インプレッション
プジョー「308」「308SW」(本国仕様)
Text by 河村康彦(2014/6/25 00:00)
自社開発の新ガソリンエンジン
プジョーの最新モデル「308」に本国フランスで乗ってきた。「え? 308って前からあるでしょ」と言うなかれ。ここに紹介するのは、デビューして間もない“第2世代”の308だ。
プジョーでは、古くから使われてきた真ん中に「0」を挟む3桁数字のネーミングに関する決まりごとをこのほど変更。「モデルチェンジを行っても、末尾は8のままに固定する」という新しいルールが適用された第1号となったのが、この新型308なのだ。
昨今では一般的になりつつある排気量ダウンやシリンダー数の削減に留まらず、従来型に対してボディーそのもののサイズダウンまでも敢行。「このセグメントで最小」と、多くのライバルとは逆にむしろ小さいことをアピールするのが5ドアハッチバック。一方、それをベースに主にリアのオーバーハング部分を延長し、最強のライバルと目されるフォルクスワーゲン「ゴルフ・ヴァリアント」をも凌ぐラゲッジスペースの容量を誇るのが、ワゴンバージョンのSWだ。
そんな2タイプのボディーで構成される新型308のデビューと同時にローンチをされたのが、最高出力130PSのパワーを発する直列3気筒1.2リッター直噴ターボエンジン。すでにフォルクスワーゲンには、「ゴルフ」や「ポロ」、「ビートル」に1.2リッターエンジン車が存在するから、排気量そのものに驚きはないかも知れない。しかし、それが3気筒で、かつフォルクスワーゲンユニットよりも遥かに大きな最高出力と最大トルクを発生すると耳にすれば、「プジョーもなかなかやるじゃない」と感心する人は多いのではないだろうか。しかし実は個人的には、この期に及んでPSA(プジョー・シトロエン)グループが、新世代のガソリンエンジンを自ら開発したという点にこそ、より大きな興味をそそられた。
欧州といえば、乗用車でもガソリン以上にディーゼルモデルの人気が高いマーケット。しかも、フランスのブランドはドイツ車のように、ガソリンモデルがメインとなるアメリカに販売網を持たないことから、欧州車の中にあっても特に“ディーゼル偏重”のスタンスが強い傾向が見受けられていた。
だからこそ、プジョー(やシトロエン)では“地元”でメインとなるディーゼルエンジンは自社開発を行う一方で、日本などに輸出されるガソリンモデルに積まれる心臓は、BMWと共同開発したユニットで賄う、というのがこれまでの戦略であったはず。それが新世代ガソリンエンジンはBMWと決別しての自社開発! しかも、あまつさえ「1.2リッターで3気筒の直噴ターボ」と、世界のダウンサイズエンジンの中でも最先端のスペックを並べるに至ったのだから、これはちょっとした驚きなのである。
果たして、今からアメリカ市場に参入するわけでもなさそうなのに、何故に突然ガソリンエンジンに熱心になったのか……と想像を膨らませると、どうやらそこではディーゼル車の排ガス規制が時とともに厳しさを増し、その対応を重ねて行くと燃費面でも価格面でも、段々とガソリンユニットとの差を付けづらくなっているのではないか? と、そんな仮定論が浮かぶことになる。
いずれにしても、これまでガソリン一辺倒だった日本では最近ディーゼルが注目を浴びつつあり、ディーゼルに人気が偏っていた欧州ではガソリンに復権の兆しありと、そんな“逆転現象”が起きつつある何とも面白い時代なのである。
そうは言っても、そうしたお家の事情で生み出された新しい心臓の出来栄えがライバルに見劣りをするようでは、せっかくの「これからはガソリンエンジンにも力を入れる」というシナリオも説得力に欠けてしまうというもの。と、ちょっとイジワルなそうした思いを抱きつつ新しい308でスタートすると、これがビックリするくらいによく走るモデルへと仕上げられていた。
文句ナシにスポーティなハッチバック
国際試乗会に準備されたのは、そんな新ガソリンエンジン+6速MT仕様。実は、日本への導入が予想されるのは6速ATとの組み合わせだが、残念ながらその用意はまだ間に合っていなかった。こうして、エンジンが生み出した出力をより効率よく伝達するMT仕様でのドライブになった点は、考慮をする必要があるはず。が、「それにしても思いのほかに元気がよい」というのが、実際の走りの第一印象となった。
フォルクスワーゲン製ユニットの105PSというデータを大きく上回る最高出力もさることながら、やはりフォルクスワーゲン製ユニットを圧倒する230Nmという最大トルクをわずかに1750rpmで得られるというカタログ値がそのまま納得の、低回転域でのトルク感がまず凄い。1200-1300rpmほどでユルユルと走っていても、そこからアクセルペダルを踏み足した途端に、まるで「ディーゼルエンジン以上にディーゼルエンジンの如く」太いトルクが瞬時に湧き上がる感覚は、単に力強いというだけでなく何とも新鮮だ。
さらに、そうした印象には車両重量そのものが、従来型に対して大幅に軽くなったという点も貢献をしているに違いない。「EMP2」と称される新世代骨格の採用や各部材の見直し、組み立て工程のリファインなどにより、新型308はハッチバックもSWも従来型比で140kgの軽量化を謳う。結果、ハッチバックの車両重量は1090kg。これはライバル各車と比較をしても、「際立つ軽さ」と表現をしても過言ではないデータなのだ。
繰り返しになるが、新型308の走りは「1.2リッターという小排気量から受けるイメージを覆す元気のよさ」に仕上がっていた。さすがに、100kgほどが上乗せされるSWではその動きはややマイルドになるものの、前述1t少々の重量に留められたハッチバックでは、文句ナシにスポーティという言葉が使える実力だ。
と同時に、そんな新エンジンが発するフィーリングそのものも、なかなかに見どころあるものであったことを付け加えたい。「3気筒ユニット」と聞けば、多くの人は音と振動が心配になるはず。けれどもエンジン音も含め、新型308はこのクラスでも総じて静粛性が高いのだ。
レッドラインは6000rpmという設定で、その付近まで抵抗なく引っ張ることができる一方で、さすがにそうした高回転域では4気筒ユニットとは異なる音質が耳には届く。それでもボリュームが特に大きいわけではないし、振動面でも特別な不利は感じない。すなわち「音と振動面で既存の4気筒ユニットに大きく見劣りしない」と評せるのが、このモデルでもあるということだ。
一方、エンジンフィーリング面で唯一気になったのは回転落ちの鈍さ。前述レッドラインまで引っ張っての素早いアップシフトでは、バトンタッチされる次のギアに相応しい回転数まで落ちきれない場面にも遭遇したし、当然エンジンブレーキの効き具合も少々甘い。ATとの組み合わせになればそうした違和感は薄まり、「減速が必要ならばブレーキを踏め」というのが今の時代なのかも知れない。
が、アクセル操作に伴うピックアップとともに回転落ちのよさもというのも、フィーリング上はやはり無視はできないはずだ。もっとも、昨今同様の印象を味わわされる最新エンジンは実は少なくない。フリクションを減らし、効率を高めれば自ずからそうした傾向になってしまうということなのだろうか。
見どころはエンジンのみならず
ところで、そんな新型308シリーズの走りで見どころとなるのは、何も動力性能面に限らない。しなやかに、ヒタヒタと路面をとらえるフットワークも、なかなか非凡な仕上がりだ。
今回テストドライブしたモデルは、ハッチバックが225/40の18インチ、SWが225/45の17インチと、装着シューズのサイズに違いがあった。しかし、前述のようなフットワークテイストは、基本的にはいずれにも共通。その上で、ハンドリングの機敏さという点では、やはりより身軽なハッチバックに軍配が上がる。SWもハンドリングの自然さという点では文句は付けられない。
同時に、フル電動アシスト式のパワーステアリングがもたらすフィーリングも、自然でありながら路面とのコンタクト感をしっかり伝えるという“いい味”が演じられていた。すなわち、運動性能全般に対してなかなか高い得点を与えることができるのが、新型308シリーズであるわけだ。
一方、そんな第2世代の308ではゴルフを意識したのか、と思えるやや保守的なエクステリアデザインに対して、「ちょっとやり過ぎで独善に過ぎる」とも思えるインテリアの機能性に、疑問が残ることになった。
例えば、(208譲りの)小さく低いステアリングホイールの上側を通して、高い位置にあるメーターを読み取るというレイアウトは、理想のドライビングポジションをとろうとするとやはり違和感が残るし、スイッチ類の数を削減したいという思いは理解ができるもの、すべての空調スイッチまでをセンターディスプレイ内のアイコンに置き換えたのは、操作性を大きく低下させる結果を招いている、といった具合。
かくして、個人的にはやはりその新世代ガソリンエンジンの出来栄えにこそ“やられた”のが新型308というモデル。久々の自社開発というガソリンエンジンを、一挙にここまでの高いレベルで仕上げることができたのは、もしかすると長らくディーゼルエンジンの開発に携わったことで蓄積を続けてきた、“優れた直噴技術”の賜物であるのかも知れない。