試乗インプレッション

ダイハツ&トヨタ「コペン GR SPORT」、しなやかさを極めることでスポーツを表現

「S」グレードとは見た目も走りも異なる

“思い通りに操ることのできる気持ちのいい走り”を追求

 2代目となる現行「コペン」の登場から5年の節目を迎えるにあたり、2018年末に200台限定でクーペを販売したほか、2019年1月の東京オートサロンではかねてからウワサのあったGRモデルのコンセプトカーを披露し、それを10月にはいよいよ市販するなど、いくつか新しい動きがあったばかり。それもあって、2019年の累計販売台数はコペンが11月末時点で前年比2割超増の3646台となっており、おそらく前年比微減で同2725台のライバル「S660」を年間の販売台数においても大きくしのぐことは確実とみられる。

「GR」というのは、親会社であるトヨタ自動車の「GAZOO Racing」がモータースポーツ参戦で培った技術を駆使したスポーツカーブランドであるのはご存知のとおり。にもかかわらず、グループ会社とはいえダイハツ色の強いコペンに「GR」の名の付くモデルが設定されたことには少々驚いたものだ。

 その背景には、ダイハツの関係者によると、他メーカーは操る楽しさを訴求するクルマを市場投入できているのに対し、ダイハツにはせっかくコペンがあるのに、走りやスポーツのイメージが弱く、ファンからも期待の声が高まっていたことがまず挙げられる。また、コペンにはスポーティな「S」グレードもあるわけだが、もっと違った“スポーツ”の解釈もあるのではないかという思いがずっとあったという。

 そこで、しなやかさを極めることでもスポーツを表現できるはずだと考えた開発陣は、しなやかでなおかつ“思い通りに操ることのできる気持ちのいい走り”を追求した車両を先行開発していた。そんな中で、ちょうどトヨタのGRとの人材交流があり、件の開発車両を乗り合わせたところ、くしくも目指す方向性が共通していたことからGRの一員として位置付けられる運びとなった。

GRの一員らしいルックス

 そうした経緯もあって、今回の「コペン GR SPORT」のスタイリングはパッと見でGRと分かることが最優先された印象を受ける。GRのブランドアイコンである「Functional MATRIX」グリルを備えたフロントフェイスや、ブラックのテールランプをブラックのラインでつないで水平基調の構成とワイド&ローイメージを強調したリアビューなど、最量販グレードの「Cero」に象徴されるコペンの愛らしい雰囲気とはずいぶん違った、スポーティさを全面に押し出したルックスは一見するとコペンとは思えないほど精悍に見える。ディフューザー形状のリアバンパーや床下スパッツにより下面の風の流れが整流されることで、直進安定性や接地性が向上するという。デザインだけでなく機能性も兼ね備えている。

ダイハツ本社 池田工場のCopen Factoryで生産が行なわれる「コペン GR SPORT」。TOYOTA GAZOO Racingがモータースポーツ活動で培ったノウハウを活かしつつ、ダイハツが開発を進めたモデルで、価格は7速CVT車が238万円、5速MT車が243万5000円。ボディサイズは3395×1475×1280mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2230mm
エクステリアではGRシリーズの一部モデルで採用する「Functional MATRIX」グリルを採用したほか、フロント/リアともにブラックアウト化したランプをブラックラインでつないだ水平基調の構成を強調するデザインに。足下は専用のBBS製鍛造16インチアルミホイールにブリヂストン「POTENZA RE050A」(165/50R16)の組み合わせ
コペン GR SPORTではスプリングやショックアブソーバーを最適化するなどサスペンションを刷新。赤いスプリングがスポーティ

 コクピットも各部にピアノブラック調の加飾のほか、専用デザインのMOMO製革巻ステアリングホイールやスエード調の表皮としたレカロシートなど、いくつものGR SPORT専用のアイテムが与えられている。

インテリアではGR SPORT専用のレカロシートやMOMO製革巻ステアリングホイールをはじめ、ピアノブラック調加飾ドアグリップ/センタークラスター、GRロゴ付カードキーなどを装備

 コペンというのは、もともとトップが電動で開閉できるので手軽にオープンエアドライブが楽しめるのはもちろん、意外とトランクが広かったり、全高が1280mmと低く乗降性はそれなりでも乗り込んでしまえばあまり狭さを感じなかったりと、2シーターオープンスポーツとしてはかなり使い勝手がよいとかねてより思っていた。

 そこにレカロ、MOMO、ビルシュタインを与えた「S」グレードは、スポーティな走りを分かりやすく表現していたが、日常的に使うにはやや乗り心地がハードな気もしていた。その点でGR SPORTは、同じく「スポーツ」を標榜しながら見た目も走りも性格は大きく異なる。

しなやかさを極めたスポーツとは

 コペン GR SPORTが追求した「しなかやかさを極めたスポーツ」と呼ぶべき走りがどのようなものであるかは、すでにクローズドコースでも味見していたが、初めて公道でドライブして、よりそれを実感することができた。

 乗り心地は本当に快適で、「S」グレードのハードな走りとは対照的であるのはもちろん、スタンダードモデルと比べてもこちらの方が快適に感じられたほど。よく動く足まわりが路面の凹凸を巧みに受け流し、高速巡行時には空力アイテムも効いてフラットな姿勢を保つ。車速が高まるほどにグリップ感が高まっていくのは、それだけ空力性能が高いからにほかならない。

 さらには、しなやかな乗り心地とともに、ステアリングの応答性も向上していて、切り始めから遅れることなく応答し、正確に狙ったラインをトレースしていけるハンドリングも気持ちがよい。これには巧みなチューニングのサスペンションや空力アイテムに加えて、ブレース類の追加によりフロア剛性が引き上げられたことも効いているに違いない。

 最高出力64PS、最大トルク92Nmを発生する直列3気筒DOHC 0.66リッターターボエンジンと軽量な車体との組み合わせにより、動力性能も十分。デュアルエキゾーストが放つ3気筒らしいビート感のあるサウンドもわるくない。マニュアルシフトでスポーティに走るのもよいが、2ペダルでGR SPORTの上質なドライブフィールをイージーに味わうというのも大いにありだ。

直列3気筒DOHC 0.66リッターエンジンは最高出力47kW(64PS)/6400rpm、最大トルク92Nm(9.4kfgm)/3200rpmを発生。今回の試乗車(CVT車)のWLTCモード燃費は19.2km/L(5速MT車は18.6km/L)

 こんなコペンの登場を待っていた人も少なくないことだろう。さらには、お伝えしたような高い付加価値が与えられていながらも、ベース車のプラス約30万円にすぎない価格設定にも驚く。欲をいうと、この走りに空力アイテムが効いていることは重々承知しているし、このルックスは個人的には気に入っているが、より裾野を拡げるべく、実はかなり多いという年齢の高いユーザーをさらに取り込めるよう、この乗り味のままもう少し控えめなスタイルという仕様があるとなおよい気もしてきたのだが、いかがだろう……?

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一