インプレッション

ダイハツ「コペン」

凝った造形のスタイリング

 過日のプロトタイプの試乗に続いて、ナンバーが付いた2代目コペンの生産車をついにドライブすることができた。6月に発売された「ローブ」と名付けられたモデルが用意されており、ステージは箱根ターンパイク。オープンカーだけに、梅雨の合間で快晴に恵まれたのは幸運だった。

 プロトタイプはカモフラージュされていたので、ナマの姿を見るのはこれが初めて。シンプルだった初代とはガラリと変わったスタイリングで、ディテールまで凝った造形となっていることは、写真でも十分に伝わることと思う。ボディー各部の面の構成や、ランプ類のデザイン、トランクフード後端の形状などもなかなか特徴的だ。全8色が用意されたボディーカラーにも、これはよいなと感じさせられたものがいくつもある。

ルーフオープン時
ルーフクローズ時

 特徴的なエクステリアに対して、インテリアは比較的シンプルなデザイン。センタークラスターのシングルフレームに機能が集約されている。また、撮影車両ではカーボン調パネルが装着されていたインパネガーニッシュなどが、購入後にも好みで変更できるようになっている。

 そんな感じで、既報のとおり内外装を着せ替えができるのが2代目コペンの特徴。今回はその「DRESS-FORMATION(ドレスフォーメーション)」に関しては説明のみだったが、この先、実際にどんなことができるようになるのかとても楽しみだ。

5速MT車のインパネ
革巻ステアリングを全車標準装備
自発光式3眼メーターはエンジン始動時に指針がスイングする「オープニング機能」を備える

 シートに収まると、側面衝突への対応もあってのことだろうが、ベルトラインがけっこう高めであると感じる。コペンを象徴する電動開閉式ルーフ「アクティブトップ」は、基本的に初代の機構を踏襲しているという。

 初代が出た当時は、軽自動車のコペンにこうした機構が採用されたことが話題となったものだが、今や世にあるオープンカーの多くがフルオートの開閉機構を持つようになった。コペンの場合はフルオートでなくても、このぐらいコンパクトならフロントウインドーの左右上端にあるロックまで手が届きやすいので、手動で操作するのも苦にならない。

「アクティブトップ」はパーキングブレーキ右脇に設置されている開閉スイッチを使い、約20秒でオープン&クローズが完了する

高価なスポーツカーにも負けないドライビングプレジャー

 快晴の空のもと、さっそくオープンにして走り出したが、その瞬間から楽しい! オシャレでコンパクトな2人乗りオープンカーというだけでも、すでに十分に楽しいクルマなのだが、2代目コペンは走りそのものでも魅せてくれる。

 まさしく“意のまま”に動いて、ステアリングを操作したとおりに応答遅れなく曲がる。小さくて軽いことに加えて、この走りの一体感が最高に心地よい。また、軽自動車としては高性能なタイヤを履く足まわりがしなやかに路面を捉えて、狙ったラインを忠実にトレースしていく。

 テールハッピーだった初代からすると格段の進化で、2代目もオーバーステアの傾向は見受けられるものの、リアがよく粘って、このクルマがFF車であることを忘れさせる。乗り心地も快適で、初代のような硬さは感じない。オープンカーにありがちな微振動もなく、洗練された走りを身に着けているところもよい。

 これには、骨格のみで高い剛性を確保したという「D-Frame(ディーフレーム)」を土台に、軽量な樹脂パネルを車体の外側に配したことでヨー慣性モーメントが小さくなること、4気筒から3気筒としたことでエンジン単体の重量が30kgも軽くなったことなどが効いているようだ。

 ボディーサイズが小さいというだけの話で、ドライビングプレジャーの大きさはもっと高価なスポーツカーにもけっして負けていない。操る楽しさに価格や大きさは関係ない。とにかくドライブしていて楽しいのだ。

 欲をいうと、もう少し操舵に対する正確性があればなおよいところだが、あまり鋭敏だと乗りにくい部分も出てくるだろうし、直進性との兼ね合いを考えると、ひとまずはこのくらいがよい落としどころだろう。

 乗り心地についても、むろん上を見ればきりがない。もっと快適性重視にもできただろうが、操安性とのバランス考えると、標準状態としてはこれぐらいがちょうどよいと思う。ゆくゆくは着せ替えできる内外装のように、ドライブフィールも手軽に好みの仕様を選べてもよいかもしれない。

ブリヂストンのポテンザ RE050Aを4輪に装着。タイヤサイズは165/50 R16 75V

CVTとMTでのドライブフィールの差は?

KF型の直列3気筒 DOHC 0.66リッターのインタークーラーターボエンジンは、最高出力は47kW(64PS)/6400rpm、最大トルクは92Nm(9.4kgm)/3200rpmを発生

 DVVT(連続可変バルブタイミング機構)付き直列3気筒ターボエンジンには、7速モード付きのCVTと5速MTが組み合わされている。価格が異なりCVT車が179万8200円、5速MT車が181万9800円と5速MTのほうがやや価格が高くなっているが、これは生産台数の事情によるものらしい。ご参考まで、発売直後の受注状況によると、予想に反してCVTの販売比率のほうがだいぶ高いという。これには初代ではATが4速だったところ、2代目はCVTで7速モードを持つことも影響しているものと考えられる。

 実際、7速スーパーアクティブシフトのCVTのほうも、ドライバビリティは十分に確保されている。3つのモード選択により走りは大きく変わり、スポーティな走りにも応えてくれる。標準のDモードでは、25.5km/LというJC08モード燃費を達成した、まさしくそのマップなのだが、燃費に配慮しながらも走りが犠牲にされた印象はなく、あまりストレスは感じない。

 セレクターを右側に倒すとSモードとなり、有段自動変速に切り替わる。ギヤ比がクロスしているところが好印象で、そのままでもイージードライブのままでスポーティな走りを楽しめる。さらに、そこから前後の「+」「-」にセレクターを動かすと、レスポンスのよいマニュアルシフトチェンジを楽しむことができる。シフトダウン時にはブリッピングも行う。これなら、走りを求める人でも十分に満足できることと思う。

 加速感は低回転から十分に力強く、そして乗りやすい。サウンドがいかにも3気筒らしいものであることは、4気筒が好みの筆者にとっては少々残念なのだが、かなり努力したことをうかがわせるスポーティな音質を実現している。

 一方のMTはシフトフィールも上々で、走りのダイレクト感においても、やはりMTならではという強みがある。CVTではどうしてもアクセルを踏んでから加速するまでにタイムラグが生じるのに対し、MTは踏んだ瞬間にレスポンスする。そして高回転域では、7500rpmからがレッドゾーンのところ、CVTは7000rpmあたりで頭打ちとなるが、MTはさらに上まで回る。

1速と2速にダブルコーンシンクロを設定し、ケーブル式シフトを採用する5速MT
シフトダウン時にブリッピング制御も行われる7速スーパーアクティブシフト付きのCVT
ベージュ色のフルファブリックスポーツシートを標準装備。シートやダッシュボードが黒に変更される「ブラックインテリアパック(3万2400円高)」も用意されている

 ここまでほかの部分がよくできていると、軽自動車とはいえ思わず6速のMTを期待したくなるところだ。ギヤ比としては、やはり2~4速がもう少しクロスしているとありがたいのだが、ひとまずはMTの設定があることを喜ぶことにしよう。

 なお、CVTとMTでは、車検証の記載でMTのほうが前軸重が20㎏軽い。足まわりとのマッチングはCVTのほうが微妙に上であるように感じた半面、MTの鼻先の軽さもまた魅力的で、操る楽しさという観点では、前述のエンジンに関する部分も含めてトータルではMTのほうがより走りを楽しむことができそうだ。

 そんな2代目コペンに触れて、とにかく楽しいクルマだと実感したことを最後にあらためて念を押しておこう。こんなクルマが身近にあると、本当に楽しいカーライフが送れるだろうし、さらには「DRESS-FORMATION」や営業活動に関する新しい取り組み「ラブ・ローカルbyコペン」の話を聞くにつけ、このクルマは時間が経っても飽きることがなさそうな気がしている。なにやら、これまでになかった期待させるものを、いろいろと持っているのが2代目コペンである。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛