試乗インプレッション

1000km走って分かった、日産スカイラインの運転支援技術「プロパイロット2.0」の実力

ハンズオフ走行は来る自律自動運転社会に向けた「予行演習」

東京~福島間の往復約1000kmを走行してプロパイロット2.0を体験

 2019年7月、大幅なマイナーチェンジを行なった「スカイライン」に運転支援技術「ProPILOT(プロパイロット)2.0」が搭載された。プロパイロット2.0はその先進性が高く評価され、2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤーではイノベーション部門賞を獲得(受賞理由はこちら)している。

 ところで、スカイラインと先進技術は昔から親和性が高い。1980年には「セドリック/グロリア」に次いでターボエンジン「L20ET」型が搭載され、1981年には現在のカーナビゲーションシステムの前身ともいえる地磁気式ナビゲーション機構「ドライブガイドシステム」が搭載された。

 プロパイロット2.0は先進性だけでなく、今後の自律自動運転社会に向けた大きな社会的意義があると筆者は考えている。ドライバーにもたらされる精度の高い運転支援技術によって、来る自律自動運転社会に向けた「予行演習」が行なえるからだ。

 今回はプロパイロット2.0の基本性能を探るべく、スカイラインに1027.4km試乗。このうち自動車専用道路と高速道路は700km以上に及んだ。本稿では、そこで得られたプロパイロット2.0の素性と将来性、そして浮き彫りになった法的な課題についてCar Watchでは動画を含めてレポートしたい。

プロパイロット2.0を体験しに福島へ

 試乗のスタート地点は都内近郊。プロパイロット2.0の「ナビ連動ルート」を行なうため、目的地を約300km先の福島県喜多方市周辺に設定し、朝の渋滞がまだ残る首都高速道路に入った。まずはプロパイロット2.0を起動させず、クルマ本来の乗り味を再確認するため手動運転でしばらく走行。改めてダイレクトアダプティブステアリング特有の操舵感覚に身を委ねてみた。

 2013年に登場した現行型スカイラインが量産車として世界で初めて採用したダイレクトアダプティブステアリング(第1世代)は、2017年のマイナーチェンジで第2世代に進化。世界中から注目された先進技術だったが、やはり制御が非常に難しく、第1世代ではドライバーが行なうステアリング操作に対して初期から過敏に反応する傾向が見られた。

 それが第2世代になると過敏な反応が劇的に減少し、大幅にクルマとの一体感が高まった。具体的には、じんわりとステアリングを切る/戻すといった日常走行時のありふれた運転操作から、ステアリングとタイヤが直接ギヤでつながっている(普段はつながっておらず、緊急時にクラッチを結合して物理的につながる)かのような自然な感覚が得られ、さらに路面状況をステアリングからドライバーへとフィードバックする絶対量も増えているから、より安心できる。同時に、雪道など滑りやすい路面でも正確な操舵ができるようになった。

 ドライバーの印象を左右するのは操舵フィールだが、ここは第1世代から設定画面によってアシスト量を変化させることで対処が可能で、筆者は重めの操舵感覚となる“スポーツ”を選択していた。しかし、第2世代では設定を変更する必要性すら感じられず、工場出荷の標準状態のままで十分に感覚と合致する。この心地よさを例えるなら、ボール&ナット・ステアリング形式の美点である中立付近の適度な緩さと、先進技術によるビシッと優れた直進安定性による二律背反的な共演だ。これこそ現代版スカイラインならではの乗り味。

2019年9月に大幅改良が行なわれた日産自動車「スカイライン」。このうち、ハイブリッドモデルには先進運転支援技術「プロパイロット 2.0」を採用しており、「HDマップ」「360度センシング」「インテリジェントインターフェース」の3つの新技術などで高速道路における同一車線内でのハンズオフ機能を実現。試乗車は2WD(FR)の「GT Type SP」(616万円)で、ボディサイズは4810×1820×1440mm、ホイールベースは2850mm
ハイブリッドモデルはV型6気筒DOHC 3.5リッター「VQ35HR」型エンジンを搭載し、最高出力は225kW(306PS)/6800rpm、最大トルクは350Nm(35.7kgfm)/5000rpmを発生。これに最高出力50kW(68PS)、最大トルク290Nm(29.6kgfm)の「HM34」型モーターを組み合わせる。足下は19インチホイールにダンロップ「SP SPORT MAXX 050 DSST CTT」(245/40RF19)の組み合わせ
明るく開放感のあるベージュ内装

 動力性能はどうか? スカイラインが搭載する1モーター2クラッチ方式のハイブリッドシステムについてはこちらで詳細をレポートしているが、地道な改良の積み重ねにより頻繁、かつ微妙な加減速が求められる渋滞路でもギクシャクすることなくスムーズな走行が行なえる。総じて、車格相応のどっしりとした運転感覚だ。

 外環(東京外かく環状道路)を経由して東北自動車道に入り、プロパイロットによるアシスト走行で目的地を目指す。ここからは、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)+LKS(レーンキープサポート)の両機能が働いている状態を便宜上、プロパイロット1.0(メーター中央部のADAS表示は主に緑色)と称し、ナビ連動ルート走行や状況によりハンズオフ走行が機能する状態をプロパイロット2.0(同、青色)として紹介していく。

ステアリング右側にあるブルーのボタンがプロパイロットスイッチ
メーターのカラーについて、プロパイロット1.0の状態では緑色、プロパイロット2.0の状態では青色となる

 SAEでレベル2に分類されるプロパイロット1.0は、前走車の追従機能であるACCと車線中央維持をサポートするLKSを組み合わせた運転支援技術。そして、スカイラインが搭載するプロパイロット2.0も同じくレベル2だ。しかしながらプロパイロット2.0では、1.0のシステム構成に加えてダイレクトアダプティブステアリングによる正確な操舵と、プロパイロット2.0の要素技術である3D高精度地図データ(3Dマップ)を用いた自車位置把握、さらにそれに伴う操舵支援によって一般的なレベル2搭載車を格段に上まわる車線トレース性能を誇る。これは直線だけでなくカーブでも同様だ。

 プロパイロット2.0では、ミリ波レーダー、光学式3眼カメラ、3Dマップなどによるセンサーフュージョン方式を採用する。だからシステムの冗長性も高い。「自車位置把握についてはとくに精度が高く、前後方向1m、左右方向では5cm単位」(日産自動車 AD/ADAS先行技術開発部 部長の飯島徹也氏)と豪語するだけのことはある。しかし繰り返すが、プロパイロット2.0もレベル2の運転支援技術。よって、ドライバーが運転操作の責任をすべて負うことが求められる。

 条件が整い、いよいよプロパイロット2.0での運転支援走行を行なう。プロパイロット2.0では3Dマップなどを活用し、ナビルートと連動した前走車の追い越し支援、分岐支援が提供される。さらに道路や運転状況など決められた条件が整うと、車線変更支援やステアリングから手が放せるほどの高い精度で車線維持機能を働かせることも可能だ。

プロパイロット2.0から手放し運転(26秒)

 追い越し支援とは、ナビ連動ルート走行中、同一車線上に自車設定速度よりも遅い車両がいる場合に追い越しにまつわる運転操作の支援をしてくれる機能。まず、追い越し可能な状況になるとシステムがドライバーにディスプレイ表示で“追い越し可能であること”が知らされる。このとき、ドライバーがステアリングに手を添えてスイッチ操作を行なうとウィンカーが点滅し、自車周囲の安全を車載センサーにより確認した上で自動車線変更が行なわれるのだ。そして、追い越しが終わると安全な車間距離が保たれた時点で同じくドライバーに報知され、同様の操作を行なうことで元の車線に戻ることができる。

 ちなみに、この追い越し支援は自動車基準調和世界フォーラムWP29/GRRFにおけるシステムの判断をドライバーが承認して行なう自動車線変更で、カテゴリーD(前述の車線変更支援は1段下のカテゴリーC)に属している。

追い越し可能な状況で自車設定速度よりも遅い車両がいると、システムがドライバーに車線変更の提案を行なう
追い越し支援のようす(2分7秒)

 プロパイロット2.0の作動条件は走行場所、車線の正しい認識、前走車など周辺の交通状況の把握、ドライバーモニターカメラでドライバーが正対して運転操作を行なっていることなど多岐に渡る。ステアリング右側に配置された青色の「プロパイロットボタン」と「SETボタン」をそれぞれ押すことでプロパイロット2.0を起動させるわけだが、起動直後はそうした作動条件をシステム側が判断するために多少の時間がかかる。よって、起動直後は緑色が基調のメーター表示となる“プロパイロット1.0状態”の運転支援が提供される。その後、作動条件が満たされたことをシステムが判断すると青色基調のプロパイロット2.0へと遷移する。

 驚きはプロパイロット1.0の状態でも、「セレナ」や「リーフ」のそれと比べるとスカイラインでは格段に精度の高い運転支援が行なわれることだ。これは前述したダイレクトアダプティブステアリングと3Dマップによるところも大きいが、大前提としてクルマ本来の「走る、曲がる、止まる」の各性能が2019年7月に行なわれた大幅マイナーチェンジで向上したことに大きな要因があると筆者には感じられた。路面から受ける外乱は、ダブルピストンショックアブソーバーを装備したサスペンションで柔軟にいなしつつ、その後、強固なボディがガシッと受け止める。だから進路への影響は最小限に留められるのだ。

プロパイロット1.0でも精度の高い運転支援が行なわれるのは、大幅改良により各性能が進化したからと推測される

 言い換えれば、車両姿勢を乱す要素の多くを入り口でシャットアウトしているから、直進安定性を高めるADAS(先進運転支援システム)「アクティブレーンコントロール」(70km/h以上で作動)や、ダイレクトアダプティブステアリングなどの先進技術が生きてくる。選りすぐりの食材を腕のいい料理人が調理するとさらに美味しくいただけるが、スカイラインの乗り味はじつにいい塩梅だ。

ハンズオフ走行は来る自律自動運転社会に向けた「予行演習」

 プロパイロット2.0の真骨頂は、一定の条件下で同一車線(=車線変更などを行なわない状態)での①ハンズオフ走行が可能であること。加えて、②追い越し支援、③車線変更の支援、④道路の分岐支援など複数の支援が受けられることにある。

 誰もが気になる①ハンズオフ走行について、筆者は多くの日産車にどんどん採用してもらいたいとの感想を抱いた。その理由は冒頭で述べた通り、来る自律自動運転社会に向けた「予行演習」が行なえるからだ。

 ただしそれには条件がある。日産が発信しているプレスリリースの文言にある、「直ちにハンドルを確実に操作できる状態にある限り」が何であるか明確に指し示され、この周知徹底が搭載車の販売促進とともに進められること。ここは強い論調になるが、周知の方法が不明瞭、もしくは不十分で間違った使い方が市場に蔓延するならば、むしろ採用すべきでないと考える。

 では、「直ちにハンドルを確実に~」とは具体的にどんなことでドライバーは何をすればいいのか? システムが部分的な運転操作を請け負うハンズフリー走行時、ドライバーには運転操作が正しく行なわれているかどうかを判断する監視義務が発生する。実際の交通状況で説明するとこうだ。

 たとえば、周囲の交通環境が安定して円滑な交通が行なわれている状況では、緊張感を伴うことなくリラックスした状態でドライバーは運転支援を受け続けられる。しかし、隣車線が渋滞していて速度差30km/h以上での側方通過が連続するような場所だと一転、ドキドキ・ハラハラの連続……。「急に車線変更してくるクルマはいないか」「もし割り込みがあったらブレーキ操作で間に合うか」など、可能な限り危険を遠ざける運転操作がドライバーに求められる。こうした高い次元での予測運転こそ、運転支援を受けるドライバーが行なう監視義務の実体だ。

運転中は可能な限り危険を遠ざける運転操作がドライバーに求められる

 監視義務が発生する理由を別の角度から考えてみると分かりやすい。高度なADASであっても、それぞれに設計段階から存在する物理的な限界点がある。プロパイロット2.0では3Dマップに始まり、24個のセンサー(光学式カメラ7個+ミリ波レーダー5個+超音波ソナー12個)から入力される情報以外からの交通状況把握は難しい。だからこそ、それ以外の状況把握にはドライバーの認知、判断、操作が不可欠だ。この状態を人が機械の苦手部分を補うことから「人と機械の協調運転」と筆者は表現している。また、この協調運転はこの先に市場導入が見込まれる、より高度な運転支援技術を受けるために必要な予行演習にほかならない。

 ②の追い越し支援の仕組みは前述の通り。車載の光学式カメラで読みとった道路標識の制限/規制速度±10km/hの範囲でACCの車速を設定して走行すると、前走車に近付いたタイミングでブレーキ制御が入って追従走行を行なうが、追い越し支援が介入すると前走車へと近付き追従を開始したタイミングで「前方に遅い車がいます。安全を確認してください。追い越しボタンで右に車線変更します」と、メーター表示でドライバーに提案が行なわれる。

 このとき、ドライバーが追い越しボタンを押す(=ドライバーによる追い越し承認を行なう)と、センサーによって自車周囲の安全が確認され、なおかつ3秒以上のウインカー点滅の後に前走車の追い越しを行なうため自動的に車線変更を開始する。ただし、車線変更時にはステアリングに手を添えていること(通常通り握っていてもよい)、ドライバーがよそ見をしていないことなどが条件だ。

 車線変更の操作はいたってスムーズ、というより超絶にうまい。ほとんど横Gを感じることなく車線変更が行なわれる。それもそのはず、この車線変更のステアリングさばきは現代の名工であり黄綬褒章も受賞した、日産のエキスパートである加藤博義氏の運転操作がベースになっているからだ。

 こうした素性のもと、将来は一歩進んだ360度カメラや路車間/車車間の各通信との連携によってGRRFの現時点における最終段階のカテゴリーE(連続的な自動操舵)が実現することが予想される。

 法的な課題は、やはり規制速度や法定速度との関係性にある。試乗中、何度も遭遇したのが100km/h走行が許されている場所で80km/h程度(実際には大型車の速度リミッターである90km/h程度か)で走行する大型トラックに対する追い越し支援だ。

 自車の設定速度が100km/hで大型トラックを追い越すとなると、実質的な相対速度は10km/h程度になるからゆっくりとした追い越しに。加えて、全長12mにもなる大型車の追い越しをするわけで完了するまでにかなりの時間がかかる。また、追い越し支援で追い越した車両との安全な車間距離が確認できると、再度、システムから元の車線に戻るための車線変更が提案されるのだが、一連の追い越しから元へ戻るための車線変更が完了するまでには速度差相応の距離を走ることになる。

 そもそも、この時点では追い越しを行なうために右車線(2車線であれば追い越し車線)に出ているわけだから、迫り来る後続車にも気を配る必要がある。プロパイロット2.0では、道路標識+10km/hを許容するため110km/hで追い抜きを行なえば計算上は相対速度20km/hでの追い越し支援が可能だ。しかし、道路運送車両法では速度計の誤差が一定の範囲で認められているものの、状況によっては速度超過の対象となる可能性も捨てきれない。

 加えて、条件が整えば法的に許されるハンズオフ走行ながら、筆者はそれが許される状況であってもステアリングに手を添えておくことを強く推奨する。監視義務があるとはいえ、やはりステアリングから手を放した状態で運転席に座り続けることには特有の慣れを必要とするからだ。筆者の推奨位置は画像の通り、右手でステアリングの右下を持つスタイル。これだと筆者の体感値でハンズブリー感は30%程度残るし、路面からの情報も適度に伝わる。そして、なによりとっさの運転操作再開がしやすいというメリットが得られる。

ハンズオフ走行が可能であってもステアリングに手を添えておくことを強く推奨したい

 同様にペダルを踏む足を置く位置にも気を配りたい。筆者は常々、ACCによる運転支援を受けている際はアクセルとブレーキ、両ペダルに足がスッと伸びて踏める位置に置くことを推奨している。画像のように、右足を両ペダルのほぼ中央位置から少し下げた状態でスタンバイさせる、そんなイメージだ。でも、せっかくハンズフリーやフットフリーが許される状況なのに、なぜこれまでの運転スタイルにこだわるのか? その理由は大きく2つ、“意識”と“姿勢”にある。

足を置く位置は、右足を両ペダルのほぼ中央位置から少し下げた状態でスタンバイさせるイメージ

 まず意識。手と足をリラックスさせた状態が続くと、多かれ少なかれ徐々に緊張感が遠のいていく。このとき、前走車が急ブレーキを踏んだり、自車側方の車両が自車に寄ってきたりするなど予期していない動きをとるとどうなるか(「プロパイロット2.0は、側方にいる車両に反応しません」と、取扱説明書やカタログにも明記されている)。本来であれば、すぐさまそれに反応して危険を回避しなければならない状況だが、リラックスした状態から意識がフワッと遠のいてしまっていると、とっさに運転操作を再開することが難しい。

 次に姿勢。手足が長らくリラックスしたままでいると、姿勢も徐々にルーズになっていく。一般的にステアリングを握ることで上半身は部分的に支えられているが、ハンズフリー走行ではリビングで椅子に腰掛けている状態に近くなり、腰の位置が前にずれたり、上半身がステアリングに対して斜めに傾いたりしていく。同時に、路面の状況把握はシートから伝えられる情報に限定され、加えて正しい運転姿勢から崩れていることから、こちらもとっさの運転操作再開に支障を来しかねない。

 プロパイロット2.0では、そうしたドライバーの状況を把握するために、例えばよそ見が続いているとドライバーモニターカメラによるモニタリングによって危険と判断され、警報ブザーやディスプレイ表示、さらには国土交通省による「ドライバー異常時対応システム」に準じた流れでブレーキ制御が介入し、最終的には完全停止まで行なわれる。

運転中によそ見が続くとメーターやヘッドアップディスプレイで警告が行なわれる

 筆者の提案はこうだ。プロパイロット2.0でハンズフリー走行状態が一定時間経過した際、ドライバーモニターカメラからの情報から意識レベルが低下していると判断された場合には、シートバックを危険が及ばない数cm程度、前や後ろに動かしてドライバーの覚醒状態を確認してはどうだろうか。また、何らかの理由で前走車へ接近し過ぎたなど危険な状態へと自ら近付いてしまった場合には、現状の衝突被害軽減ブレーキによる警報ブザーとディスプレイ表示に加えて、一次警報が介入する前にシートベルト巻き上げ機能を緩く作動させるなど体感警報を併用する手もある。

 ちなみに、プロパイロット2.0によるハンズフリー走行時にドライバーがアクセルを踏み込む(オーバーライド操作する)場合は、ステアリングに手を添えていることが条件として加えられている。一般的なACCではアクセル操作はいつでも受け入れられるが、プロパイロット2.0のハンズフリー走行時に手を放したままアクセルペダルを踏むと加速はせずに、ステアリングを握ることが赤いディスプレイ表示で促される。安全上の観点からはとても正しい判断だと考えるが、プロパイロット2.0を利用するドライバーへは確実な周知が求められる部分でもある。一方、ブレーキ操作はプロパイロット1.0や一般的なレベル2搭載車と同じでいつでも受け付けられ、同時にADAS機能は一発で解除されるので安心だ。

 ③車線変更の支援は、日本においてはテスラやメルセデス・ベンツの各モデルを皮切りに今や複数の車種に搭載されている。ドライバーが行なう任意のウィンカー操作をトリガーに、車載センサーで後側方の安全が確認されると道路交通法に則り、自動操舵による車線変更が行なわれる(これがGRRFのカテゴリーCに相当)。

 ④道路の分岐支援は、ルート走行中の分岐点や出口、さらには目的地途中の立ち寄り点として設定したSA(サービスエリア)やPA(パーキングエリア)に近付くと、②追い越し支援と同じくドライバーに車線変更が提案され、ステアリング右側の追い越しスイッチを1回押して承認し、ステアリングに手を添えると自動的に車線変更が行なわれる。ただ、あくまでも分岐や出口など車線変更の支援に留まり、その後は周囲の交通状況に合わせてドライバーが中心となって運転操作を行なう必要がある。実際、試乗中のルートでは分岐後、さらに分岐が続く場面があり、その際には警報ブザーとディスプレイ表示で、連続した分岐支援が行なえない旨が知らされた。

分岐支援を行なっている際のメーター表示

郊外路で使用できる高度な運転支援技術を開発中

 すでに公布されているように、2020年には高速道路や自動車専用道路における自動化レベル3の定義が織り込まれた改正道路交通法が施行される。そうした中、今回プロパイロット2.0を搭載したスカイラインに1000km以上試乗を行なったわけだが、限定的ながらハンズブリー走行を実現させ、ドライバーの承認を得た上での追い越し支援が行なわれるなど、1歩進んだ人と機械の協調運転が具現化された。これはとても喜ばしいことだ。一方で、0~5の6段階で定義される現状の自動化レベルについては、1段上の議論が行なわれる必要性も感じた。

 内閣府のSIP(戦略的イノベーションプログラム)において、自動運転社会の旗振り役となる「自動運転(システムとサービスの拡張)」では、技術の指標である自動化レベルに加えて、その技術が使用できる道路条件や環境などを示す“カテゴリー”という考え方をすでに採り入れている。

 いずれにしろ、将来目指すべき自動運転社会を見据えるにあたり、今われわれがすべきことは、次々に実用化されていく高度な運転支援技術を正しく使い、そこで学んだ使い方を継承していくことだ。搭載された技術のできること、できないことをドライバーが理解し、その範ちゅうで運転支援を受けつつ協調運転を繰り返していく。これにより身体的な疲労は軽減され、結果的に危険な運転状況を遠ざけることにもつながる。事故ゼロ社会への特効薬はないが、こうした地道な積み重ねは牛歩ながらも確実な前進だ。

 日産ではプロパイロット2.0からのさらなる進化版として、一般道である郊外路で使用できる高度な運転支援技術を開発中とのこと。今からその完成が待ち遠しいです。

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:高橋 学