試乗インプレッション

8世代目のフォルクスワーゲン新型「ゴルフ」にポルトガルで試乗

48Vマイルドハイブリッドの「1.5 eTSI」、ディーゼルターボ搭載の「2.0 TDI」の乗り味は?

 新型「ゴルフ」の出番かと思われた2019年9月のフランクフルト・モーターショーのフォルクスワーゲンブースでは、かわりに量産EV(電気自動車)第1弾となる「ID.3」がスポットライトを浴びていた。通算8世代目のゴルフが世に出たのは、それよりさらにひと月ほど先のことである。3月のジュネーブモーターショーで、技術開発担当役員のフランク・ヴェルシュ博士が「(ID.3ではなく)ゴルフを選ぶのは、それでもエンジンのクルマに乗りたいという人でしょう」と言い放つのを聞いていたこともあり、フォルクスワーゲンはEVシフトの勢いで、功労者ゴルフのことをないがしろにしつつあるのでは……。正直、そんな思いも胸に抱きながら2019年末、ポルトガルで開催された国際試乗会に出向いたのだった。

 全長が現行型(欧州仕様)より26mm伸ばされる一方で全幅は1mm狭くなり、全高は36mmも下げられたことで、プロポーションは従来よりスポーティに見える。片側22個のLEDを使ったIQ.LIGHT LEDマトリクスヘッドライトを採用する目つきも柔和なほうではなく、写真で見る限りは“らしさ”が薄まった? とも感じていたが、実車を前にすれば、やはり新型も紛れもないゴルフだった。特徴的な太いCピラーのおかげでもあるが、そもそも全幅や全高を削ったのだって前面投影面積を減らして燃費を稼ぐという実利の要求だという、あくまで合理主義的な部分は変わっていないということだろうか。尚、Cd値も0.3から0.275に向上している。これは騒音低下にも繋がっているそうである。

8代目となる新型「ゴルフ」
公表されているボディサイズは4284mm×1789mm×1456mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2636mm
新たに片側22個のLEDを使ったIQ.LIGHT LEDマトリクスヘッドライトを採用。前後共にユニット内に「IQ.LIGHT」の文字が刻まれる

 車両の基本骨格は現行モデルと同じくMQB(横置きモジュラープラットフォーム)を使っており、ホイールベースは不変だ。しかしながら、シャシーはサブフレームが強化され、特にDCC(ダイナミックシャシーコントロール)付きではこれがアルミ合金製とされる。ブッシュ類のチューニングも変更。リアサスペンションには最高出力150PS以上のモデルにマルチリンク式、それ以下にトーションビーム式を用いるが、いずれもコントロールアームブッシュの形状変更、ナックルの新設計といったリファインが行なわれている。これは定評のスタビリティを向上させる一方で、こちらはやや物足りなさもあった敏捷性を高めるため。その一環として、バリアブルレシオのステアリングもオプションで用意された。

基本骨格は横置きエンジン車用プラットフォーム「MQB」を踏襲
シャシーはサブフレームが強化されるなど手が加えられた
新モデルとなる「1.5 eTSI」は48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載。1.5リッターガソリンターボエンジンと組み合わせられる

 パワートレーンは今回、2種類を試した。1.5リッターガソリンターボエンジンと7速DSGの組み合わせを48V電装系を用いるマイルドハイブリッドとした「eTSI」と、設計をほぼ一新した2.0リッターディーゼル ターボエンジンに、NOx排出量を80%も低減するデュアルAdBlue噴射を組み合わせる「2.0 TDI」の、こちらも7速DSG仕様だ。

1.5リッターガソリンターボエンジンは最高出力96kW(130PS)/5000-6000rpm、最大トルク200Nm/1400-4000rpmを発生するものと、最高出力110kW(150PS)/5000-6000rpm、最大トルク250Nm/1500-3500rpmを発生するものの2種類を用意。130PS/200Nmのものは6速MTとの組み合わせのみを設定。150PS/250Nmのものは6速MTのほかに7速DSGを搭載する48Vマイルドハイブリッドとも組み合わせられる
2.0リッターディーゼルターボエンジンは最高出力85kW(115PS)/3250-4000rpm、最大トルク300Nm/1750-3200rpmを発生するものと、最高出力110kW(150PS)/3500-4000rpm、最大トルク360Nm/1750-3000rpmを発生するものの2種類を用意。115PS/300Nmのものは6速MTと、150PS/360Nmのものは7速DSGとそれぞれ組み合わせられる

 色々変更されたとは言っても、基本骨格はキャリーオーバー。やはり、それほど力は入っていないのでは……なんて疑念は、ドアを開けた途端に吹き飛ぶことになる。待ち構えているのは、フルデジタル化されたダッシュボードである。

新型ゴルフのインテリア

 ドライバー正面のデジタルインストゥルメントパネルには速度や燃費、ADASの動作状況や地図等々を好みで映し出せる。ヘッドアップディスプレイも選択可能だ。ダッシュボード中央に置かれるのは、タッチスクリーンを用いた“モジュラー インフォテインメント マトリクス(MIB3)”。欧州仕様ではeSIMが標準装備で、常時通信によりさまざまなアプリ、サービスを利用でき、また自分のスマートフォンもワイヤレス接続が可能だ

 思い切ったのが操作系である。インストゥルメントパネル脇のパネルは手を近づけると明るく灯り、灯火類や前後ウィンドウヒーターの操作系が浮かび上がる。センター画面のすぐ手前にはタッチスライダーが置かれ、室内温度、音量や地図の縮尺はその上をなぞることで調整する。とはいえ、それだけですべての操作はできないから、ADAS、空調、ドライブモードセレクト、パーキングサポートの各機能へはダイレクトアクセスボタンが備わり、細かな操作をしたい時にはここから深い階層に入っていく。

操作系が一新され、ステアリングスポーク右側には灯火類やデフロスターのON/OFFができるタッチパネルを配置
室内中央には8.25インチのタッチパネルを備えるインフォティメントシステムを搭載。地図の表示だけでなく、エアコンの操作や走行モードの選択、スマートフォンとのBluetooth接続にも対応し、オンラインサービスも利用可能
新型ゴルフのシート
ラゲッジルーム容量は380Lを確保。6:4分割可倒式のリアシートバックを倒すことで1237Lまで拡大できる

 操作はロジカルだと思うのだが、かと言ってすぐに豊富な機能を直感的に使えるようになるかと言われると難しい。そこで、これも多くのモデルがそうしているようにボイスコントロールも用意されていて「Hello,Volkswagen」と呼びかけると起動するAI音声入力機能を使うことができるのだが、日本仕様は今のところ、どこまで対応できるか未定ということである。

着実に進化するゴルフ

 さて、ようやく走り出そう。事前に注目していたeTSIは、減速時に回生したエネルギーを容量250Whのバッテリーに蓄え、その電力を48Vで動作するスタータージェネレーターに供給。800-1500rpmの回転域で最長10秒間、最大50Nmのトルクで加速アシストを行なうという。実際、確かに交差点などでの減速からの再加速などの際には効果を体感できるが、言われないと気付くかどうかは微妙。燃費も格段によいというほどではなく、せっかく電気モーターはじめ多くの機器を積んでいると考えれば、実利であれフィーリングであれ、もう少しメリットがあってもいいと感じた。

 その点、2.0 TDIは全域でトルク感が増しており、また吹け上がりも軽くなっていて好印象だった。まだまだディーゼルにだって可能性、あるのだ。

 リファインされたシャシーは、低転がり抵抗タイヤのせいか、試乗車はDCC付きだったにもかかわらず当たりの硬さが気になったが、高速域に至るまで安定感、安心感は抜群で、ステアリングレスポンスも徹頭徹尾リニア。何より速度が高まるほどに増していく骨太な感覚に、さすがゴルフと改めて感心させられた。

 現行モデルでも緻密な制御を誇るADASが、またも進化していたことにも唸らされた。特に、ACCと車線維持システムを連携させて210km/hまで加減速と操舵を支援する新採用となるトラベルアシストの、まったくギクシャクすることなく車線中央を維持しながらスムーズに高速巡航し続けるさまには、これならいよいよ実用になるなと確信させられた。

 結果としては、今回もまた非常に力の入ったモデルチェンジだったと言うことができるだろう。新型ゴルフは、実用車としての基本性能にしっかりと磨きをかけ、さらにこの先の時代を見越してデジタル化も世間の期待の半歩先を行くかたちで採り入れてきた。現時点では操作系など若干のやり過ぎ感もあるのだが、数年経って振り返ってみれば、やはりゴルフには先見の明があったということになるのかもしれない。

 日本導入は2020年後半以降の予定。今回試乗した1.5 eTSIと2.0 TDIというラインアップが有力だが、これだけ盛り沢山の内容が価格上昇に繋がりそうであれば、3気筒ターボの1.0 TSIあたりも設定を検討すべきかもしれない。

島下泰久

1972年神奈川県生まれ。
■2019-2020日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。国際派モータージャーナリストとして自動車雑誌への寄稿、ファッション誌での連載、webやラジオ、テレビ番組への出演など様々な舞台で活動する。2011年版より徳大寺有恒氏との共著として、そして2016年版からは単独でベストセラー「間違いだらけのクルマ選び」を執筆。また、自動運転技術、電動モビリティを専門的に扱うサイト「サステナ」を主宰する。