスポーツマフラー(6万6000円)はダイハツ純正アクセサリー
インテリアでは表皮に人工皮革(スエード調)、クッション部にチップウレタンを採用する「GRアームレスト」(1万5000円)を設定
各所をカーボン調にドレスアップできるアイテムはダイハツ純正アクセサリー。価格はインナーミラーカバーが1万7776円、フロントピラーガーニッシュが5万9708円、ドアミラーカバーが2万5278円、ロールバーカバーが3万2252円。この4点をセットにした「ドレスアップパック」も用意され、公式サイトでは合計金額13万5014円のところ、14%OFFの11万6864円(11月15日時点)とされている(価格は取り付け費込)

 試乗はクローズドコースではベース車両のローブ、ダンパーにビルシュタインを使ったローブ S、そしてGR SPORTの3機種のモデルをスラロームなどを含んだコースでキャラクターの違いを確認し、公道ではGR SPORTのインプレッションを行なった。公道以外はすべてCVT仕様。天気もよかったので電動トップはもちろんオープンだ。

クローズドコースでの運動性能の違い

 クローズドコースではサスペンションやボディの違いを確認することになる。というのは、ノーマル仕様ではSHOWAのショックアブソーバーが使われているが、ローブ Sには前述のようにビルシュタインを中心としたサスペンションが、そしてGR SPORTにはKYB製のショックアブソーバーが設定されている。

 また、ボディ剛性の点でもGR SPORTは大きく異なる。まず、フロント下部にある横バーからコペンのボディ剛性で大きな役割を持つXブレースをつないだ専用フロントブレース、そしてボディ後半部に入った剛性パーツをつなぐセンターブレースで前後剛性を上げている。

ローブ

 はじめにノーマルのローブで走る。ベース車両だけにバランスがよく、路面からの突き上げもソツなくいなされている。スラロームではスポーツカーらしく操舵量も少ないが、速い操舵を行なうと追従しきれないこともある。それでも操舵とロールのバランスなどはよく取れていると感じた。

 一方、ビルシュタインのローブ Sは路面の凹凸に正直に反応して、荒れた路面では衝撃が強い。その代わりスラロームなどの速い転舵でも応答性がシャープでロールも少ない。ハイスピードのレーンチェンジもハンドルの切り返し時の収束が早く、安定性は高い。言ってみれば、高速でのハンドリングにフォーカスしたのがS仕様だと思う。

ローブ S

 そして注目のGR SPORTだ。大きな段差を通過する際も硬さはあるものの、しなやかで上下動も適度に収束する。Sの反応が鋭いのに比べて、GR SPORTはマイルドだ。

 スラロームでの操舵の反応はSほどシャープではないが、クルマを操る一体感が向上している。ロールもガッチリと抑えるものではなく適度なロールを許容する。サスペンションのチューニングだけでなく、ボディの前後剛性が上がっていることで、ハンドルを切ってからリアタイヤのコーナリングパワーの立ち上がりが早いのは素晴らしい。ドライバーの意思に沿った素直なハンドリングを持っている。

GR SPORT

 スプリングはSよりもバネレートが下げられており、それに合わせて複筒式ショックアブソーバーの減衰力も設定されている。そのバランスは巧みだ。高速でのレーンチェンジでもSほど機敏ではないが、ロール特性に優れているので安心感が高い。

 この領域では空力効果も大きいと言われており、床下のゴムのスパッツや空力効果が高いバンパー形状、そしてフロントグリルから入った空気をフロントフェンダーへと吐き出す形状で接地感も上がったとされる。確かにハンドルを切った時の自然な感触はチューニングされた電動パワーステアリング(EPS)の恩恵だけではなさそうだ。

一般道での印象は?

 ここでGR SPORTの実力の一端を実感しに公道に出る。短時間だが、高速道路と気持ちよい郊外道路を走った。

 少し重めのクラッチに5速MTは心地よく、ポンポンとシフトアップしていく感触は気分がスッキリする。小さなターボエンジンはよく回り、中速回転以上のトルクもあってコペンのキャラクターをよく表している。空力パーツの効果によると思われる高速道路での直進安定性は高く、リラックスしてドライブでき、過敏な動きは丁寧に抑えられている。

 オープンにした状態では、一般道にある舗装が荒れたような路面ではボディがワナワナする感触が多少残っているものの、オープン2シーターの快適さを妨げるものではない。乗り心地でいえば、低速から高速まで一定のリズムでドライブできるので疲労感が少なくなる。

 コペンにはローブ、ローブ S、GR SPORTという3種類のスペック、ローブ、エクスプレイ、セロ、GR SPORTという4種類のデザインがあり、それぞれ個性を楽しめる。GR SPORTは、その中でも快適なドライビングと乗り心地をバランスさせた一体感を重視した設定に仕上がっている。今後のGR SPORTの方向をコペンで体現していることを感じた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛