試乗インプレッション
フォルクスワーゲン「ゴルフ TDI」の真価を体感。東京~仙台間をロングドライブ
燃費、ヨシ! フィーリング、ヨシ! 成熟した快適サルーン
2020年1月2日 09:00
“ゴルフ7”を締めくくるかのように登場してきた2.0リッターディーゼルターボのTDI。その実力を試すために宮城県仙台市までのロングドライブを行なった。とはいえ、単なるロングドライブではなく、今回のお題は媒体対抗燃費競争。燃費に優れるディーゼルでどこまでの数値が叩き出せるのかは興味深いところだ。だが、それだけで終わらず、復路は燃費を気にせずに試乗し、“ゴルフ7”の実力とTDIの本来の姿をじっくりと見てみたいと思う。
今回の燃費競争は、東京 品川のフォルクスワーゲン グループ ジャパンから仙台市内までの行程は自由とされ、他2媒体との勝負となった。勾配ができるだけ少ない道を選ぶと同時に、渋滞をできるだけ少なく走るという作戦も重要な課題となる。平日の都内は午前中から渋滞がひどく、どこを抜けたらいいかと頭を悩ますが、芝浦IC(インターチェンジ)から首都高速道路に入り、1号を終点の入谷ICまで走り、その後は一般道の国道4号を北上。そして、千住新橋ICから常磐自動車道を北上するルートを選択した。中央環状線の山手トンネルから東北自動車道を北上するルートが一般的ではあるが、そちらは勾配が多いために燃費には不利だと判断したのだ。
狙いはまずまずだと考えていたが、首都高を1度下りてからの一般道はやや渋滞気味。そこで若干の燃費ダウンが見られたが、アイドリングストップを繰り返して何とか凌いだ。再び燃費計の数値が跳ね上がり出したのは、やはり高速道路に入ってからだ。今回は燃費ありきだったので、徹底的にそれを伸ばそうと、エアコンはOFF。ACCも使わずに、わが右足のみを頼りに走っていく。制限速度以内でできるだけアクセルを踏まないように心掛けるばかりだ。
また、エコモードに入れておけば、アクセルOFFの時にゴルフ TDIはコースティング状態を作ってくれることも頼もしい。アクセルを抜いた瞬間にギヤがニュートラルになり、惰性で走ってくれるこのモードは、燃費を伸ばすには最適だ。そこで失速してきて再びアクセルを踏み込むと、ギヤはすぐに繋がり、再び速度を取り戻してくれる。わずかにアクセルを踏むだけで、求めたトルクが立ち上がるそのシステムはTDIだけのものではないが、速度を復帰させる際に生まれるトルクの出方は、やはりTDIならではのものだ。実用域のトルクをシッカリと生み出し、無駄にアクセルを踏む必要がない仕上がりは好感触。速度維持がしやすい印象がある。
ただ、今回は燃費競争なのだから、それだけじゃ足りないだろうと、トラックのスリップストリームを使ったり、上り勾配になれば速度維持よりもアクセルを踏まずに駆け上がることを心掛けた。もちろん、高速道路の最低速度は守るが、周囲の環境に迷惑がかからない範囲内でそれを行なう。すると、仙台に到着する寸前の高速区間では、最高燃費29.3km/Lを記録! WLTC・高速道路モード燃費だって22.2km/Lなのだから、これはとんでもない数値だろう。これなら優勝なるか!?
だが、仙台市内に入り、一般道の渋滞に突入すると燃費計は下がりはじめ、ゴール地点では28.8km/Lとなってしまった。WLTC・市街地モードは14.0km/Lなのだから、それも仕方がないところだろう。結果として3媒体中2位という微妙な結果で終わってしまった。ちなみに優勝したチームは29.4km/Lを記録。ルートは山手トンネルから東北道を北上するルートだったそうで、仙台市内に入ってからの渋滞も皆無だったらしい。つまり、ゴルフ TDIが得意とするところは明らかに高速域。ロングドライブを頻繁に行なうようなユーザーにマッチしていることは間違いないだろう。
今回の燃費競争は東京から8時間もかけるノロノロ運転であり、かなりストレスが溜まるものだったが、体の疲れがさほど感じないところは意外だった。筆者は腰痛持ちであり、軟弱なシートではあっという間に腰が痛くなるのが通例なのだが、それがあまり気にならないレベルだったことはありがたい。市街地では硬めなフィーリングがあるが、長時間同じ姿勢をきちんとキープして、体にイヤなストレスを感じないところは凄い。
タイヤ空気圧で変わる走りの印象
さて、今度は復路での走りとなるが、そこでは思う存分ゴルフ TDIを味わってみようと考えた。燃費を気にせず加速をさせ、ワインディングでは元気に走りまわってみようという狙いである。そして乗り心地についても改善させようと、復路では乗り心地を重視した空気圧を試すことにした。指定空気圧は通常では前後共に270kPaとなるが、乗り心地重視のセットは240kPaとのアナウンスがメーカーからされている。それがドア内側の空気圧指定ステッカーにきちんと表示されているところが興味深い。
ちなみに、ゴルフ TDIはガソリンモデルに対して110kgも重量が増している。内訳はフロント90kg、リア20kgである。足まわりは共通とのことで、指定空気圧を高めるという手法で対応している。ガソリンモデルの指定空気圧は40kPaも低い。おかげでTDIは低速域ではやや突き上げ感が高く、そこがTDIのネガなのかと捉えていた。だが、今回の乗り心地重視の空気圧にセットして走り出せば、重量増によるドッシリとした乗り味と、空気圧を低くしたことによるマイルドな乗り味が見事にマッチングし、実に快適なサルーンとなることが確認できた。ワインディングなどでのキビキビとした感覚はスポイルされるが、ジワリとコーナーを駆け抜けるこのセットもわるくない。モデル末期とはいえ、的確なステアリングフィールと路面追従性に優れる足まわりのフィーリングは良好で、このクラスで今でもベンチマークとされる理由が伝わってくる。燃費ばかり気にせず、この空気圧でずっと走った方がクルマのよさがもっと伝わってくるだろう。
そしてTDIユニットは決して力強いというタイプのものではないが、実用域の不満のないトルク特性や滑らかなフィーリングには見どころがあった。ストップ&ゴーが連続するシーンでは素早く速度を重ねることを可能にし、日本の低速なワインディングでは十分すぎるほどの脱出速度を手にすることもできた。さらに言えば、高速道路における巡行時の速度維持もしやすいことは、燃費走行よりはややペースを上げてみても十分に伝わってくる。エアコンも使って元気よく走らせ、乗り心地重視の空気圧を選択した結果、復路の燃費は16km/Lくらいだったが、それでも十分すぎる数値だろう。
2020年後半以降の日本導入を目指している“ゴルフ8”が気になるところだが、それはシャシーまわりをキャリーオーバーで登場することが明らかになっている。“ゴルフ7”のTDIに乗ると、それも当然の流れなのだろうと妙に納得できるところだった。日本では製油所で生まれた軽油を使いきれず海外に輸出している現状がある。輸出するにはさらなるCO2が排出されることになり、悪循環であることは紛れもない事実だ。ならば、日本でゴルフ TDIをいま購入しておくことには意味があるような気もする。モデル末期と敬遠することなく、熟成の域に達した“ゴルフ7”をあえて購入するのは大いにアリな選択ではないだろうか。